17 / 23
閑話 ロミーの罪
しおりを挟む
少し遡って誘拐騒動の前後の話。
宿を取って数日、出かけたまま帰らないセシルをグータラしながら生活していたロミー。
だが碌に金銭を貰っていなかった彼女は宿泊中はツケでなんとか凌いでいた。「金を持った彼が戻り次第払う」と偉そうにいうものだから宿の女将は仕方なく了承した。
ところが、十日過ぎても無賃のまま居座っている客人に不信感が出てくる。
「せめて食事代くらいは払ってほしい」とロミーに言ったが「待て」というばかりで話にならない。太々しい彼女の態度に業を煮やした女将は街の憲兵に通報した。
とうぜん金のないロミーは宿代を踏み倒し、無銭飲食を働いた咎で御用になった。気が強い彼女は抵抗しまくったが捕縛されて入牢となる。平民の彼女は略式で懲罰が下り咎戒を償うことになった。
罪人の首輪を嵌められたロミーは毎日悪態を吐いたが、本人が納得せずとも刑は執行される。
「チクショー!私は伯爵令嬢で将来は伯爵夫人になる身なのよ!なによこの粗末な服は!ゴワゴワで臭いしサイズも合ってないじゃない!首輪も苦しくてイライラする!すぐに開放しなさい!私はコリンソン家の者よ!お父様を呼んで!それにセシルは何やってんの!?恋人が苦しんでいるのに」
鉄格子の奥に転がされたロミーは、嘘などとうにバレていることも知らず毎日喚いた。牢番たちはあまりの煩さに喉を焼いてしまおうかと何度も思った。
投獄されて半月ほど経った頃、償う機会が与えられたと看守がやってきた。
反省の色はまったく見せない彼女だったが、薄暗い牢獄よりはマシだろうと喜んで外に出た。手錠と目隠しをされたロミーは抗う事も出来ず、されるがまま馬車に押し込まれて田舎町へと運ばれて行く。
王都から大分離れた場所にきたことは感覚でわかっていたが、まさか廃町へ連れてこられたとは想像もしていないだろう。
馬車から出されてすぐに澄んだ空気を肌で感じた彼女、コリンソン家の別荘地だろうかと少し期待した。
だが甘い考えはすぐに打ち砕かれた、足元は石だらけの荒れ道だったし、そこに沿うのは朽ちた家屋が並んで建っているだけだったから。とんだ所へ連れて来られたロミーはここへ捨てられるのではないかと恐怖した。
ここはどこだと訊ねるも回答する者はいない、背後から「歩け」と乱暴に小突かれ渋々従うほかなかった。
ちらりと背後を見た彼女は立派な装束を着た騎士だと気が付いた。
だが、王城を護るべき彼らが何故だろうと疑問が湧いたがさっぱり答えがみつからない。
馬車から下りて30分後ほど歩いて辿り着いたのは、麦畑の跡地だった。背丈ほど伸びた雑草と細い樹木が茂っていて彼女をウンザリさせた。数メートル先に雑草処理に苦闘している人影がいくつか確認できる。
「ここがお前の仕事場だ、刑期は5年だしっかり償え」
騎士はそう伝えると木製の農機具を彼女に渡した、野良仕事とわかった彼女は庭師の父親を思い出して泣きそうになる。
「どうしてこうなったの……グスグス、大人しくしていればあの屋敷で暮らせていたかも」
我儘放題生きて来た彼女は漸くちょっとだけ後悔をして、ぐずりながら雑草を刈りボコボコに荒れた土を均していく。しばらくして喉の渇きを監視の者に伝えると甕から水を汲みコップに分けてくれた。
想像したほど悪い扱いではないと安堵する、彼女は罪人の暮らしはもっと過酷だと思っていた。
ちゃんと働けば食事は出されたし、セシルと暮らした山の別荘より遥かに美味しいご飯が食べられた。スープは具沢山だったし、肉のオカズも与えられた。肉体労働ができるように栄養が配慮されていたことに驚く。
「なんだ……囚人ってもっと悲惨かと思ってたわ」
首輪の意味を知っていたロミーではあったが、今更自分の立場を理解して受け入れた。5年くらいなら耐えられるだろうと溜息を吐く。
簡易な寝床小屋を与えられここに暮らして約一か月。
自分以外に女子がいないことにロミーは気が付いた、街道の整備と畑仕事に分けられて働く男達はみんな髭ボウボウで見分けがつかない。なんの魅力も感じないので彼女が色気を撒くこともなかった。
労働になれて筋力が付き始めた頃、数十人ほどの新規労働者がやってきた。
全員が元死刑囚らしいと耳に届いて、さすがのロミーも恐ろしくなり、極力関わらないようにしようと距離を置く。
数日後の早朝、配置換えをすると監視員が囚人らに言った。みんな面倒そうに下を向く。
女子であまり力が無いロミーは畑の耕しと食事仕度の補助を言い渡された。
通いの下女と飯場で働き始めると話し相手が出来て少しばかり楽しくなった。お喋り好きの中年女は王都でのことを面白しろ可笑しく聞かせくれた。その中に元死刑囚の話が混ざっていた。
「なんと元貴族の坊ちゃんがいるんだってよ!」
「へえ、何をやらかしたのかしら?バカね」
子息ならば大人しく暮らしていれば一生安泰だろうにと、彼女らはジャガイモを洗いながら噂する。
芋スープと炙った鶏肉の香が立ち上り始めると囚人たちがゾロゾロと集まり列が出来た。給仕でせっせと働くロミーだったが、誰かの視線を感じて顔を上げた。
そこには見知った顔が立っていてお玉を落としそうになった、生き別れてしまった恋人セシルが木皿を片手にこちらを見ていたのだ。
「ろ、ロミー……キミもここにいたのか、でも何故?」
「セシル!ぬけぬけと……あんたのせいでこうなったのよ馬鹿!あんたがちゃんと宿に戻っていれば私は罪人なんかに落ちなかったのよ!」
かつて愛し合った二人であったが、再会はとても苦いものだった。
宿を取って数日、出かけたまま帰らないセシルをグータラしながら生活していたロミー。
だが碌に金銭を貰っていなかった彼女は宿泊中はツケでなんとか凌いでいた。「金を持った彼が戻り次第払う」と偉そうにいうものだから宿の女将は仕方なく了承した。
ところが、十日過ぎても無賃のまま居座っている客人に不信感が出てくる。
「せめて食事代くらいは払ってほしい」とロミーに言ったが「待て」というばかりで話にならない。太々しい彼女の態度に業を煮やした女将は街の憲兵に通報した。
とうぜん金のないロミーは宿代を踏み倒し、無銭飲食を働いた咎で御用になった。気が強い彼女は抵抗しまくったが捕縛されて入牢となる。平民の彼女は略式で懲罰が下り咎戒を償うことになった。
罪人の首輪を嵌められたロミーは毎日悪態を吐いたが、本人が納得せずとも刑は執行される。
「チクショー!私は伯爵令嬢で将来は伯爵夫人になる身なのよ!なによこの粗末な服は!ゴワゴワで臭いしサイズも合ってないじゃない!首輪も苦しくてイライラする!すぐに開放しなさい!私はコリンソン家の者よ!お父様を呼んで!それにセシルは何やってんの!?恋人が苦しんでいるのに」
鉄格子の奥に転がされたロミーは、嘘などとうにバレていることも知らず毎日喚いた。牢番たちはあまりの煩さに喉を焼いてしまおうかと何度も思った。
投獄されて半月ほど経った頃、償う機会が与えられたと看守がやってきた。
反省の色はまったく見せない彼女だったが、薄暗い牢獄よりはマシだろうと喜んで外に出た。手錠と目隠しをされたロミーは抗う事も出来ず、されるがまま馬車に押し込まれて田舎町へと運ばれて行く。
王都から大分離れた場所にきたことは感覚でわかっていたが、まさか廃町へ連れてこられたとは想像もしていないだろう。
馬車から出されてすぐに澄んだ空気を肌で感じた彼女、コリンソン家の別荘地だろうかと少し期待した。
だが甘い考えはすぐに打ち砕かれた、足元は石だらけの荒れ道だったし、そこに沿うのは朽ちた家屋が並んで建っているだけだったから。とんだ所へ連れて来られたロミーはここへ捨てられるのではないかと恐怖した。
ここはどこだと訊ねるも回答する者はいない、背後から「歩け」と乱暴に小突かれ渋々従うほかなかった。
ちらりと背後を見た彼女は立派な装束を着た騎士だと気が付いた。
だが、王城を護るべき彼らが何故だろうと疑問が湧いたがさっぱり答えがみつからない。
馬車から下りて30分後ほど歩いて辿り着いたのは、麦畑の跡地だった。背丈ほど伸びた雑草と細い樹木が茂っていて彼女をウンザリさせた。数メートル先に雑草処理に苦闘している人影がいくつか確認できる。
「ここがお前の仕事場だ、刑期は5年だしっかり償え」
騎士はそう伝えると木製の農機具を彼女に渡した、野良仕事とわかった彼女は庭師の父親を思い出して泣きそうになる。
「どうしてこうなったの……グスグス、大人しくしていればあの屋敷で暮らせていたかも」
我儘放題生きて来た彼女は漸くちょっとだけ後悔をして、ぐずりながら雑草を刈りボコボコに荒れた土を均していく。しばらくして喉の渇きを監視の者に伝えると甕から水を汲みコップに分けてくれた。
想像したほど悪い扱いではないと安堵する、彼女は罪人の暮らしはもっと過酷だと思っていた。
ちゃんと働けば食事は出されたし、セシルと暮らした山の別荘より遥かに美味しいご飯が食べられた。スープは具沢山だったし、肉のオカズも与えられた。肉体労働ができるように栄養が配慮されていたことに驚く。
「なんだ……囚人ってもっと悲惨かと思ってたわ」
首輪の意味を知っていたロミーではあったが、今更自分の立場を理解して受け入れた。5年くらいなら耐えられるだろうと溜息を吐く。
簡易な寝床小屋を与えられここに暮らして約一か月。
自分以外に女子がいないことにロミーは気が付いた、街道の整備と畑仕事に分けられて働く男達はみんな髭ボウボウで見分けがつかない。なんの魅力も感じないので彼女が色気を撒くこともなかった。
労働になれて筋力が付き始めた頃、数十人ほどの新規労働者がやってきた。
全員が元死刑囚らしいと耳に届いて、さすがのロミーも恐ろしくなり、極力関わらないようにしようと距離を置く。
数日後の早朝、配置換えをすると監視員が囚人らに言った。みんな面倒そうに下を向く。
女子であまり力が無いロミーは畑の耕しと食事仕度の補助を言い渡された。
通いの下女と飯場で働き始めると話し相手が出来て少しばかり楽しくなった。お喋り好きの中年女は王都でのことを面白しろ可笑しく聞かせくれた。その中に元死刑囚の話が混ざっていた。
「なんと元貴族の坊ちゃんがいるんだってよ!」
「へえ、何をやらかしたのかしら?バカね」
子息ならば大人しく暮らしていれば一生安泰だろうにと、彼女らはジャガイモを洗いながら噂する。
芋スープと炙った鶏肉の香が立ち上り始めると囚人たちがゾロゾロと集まり列が出来た。給仕でせっせと働くロミーだったが、誰かの視線を感じて顔を上げた。
そこには見知った顔が立っていてお玉を落としそうになった、生き別れてしまった恋人セシルが木皿を片手にこちらを見ていたのだ。
「ろ、ロミー……キミもここにいたのか、でも何故?」
「セシル!ぬけぬけと……あんたのせいでこうなったのよ馬鹿!あんたがちゃんと宿に戻っていれば私は罪人なんかに落ちなかったのよ!」
かつて愛し合った二人であったが、再会はとても苦いものだった。
36
あなたにおすすめの小説
全てから捨てられた伯爵令嬢は。
毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。
更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。
結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。
彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。
通常の王国語は「」
帝国語=外国語は『』
嘘つきな私は婚約解消を告げられました
夏生 羽都
恋愛
伯爵令嬢のイエンナは8歳の時に、避暑地として知られている街にひと夏の予定で家族と訪れていた。
そこでルークと名乗る少年と出会う。
ルークとイエンナはすぐに仲良くなって毎日一緒に遊んでいたのだが、黙って外に出ている事を母親に知られてしまい、部屋で謹慎を言い渡されてしまう。
ルークはイエンナに会いに来るが、父親も知るところとなり、ルークとは二度と関わってはいけないと言われてしまう。
ルークと引き離されるように王都へ戻ってきたイエンナは父親の友人の息子であるジョエルと新たに婚約を結ぶ。
少し我儘なジョエルだったが、イエンナの努力で良好な関係で過ごしているうちに数年が経った。
学園へ入学する事になったイエンナだが、入学式でルークと再会してしまう。
天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く
りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。
私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。
それなのに裏切りやがって絶対許さない!
「シェリーは容姿がアレだから」
は?よく見てごらん、令息達の視線の先を
「シェリーは鈍臭いんだから」
は?最年少騎士団員ですが?
「どうせ、僕なんて見下してたくせに」
ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…
婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね
うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。
伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。
お互い好きにならない。三年間の契約。
それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。
でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。
悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~
希羽
恋愛
「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」
才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。
しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。
無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。
莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。
一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。
愛することはない?教育が必要なようですわね!?
ゆるぽ
恋愛
ヴィオーラ公爵家には独自の風習がある。それはヴィオーラに連なるものが家を継ぐときに当代の公爵が直接指導とテストを行うというもの。3年前に公爵を継いだシンシア・ヴィオーラ公爵は数代前に分かれたヴィオーラ侯爵家次期侯爵のレイモンド・ヴィオーラが次期当主としてふさわしいかどうかを見定め指導するためにヴィオーラ侯爵家に向かう。だがそんな彼女を待っていたのはレイモンドの「勘違いしないでほしいが、僕は君を愛するつもりはない!」という訳の分からない宣言だった!どうやらレイモンドは婚約者のレンシアとシンシアを間違えているようで…?※恋愛要素はかなり薄いです※
悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する
青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。
両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。
母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。
リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。
マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。
すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。
修道院で聖女様に覚醒して……
大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが
マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない
完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく
今回も短編です
誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡
王子の転落 ~僕が婚約破棄した公爵令嬢は優秀で人望もあった~
今川幸乃
恋愛
ベルガルド王国の王子カールにはアシュリーという婚約者がいた。
しかしカールは自分より有能で周囲の評判もよく、常に自分の先回りをして世話をしてくるアシュリーのことを嫉妬していた。
そんな時、カールはカミラという伯爵令嬢と出会う。
彼女と過ごす時間はアシュリーと一緒の時間と違って楽しく、気楽だった。
こんな日々が続けばいいのに、と思ったカールはアシュリーとの婚約破棄を宣言する。
しかしアシュリーはカールが思っていた以上に優秀で、家臣や貴族たちの人望も高かった。
そのため、婚約破棄後にカールは思った以上の非難にさらされることになる。
※王子視点多めの予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる