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かつての婚約者と元友人のロミーが泥まみれになって開拓作業に従事していた。潔癖気味だったセシルが汗だくでスコップを不器用に扱い土を被っている、我儘ばかりのロミーも土塊と格闘していた。
すると視線を感じたらしい二人がオフェリアの姿を目に捉えた……。
気まずそうに目を背けるセシルだが、その横にいたロミーは違った。手にしていたレーキ(熊手)を振り回してオフェリアの方へ駆け寄って来る。危険を察知した護衛らが一斉に動き、王子達の前に立ち塞がる。
それが癪に障ったロミーは聞くに堪えない罵詈雑言を喚き散らして暴れた、屈強な護衛たちには効果はないがそれでも大立ち回りをした小娘に驚いた。
「キィー!なによワザワザ私を笑いに来たの!?それとも……あぁ!わかった、その軽装だものアンタも私と同じで作業員にされたのね!ざまあ!!!やっぱりアンタみたいなブスが王子と結婚できるわけがなかったのよ!いい?ここでは私が先輩なんだから命令を聞きなさいよね!そこの箱一杯の石を林の奥まで運べ!わかったか!」
いっきに言いたい事を捲し立てたロミーは息荒く「ぶふん!」と鼻を鳴らす。
その様子に呆れる一行はしばらく動けなくなった、騎士を固まらせるなど見事なクズっぷりである。
我に返った王子は、仁王立ちになって「ぶふん、ぶふん!」と息巻く彼女を指していう。
「初めて本物を見たが中々アクが強い娘だね、ほんとうに友人だったの?」
「え、……ええ。一応は小さい頃は可愛かったのよ……ほんとうに仲良しで」
多少華美でもワンピースドレスでも着て来れば良かったとオフェリアは後悔していた。でなければ彼女が王族相手に不敬を働かずに済んだかもしれないからだ。少々、お人好しな彼女。
「ロミー、その作業着と首輪は罪人の証だわ。一体なにを」彼女は優しく問いかけたのだが、ロミーはそれを遮って「早く石を運べ、新人奴隷が!」と叫んでしまう。
さすがのオフェリアも頭を抱え「もうだめだ」と目を伏せた。
愛する者を侮辱された怒りで、般若のようになったアルベリックを宥める自信がなかったようだ。
「誰が犯罪奴隷だって?身も心も美しいボクの水女神オフェリアを口汚く――よくも!絶対許せはしない!」
「いっ?」
王族特有の凄まじい光魔法を発現させ呪いの言葉を放つ、すると狙われたロミーの身体がボコボコと膨れ上がった。胴体が半分潰れた饅頭のよう変形して、手足はくの字になって縮んだ。
頭部は肥大化した眼球がギョロリと左右に飛び出し、口は大きく裂けたように広がった、体全体の皮膚が赤土色に変色して歪なイボがたくさん噴き出だした。
「イ、イボガエル……ロミーが」
「ゲコッ」
王子の逆鱗に触れてしまったロミーは、心から反省しないと人間に戻れない呪いを受けた。
根性が捻じ曲がりまくっている彼女だが、わずか三日で元通り人間に戻れた。あまりの屈辱に反省せずにはおれなかったようだ。
***
話は少し進んで復興の兆しの件に、季節は晩秋である。
「見てリア、耕した土から煙がでてるだろう?」
「ええ、モアモアとスゴイ勢いね。空気が冷たいから余計にすごいわ!」
温泉は湧かないが土地全体が温かいのだと王子は説明する、地熱を利用した野菜作りを考えていると教えた。
それには大掛かりな施設が必要になるが、完成すれば季節関係なく野菜や果物までが一年中収穫できると見込んでいるらしい。
「安定供給するには研究も必要になるがそれは専門の者たちがすでに動いてくれているんだ。もし軌道に乗れば不作の年でも各都市に野菜を届けることが可能だと思わないか?民が飢えることが一番辛いからね」
「ええ、それはとても素敵なことだわ!それに寒冷地では必要な技術じゃないかしら!」
彼女は着眼点が素晴らしいと王子を褒め称えた。離れてしまった住人たちも帰ってきて活気が戻るかもしれない。
「私もお手伝いしたいわ、できることは限られてしまうけど」
「もちろんさ、そうすれば長く一緒にいられるだろう?」邪な考えで仕事に誘う王子に、オフェリアは咳払いして脇腹を突いた。
農地開拓と同時進行で行われた道路整備が着々と進む、全体の5割ほど整うと瓦礫撤去が開始された。
作業員の中に人相が悪い者がちらほら伺えた、実はロミーと同様に労働奴隷に落ちた元闇ギルド員なのだ。
「この調子なら数年後くらいには人が住める場所になっていると思うんだ。父上も視察にきて褒めて下さったよ」
「そうね、思いのほか役に立ったのは元闇ギルドの人達だったとは吃驚よ。腕力自慢が多いのね」
無駄に頑丈な彼らはどんな力作業にも根を上げない、酒という褒美が振る舞われると知れば喜んで働いた。
王子が人手不足が解決したと言っていたのはこの事だったのだ。
***
「ここの生活には慣れたがよ、葉巻を燻せないのは辛いぜ」元闇ギルマスが昼食の炙り肉を齧りながら愚痴を言った。同じく元手下たちは遊戯場もあれば極楽だとほざく。
「カシラ、葉巻は体に悪い、近頃は飯も美味くて健康でいいじゃねーか」
「ふん、もうカシラじゃねぇよ……バカタレが」
王族の婚約者誘拐事件を起こした彼らの行く末は死罪一択だったが、人手が欲しかったアルベリック王子によって特赦が与えられた、とはいえ死を免れただけの労働奴隷なのだが苛烈な扱いはされていない。
「お天道様の下ってのはこうも気持ちが良かったのか……」
葉巻の代わりに小枝を咥えた男は、澄んだ田舎の空気を吸って満更でもない顔をする。
すると視線を感じたらしい二人がオフェリアの姿を目に捉えた……。
気まずそうに目を背けるセシルだが、その横にいたロミーは違った。手にしていたレーキ(熊手)を振り回してオフェリアの方へ駆け寄って来る。危険を察知した護衛らが一斉に動き、王子達の前に立ち塞がる。
それが癪に障ったロミーは聞くに堪えない罵詈雑言を喚き散らして暴れた、屈強な護衛たちには効果はないがそれでも大立ち回りをした小娘に驚いた。
「キィー!なによワザワザ私を笑いに来たの!?それとも……あぁ!わかった、その軽装だものアンタも私と同じで作業員にされたのね!ざまあ!!!やっぱりアンタみたいなブスが王子と結婚できるわけがなかったのよ!いい?ここでは私が先輩なんだから命令を聞きなさいよね!そこの箱一杯の石を林の奥まで運べ!わかったか!」
いっきに言いたい事を捲し立てたロミーは息荒く「ぶふん!」と鼻を鳴らす。
その様子に呆れる一行はしばらく動けなくなった、騎士を固まらせるなど見事なクズっぷりである。
我に返った王子は、仁王立ちになって「ぶふん、ぶふん!」と息巻く彼女を指していう。
「初めて本物を見たが中々アクが強い娘だね、ほんとうに友人だったの?」
「え、……ええ。一応は小さい頃は可愛かったのよ……ほんとうに仲良しで」
多少華美でもワンピースドレスでも着て来れば良かったとオフェリアは後悔していた。でなければ彼女が王族相手に不敬を働かずに済んだかもしれないからだ。少々、お人好しな彼女。
「ロミー、その作業着と首輪は罪人の証だわ。一体なにを」彼女は優しく問いかけたのだが、ロミーはそれを遮って「早く石を運べ、新人奴隷が!」と叫んでしまう。
さすがのオフェリアも頭を抱え「もうだめだ」と目を伏せた。
愛する者を侮辱された怒りで、般若のようになったアルベリックを宥める自信がなかったようだ。
「誰が犯罪奴隷だって?身も心も美しいボクの水女神オフェリアを口汚く――よくも!絶対許せはしない!」
「いっ?」
王族特有の凄まじい光魔法を発現させ呪いの言葉を放つ、すると狙われたロミーの身体がボコボコと膨れ上がった。胴体が半分潰れた饅頭のよう変形して、手足はくの字になって縮んだ。
頭部は肥大化した眼球がギョロリと左右に飛び出し、口は大きく裂けたように広がった、体全体の皮膚が赤土色に変色して歪なイボがたくさん噴き出だした。
「イ、イボガエル……ロミーが」
「ゲコッ」
王子の逆鱗に触れてしまったロミーは、心から反省しないと人間に戻れない呪いを受けた。
根性が捻じ曲がりまくっている彼女だが、わずか三日で元通り人間に戻れた。あまりの屈辱に反省せずにはおれなかったようだ。
***
話は少し進んで復興の兆しの件に、季節は晩秋である。
「見てリア、耕した土から煙がでてるだろう?」
「ええ、モアモアとスゴイ勢いね。空気が冷たいから余計にすごいわ!」
温泉は湧かないが土地全体が温かいのだと王子は説明する、地熱を利用した野菜作りを考えていると教えた。
それには大掛かりな施設が必要になるが、完成すれば季節関係なく野菜や果物までが一年中収穫できると見込んでいるらしい。
「安定供給するには研究も必要になるがそれは専門の者たちがすでに動いてくれているんだ。もし軌道に乗れば不作の年でも各都市に野菜を届けることが可能だと思わないか?民が飢えることが一番辛いからね」
「ええ、それはとても素敵なことだわ!それに寒冷地では必要な技術じゃないかしら!」
彼女は着眼点が素晴らしいと王子を褒め称えた。離れてしまった住人たちも帰ってきて活気が戻るかもしれない。
「私もお手伝いしたいわ、できることは限られてしまうけど」
「もちろんさ、そうすれば長く一緒にいられるだろう?」邪な考えで仕事に誘う王子に、オフェリアは咳払いして脇腹を突いた。
農地開拓と同時進行で行われた道路整備が着々と進む、全体の5割ほど整うと瓦礫撤去が開始された。
作業員の中に人相が悪い者がちらほら伺えた、実はロミーと同様に労働奴隷に落ちた元闇ギルド員なのだ。
「この調子なら数年後くらいには人が住める場所になっていると思うんだ。父上も視察にきて褒めて下さったよ」
「そうね、思いのほか役に立ったのは元闇ギルドの人達だったとは吃驚よ。腕力自慢が多いのね」
無駄に頑丈な彼らはどんな力作業にも根を上げない、酒という褒美が振る舞われると知れば喜んで働いた。
王子が人手不足が解決したと言っていたのはこの事だったのだ。
***
「ここの生活には慣れたがよ、葉巻を燻せないのは辛いぜ」元闇ギルマスが昼食の炙り肉を齧りながら愚痴を言った。同じく元手下たちは遊戯場もあれば極楽だとほざく。
「カシラ、葉巻は体に悪い、近頃は飯も美味くて健康でいいじゃねーか」
「ふん、もうカシラじゃねぇよ……バカタレが」
王族の婚約者誘拐事件を起こした彼らの行く末は死罪一択だったが、人手が欲しかったアルベリック王子によって特赦が与えられた、とはいえ死を免れただけの労働奴隷なのだが苛烈な扱いはされていない。
「お天道様の下ってのはこうも気持ちが良かったのか……」
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