完結 恋人を略奪されましたが幸運でした!

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
4 / 4

0.3

しおりを挟む
駐在所から戻った侍女が報告にやってきた。
「ついでに先方へ遅延の報せをしておきました、気の毒だと言って待って下さってます」
「そう、有難いわ。詫びの品を用意しなきゃ……ご苦労様、休んで頂戴」
目と鼻の先にある取引先の建物を見てロレッタは長い溜息を吐く。

そして、当たり屋リリアンが衛兵に連行されて行くのを憐憫の目で見送る。その視線に気が付いたらしいリリアンが突然走り出した。女と見て油断したらしい衛兵の手から縄が離れてしまう。
「この!くそロレッタ!全部全部アンタのせいだからね!結婚詐欺師なんかを掴ませやがって!」
「え?」
突進しながらそう喚くリリアンの言葉にロレッタは呆気に取られた。

「詐欺師?あの優男のリディンが……え、まさかそんな」
「まさかじゃないわよ!挙式の資金をうちから預かってそのままドロンよ!しかも宝石商だというアイツから仕入れた宝石が全部偽物だったのよ!ホアンデ商会は運営資金と信用を失って倒産しちゃったわ!」
二年前に起きたらしい事件を知らずにいたロレッタは瞠目して狼狽える。そして、噂とは全く異なる事実に呆れかえった。

リリアンに関する噂を悉く無視してきたロレッタは今更真実を知って「あらまぁ噂は歪むのね」ととぼけた台詞を吐いた。
「キィ!なによその態度は!いちいち癪に障る女よね昔からそう!そもそもアンタがあんな男を引き合わせたのが悪いのよ!責任取りなさいよ!私の財産をパパのお店を返して!」
自業自得だというのにロレッタに責任転嫁して喚き散らす彼女の姿はとても醜い。

どうにも反応が薄いロレッタに、極限業腹になったリリアンは両手を縛られながらも飛び掛かかろうとした。だがそれは寸でで阻止された。
「私の妻になにをする!この乞食女め!」
ロレッタの夫レオンが妻の前へ出てリリアンを突き飛ばした、商談元へ先に出向き準備していた彼は騒ぎを聞きつけてやって来たのだ。

路面へ転がったリリアンだったが、男から金の臭いを嗅ぎつけたのか目を爛々と輝かせて宣う。
「あら、素敵な殿方!どう、そんなつまんない女よりわたしを妻にしない?」
色気を振り撒きにじり寄って来るリリアンにレオンはたじろいだ。
そして、彼の背の陰にいた妻の脳裏に、かつて恋人を奪われた苦い過去が蘇る。生きた心地がしないロレッタは視線を背けて項垂れた。

みすぼらしく身を落としていながらもリリアンは愛らしい顔のままだ。女の魅力では勝てそうもないと思っている彼女は唇を噛みしめて震えて耐えた。夫の心まで奪われたら二度と異性に心を開くまいと誓う。
だが、そんな事は杞憂に終わる。

ロレッタは夫に抱きしめられてハッとする、見上げると優しい面差しの夫が微笑んでいた。
そして、彼はリリアンに向かって言う。
「何を勘違いしているのだか、キミは鏡を見たことがないのか?吹き出物と垢塗れの顔のどこに魅力があるのだ?」
「んな!?こ、これは手入れが出来てないだけでお金を掛ければ本来の美しさが蘇るはずよ!」
なんでも金で解決すると思っている愚かな女を夫は侮蔑する。

「護衛!当たり屋の女を捕縛して衛兵に突き出せ」
「はい!直ちに」
「な!止めてよ!私は当たり屋なんてしてないわ!」
ギャーギャーと喚きもう一人の護衛に石畳に押し付けられて暴れるリリアンは無様だ。

「チキショー!アンタが私に関わるからこんな目にぃ!許さないから!」
懲りない彼女はロレッタのせいにして泣き喚く。

「それは違うわリリアン、貴女がワザワザ私に張り合ってくるからよ。学生の頃からずっと絡んで来たのはいつも貴女のほうよ」
「え……嘘……アンタは私のライバルで……それで」
「ライバルですって?それは同等の力を持つ者同士が切磋琢磨し合う良い関係のことよ。なんて烏滸がましい」
「え……」

この時になって自分から飛び込み、玉砕し続けて来たことを理解したリリアンは青褪めて頽れた。
「なんでよ、どうして……私はいつもロレッタに届かないの!ウワァアアア!」
散々迷惑をかけまくり投獄されたリリアンは、小さいながら様々な犯罪に手を染めていたことが露見して実刑を受ける。



数年後、新聞の片隅に”女盗賊リリアンが脱獄して再逮捕された”という記事が掲載されたがロレッタがそれに気がつくことはなかった。
「さて、明日は結婚記念日ね。美味しいケーキを焼かなければ!」
ほんの少し膨らんだ下腹を撫でながらロレッタは幸せを噛みしめる。




しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

銀の騎士アルベルト・サーズードと婚約した令嬢は王様の指令で追放される羽目になる。

アリヘアM
恋愛
メイド「お嬢様また新しいドレスをかったのですね。」 ルナ「これはね婚約者のアルベルトに貰ったものなの。だから特別よ」 メイド「まぁなんて素敵なの。さすがお嬢様」 ルナ「オホホホホ全てはアルベルトの為に」 ◆◇◆◇◆◇ 「ルナ・クラウディア!お前を国外追放する!」 エドワード王太子殿下にそう言われてクラウディア公爵家の長女は青ざめた表情を浮かべていた。 ルナ「嫌ですわ、なんで私が国外追放なんかにされなきゃならないのですか」 アルベルト「ルナ、君のワガママには付き合ってられないよ。おかげで目が覚めた。貴方の品格は王室に迎えるにあたってふさわしくないと。よって君との婚約は延期させてもらう」 私はわかってました。 そう遠くない未来、こうなるであろうと言うことはわかってたのです。 私は一人っ子で愛情をふんだんにうけた結果傲慢になったのだと。

虎の威を借る狐は龍【完】

綾崎オトイ
恋愛
ヴィーはただの平民だ。ちょっと特殊だけど、生まれも育ちも普通の平民だ。 青春ライフを夢見て我儘を言って、やっと婚約者と同じ学園に通い始めたというのに、初日からこの国の王太子達を引き連れた公爵令嬢に絡まれるなんて。 その令嬢はまるで婚約者と恋仲であるような雰囲気で、ヴィーは二人を引き裂く悪い女。 この国の王族に愛され、貴族国民からの評価も高いらしい彼女はまるで虎の威を借る狐。 だがしかし後ろに虎がいるのは彼女だけでは無い。だからヴィーは何も気にしない。 2話完結 ◤勢いだけで書き上げました。頭空っぽにして読んでくださいな◢

不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら

柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。 「か・わ・い・い~っ!!」 これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。 出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。

あなたのことを忘れない日はなかった。

仏白目
恋愛
ノウス子爵家には2人の娘がいる しっかり者の20歳の長女サエラが入婿をとり子爵家を継いだ、 相手はトーリー伯爵家の三男、ウィルテル20歳 学園では同級生だつた とはいえ恋愛結婚ではなく、立派な政略結婚お互いに恋心はまだ存在していないが、お互いに夫婦として仲良くやって行けると思っていた。 結婚するまでは・・・ ノウス子爵家で一緒に生活する様になると ウィルテルはサエラの妹のリリアンに気があるようで・・・ *作者ご都合主義の世界観でのフィクションでございます。

【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます

ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」 「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」  シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。 全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。  しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。  アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……

しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」 そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。 魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。 「アリス様、冗談は止してください」 震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。 「冗談ではありません、エリック様ぁ」 甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。 彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。 「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」 この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。 聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。 魔法を使えないレナンとは大違いだ。 それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが…… 「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」 そう言うレナンの顔色はかなり悪い。 この状況をまともに受け止めたくないようだ。 そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。 彼女の気持ちまでも守るかのように。 ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。 同名キャラで様々な話を書いています。 話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。 お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。 中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^) カクヨムさんでも掲載中。

処理中です...