虚言癖の友人を娶るなら、お覚悟くださいね。

音爽(ネソウ)

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エスコートさせろと手を取る王女に驚くオフェリアは、ほんの少し背が高い彼女を見上げた。そしてゴワゴワ気味の外套にまたも目を奪われる。

「順番を間違えるところだった」
「え?」
すぐにわかる事だと王女は悪戯っぽく笑って彼女の手を引いて先を行く。
玄関につくと先ほどは見なかった侍従達が総出で腰を折り出迎えていた、その先には高揚した面持ちの伯爵夫妻が待ち構えている。

「心より歓迎いたします王女殿下!」
「ああ、突然の訪問悪かった。ご息女のことで話したいことがあってね善は急げと言うし」
「は、はぁ?何か娘が不手際でもしたでしょうか?」
事態が飲み込めない伯爵は早合点して娘に厳しい目を向けてしまう。すると彼女を護るように王女が一歩前に出た。まるで立場が逆転していると皆は思う。

玄関先で問答していたことを詫びて伯爵は重鎮を招くための大きめの応接間へと彼女らを誘う。どうしたことだろうと腑に落ちない顔の夫妻に王女はニヤニヤとして付いてくる。

各々着席して上座に腰を下ろした王女が「先ずはこれに目を通して欲しい」と懐から金縁の手紙を出してきた。王の印璽が押された封筒に伯爵は顔面蒼白である。
拝見しますと述べた伯爵は手紙を震えながら広げるなり「な、なんと!?信じられない!」と叫んだ。

「こんな、こんなことが……あぁ……でも我が王のことだ最善と思っての……だがしかし」
手紙に綴られた真実が受け入れ難いと伯爵は天を仰いだり、手で顔を覆ったりと忙しい。愉快なパフォーマンスを見せられた王女は声を上げて笑った。

「あ、貴方なにが記されておりますの?貴方ったら!王女殿下、私も拝読しても宜しいですか?」
「よいぞ、ただし音読はするな」
許可が下りたと同時に夫から手紙を奪った夫人はとんでもない真実の部分を読んでから固まってしまう。そして「そんなバカな話が十数年も!?」とブツブツ言い始めた。
狐につままれたような夫妻が「これが真実ならば国中が大騒ぎです」と泣きそうな顔で王女に詰め寄る。
しかし王女はしたり顔で落ち着けとだけ言った。

そして徐に席を立つと不格好な外套を脱ぎ捨て、己のプラチナブロンドを剥ぎ取ったではないか!
「で、殿下!その御髪は……禿げてたわけではないのね」
とっても失礼なことをオフェリアは言ってしまってから「失礼」と言って口元を隠した。日頃からどこか不自然に乗っていた髪の毛にカツラであると認識していた彼女はストレスなどから抜け落ちると耳にしていた為、王女もそのような方なのだと勝手に決めつけていたのだ。

「さすがにハゲは酷いなー、時々痒くて困ってはいたけどね。ちなみにカツラは数カ月前から被るようになったんだ。とある事情があったからね」
「とある事情でございますか?」

ドリルの髪型の下には青みがかった黒髪が現れて、外套から出て来たのはフワフワのドレスではなく、白い騎士服だった。腰には細い長剣を佩いている。

「私の本当の身分は公式で発表はされていない、その日が来るまでは他言無用で頼む」
「は、はい!もちろんでございます!」
まさか可憐な容姿のアンネリ王女が凛々しく育った王子だったとは誰が聞いても衝撃を受けるスキャンダルに違いない。父である国王が覇権争いに巻き込まぬようにと次男である王子を王女と偽って育ててきたのだった。

「このほど兄上が戴冠することが正式に決定した。心配症の父がやらかした隠蔽劇だが結局は憂慮していた権力争いは起こらなかった。ボクだけが苦水を煽ることになったけど息子を溺愛するのも大概にして欲しいよね」
「子を思う気持ちはどんな親も同じです」伯爵が感慨深くそう言った。

王女あらため王子アルベリックと彼は名乗った。オフェリアより2歳下の彼は、まだどこか幼さが残る16歳の少年である。
突然の出来事に頭が追いつかないオフェリアは茫然とその姿を見ているばかり。
それに気が付いた王子はツカツカと彼女の元へむかって跪く。

「リア、私が愛する唯一の女性……どうかボクの伴侶になってくれないか?」この通りだ、と言って頭を下げ愛を請う。王族が臣下の娘に頭を下げるなど一大事だと周囲がざわついた。

「え?へ?……伴侶……私を……王子が愛してる?」
「そうだよリア!いろいろ驚かしてゴメン、でも、でも!どれほどこの気持ちを抑え込んで苦しんだか!時が来たらプロポーズしようと我慢してきたのに、君ときたらあんな馬鹿と婚約しちゃうんだから!」
王子は薄っすらと瞳に涙を溜めて、オフェリアが好きだ愛している。と何度も言った。だが狼狽するばかりのオフェリアは返事するのもままならない。当然の反応なのだが王子は先走ってしまう。

「コリンソン伯爵!お願いだボクを婿にしてくれないか!この通り!」
「え、ちょま……王子!頭をお上げください、王族が易々と下げてなりませんぞ!」
「ええい!王籍など捨てると言っている、ボクは若輩で頼りないかもしれないがどうか!頼む!」
「ええええ」

えらいことになったと立ち会っていた家令は伯爵夫人を縋り見た、だが誰よりも落ち着き払っていた夫人は「なるようになるものよ」と余裕な顔で微笑む。
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