虚言癖の友人を娶るなら、お覚悟くださいね。

音爽(ネソウ)

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8(ちょっぴり甘め)

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まだ16歳の第二王子アルベリックは、2年後の結婚に向けて忙しい日々を送ることになった。
王籍を外れ伯爵家の婿になりたいと王である父に懇願するも「半端者が臣籍降下したとて何が成せる」と叱責されて18歳になるまでに政治行政学をはじめ社会学経営学を学び極めよと厳命された。
「難しいことではあるまい?愛する者を娶るための試練なのだから」
「もちろんです!父上、いいえ王よ!」

国王夫妻は多くの課題を息子に課した、まだ幼い王子を手元に置きたいという願望も隠れているが背中を押してやる親心も込めてのことだ。
「ほんの少し前まで揺り籠の中でヌイグルミを抱きしめていたのに、男の顔をするようになったのね。私の子ウサギちゃん。愛に生きるのは大変よ、おおいに励み良き領主となりなさい。それが彼女を護ることになるわ」
王妃は少し寂しそうに母の顔を見せつつ激励の言葉を王子に捧げた。

「ありがとうございます、母上。二年後が楽しみです」
「あらまぁ、臣下に下るのが楽しみだなんて……これまでみたいに簡単には会えなくなるのよ?ねぇ、貴方」
王妃は複雑な心情で王の膝に手を置いた、なんとかしろと強請っているときのポーズである。王妃にベタ惚れで尻に敷かれている王はフニャリと相好を崩してしまう。だが王子の冷たい視線を感じて王はバツが悪そうに”ううん”と咳払いしてから口を開く。

「バカ息子よ、結婚は許したが王籍を離れる事は受理しておらん。なので王族として恥じない程度の爵位を与える、だがしかし簡単に授けるのは甘い王と侮られる、なので我が領地の一部を預け開拓を命じる。存分に励み苦労しろ」
「な!まさか領地とは……あの」

顔色を悪くして問う息子に、ちょっと意地悪な笑み浮かべて「北のカグデマク町を再興しろ」と王は言った。下賜されたのは数十年前に過疎化して廃墟町になった場所だった、王は再びそこに人が住まう地に復興させよと難題を課したのだ。
「……ふー意地悪ですね、父上は。勉学に実地試験ですかボクはったった二年間でハゲそうだ」
「すまんな、最低限の支援はしよう。頑張れよ未来の侯爵そして公爵」
やり取りを眺めていた王妃が愛の鞭ですよと言って扇の奥で笑った。

***


「あぁ~リア!忙し過ぎて目が回りそうだよ!」
癒してくれと愛しい婚約者の膝に頭を乗せる王子は猫のように丸くなった。会う度に愚痴が増えているアルベリックに”困った人”と言って黒髪を撫でる。
「先日も激励に伺ったばかりじゃありませんか、スパルタとは言っても休憩はとってますよね」
「そうだけどー……婚約したらずっとリアと過ごせると思ってたんだよ」
四六時中、愛しいオフェリアと居られると甘い考えを持っていた王子は唇を尖らせる。そんなわけがないだろうと彼女はクスクス笑う。

「互いに学ぶことが山積みですわ、いっしょに頑張りましょう」
「うーん、リアが言うならもっと頑張るよ。絶対結婚してやるんだから!」
カウチに寝そべって甘えてくるちょっと年下の王子を可愛い人と言って目を細める。今日は10日ぶりの休暇を捥ぎ取ってコリンソン家に訪問しているところだ。

「ところでリアの瞳の色の石をやっと見つけたんだ!苦労したよ、ボクの青色と合わせて素敵な婚約指輪を造らせるからね!」
「まあ!嬉しいわ。国内では宝石があまり採れませんものね。楽しみだわ」
濃い紫色の瞳を持つオフェリアは「気持ちだけでも嬉しいことだ」と思っている。形で愛を表現したがる王子は慎まし過ぎるのも問題だと「我儘を言ってくれ」と逆強請りをする始末。
年下というどうしようもない引け目が彼にはあり頼られたいと願うのだ。

「ふふ、夫婦になったらいくらでも甘えます、覚悟していて」
「もちろんさ、世界中の誰よりもリアを幸せにするんだから!」
しかし、甘い空気に耐えられない壁際に控える側近たちは『時々意識が飛ぶ』と言い合った。自分達こそが長期休暇が欲しいと嘆いている。

そんな甘く平和な日々が続くと誰もが信じていたが、二人の婚姻を良く思わない者がいる。
伯爵家の当主を狙っていたバーノル家の愚息セシルと恋人ロミーである。山奥を離れ質素な馬車をなんとか調達した彼らは王都を目指している途中だ。
「くそ!別荘で呑気にしていた自分を殴りたいよ!」
「大袈裟ね、セシーったら。貴方だって伯爵家の息子で貴族じゃないの。そりゃあ王子と婚約したリアには腹が立つけどね」
的外れなことを未だに言っている恋人に、セシルはイライラが募るばかりだ。
「わかってないなキミは!そりゃ未婚でバーノル家に寄生すればボクは一生貴族籍だけど結婚したいなら別だよ!わかるかい?」
跳ねて揺れる馬車の上でロミーは彼の言葉を反芻して考えたが「わかんない」と言った。そして板だけの椅子が尻を攻撃してくることに文句を言う。

「ああもう!伯爵家には王子が婿として入るのが決定したんだ!つまりボクはコリンソン家を継げなくなったんだ!ロミーと結婚したらボクは平民落ちなんだよ!例えキミが養女として認められても伯爵家には入れないんだ。」
「な、なんですって!?」
事態をやっと理解したロミーは「伯爵夫人になる夢がー!」と叫び、ガタンと跳ねた拍子に舌を思い切り噛んで声にならない悲鳴を上げるのだった。

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