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前編
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「お断りします」
僕のはっきりとした声がホールに響き渡った。
いつもなら騒がしいエントランスのホールが、今は静寂に包まれている。
そして周りの視線が、僕と、僕の目の前にいる人物に注がれているの事に気づいていた。
注目の的となっている目の前の人物は、動揺を隠せない様子で僕を見ている。
どうやら、僕に断られるなんて全く想像していなかたようだ。少し目が泳いでいるようで、震える声を必死に抑えながら、ようやく口を開いた。
「そっ…そうか…それは…残念だな…。まぁ、また機会があれば…」
最後は消え入るような声でそう言い残し、背を向けて速足でその場から立ち去って行った。
僕は「そんな機会ある訳がない」と心のセリフを相手の背中に投げかけながら、小さなため息をついた。するとそのタイミングで、静まり返っていたエントランスに、一斉に音が戻ってきた。
皆が、今見ていた光景に驚き話し始めている。そして一人の人物が、僕の傍に駆け足でやって来た。
「おいカイル。お前…命知らずにもほどがあるぞ…」
「別に次のダンスパーティーのパートナーを断ったって、死ぬわけじゃないだろ」
「いや…だって…あのルーンの誘いを断るって、お前…」
「一緒にダンスパーティーに行く方が後々面倒だろ。別に友人でもないのに。どうして僕を誘ったのか不思議なくらいだ」
「…っ…お前さぁ…」
「あ、次の授業に遅れそうだ。急ごう」
「…」
すでに気持ちを切り替えた僕は、教室に向かって歩き始めていた。
辺境の地で生まれた僕は、お世辞にも裕福とは言えず、名ばかり貴族であり、家族みんなでその日その日を一生懸命に生きていた。
領主という立場でありながら、人手が足りなければ領民と共に農作業を行い、狩りを行い、争いの仲裁を行い、とにかく毎日がめまぐるしく忙しかった。
けれど、ずっとそんな生活をしていたから、特に不満はなかったし、家族や領民との距離が近いのも普通の事だと思っていた。
そんなある日、両親が僕に、国の首都の学園へ通うように言ってきたのだ。それを聞いて、僕はとても驚いたし、ありえないとも思った。
わざわざ高い学費を払ってまで通う必要はないと思うし、家庭教師がついているから、最低限度の教養は身についていると思っていた。けれど、両親は勉強以外にも、貴族としてのつながりや、年の近い者たちと関わることを重要に思っていたようで、最後は僕が折れて学園に通う事となった。
学園に来ると、年の近い沢山の貴族たちと出会ったが、僕は元々辺境の地にいるため、上流貴族との交流もそれほど重要視していなかったし、周りも僕に興味を持っている者はいなかった。
何人かの友人を作っては、後は学費の元を取り戻すかのように勉学に励んでいた。
そんな平穏な毎日を過ごしていた僕が、先ほど、この国の三大貴族の一つである、ルーンにダンスパーティーのペアとして誘われたのである。
毎年学園主催で開催されるダンスパーティーは、基本男女のペアで参加するものだが、ペアが決まっていなければ、仲の良い友人と仮のペアで参加するのが決まりになっている。
仮のペア同士で居る方が、当日一人でいるよりも互いに声を掛けやすく、それにパートナーを交換し合ってダンスを踊ることも可能なのだ。
だから、仮のパートナーとしてルーンは僕を誘ったようだが…何故だ?相手がいない僕への同情のつもりだったのか?
ルーンは学園でいちにを争うほど知名度があるので、パートナーを見つけるのに困るはずがない。それに仮のパートナーを誘うとしても、僕は別にルーンと親しいわけではない。もし仮のパートナーとして参加したなら、ルーン目当ての大量のお誘いを、僕も一緒に受けなければいけなくなる。
正直そんな疲れる事はごめんだ。それに沢山の人の前で、僕がルーンとの繋がりがあるのかと見られてしまうだろう。それならば、多少の差であっても、事前に仮パートナーを断っていた方がいいのだと判断したわけなのだ。
よりにもよって、どうしてエントランスで声を掛けてきたのだろうか…。
まあ今後関わる事がないだろうと思っていると、ルーンの誘いを断ったその日から、僕の学園生活は一変してしまった。
僕のはっきりとした声がホールに響き渡った。
いつもなら騒がしいエントランスのホールが、今は静寂に包まれている。
そして周りの視線が、僕と、僕の目の前にいる人物に注がれているの事に気づいていた。
注目の的となっている目の前の人物は、動揺を隠せない様子で僕を見ている。
どうやら、僕に断られるなんて全く想像していなかたようだ。少し目が泳いでいるようで、震える声を必死に抑えながら、ようやく口を開いた。
「そっ…そうか…それは…残念だな…。まぁ、また機会があれば…」
最後は消え入るような声でそう言い残し、背を向けて速足でその場から立ち去って行った。
僕は「そんな機会ある訳がない」と心のセリフを相手の背中に投げかけながら、小さなため息をついた。するとそのタイミングで、静まり返っていたエントランスに、一斉に音が戻ってきた。
皆が、今見ていた光景に驚き話し始めている。そして一人の人物が、僕の傍に駆け足でやって来た。
「おいカイル。お前…命知らずにもほどがあるぞ…」
「別に次のダンスパーティーのパートナーを断ったって、死ぬわけじゃないだろ」
「いや…だって…あのルーンの誘いを断るって、お前…」
「一緒にダンスパーティーに行く方が後々面倒だろ。別に友人でもないのに。どうして僕を誘ったのか不思議なくらいだ」
「…っ…お前さぁ…」
「あ、次の授業に遅れそうだ。急ごう」
「…」
すでに気持ちを切り替えた僕は、教室に向かって歩き始めていた。
辺境の地で生まれた僕は、お世辞にも裕福とは言えず、名ばかり貴族であり、家族みんなでその日その日を一生懸命に生きていた。
領主という立場でありながら、人手が足りなければ領民と共に農作業を行い、狩りを行い、争いの仲裁を行い、とにかく毎日がめまぐるしく忙しかった。
けれど、ずっとそんな生活をしていたから、特に不満はなかったし、家族や領民との距離が近いのも普通の事だと思っていた。
そんなある日、両親が僕に、国の首都の学園へ通うように言ってきたのだ。それを聞いて、僕はとても驚いたし、ありえないとも思った。
わざわざ高い学費を払ってまで通う必要はないと思うし、家庭教師がついているから、最低限度の教養は身についていると思っていた。けれど、両親は勉強以外にも、貴族としてのつながりや、年の近い者たちと関わることを重要に思っていたようで、最後は僕が折れて学園に通う事となった。
学園に来ると、年の近い沢山の貴族たちと出会ったが、僕は元々辺境の地にいるため、上流貴族との交流もそれほど重要視していなかったし、周りも僕に興味を持っている者はいなかった。
何人かの友人を作っては、後は学費の元を取り戻すかのように勉学に励んでいた。
そんな平穏な毎日を過ごしていた僕が、先ほど、この国の三大貴族の一つである、ルーンにダンスパーティーのペアとして誘われたのである。
毎年学園主催で開催されるダンスパーティーは、基本男女のペアで参加するものだが、ペアが決まっていなければ、仲の良い友人と仮のペアで参加するのが決まりになっている。
仮のペア同士で居る方が、当日一人でいるよりも互いに声を掛けやすく、それにパートナーを交換し合ってダンスを踊ることも可能なのだ。
だから、仮のパートナーとしてルーンは僕を誘ったようだが…何故だ?相手がいない僕への同情のつもりだったのか?
ルーンは学園でいちにを争うほど知名度があるので、パートナーを見つけるのに困るはずがない。それに仮のパートナーを誘うとしても、僕は別にルーンと親しいわけではない。もし仮のパートナーとして参加したなら、ルーン目当ての大量のお誘いを、僕も一緒に受けなければいけなくなる。
正直そんな疲れる事はごめんだ。それに沢山の人の前で、僕がルーンとの繋がりがあるのかと見られてしまうだろう。それならば、多少の差であっても、事前に仮パートナーを断っていた方がいいのだと判断したわけなのだ。
よりにもよって、どうしてエントランスで声を掛けてきたのだろうか…。
まあ今後関わる事がないだろうと思っていると、ルーンの誘いを断ったその日から、僕の学園生活は一変してしまった。
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