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性根の腐ったリリアンの略奪劇から約二年が過ぎた。
ロレッタに興味がなくとも、遠い街へ引っ越した悪友リリアンの噂が勝手に耳に届く。
挙式をあげるために隣国へと渡り、そちらで盛大に祝われたとか、計算に合わない懐妊で大騒ぎになったとか……。
だが、どれもこれもロレッタの心には何も響きやしない。
今現在の彼女の興味は違うところへ向いている。
モウゼン商会は元々貴族相手に商いを展開していて、飽きっぽくて新しいものを常に求める客のために商品開発に余念がないのだ。娘である彼女も子会社を任されていて菓子類部門を担当していた。
そして、その日の午後。砂糖の買い付けに交易の街へ出向いている最中である。高騰気味だった砂糖の値が落ち着いたという知らせを受けてのことだ。
「良い商談になるといいわね、貴族は贅沢品に目が無いから特にご婦人方は甘味に弱いもの」
彼女は移動する馬車の中であれこれと次の砂糖菓子はどれにしようかと思案していた。
もうすぐ目的地に着こうという頃に馬車が急停止した、前のめりになってコケそうになったロレッタを侍女が支える。
「大丈夫ですか?ロレッタ様!」
「ええ、平気よ。それより何事かしらね?」
車窓から外の様子を覗う彼女は馭者と護衛の者が何か叫んでいる、しかしドア越しでは良くわからない。侍女がほんの少しだけ窓を横へスライドさせると騒ぎの声が届いてきた。
「どうやら馬の前に人が飛び出した様子ですわ」
「ええ、怪我がないと良いわね……」
思わぬ足止めを食らったロレッタは、通行人の心配をしつつ約束の時間を気にして苛立った。この場を侍従たちに任せて先を急ぐべきか苦悩する。徒歩でも辿り着く距離だったのでそうすべきと判断した。
ドアを開けて降りるとキーキーと耳障りな声が大きくなり、彼女は眉を顰める。
「ロレッタ様、あまり近づきませんように。何か変ですわ」
「ええ、そうね。衛兵に連絡をしましょう」
「畏まりました」
侍女は護衛に主を任せて最寄りの駐在所へと走って行った、そう遠くはないのですぐ戻るだろう。
ロレッタはそろそろと歩き馬の陰から現状を把握しようとした。
すると道路の真ん中で”痛い痛い”と大騒ぎする女性の姿を見つけた、衣服がボロボロだったがそれは事故で裂けたようには見えない。石畳に座り込んではいるがかなり元気そうで怪我をした様子はない。
するとロレッタの存在に気が付いた護衛が駆け寄ってきて現状を報告する。
「ほ……良かったわ。接触したわけではないのね」
「はい、ギリギリでしたが馬が蹴った様子はありません。勝手に転んで膝を擦りむいたようです」
接触事故ではないと聞いた彼女は人物を路肩へ移動させて手当させよと指示した。しかし、その人物は頑なに移動と手当を拒否して叫ぶ。
「痛いと言ってるじゃない!気が利かないんだから、抱き上げなさいよ。それから慰謝料を頂戴!」
「何を言っている?手を煩わせるようなら憲兵に突き出すぞ!」
護衛の一人に恫喝されて怯んだのか、女はワンワンと泣きだした。テコでもそこから動こうとしないその者は、質の悪い当たり屋であろうと馭者が言う。
「どうやら嘘泣きですね、涙が出てませんよ」
「嘘じゃないもん!と~っても痛いんだからね!」
我儘で頑固そうなその声を聞いたロレッタはその人物の正体に気が付いた。
「貴女……リリアンじゃない、どうしてこんな事を」
「ゲッ!?アンタはロレッタ……うーわー最悪なんだけど」
騒ぎを聞きつけた衛兵達が現場に着いた頃には物見遊山に集まった通行人たちで道が塞がっていた。衛兵らがそれを離れて散れと怒鳴って周る。野次馬の群れが散り散りになるとリリアンの身柄が確保された。
ロレッタに興味がなくとも、遠い街へ引っ越した悪友リリアンの噂が勝手に耳に届く。
挙式をあげるために隣国へと渡り、そちらで盛大に祝われたとか、計算に合わない懐妊で大騒ぎになったとか……。
だが、どれもこれもロレッタの心には何も響きやしない。
今現在の彼女の興味は違うところへ向いている。
モウゼン商会は元々貴族相手に商いを展開していて、飽きっぽくて新しいものを常に求める客のために商品開発に余念がないのだ。娘である彼女も子会社を任されていて菓子類部門を担当していた。
そして、その日の午後。砂糖の買い付けに交易の街へ出向いている最中である。高騰気味だった砂糖の値が落ち着いたという知らせを受けてのことだ。
「良い商談になるといいわね、貴族は贅沢品に目が無いから特にご婦人方は甘味に弱いもの」
彼女は移動する馬車の中であれこれと次の砂糖菓子はどれにしようかと思案していた。
もうすぐ目的地に着こうという頃に馬車が急停止した、前のめりになってコケそうになったロレッタを侍女が支える。
「大丈夫ですか?ロレッタ様!」
「ええ、平気よ。それより何事かしらね?」
車窓から外の様子を覗う彼女は馭者と護衛の者が何か叫んでいる、しかしドア越しでは良くわからない。侍女がほんの少しだけ窓を横へスライドさせると騒ぎの声が届いてきた。
「どうやら馬の前に人が飛び出した様子ですわ」
「ええ、怪我がないと良いわね……」
思わぬ足止めを食らったロレッタは、通行人の心配をしつつ約束の時間を気にして苛立った。この場を侍従たちに任せて先を急ぐべきか苦悩する。徒歩でも辿り着く距離だったのでそうすべきと判断した。
ドアを開けて降りるとキーキーと耳障りな声が大きくなり、彼女は眉を顰める。
「ロレッタ様、あまり近づきませんように。何か変ですわ」
「ええ、そうね。衛兵に連絡をしましょう」
「畏まりました」
侍女は護衛に主を任せて最寄りの駐在所へと走って行った、そう遠くはないのですぐ戻るだろう。
ロレッタはそろそろと歩き馬の陰から現状を把握しようとした。
すると道路の真ん中で”痛い痛い”と大騒ぎする女性の姿を見つけた、衣服がボロボロだったがそれは事故で裂けたようには見えない。石畳に座り込んではいるがかなり元気そうで怪我をした様子はない。
するとロレッタの存在に気が付いた護衛が駆け寄ってきて現状を報告する。
「ほ……良かったわ。接触したわけではないのね」
「はい、ギリギリでしたが馬が蹴った様子はありません。勝手に転んで膝を擦りむいたようです」
接触事故ではないと聞いた彼女は人物を路肩へ移動させて手当させよと指示した。しかし、その人物は頑なに移動と手当を拒否して叫ぶ。
「痛いと言ってるじゃない!気が利かないんだから、抱き上げなさいよ。それから慰謝料を頂戴!」
「何を言っている?手を煩わせるようなら憲兵に突き出すぞ!」
護衛の一人に恫喝されて怯んだのか、女はワンワンと泣きだした。テコでもそこから動こうとしないその者は、質の悪い当たり屋であろうと馭者が言う。
「どうやら嘘泣きですね、涙が出てませんよ」
「嘘じゃないもん!と~っても痛いんだからね!」
我儘で頑固そうなその声を聞いたロレッタはその人物の正体に気が付いた。
「貴女……リリアンじゃない、どうしてこんな事を」
「ゲッ!?アンタはロレッタ……うーわー最悪なんだけど」
騒ぎを聞きつけた衛兵達が現場に着いた頃には物見遊山に集まった通行人たちで道が塞がっていた。衛兵らがそれを離れて散れと怒鳴って周る。野次馬の群れが散り散りになるとリリアンの身柄が確保された。
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