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駐在所から戻った侍女が報告にやってきた。
「ついでに先方へ遅延の報せをしておきました、気の毒だと言って待って下さってます」
「そう、有難いわ。詫びの品を用意しなきゃ……ご苦労様、休んで頂戴」
目と鼻の先にある取引先の建物を見てロレッタは長い溜息を吐く。
そして、当たり屋リリアンが衛兵に連行されて行くのを憐憫の目で見送る。その視線に気が付いたらしいリリアンが突然走り出した。女と見て油断したらしい衛兵の手から縄が離れてしまう。
「この!くそロレッタ!全部全部アンタのせいだからね!結婚詐欺師なんかを掴ませやがって!」
「え?」
突進しながらそう喚くリリアンの言葉にロレッタは呆気に取られた。
「詐欺師?あの優男のリディンが……え、まさかそんな」
「まさかじゃないわよ!挙式の資金をうちから預かってそのままドロンよ!しかも宝石商だというアイツから仕入れた宝石が全部偽物だったのよ!ホアンデ商会は運営資金と信用を失って倒産しちゃったわ!」
二年前に起きたらしい事件を知らずにいたロレッタは瞠目して狼狽える。そして、噂とは全く異なる事実に呆れかえった。
リリアンに関する噂を悉く無視してきたロレッタは今更真実を知って「あらまぁ噂は歪むのね」ととぼけた台詞を吐いた。
「キィ!なによその態度は!いちいち癪に障る女よね昔からそう!そもそもアンタがあんな男を引き合わせたのが悪いのよ!責任取りなさいよ!私の財産をパパのお店を返して!」
自業自得だというのにロレッタに責任転嫁して喚き散らす彼女の姿はとても醜い。
どうにも反応が薄いロレッタに、極限業腹になったリリアンは両手を縛られながらも飛び掛かかろうとした。だがそれは寸でで阻止された。
「私の妻になにをする!この乞食女め!」
ロレッタの夫レオンが妻の前へ出てリリアンを突き飛ばした、商談元へ先に出向き準備していた彼は騒ぎを聞きつけてやって来たのだ。
路面へ転がったリリアンだったが、男から金の臭いを嗅ぎつけたのか目を爛々と輝かせて宣う。
「あら、素敵な殿方!どう、そんなつまんない女よりわたしを妻にしない?」
色気を振り撒きにじり寄って来るリリアンにレオンはたじろいだ。
そして、彼の背の陰にいた妻の脳裏に、かつて恋人を奪われた苦い過去が蘇る。生きた心地がしないロレッタは視線を背けて項垂れた。
みすぼらしく身を落としていながらもリリアンは愛らしい顔のままだ。女の魅力では勝てそうもないと思っている彼女は唇を噛みしめて震えて耐えた。夫の心まで奪われたら二度と異性に心を開くまいと誓う。
だが、そんな事は杞憂に終わる。
ロレッタは夫に抱きしめられてハッとする、見上げると優しい面差しの夫が微笑んでいた。
そして、彼はリリアンに向かって言う。
「何を勘違いしているのだか、キミは鏡を見たことがないのか?吹き出物と垢塗れの顔のどこに魅力があるのだ?」
「んな!?こ、これは手入れが出来てないだけでお金を掛ければ本来の美しさが蘇るはずよ!」
なんでも金で解決すると思っている愚かな女を夫は侮蔑する。
「護衛!当たり屋の女を捕縛して衛兵に突き出せ」
「はい!直ちに」
「な!止めてよ!私は当たり屋なんてしてないわ!」
ギャーギャーと喚きもう一人の護衛に石畳に押し付けられて暴れるリリアンは無様だ。
「チキショー!アンタが私に関わるからこんな目にぃ!許さないから!」
懲りない彼女はロレッタのせいにして泣き喚く。
「それは違うわリリアン、貴女がワザワザ私に張り合ってくるからよ。学生の頃からずっと絡んで来たのはいつも貴女のほうよ」
「え……嘘……アンタは私のライバルで……それで」
「ライバルですって?それは同等の力を持つ者同士が切磋琢磨し合う良い関係のことよ。なんて烏滸がましい」
「え……」
この時になって自分から飛び込み、玉砕し続けて来たことを理解したリリアンは青褪めて頽れた。
「なんでよ、どうして……私はいつもロレッタに届かないの!ウワァアアア!」
散々迷惑をかけまくり投獄されたリリアンは、小さいながら様々な犯罪に手を染めていたことが露見して実刑を受ける。
数年後、新聞の片隅に”女盗賊リリアンが脱獄して再逮捕された”という記事が掲載されたがロレッタがそれに気がつくことはなかった。
「さて、明日は結婚記念日ね。美味しいケーキを焼かなければ!」
ほんの少し膨らんだ下腹を撫でながらロレッタは幸せを噛みしめる。
完
「ついでに先方へ遅延の報せをしておきました、気の毒だと言って待って下さってます」
「そう、有難いわ。詫びの品を用意しなきゃ……ご苦労様、休んで頂戴」
目と鼻の先にある取引先の建物を見てロレッタは長い溜息を吐く。
そして、当たり屋リリアンが衛兵に連行されて行くのを憐憫の目で見送る。その視線に気が付いたらしいリリアンが突然走り出した。女と見て油断したらしい衛兵の手から縄が離れてしまう。
「この!くそロレッタ!全部全部アンタのせいだからね!結婚詐欺師なんかを掴ませやがって!」
「え?」
突進しながらそう喚くリリアンの言葉にロレッタは呆気に取られた。
「詐欺師?あの優男のリディンが……え、まさかそんな」
「まさかじゃないわよ!挙式の資金をうちから預かってそのままドロンよ!しかも宝石商だというアイツから仕入れた宝石が全部偽物だったのよ!ホアンデ商会は運営資金と信用を失って倒産しちゃったわ!」
二年前に起きたらしい事件を知らずにいたロレッタは瞠目して狼狽える。そして、噂とは全く異なる事実に呆れかえった。
リリアンに関する噂を悉く無視してきたロレッタは今更真実を知って「あらまぁ噂は歪むのね」ととぼけた台詞を吐いた。
「キィ!なによその態度は!いちいち癪に障る女よね昔からそう!そもそもアンタがあんな男を引き合わせたのが悪いのよ!責任取りなさいよ!私の財産をパパのお店を返して!」
自業自得だというのにロレッタに責任転嫁して喚き散らす彼女の姿はとても醜い。
どうにも反応が薄いロレッタに、極限業腹になったリリアンは両手を縛られながらも飛び掛かかろうとした。だがそれは寸でで阻止された。
「私の妻になにをする!この乞食女め!」
ロレッタの夫レオンが妻の前へ出てリリアンを突き飛ばした、商談元へ先に出向き準備していた彼は騒ぎを聞きつけてやって来たのだ。
路面へ転がったリリアンだったが、男から金の臭いを嗅ぎつけたのか目を爛々と輝かせて宣う。
「あら、素敵な殿方!どう、そんなつまんない女よりわたしを妻にしない?」
色気を振り撒きにじり寄って来るリリアンにレオンはたじろいだ。
そして、彼の背の陰にいた妻の脳裏に、かつて恋人を奪われた苦い過去が蘇る。生きた心地がしないロレッタは視線を背けて項垂れた。
みすぼらしく身を落としていながらもリリアンは愛らしい顔のままだ。女の魅力では勝てそうもないと思っている彼女は唇を噛みしめて震えて耐えた。夫の心まで奪われたら二度と異性に心を開くまいと誓う。
だが、そんな事は杞憂に終わる。
ロレッタは夫に抱きしめられてハッとする、見上げると優しい面差しの夫が微笑んでいた。
そして、彼はリリアンに向かって言う。
「何を勘違いしているのだか、キミは鏡を見たことがないのか?吹き出物と垢塗れの顔のどこに魅力があるのだ?」
「んな!?こ、これは手入れが出来てないだけでお金を掛ければ本来の美しさが蘇るはずよ!」
なんでも金で解決すると思っている愚かな女を夫は侮蔑する。
「護衛!当たり屋の女を捕縛して衛兵に突き出せ」
「はい!直ちに」
「な!止めてよ!私は当たり屋なんてしてないわ!」
ギャーギャーと喚きもう一人の護衛に石畳に押し付けられて暴れるリリアンは無様だ。
「チキショー!アンタが私に関わるからこんな目にぃ!許さないから!」
懲りない彼女はロレッタのせいにして泣き喚く。
「それは違うわリリアン、貴女がワザワザ私に張り合ってくるからよ。学生の頃からずっと絡んで来たのはいつも貴女のほうよ」
「え……嘘……アンタは私のライバルで……それで」
「ライバルですって?それは同等の力を持つ者同士が切磋琢磨し合う良い関係のことよ。なんて烏滸がましい」
「え……」
この時になって自分から飛び込み、玉砕し続けて来たことを理解したリリアンは青褪めて頽れた。
「なんでよ、どうして……私はいつもロレッタに届かないの!ウワァアアア!」
散々迷惑をかけまくり投獄されたリリアンは、小さいながら様々な犯罪に手を染めていたことが露見して実刑を受ける。
数年後、新聞の片隅に”女盗賊リリアンが脱獄して再逮捕された”という記事が掲載されたがロレッタがそれに気がつくことはなかった。
「さて、明日は結婚記念日ね。美味しいケーキを焼かなければ!」
ほんの少し膨らんだ下腹を撫でながらロレッタは幸せを噛みしめる。
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