学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ

文字の大きさ
2 / 12
前編

2

しおりを挟む
 ルーンとどういう繋がりがあるのか。翌日から、僕は話したことのないクラスメートや、違う学年の人に質問されるようになってしまった。
 僕はそのたびに、特に関りはありませんと言っていたが、相手は納得していないようで、それから根ほり葉ほり聞いてくる者もいた。
 正直うんざりしていたし、疲れてしまっていた。

 その日の授業が全て終わると、僕は逃げる様に学園の片隅にある園庭へと行き、そこで土いじりを始めた。
 学園に初めて来た時、学園を探索していたら見つけた場所だった。
 様々な花が、季節ごとに沢山植えられていて、その種類と手入れの素晴らしさに驚いていた。
 領地にいたころは、花が好きな母と共に、庭の手入れを手伝っていたので、この学園の庭園に興味を持ち、暇を見つけては何度か通うようになっていた。
 するとたまに見かける庭師の人と親しくなり、手伝いをしながら色々と話を聞いたり、種を分けてもらっていた。今では、ここに来て勝手に土をいじっていても、何も言われなくなったのだ。
 実際土をいじっていると、集中しているのか雑念が消え、あっという間に時間が過ぎてしまうほど楽しい。
 そうして今日も、しゃがみ込んで集中していると、僕の隣で一緒に雑草を抜き始める人物がいた。
「どうして…俺の誘いを断ったんだ?」
「? どうしてって…だってあなたに仮のパートナーなんて必要ないでしょう?」
「本命が居なければ必要だろう」
「あなたの仮のパートナーになったら、色々と面倒だと思ったので」
「なっ…面倒だと…?」
「あ、今抜いているそれ、雑草じゃないですよ」
「…っ」
 ルーンは間違って抜いてしまった草を握りしめていたが、その手が少し震えていた。僕は構わずに続ける。
 「それに、別に親しい仲でもないじゃないですか。昨日ルーン様に誘われたので、今日一日、知らない人にまで色々と質問されて大変でしたよ」
「…っ」
 ルーンは勢いよく僕へと体を向けた。
 僕もルーンに向かい合うと、ルーンの顔が真っ赤になっていた。
「ここでこうして…何度か…会っていただろう?」
 ルーンが感情を抑えた声で話している。僕は呆れて小さくため息をついた。
「何度かって…お見かけしたことはありましたけど、別にここで会話した記憶ないですよ?」
「っ、ここ以外でも、廊下ですれ違ったとき、挨拶していただろう!」
「いや、誰だってルーン様と目が合ったら会釈はしますよ」
「なっ…俺は一日に何度も、お前を見かけていたぞ!?」
「そうですか?私はあまりお見かけした記憶が無いのですが…」
 真っ赤で震えていたルーンが、段々と悲しそうな表情に変わっていった。
「お前は…こうして俺と話していることも、特別だと思わないのか?」
「ルーン様と会話する事は特別というのか…めずらしいっていう感覚ですかね?」
 そう僕が答えるや否や、ルーンは手に握っていた草を離し、その場から離れて行ってしまった。
 僕はため息をついて、ルーンが落としていった草を元に戻そうと、再び作業に集中し始めた。

 僕が部屋に戻ると、同室のマイクが今日一日どうだったのか聞いてきた。
 昨日の今日で、知らない生徒に話しかけられて大変だったこと、そして先ほど庭園でルーンとの会話を話したら、マイクは言葉を失って僕を見ていた。
「庭園で草むしり…おま…いや…まぁ、うん。もう関わらない方が、お互いのためだな…」
「元々そんなに関りが無いのに、どうもこうも無いよ」
「いや…カイル…あの三大貴族のルーンだぞ?お近づきになりたい奴が、今か今かと隙を狙っているのに、今のカイルは、ルーンと充分関りがあるんだよ。正直、ルーンに認知されている時点で、それはもうすごい事なんだぞ?」
「いくら相手がすごいと言われても、僕にとっては他の関わりの無い生徒の一人だし、顔と名前を知ってるだけだ。正直、庭園で出会うのが特別だとしても、庭師の人との方が僕にとっては親しい存在だよ」
「…それ、本人に言ってないだろうな?」
「別に言ってないけど、どちらと親しいかと聞かれたら、そう答えるよ」
「…」
 マイクはじっとカイルを見た。
「まぁ、卒業したら関わる事なんて無いだろうし、カイルの領地は特に辺境の地だからな。二度と会う事はないだろうしな。うん。もう関わらない方がいいよ。俺は卒業しても、カイルに会いに行くからな」
「ありがとう、僕ももちろん会いに行くよ。やっぱりマイクぐらいの仲じゃないと、ダンスパーティーでペアになるほどの友達だとは思わないな」
「…」
 マイクは何故か同情したような表情で、どこか宙を見ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【BL】無償の愛と愛を知らない僕。

ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。 それが嫌で、僕は家を飛び出した。 僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。 両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。 それから十数年後、僕は彼と再会した。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

悩ましき騎士団長のひとりごと

きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。 ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。 『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。 ムーンライト様にも掲載しております。 よろしくお願いします。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

処理中です...