(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)

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ありがた迷惑だったはずなのに

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体型が激変した自分の身体に翻弄されるのは骨折以来だった。どうしてこう極端なの!?
急遽、実家へ向かい痩せていた頃のドレスを纏ったわ。

若干ウエストがきつかったけれど、ブカブカよりは大分マシと思えた。
汗を大量にかいたのは、猛暑のせいだけではない。むしろ冷や汗の方が多いはずよ。

王城の外門、内門でチェックを受けて馬車が王宮前に着いたのは約束時間の10分前だったわ。
危うく首が飛ぶかと肝が冷えたわよ。

噴き出る汗をパウダーで誤魔化して背筋を伸ばす。
無駄に長くて広い回廊の先を王宮侍女が先導して歩くこと5分、王妃様専用の居住フロアに着いた。
お付きの侍女二人を後ろに王妃様のプライベートサロンの扉の前で畏まる。
王妃様付の侍従がわざとらしい声で「アリス・スペンサー様、御到着~」と叫んで扉を開く。


私達は目線を下にしたまま入室して、カーテシーをする。
お声がかかかるまで、この体制をキープしなければならない。

フカフカのカーペットの先に王妃様がいらっしゃる、目に見えない圧に耐えながらひたすら待った。
衣擦れの微かな音がしてその方がこちらへ移動している。


「お顔をあげて、急な呼び出しを詫びます。ようこそアリス嬢」
美しい澄んだ声が頭上に降って来たわ、ゆっくり態勢を戻して挨拶を申し上げる。

「夏空に白雲映える今日の良き日に、ご尊顔にお目にかかれること身に余る光栄に存じます。」
緊張の面持ちで準備しておいた台詞が噛まずに出て漸く肩が軽くなる。


「ほほほ、そんな畏まらなくても良くってよ。さぁ、こちらへいらして。化粧の話と貴女のご活躍を聞きたいわ」
「恐れ入ります」

なんと王妃様自ら私の手を取り、中央に設えたソファへとエスコートされてしまったわ。
手、手汗が……手汁で王妃様を汚してしまう!


涼し気なガラステーブルを挟んで、対面に座った王妃様はまるで大輪の花のような方だったわ。
こんな至近距離でお顔を見るのは初めてよ。


ガチガチの私に王妃様は少し困った様子だ、優美な眉を若干下げられて王妃専属の侍女を呼びつける。
繊細なカップに冷茶が注がれ大きな氷が転がった、さすが王室のお茶は惜しげもなく氷がたくさん使われている。

「お飲みなさい、私がブレンドしたものよ」
「は、はい!いただきます!」


セイロンに紫の花が浮かんでいた、なんて優雅な香りだろうとウットリしたわ。
カップの中でコロコロ踊る氷さえ気品がある錯覚をおこしそう。


王妃様と私の会話は当たり障りない貴族たちと王都の噂話から始まった。
どこそこの家が三つ子を産んだとか、隣国から来た吟遊詩人の流行り歌が音痴過ぎて笑えるとか。

そして、いよいよ私の店の話についてふられる。

「私も是非ドーナツとやらを食してみたいのよ、それからわらび餅とやらもね」
「王妃様がお召しに?……たいへん恐縮ですが、あれは庶民の食べ物ですのでお口汚しになるかと」

私は大慌てでドーナツについて説明したが、王妃様は諦めそうもない。
なんとしても食べたいとおっしゃるの、困ったわ。
終いには「お忍びで行く」とまで言い出すので、控えていた侍従が咳払いで諌言した。

「んもう!私の侍従たちときたら融通が利かないんだからー!アリス嬢からも言ってちょうだいな」
王妃様は少女のように頬を膨らませて拗ねる、失礼ながら可愛らしいと微笑んでしまう。
二人の王子と王女をもうけたのに、歳を感じせない方だわ。


「そういえばね、頂いた化粧品をとっても気に入ったの!是非追加で欲しいのだけど」
「はい、本日は5セットほど持参致ししました」

私の侍女が香りが違うベビーパウダー5個と日焼け止めを5本、王妃様の侍従へ渡した。
王妃様は大喜びされて正規の金額を支払って下さった。

「夏場のベタベタ地獄から解放されて嬉しくてね。つい陛下や王女に自慢したら強請られちゃったのよ。」
王妃様はそう愚痴りながらも王族の事を笑いながら聞かせてくれたわ。

こうして聞くと普通の家庭とかわらないのね。

気さくな王妃様のお陰で私もすっかりリラックスして談笑できた。
慈愛に満ちた笑顔が眩しく、とても素敵な方だと思ったわ。

「ところで新作の化粧品はないのかしら?」
「えーと、……そうですね。吹き出物に効果がある化粧水を試作中でございます、完成したら献上させていただきます」

「んま!それは嬉しいわ、下の子が最近肌荒れに悩んでいたのよ!」

美肌の王妃様には不要かと躊躇ったけど、王女様がニキビで悩んでいるらしい。
王妃様にはアンチエイジング効果のものをお作りしようかしら。

レシピは頭にあっても微調整は必要だから製品化は牛歩になりがち、もっと早くと焦ってしまう。
でもお肌に合わなかったら大変だものね。

そうだ!
問診して個人だけの化粧品を作れば良い、手間がかかるからすべての人には対応できないけれど。
私が早速それを進言すると王妃様は食いついた。

「私だけの化粧品を作って貰えるなんて!素晴らしいわアリスちゃん!」
「ありすちゃん?」

テンションの上がった王妃様は身を乗り出して私を抱きしめてきた。

豊満なボディから濃い薔薇の香がしてきて頭がクラクラした。
すると侍従たちが慌てて私達を剥がしに躍起になる、王妃様にがっちりホールドされた私は気絶しそうに……。

ひぇぇ!こんな美魔女に迫られたら未知の扉が開きそう!

サロンが大騒ぎになり、何事かと扉外にいた護衛が雪崩れ込んで来た。
大事になってしまったわ!どうしよう!?

眩暈でグルグルしていた私の耳にイケボが響いてきたわ。なんて良い声!
「母上!お戯れはおやめください。侍従たちが困っていますよ!」

「なによもう、ディミー!美の親睦会に水を注さないでちょうだいな」

私は混乱する頭でディミーと呼ばれた男性に目を向けた。そこには王妃様によく似た面差しの美青年が立っていた。
遠目で拝見したことしかないが、その方はディミアン第二王子殿下だとわかったわ。

あぁ美形親子を見過ぎて目が潰れないか心配だ……。



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