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遠い記憶 御所望されるのは庶民の味
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王妃様にギュウギュウと押し潰された私は、疲労困憊でヘロヘロになっていた。
ディミアン殿下が引き剝がしてくれなかったら、気絶していたでしょう。
母が申し訳ないことをしたと、何度も詫びられてどう反応すべきか困ってしまったわ。
臣民を虐げるような王族ではないだけに、腰が低すぎるのよね。
王妃様はといえば「もっとアリスちゃんと仲良くなりたい」とゴネられていたわ。
しかし、父上を呼ぶことになると殿下がおっしゃると大人しくなられた。
それからディミアン王子が加わって歓談が再開された。
私は違う意味で緊張してしまう、苦手なのよねキラキラ系のイケメンが……。
容姿のコンプレックスのせいかしら。
「私が母を監視するから安心してね」
殿下は優しい笑みを私に向けてくる、グアッ!眩しい!
視力が落ちたら慰謝料請求しようかしら?
そんなバカなことを考えていたら、王妃様が急ぎの公務が出来たとサロンから去っていく。
私も長居するわけもいかないのでお暇する旨を告げて立ち上がった。
けれどもそれは叶わなかった。
場を変えて話がしたいと王子がおっしゃるので従うほかなかったの。
私は王族専用の中庭に面したテラスへ誘われた、なんと畏れ多い。
「すまないね、王族に誘われては断れないというのに」
「い、いいえ!今日は休暇を兼ねておりますので時間に余裕がございます」
うん、正直にいえばすぐにでも帰りたいけれど言えやしないわ。
私は笑顔をなんとか貼り付けて殿下の接待を受ける。
白木のテーブルを囲んで二度目の茶会が開かれる。
さきほどとは違う冷茶が供された、東大陸の珍しい茶葉が使われていると王子が説明してくれた。
濃い目のお茶は爽やかな苦みがあってスッキリしている。
「これはウーロン茶!」
思わず口に出していた私、しまった!味に覚えがあってつい……。
「この味を知っているとはね、まだ国には出回ってないはずなのだが……どういうことかな」
「え、あの……」
引いていた冷や汗が再び噴き出してきて背を伝う。
王子の目が不思議な生き物を捕らえたようにじっと観察してくる。
返答に困っていたら、王子が頭を振って「こんなことがあるなんて」と呟かれる。
なんの事やら、私はオドオドするしか出来なくなった。
「いや、ごめんね困らせるつもりではないよ。実はキミが運営しているカフェを偵察させて貰ったんだ。母のサロンに邪魔したのは偶然ではない。ドーナツと一緒に提供している緑茶に興味深くて確かめたいことがあったんだ」
王子はそう言って私を試したことを詫びる。
試すとはいったいなんなのだろう?
***
「え、まさかそんな!?」
ディミアン王子の告白に私は驚愕する、なんと私が夢で見た世界を知っていると言うのよ。
俄かには信じられず、王子が私を揶揄っているのではと疑心暗鬼になった。
「白地に赤い丸の旗を知っているよね?それから東京という大都市、私はそこで生活していた。」
「国旗と東京……はい全て知っているわけではありませんが、夢で見た覚えがあります」
私の知識にあるのは田舎町で、東京とは縁のない生活のことしか知らないわ。
でも王子と共通の知識はたくさん持っている。
王子、貴方は一体何者?そして私の持つこの異世界の記憶は?
何故だか急に涙が溢れだしてきて止まらなくなった。
王子はただ黙って私が落ち着くのを待っていてくれた。
はしたない失態を詫びて、私は居住まいを正し王子の言葉を待つことにした。
「細かいことは後々擦り合わせるとして、結論から言おう。私とキミは前世の記憶を持って生まれた同士ということになるんだ。私は物心ついてすぐに記憶を取り戻している、幼かったせいもあって混乱することもなかった。当然あって当たり前と受けとめていたからね」
王子の告白の内容はやっぱり信じ難かったが、同時に腑に落ちる自分もいたわ。
”前世の記憶”とはいま現在に生まれる前の生きた証のこと、それはなんとなく理解したけれど……。
「で、殿下はそのような奇々怪々な現象を信じておられるのですか?私には受け入れがたいですわ」
私は正直な感想を述べることにした。
王子はしばし長考されると、互いに合致する知識を持っている、それが揺るぎない証拠だと言われてしまった。
「受け入れ難いというのは仕方ないだろう、しかし生まれた境遇が違うというのに同じような記憶を持っているのは説明がつかないだろう?」
「え、ええ。そうですね。なんというか……同郷の仲間とでもいうのでしょうか」
「そう!それだよ!私も断片的にしか知識がないからね、是非キミと異世界で生きてきたことを話し合いたいと思う。どうか時間を貰えないかな、お互い生活があるから頻繁にとはいかないが」
王子の懇願に立場上断れるわけもなく……。
「こちらこそよろしくお願い致します」
私は自然にそう返答してしまったの。
「ありがとう!とても嬉しいよ、それとキミにお願いがあってね。どうしても再現して欲しい味があるんだ資金は私が出す、どうか叶えて貰えないだろうか?」
王子が所望する前世の味?
「それいったいどれの事でしょうか、私の知識も欠けておりますので保障は出来かねますよ」
至極当然の返答をする私に王子は躊躇いがちにこう言った。
「白いご飯と味噌汁、それから漬物!納豆!これがどうしても食べたい!できればカレーも!」
な、なんですと!?
ディミアン殿下が引き剝がしてくれなかったら、気絶していたでしょう。
母が申し訳ないことをしたと、何度も詫びられてどう反応すべきか困ってしまったわ。
臣民を虐げるような王族ではないだけに、腰が低すぎるのよね。
王妃様はといえば「もっとアリスちゃんと仲良くなりたい」とゴネられていたわ。
しかし、父上を呼ぶことになると殿下がおっしゃると大人しくなられた。
それからディミアン王子が加わって歓談が再開された。
私は違う意味で緊張してしまう、苦手なのよねキラキラ系のイケメンが……。
容姿のコンプレックスのせいかしら。
「私が母を監視するから安心してね」
殿下は優しい笑みを私に向けてくる、グアッ!眩しい!
視力が落ちたら慰謝料請求しようかしら?
そんなバカなことを考えていたら、王妃様が急ぎの公務が出来たとサロンから去っていく。
私も長居するわけもいかないのでお暇する旨を告げて立ち上がった。
けれどもそれは叶わなかった。
場を変えて話がしたいと王子がおっしゃるので従うほかなかったの。
私は王族専用の中庭に面したテラスへ誘われた、なんと畏れ多い。
「すまないね、王族に誘われては断れないというのに」
「い、いいえ!今日は休暇を兼ねておりますので時間に余裕がございます」
うん、正直にいえばすぐにでも帰りたいけれど言えやしないわ。
私は笑顔をなんとか貼り付けて殿下の接待を受ける。
白木のテーブルを囲んで二度目の茶会が開かれる。
さきほどとは違う冷茶が供された、東大陸の珍しい茶葉が使われていると王子が説明してくれた。
濃い目のお茶は爽やかな苦みがあってスッキリしている。
「これはウーロン茶!」
思わず口に出していた私、しまった!味に覚えがあってつい……。
「この味を知っているとはね、まだ国には出回ってないはずなのだが……どういうことかな」
「え、あの……」
引いていた冷や汗が再び噴き出してきて背を伝う。
王子の目が不思議な生き物を捕らえたようにじっと観察してくる。
返答に困っていたら、王子が頭を振って「こんなことがあるなんて」と呟かれる。
なんの事やら、私はオドオドするしか出来なくなった。
「いや、ごめんね困らせるつもりではないよ。実はキミが運営しているカフェを偵察させて貰ったんだ。母のサロンに邪魔したのは偶然ではない。ドーナツと一緒に提供している緑茶に興味深くて確かめたいことがあったんだ」
王子はそう言って私を試したことを詫びる。
試すとはいったいなんなのだろう?
***
「え、まさかそんな!?」
ディミアン王子の告白に私は驚愕する、なんと私が夢で見た世界を知っていると言うのよ。
俄かには信じられず、王子が私を揶揄っているのではと疑心暗鬼になった。
「白地に赤い丸の旗を知っているよね?それから東京という大都市、私はそこで生活していた。」
「国旗と東京……はい全て知っているわけではありませんが、夢で見た覚えがあります」
私の知識にあるのは田舎町で、東京とは縁のない生活のことしか知らないわ。
でも王子と共通の知識はたくさん持っている。
王子、貴方は一体何者?そして私の持つこの異世界の記憶は?
何故だか急に涙が溢れだしてきて止まらなくなった。
王子はただ黙って私が落ち着くのを待っていてくれた。
はしたない失態を詫びて、私は居住まいを正し王子の言葉を待つことにした。
「細かいことは後々擦り合わせるとして、結論から言おう。私とキミは前世の記憶を持って生まれた同士ということになるんだ。私は物心ついてすぐに記憶を取り戻している、幼かったせいもあって混乱することもなかった。当然あって当たり前と受けとめていたからね」
王子の告白の内容はやっぱり信じ難かったが、同時に腑に落ちる自分もいたわ。
”前世の記憶”とはいま現在に生まれる前の生きた証のこと、それはなんとなく理解したけれど……。
「で、殿下はそのような奇々怪々な現象を信じておられるのですか?私には受け入れがたいですわ」
私は正直な感想を述べることにした。
王子はしばし長考されると、互いに合致する知識を持っている、それが揺るぎない証拠だと言われてしまった。
「受け入れ難いというのは仕方ないだろう、しかし生まれた境遇が違うというのに同じような記憶を持っているのは説明がつかないだろう?」
「え、ええ。そうですね。なんというか……同郷の仲間とでもいうのでしょうか」
「そう!それだよ!私も断片的にしか知識がないからね、是非キミと異世界で生きてきたことを話し合いたいと思う。どうか時間を貰えないかな、お互い生活があるから頻繁にとはいかないが」
王子の懇願に立場上断れるわけもなく……。
「こちらこそよろしくお願い致します」
私は自然にそう返答してしまったの。
「ありがとう!とても嬉しいよ、それとキミにお願いがあってね。どうしても再現して欲しい味があるんだ資金は私が出す、どうか叶えて貰えないだろうか?」
王子が所望する前世の味?
「それいったいどれの事でしょうか、私の知識も欠けておりますので保障は出来かねますよ」
至極当然の返答をする私に王子は躊躇いがちにこう言った。
「白いご飯と味噌汁、それから漬物!納豆!これがどうしても食べたい!できればカレーも!」
な、なんですと!?
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