3 / 4
0.2
性根の腐ったリリアンの略奪劇から約二年が過ぎた。
ロレッタに興味がなくとも、遠い街へ引っ越した悪友リリアンの噂が勝手に耳に届く。
挙式をあげるために隣国へと渡り、そちらで盛大に祝われたとか、計算に合わない懐妊で大騒ぎになったとか……。
だが、どれもこれもロレッタの心には何も響きやしない。
今現在の彼女の興味は違うところへ向いている。
モウゼン商会は元々貴族相手に商いを展開していて、飽きっぽくて新しいものを常に求める客のために商品開発に余念がないのだ。娘である彼女も子会社を任されていて菓子類部門を担当していた。
そして、その日の午後。砂糖の買い付けに交易の街へ出向いている最中である。高騰気味だった砂糖の値が落ち着いたという知らせを受けてのことだ。
「良い商談になるといいわね、貴族は贅沢品に目が無いから特にご婦人方は甘味に弱いもの」
彼女は移動する馬車の中であれこれと次の砂糖菓子はどれにしようかと思案していた。
もうすぐ目的地に着こうという頃に馬車が急停止した、前のめりになってコケそうになったロレッタを侍女が支える。
「大丈夫ですか?ロレッタ様!」
「ええ、平気よ。それより何事かしらね?」
車窓から外の様子を覗う彼女は馭者と護衛の者が何か叫んでいる、しかしドア越しでは良くわからない。侍女がほんの少しだけ窓を横へスライドさせると騒ぎの声が届いてきた。
「どうやら馬の前に人が飛び出した様子ですわ」
「ええ、怪我がないと良いわね……」
思わぬ足止めを食らったロレッタは、通行人の心配をしつつ約束の時間を気にして苛立った。この場を侍従たちに任せて先を急ぐべきか苦悩する。徒歩でも辿り着く距離だったのでそうすべきと判断した。
ドアを開けて降りるとキーキーと耳障りな声が大きくなり、彼女は眉を顰める。
「ロレッタ様、あまり近づきませんように。何か変ですわ」
「ええ、そうね。衛兵に連絡をしましょう」
「畏まりました」
侍女は護衛に主を任せて最寄りの駐在所へと走って行った、そう遠くはないのですぐ戻るだろう。
ロレッタはそろそろと歩き馬の陰から現状を把握しようとした。
すると道路の真ん中で”痛い痛い”と大騒ぎする女性の姿を見つけた、衣服がボロボロだったがそれは事故で裂けたようには見えない。石畳に座り込んではいるがかなり元気そうで怪我をした様子はない。
するとロレッタの存在に気が付いた護衛が駆け寄ってきて現状を報告する。
「ほ……良かったわ。接触したわけではないのね」
「はい、ギリギリでしたが馬が蹴った様子はありません。勝手に転んで膝を擦りむいたようです」
接触事故ではないと聞いた彼女は人物を路肩へ移動させて手当させよと指示した。しかし、その人物は頑なに移動と手当を拒否して叫ぶ。
「痛いと言ってるじゃない!気が利かないんだから、抱き上げなさいよ。それから慰謝料を頂戴!」
「何を言っている?手を煩わせるようなら憲兵に突き出すぞ!」
護衛の一人に恫喝されて怯んだのか、女はワンワンと泣きだした。テコでもそこから動こうとしないその者は、質の悪い当たり屋であろうと馭者が言う。
「どうやら嘘泣きですね、涙が出てませんよ」
「嘘じゃないもん!と~っても痛いんだからね!」
我儘で頑固そうなその声を聞いたロレッタはその人物の正体に気が付いた。
「貴女……リリアンじゃない、どうしてこんな事を」
「ゲッ!?アンタはロレッタ……うーわー最悪なんだけど」
騒ぎを聞きつけた衛兵達が現場に着いた頃には物見遊山に集まった通行人たちで道が塞がっていた。衛兵らがそれを離れて散れと怒鳴って周る。野次馬の群れが散り散りになるとリリアンの身柄が確保された。
ロレッタに興味がなくとも、遠い街へ引っ越した悪友リリアンの噂が勝手に耳に届く。
挙式をあげるために隣国へと渡り、そちらで盛大に祝われたとか、計算に合わない懐妊で大騒ぎになったとか……。
だが、どれもこれもロレッタの心には何も響きやしない。
今現在の彼女の興味は違うところへ向いている。
モウゼン商会は元々貴族相手に商いを展開していて、飽きっぽくて新しいものを常に求める客のために商品開発に余念がないのだ。娘である彼女も子会社を任されていて菓子類部門を担当していた。
そして、その日の午後。砂糖の買い付けに交易の街へ出向いている最中である。高騰気味だった砂糖の値が落ち着いたという知らせを受けてのことだ。
「良い商談になるといいわね、貴族は贅沢品に目が無いから特にご婦人方は甘味に弱いもの」
彼女は移動する馬車の中であれこれと次の砂糖菓子はどれにしようかと思案していた。
もうすぐ目的地に着こうという頃に馬車が急停止した、前のめりになってコケそうになったロレッタを侍女が支える。
「大丈夫ですか?ロレッタ様!」
「ええ、平気よ。それより何事かしらね?」
車窓から外の様子を覗う彼女は馭者と護衛の者が何か叫んでいる、しかしドア越しでは良くわからない。侍女がほんの少しだけ窓を横へスライドさせると騒ぎの声が届いてきた。
「どうやら馬の前に人が飛び出した様子ですわ」
「ええ、怪我がないと良いわね……」
思わぬ足止めを食らったロレッタは、通行人の心配をしつつ約束の時間を気にして苛立った。この場を侍従たちに任せて先を急ぐべきか苦悩する。徒歩でも辿り着く距離だったのでそうすべきと判断した。
ドアを開けて降りるとキーキーと耳障りな声が大きくなり、彼女は眉を顰める。
「ロレッタ様、あまり近づきませんように。何か変ですわ」
「ええ、そうね。衛兵に連絡をしましょう」
「畏まりました」
侍女は護衛に主を任せて最寄りの駐在所へと走って行った、そう遠くはないのですぐ戻るだろう。
ロレッタはそろそろと歩き馬の陰から現状を把握しようとした。
すると道路の真ん中で”痛い痛い”と大騒ぎする女性の姿を見つけた、衣服がボロボロだったがそれは事故で裂けたようには見えない。石畳に座り込んではいるがかなり元気そうで怪我をした様子はない。
するとロレッタの存在に気が付いた護衛が駆け寄ってきて現状を報告する。
「ほ……良かったわ。接触したわけではないのね」
「はい、ギリギリでしたが馬が蹴った様子はありません。勝手に転んで膝を擦りむいたようです」
接触事故ではないと聞いた彼女は人物を路肩へ移動させて手当させよと指示した。しかし、その人物は頑なに移動と手当を拒否して叫ぶ。
「痛いと言ってるじゃない!気が利かないんだから、抱き上げなさいよ。それから慰謝料を頂戴!」
「何を言っている?手を煩わせるようなら憲兵に突き出すぞ!」
護衛の一人に恫喝されて怯んだのか、女はワンワンと泣きだした。テコでもそこから動こうとしないその者は、質の悪い当たり屋であろうと馭者が言う。
「どうやら嘘泣きですね、涙が出てませんよ」
「嘘じゃないもん!と~っても痛いんだからね!」
我儘で頑固そうなその声を聞いたロレッタはその人物の正体に気が付いた。
「貴女……リリアンじゃない、どうしてこんな事を」
「ゲッ!?アンタはロレッタ……うーわー最悪なんだけど」
騒ぎを聞きつけた衛兵達が現場に着いた頃には物見遊山に集まった通行人たちで道が塞がっていた。衛兵らがそれを離れて散れと怒鳴って周る。野次馬の群れが散り散りになるとリリアンの身柄が確保された。
あなたにおすすめの小説
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!
よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。
ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。
その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。
短編です。
毒姫の婚約騒動
SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。
「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」
「分かりました。」
そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に?
あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は?
毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
「やはり鍛えることは、大切だな」
イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」
その日、一つのお見合いがあった。
ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
そして互いに挨拶を交わすその場にて。
ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
けれども……――。
「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」
馬小屋の令嬢
satomi
恋愛
産まれた時に髪の色が黒いということで、馬小屋での生活を強いられてきたハナコ。その10年後にも男の子が髪の色が黒かったので、馬小屋へ。その一年後にもまた男の子が一人馬小屋へ。やっとその一年後に待望の金髪の子が生まれる。女の子だけど、それでも公爵閣下は嬉しかった。彼女の名前はステラリンク。馬小屋の子は名前を適当につけた。長女はハナコ。長男はタロウ、次男はジロウ。
髪の色に翻弄される彼女たちとそれとは全く関係ない世間との違い。
ある日、パーティーに招待されます。そこで歯車が狂っていきます。