学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ

文字の大きさ
12 / 12
後編

12

しおりを挟む
「父上、戻りました…ってカイル?どうしたんだ!?」
 カイルがやって来てから数か月が経ったある日。1人用事で外出していたルーンが家に戻り、父親の部屋を尋ねると、そこにはテーブルに向かい合って座っている父親と、ニコニコと上機嫌なカイルが、何故か体を左右に揺らしながら椅子に座っていた。
「カイル?顔が赤いぞ?どうして揺れている?何があった?」
 ルーンがカイルの傍まで来ると、カイルはルーンの顔を見てさらに笑顔になり、そのまま黙ってルーンに抱きついた。
「…っ、え?どうして…?カイル?っ、父上が目の前にいる…えっ?」
 混乱しているルーンと、ルーンにしがみついたまま離れないカイル。
 そんな二人の様子を見ながら、ルーンの父親が笑顔で答える。
「ルーン。以前カイルの領地の果実で果実酒を作っていただろ?ちょうど先ほど試作品が届いたんだが、少し度数がきつかったようだ。カイルに味見をしてもらったんだが、口当たりがよく少し飲み過ぎたようで…この通り出来上がってしまってね」
「酔っているんですか…?こら、カイル…しっかり…」
 体を離そうとするルーンに対抗するかのように、カイルはますます強くしがみつきながら言った。
「ルーン好きだよ。愛してる」
「…」
「好きだ。大好きだ。ほら、早くルーンも抱き返してよ」
 ルーンは真顔で固まり、テーブルに置いてある空の瓶を見た。そして、今まで見た事ないほどの真剣な眼差しを父親に向けた。
「…父上、その果実酒の在庫は?全部買い取ります」
「こらこら、そんな交渉の仕方では駄目だ。これからまだまだ学ばないといけないな」
「…失礼します」
 ルーンは抱きついているカイルを支えながら、自分たちの部屋へと急いで戻っていった。

「ふふふっ、ふふふっ」
 部屋に戻り、ベッドに寝かされても、カイルはずっとご機嫌で笑っている。
 ルーンが服を着替えてカイルの元へ行くと、カイルがベッドで寝ころんだまま両手を伸ばし、ルーンを抱き寄せた。
「ふふふっ、ルーン好きだよ」
「…普段はなかなか言わないくせに、酒に酔うと素直になるんだな?」
「素直…?ルーンだって素直じゃないじゃないか」
「俺が素直じゃないって?」
「だってさ、君って元々すごく強引だっただろ?ふふっ、初めて会った時なんてーーー」
「昔の事はいい。今は紳士的になっただろ?」
「う~ん…ふふふっ」
「おい」
「どうして紳士的に?」
「お前が…その方が好きなんだろ?強引だと、昔から逃げるじゃないか…」
「紳士的な優しいルーンが好きだよ。でも、強引なところも好きだし、ルーンの全部が大好きだ」
「…っ、言ったな?」
 ルーンはそう言いながら、カイルを強く抱きしめる。
 これ以上ないほど、心が満たされていくのを感じながらーーー。


 次の日、カイルは酷い頭痛で目が覚めた。
 体調が良くないカイルに対し、先に起きていたルーンは、先ほどから上機嫌でいる。
 そんなルーンを、カイルが横目で見る。
「…ルーン、何がそんなに嬉しいんだ?」
「ん?お前が俺の事を好き過ぎるからだな」
「…聞き間違いだろうか?」
「うん?お前は俺の事が全部大好きだし、俺がいなければ駄目だし、俺から離れることが出来ないしーーー」
「もういい、頭が痛い。ちょっと横になる」
「大丈夫か?水を持ってこようか?」
 心配しながらも、嬉しそうな様子でカイルの傍にやってくるルーン。
 そして横になっているカイルの前髪をゆっくりと撫でる。
「カイルは素直な俺が好きなんだろ?体調が悪いんだったら、今日は一日傍にいてやる。添い寝もしてやるし、食事も風呂も、全部俺が世話してやる」
 カイルは黙って、ルーンの嬉しそうな顔を見た。

 本当に、この人はどうしてーーー。

 今思った事を口に出したら、きっとルーンは、もっと調子に乗るだろう。
 仕方がないから、僕はぐっと堪えて、今思った言葉を飲み込む。
 そして小さくため息をつき、今飲み込んだ言葉の代わりに、笑顔ではっきりと答えた。

「お断りします」


【終】
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

みんと
2025.06.02 みんと

面白かったです!
当て馬とか存在してなくてモヤモヤせずに読めました!

2025.06.23 そらうみ

すいません!本当に感想頂いていたの今気がついてびっくりしてました!初めて頂いたコメントです!ありがとうございます!

当て馬は、私の技量が足りなくて書けてないのもありますが…みんとさんに楽しんで頂けて良かったです😭
本当に読んでくださって、ありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

【BL】無償の愛と愛を知らない僕。

ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。 それが嫌で、僕は家を飛び出した。 僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。 両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。 それから十数年後、僕は彼と再会した。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

悩ましき騎士団長のひとりごと

きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。 ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。 『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。 ムーンライト様にも掲載しております。 よろしくお願いします。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。