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バネッサの苛立ち
しおりを挟む「釈然としないわ……どうにも侍女、メイドたちの態度が可笑しいのよ」
バネッサに対する態度はいままでと変わらない、だがどこか余所余所しいのだ。一番に信頼を寄せていた従者までもコソコソと菓子職人長とやり取りしている。
そして、とうとうお茶の時間にそれが露呈する。
「どういうこと!私の茶菓子があの小娘に劣るなんて!私にも同じかそれ以上のものを出しなさい!」
癇癪を起したバネッサは茶器を扇で跳ね退けた、拍子に自分の方に熱い茶が零れ腕に火傷を負う。それすらもメイド達のせいにして「なんて酷い事をするのか」と怒ったのである。
急いで手当をしようと慌てたメイドだが要領が悪いとまたも叱責をするのだ。
「もう良いわ!役立たずばかりね、このことは彼に報告しますからね!」
プリプリと怒り心頭のバネッサは火傷したはずの腕を振り上げて、ガシャガシャと茶器を床に打ち撒けてノシノシと歩いて行った。
「なによ、どこも怪我なんてしていないじゃない」
「しっ!耳に入ると拙いわ、早く片付けてしまいましょう」
ゲンナリするメイド達は壊れた茶器を拾い集めて溜息を漏らした。ちなみに茶菓子だが、前もって要望通りの物を用意していた。たまたま愛人の要望の品がクッキーだっただけで、シャルドリーヌには苺のケーキが供されただけだと女中長がメイド達を庇った。
「はぁ、勘弁してくれよ。たかが茶菓子じゃないか、意地汚いぞ。食べたければ要請すれば良い」
報告を受けたオーギュスタンは疲れた体をドサリとソファに落として言う。いまも片付かない仕事を持ち帰り、右手には書類の束を抱えていた。
納得のいかないバネッサはキィキィと騒いだが、結局は書斎から追い出される。それから、当然のように侍女やメイドに八つ当たりをした。
「どう考えても貴女達が悪いわ!贔屓するなんてあり得ない、私を誰だと思って!?」
「きゃぁ!」
一番立場の弱い見習いメイドにバシンと頬を叩いた、それでも収まらない彼女は傍観していた侍女に手を上げたのだ。これには流石の侍女も黙っていない。
「わたくし、ここには行儀見習いできましたの。この仕打ちはあまりに理不尽ですわ、公爵家嫡男の想い人とはいえ立場は私の方が上でしてよ?」
伯爵令嬢でもある侍女が語気荒く抗議した、これには平民でしかないバネッサは一瞬怯む。
「な、なによ!私は何れ公爵夫人になるのですからね!」
「へぇ、それはいつの話になるのかしら?今日、明日?ふん、話にならないわね。私の御父様は卿ととても仲が良いのよ、事業の提携もしているのですからね」
「ぐ……ぅ、チクショー!」
頬を殴られた伯爵令嬢は父親を通して猛抗議をした、これにはオーギュスタンも彼女を庇うことは出来ない。普段から甘やかしていた事が仇となったのだ。
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