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しつこい
しおりを挟むお詫びのお茶会を開きたいと招待状が届いたのはその日の夕方だった。シャルドリーヌは当然嫌な顔をして「絶対に行かない」と立腹する。
しかし、困り顔の侍女は対処に苦慮してこう述べる。
「流石に理由もなくお断りするのは如何なものかと……その一応旦那様が相手ですので」
「あー……そうね、そうだったわ。私は雇われの身ですものね」
雇用主の意向とあれば仕方ないと筆を取る、しばし断る理由を考えて「熱が出ました」と子供騙しの様な事を認めた。あからさまな態度にオーギュスタンも嫌われているとわかるだろうと封をした。
ところが、「見舞いに行きたい」と返してきたのだ。
「どうして解らないのかしら!もう、もうっ!好かれているとでも思っているの!」
ぎりりと爪を噛み苛立ちを露わにするシャルドリーヌはオーギュスタンの相貌を思い浮かべる。とっくに成人している彼は紳士的な人だ、だが彼女からすればただの”おじさん”なのである。
彼の顔は整っていて甘い顔をしている、ところがシャルドリーヌから見たらなんの魅力も感じない。嫌悪さえ感じている。こればかりはどうしようもないのだ。
「はぁ、何故あの方は自分を過大評価しているの?それとも空気が読めないアンポンタンなのかしら」
「さぁどうでしょう、少なくとも社交界においては黄色い声をあげる女性は多いはずです、上品で礼儀正しくその上、あの顔ですからね」
「はぁ!?あの顔がなんですって!全然わからないわ、惑わす力でもあるのかしら」
僅かだが人を魅了する魔的なものを感じるのだと侍女とメイドは言う。厄介なことにそれを本人は自覚しているのだ。そんな所が益々と鼻持ちならないと彼女は「おぇ」と言う顔をした。
***
「申し訳ございません、御気分が優れず、対面はご遠慮いただきたく存じます」
楚々とした態度でそう述べる侍女に、落胆するオーギュスタンは見舞いに持ってきた花束を床に散らした。
「そ、そうか。それならば仕方ない。出直そう」
悄気返る彼の姿は耳を垂れた子犬のようだったと侍女は言う。そんな事を言われても困るというシャルドリーヌはイライラとしてクッションに八つ当たりした。
そんなやり取りを繰り返すうちに漸く嫌われているのだと悟ったオーギュスタンは愕然としていた。自分が女性に疎まれていたという現実にショックを隠せない。
「そうか、私は嫌われていたのか……女性にここまで拒絶されたのは初めてだよ。あぁ、そうだよな半ば強引に妻にしたのだ、嫌われないほうが可笑しい。あは、あっはっは……ふぅ」
好かれて当然と思い込んでいた愚かな男は目を虚ろにして空を見つめる。
「で、どうすれば汚名返上できるのであろう?なぁ、教えてくれよ」
そう執事に相談した彼の目は、まだまだ諦めていなかった。
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