完結 愛される自信を失ったのは私の罪

醜い嫉妬

「ブラッドぉ！お招きありがとう！今宵は楽しみましょう！」
そう叫んで彼に飛びつくように腕を取る。花の妖精のような装いのブリタニーは自分の髪色に合わせた薄桃のドレスに、ブラッドの瞳の色を模したようなトパーズの石を使った髪飾りをしていた。
それは見事な彫金で人の目を奪う。

それを見たディアナはズキリと胸を痛める、彼からの贈り物かもしれないと想像したら目の前が真っ暗になってしまう。
「どうしたのディアナ？顔色が悪いよ、少し休ませて貰おうか」
「ええ、そうね……ありがとうロベルト」
ふらつく足取りで壁際のカウチへと移動する、それを見たブラッドは慌てた様に後を追う。追った所で何も出来ないがそうせずにいられない。

「ディアナ、おしぼりを用意させよう。その大丈夫かい？何でも言って」
「……」
心配そうに声を掛けるブラッドだったが、相変わらず彼はブリタニーを引き連れてベタベタとしている。本当は引き剥がしたいところだが、そうすれば益々と彼女は引っ付く。

ディアナは何も語らずプイッとソッポを向いて「ロベルト、水が欲しいわ」と甘えた。従兄はニコリと微笑み配膳係から水を受け取る。コクコクと水を嚥下すると「ほう」と息を吐いてピタリとロベルトの胸に頭を預ける。
「ありがとう、貴方が居てくれて良かった」
「大袈裟だなぁ、でも役に立てて嬉しいよ。エスコートのし甲斐がある」

まるで恋人のように寄り添う二人を目にして今度はブラッドが辛そうな顔をする。そこは自分の居場所でディアナを介抱するのは自身の役割なのにと腹を立てた。だが、傍にいるのは憎らしいブリタニーで、ギュウギュウと腕を掴んで離さない。

「ねぇ、ここにいても詰まらないわ。ダンスを踊りましょう？」
「止めてくれ！婚約者が辛い時に遊ぶ気になれないよ、それにいい加減に離れてくれないか？」
「そんなつれないわぁ、意地悪ねぇ」
プンプンと腹を立ているという仕草で彼にじゃれ付くブリタニー、ポカポカと触れるだけの音のない反抗だ。横目でそれを見ていたディアナは目が死んでいた。

「随分と仲良しでおられるのね、どうぞダンスでも興じてらして。私の事は放っておいてください」
自分でも驚くほど冷めたい台詞が口から零れた、嫉妬していた心が凪いで他人事にように見つめている。それに気づいたブラッドは癇に障ったのかスクリと立ち上がり「それはどういう意味だい？」と言う。

「どういう意味ですって？まるで恋人同士のうように振る舞っておいてよくも！貴方方は散々私の前でイチャついておいて、怒るなという方がどうかしているわ！」
彼女は自分の怒りを漸くぶつけた、気持ちは冷静だと言うのに言いたくないことが次々溢れ出す。

詰るディアナにブラッドは驚いた、初めて感情を剥きだしたからだ。
「気にするなと言っているのに、なんて嫉妬深いんだ。彼女はただの従妹なんだぞ」
彼は手で顔を覆い「はー」と溜息伏せて呆れる（実は嫉妬されて嬉しい）だが、そんな事情など彼女は知る由もない。

「なんてことだディアナは……なのだ」か細く何かを言うブラッド、しかし、それを見てしまうディアナは愛想をつかされたと勘違いした。