完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)

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不味い朝食

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「何ですって……旦那様がそのような事を!?」
朝餉を摂るタイミングでメイドの口から齎されたのは「同席したい」というオーギュスタンの申し出だった。一年間もほったらかしておいて今更だとシャルドリーヌは憤る。

「どうして今頃になって……私を放っておいて欲しいわ。それにあの方が参加すると食欲が失せるのよ」
すっかり癖になってしまった爪を噛む癖を諫めながら、新しい侍女が言う。
「シャルドリーヌ様がお綺麗になったからでしょう、きっとこれからもお誘いは来るでしょうね」

それを聞いた彼女は眉をへの字にして言った。
「はぁ。冗談ではないわ、やっと普通体型に慣れたのいうのに。旦那様は私を餓死させたいのね」



それから朝食の席が設けられて正面に彼がデンと構える、終始ニコニコと穏やかに始められた朝食はやはり湯冷ましから始まった。”モデルかよ”と突っ込みたくなるシャルドリーヌは能面顔を貼り付け、やはり味のしないベーコンと格闘した。
ただ細切れにされて食べて貰えないそれは給仕に寄って下げられる。

話題を振られても「はぁ」「へぇ」とかしか返して貰えないオーギュスタンは辛抱強く会話を続けた。そんな冷えた朝餉と夕餉は繰り返される。そうこうしている内に彼女に変化が見られたのである。

あのギスギスと痩せこけた面差しを見ることになったのだ。やはり眼窩が落ち凹み、まるで幽鬼のような相貌になったシャルドリーヌの手元には、ただ細切れにされて行くベーコンが積まれて行く。



「なんてこと……あんなに愛らしかった彼女がまるで亡霊のようになって」
どういう事だとオーギュスタンは頭を抱える、食材を変えてみても彼女の食欲は一向に変わらない。そんな主を見兼ねて執事が進言する。「原因は貴方様にあります」と。

「どうしてだ?私はいつも彼女が寛げるように細心の注意を払っているのだぞ」
「失礼ながらそれがいけないのです、あの方は一人で食事を楽しまれるタイプでございます。知っていましたか?シャルドリーヌ様は肉を細切れにしているだけです。辛うじてスープは召し上がっていますが」

「な、……そう言えばいつも食事の皿には謎の肉塊があったな。まさか一口も食べていない?」
「左様でございます」
「そんな……」
シャルドリーヌはカモ肉が好物だと聞いていた、それだから手が空いた時には彼自らが鴨を打ち、夕飯の席に供した事もある。

「そんな、私との食事が嫌だったなんて。なんて事だ……なんという事」
流石のオーギュスタンも、これにはかなりのダメージを食らった。それからというもの、食事時間は元に戻した。すると見る見ると元の愛らしい彼女の姿に戻ったのである。






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