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騒動の顛末
しおりを挟む「ぎ、ぎゃ―――!本当に出たぁあああ!」
腰を抜かした下男は下女を床に落として、足をバタバタとしてその場を離れようとした。落とされた衝撃で目を覚ました下女は痛そうな声はあげて「何なの?」と周囲を見回す。そして、先ほどの事を思い出したのか、悲鳴を上げて後退る。
「ゆ、幽霊ほんとうにいた……あわわわ……お助け下さい神様ぁ」
「いやぁ!あっちへ行って!」
震える二人は互いを抱きしめ合い歯をガチガチと鳴らす、だが、何も好転することはない。幽霊と思しき怪しい影がゆっくりと動いて、ふたりがへたり込んでいる所へ近ずく。
再び気絶したらしい下女は泡を吹き、下男は気絶できない己を恨んだ。
「あっちへいけ!しっしっ!……お、俺は美味しくないぞ!」
「美味しくないだと?そりゃそうだろうな」
「へ?」
幽霊の呆れた声に下男は漸く冷静になれた、そして、窓を開けた幽霊が眩しい光を浴びて目を細める。
「わ、若旦那――?え、ええぇ……なんてこったい」
「騒がせたな、さぁ屋敷に戻ろうか」
幽霊の正体が若旦那のオーギュスタンと知れた、なんて人騒がせなと従者らは安堵と少しの苛立ちを持った。
「それでどうして離れなどにいたのですか?」
家令は至極当然の疑問をぶつける、すると彼は気まずそうに済まないと一言いって、シャルドリーヌに相手にされない悲しさにシャンソンを唄いながら泣いていたのだと告白した。なるべく外に漏れないようにか細く歌っていたのが余計に不気味に聞こえたらしい。
「本当に申し訳ない、今後は布団に潜って泣こう」
「いや、お止めください。今度は違う噂が立ちますから」
家令は理由があまりに情けないことから責めるに責められないと思った。同時にせめて茶会を開いて奥方に参加して貰えるよう手配した。
「あらまぁ、旦那様が……はぁ。なんてことでしょう」
げっそりした家令が頭を下げて「せめて午後の茶にお付き合い願えないでしょうか」と言ったのである。これにはシャルドリーヌも少々責任を感じた。支援して貰っている手前、無下にも出来ない。
「はあ、わかりました……茶には付き合います。でも、三日に一度としますからね」
***
久しぶりに顔を見せた愛妻シャルドリーヌを見て、ご満悦なオーギュスタンは早速とエスコートを申し出る。しかし、やんわりと断られる。
「久方ぶりですね、旦那様」
「ああ、本当に!どうだい変わりないかい?不便な事はないかい?」
前のめりになって、矢継ぎ早に言うものだからシャルドリーヌは目を白黒させる。すると執事が「ごほん」とワザとらしく咳をした。
「あ、いや済まないなつい逸ってしまった」
「いいえ、それより旦那様のほうが随分と御窶れになりましたね」
頬がコケてしまった彼は、目には隈まで出来ていて不眠まで発症していると分かる。それから、三日に一度の茶の席に参加したオーギュスタンは見る間に元の溌剌とした御仁に戻った。
そして、幾度か話すうちに秋の行楽の話になる。
「どうだろうか、私と紅葉狩りなど、無理にとは言わないが、その……行ってくれたら嬉しい」
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