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後編
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「父上、戻りました…ってカイル?どうしたんだ!?」
カイルがやって来てから数か月が経ったある日。1人用事で外出していたルーンが家に戻り、父親の部屋を尋ねると、そこにはテーブルに向かい合って座っている父親と、ニコニコと上機嫌なカイルが、何故か体を左右に揺らしながら椅子に座っていた。
「カイル?顔が赤いぞ?どうして揺れている?何があった?」
ルーンがカイルの傍まで来ると、カイルはルーンの顔を見てさらに笑顔になり、そのまま黙ってルーンに抱きついた。
「…っ、え?どうして…?カイル?っ、父上が目の前にいる…えっ?」
混乱しているルーンと、ルーンにしがみついたまま離れないカイル。
そんな二人の様子を見ながら、ルーンの父親が笑顔で答える。
「ルーン。以前カイルの領地の果実で果実酒を作っていただろ?ちょうど先ほど試作品が届いたんだが、少し度数がきつかったようだ。カイルに味見をしてもらったんだが、口当たりがよく少し飲み過ぎたようで…この通り出来上がってしまってね」
「酔っているんですか…?こら、カイル…しっかり…」
体を離そうとするルーンに対抗するかのように、カイルはますます強くしがみつきながら言った。
「ルーン好きだよ。愛してる」
「…」
「好きだ。大好きだ。ほら、早くルーンも抱き返してよ」
ルーンは真顔で固まり、テーブルに置いてある空の瓶を見た。そして、今まで見た事ないほどの真剣な眼差しを父親に向けた。
「…父上、その果実酒の在庫は?全部買い取ります」
「こらこら、そんな交渉の仕方では駄目だ。これからまだまだ学ばないといけないな」
「…失礼します」
ルーンは抱きついているカイルを支えながら、自分たちの部屋へと急いで戻っていった。
「ふふふっ、ふふふっ」
部屋に戻り、ベッドに寝かされても、カイルはずっとご機嫌で笑っている。
ルーンが服を着替えてカイルの元へ行くと、カイルがベッドで寝ころんだまま両手を伸ばし、ルーンを抱き寄せた。
「ふふふっ、ルーン好きだよ」
「…普段はなかなか言わないくせに、酒に酔うと素直になるんだな?」
「素直…?ルーンだって素直じゃないじゃないか」
「俺が素直じゃないって?」
「だってさ、君って元々すごく強引だっただろ?ふふっ、初めて会った時なんてーーー」
「昔の事はいい。今は紳士的になっただろ?」
「う~ん…ふふふっ」
「おい」
「どうして紳士的に?」
「お前が…その方が好きなんだろ?強引だと、昔から逃げるじゃないか…」
「紳士的な優しいルーンが好きだよ。でも、強引なところも好きだし、ルーンの全部が大好きだ」
「…っ、言ったな?」
ルーンはそう言いながら、カイルを強く抱きしめる。
これ以上ないほど、心が満たされていくのを感じながらーーー。
次の日、カイルは酷い頭痛で目が覚めた。
体調が良くないカイルに対し、先に起きていたルーンは、先ほどから上機嫌でいる。
そんなルーンを、カイルが横目で見る。
「…ルーン、何がそんなに嬉しいんだ?」
「ん?お前が俺の事を好き過ぎるからだな」
「…聞き間違いだろうか?」
「うん?お前は俺の事が全部大好きだし、俺がいなければ駄目だし、俺から離れることが出来ないしーーー」
「もういい、頭が痛い。ちょっと横になる」
「大丈夫か?水を持ってこようか?」
心配しながらも、嬉しそうな様子でカイルの傍にやってくるルーン。
そして横になっているカイルの前髪をゆっくりと撫でる。
「カイルは素直な俺が好きなんだろ?体調が悪いんだったら、今日は一日傍にいてやる。添い寝もしてやるし、食事も風呂も、全部俺が世話してやる」
カイルは黙って、ルーンの嬉しそうな顔を見た。
本当に、この人はどうしてーーー。
今思った事を口に出したら、きっとルーンは、もっと調子に乗るだろう。
仕方がないから、僕はぐっと堪えて、今思った言葉を飲み込む。
そして小さくため息をつき、今飲み込んだ言葉の代わりに、笑顔ではっきりと答えた。
「お断りします」
【終】
カイルがやって来てから数か月が経ったある日。1人用事で外出していたルーンが家に戻り、父親の部屋を尋ねると、そこにはテーブルに向かい合って座っている父親と、ニコニコと上機嫌なカイルが、何故か体を左右に揺らしながら椅子に座っていた。
「カイル?顔が赤いぞ?どうして揺れている?何があった?」
ルーンがカイルの傍まで来ると、カイルはルーンの顔を見てさらに笑顔になり、そのまま黙ってルーンに抱きついた。
「…っ、え?どうして…?カイル?っ、父上が目の前にいる…えっ?」
混乱しているルーンと、ルーンにしがみついたまま離れないカイル。
そんな二人の様子を見ながら、ルーンの父親が笑顔で答える。
「ルーン。以前カイルの領地の果実で果実酒を作っていただろ?ちょうど先ほど試作品が届いたんだが、少し度数がきつかったようだ。カイルに味見をしてもらったんだが、口当たりがよく少し飲み過ぎたようで…この通り出来上がってしまってね」
「酔っているんですか…?こら、カイル…しっかり…」
体を離そうとするルーンに対抗するかのように、カイルはますます強くしがみつきながら言った。
「ルーン好きだよ。愛してる」
「…」
「好きだ。大好きだ。ほら、早くルーンも抱き返してよ」
ルーンは真顔で固まり、テーブルに置いてある空の瓶を見た。そして、今まで見た事ないほどの真剣な眼差しを父親に向けた。
「…父上、その果実酒の在庫は?全部買い取ります」
「こらこら、そんな交渉の仕方では駄目だ。これからまだまだ学ばないといけないな」
「…失礼します」
ルーンは抱きついているカイルを支えながら、自分たちの部屋へと急いで戻っていった。
「ふふふっ、ふふふっ」
部屋に戻り、ベッドに寝かされても、カイルはずっとご機嫌で笑っている。
ルーンが服を着替えてカイルの元へ行くと、カイルがベッドで寝ころんだまま両手を伸ばし、ルーンを抱き寄せた。
「ふふふっ、ルーン好きだよ」
「…普段はなかなか言わないくせに、酒に酔うと素直になるんだな?」
「素直…?ルーンだって素直じゃないじゃないか」
「俺が素直じゃないって?」
「だってさ、君って元々すごく強引だっただろ?ふふっ、初めて会った時なんてーーー」
「昔の事はいい。今は紳士的になっただろ?」
「う~ん…ふふふっ」
「おい」
「どうして紳士的に?」
「お前が…その方が好きなんだろ?強引だと、昔から逃げるじゃないか…」
「紳士的な優しいルーンが好きだよ。でも、強引なところも好きだし、ルーンの全部が大好きだ」
「…っ、言ったな?」
ルーンはそう言いながら、カイルを強く抱きしめる。
これ以上ないほど、心が満たされていくのを感じながらーーー。
次の日、カイルは酷い頭痛で目が覚めた。
体調が良くないカイルに対し、先に起きていたルーンは、先ほどから上機嫌でいる。
そんなルーンを、カイルが横目で見る。
「…ルーン、何がそんなに嬉しいんだ?」
「ん?お前が俺の事を好き過ぎるからだな」
「…聞き間違いだろうか?」
「うん?お前は俺の事が全部大好きだし、俺がいなければ駄目だし、俺から離れることが出来ないしーーー」
「もういい、頭が痛い。ちょっと横になる」
「大丈夫か?水を持ってこようか?」
心配しながらも、嬉しそうな様子でカイルの傍にやってくるルーン。
そして横になっているカイルの前髪をゆっくりと撫でる。
「カイルは素直な俺が好きなんだろ?体調が悪いんだったら、今日は一日傍にいてやる。添い寝もしてやるし、食事も風呂も、全部俺が世話してやる」
カイルは黙って、ルーンの嬉しそうな顔を見た。
本当に、この人はどうしてーーー。
今思った事を口に出したら、きっとルーンは、もっと調子に乗るだろう。
仕方がないから、僕はぐっと堪えて、今思った言葉を飲み込む。
そして小さくため息をつき、今飲み込んだ言葉の代わりに、笑顔ではっきりと答えた。
「お断りします」
【終】
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