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後編
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カイルがホワイト家にやって来て数日が経ち、ルーンの調子も日に日に良くなっていた。
カイルは毎日ルーンの様子を見に部屋を訪ねていて、今日もベッドに座っているルーンの傍で話をしていた。
「そういえばカイル、これからどうするんだ?俺の体調が良くなったからって、家に帰るだなんて言わないよな?」
「実は君の父上に、僕をホワイト家の一員として迎えたいと言われたんだ」
「…父上が?」
「僕は貴族としての位は高くないし、以前も縁談をお断りしてしまったのだけれど、それならばホワイト家の一員として色々働いてほしいと言われてね。以前、夏の休暇中に一緒に視察に行った時も、君の父上が、僕なら一族の役に立ってくれると思ってくれたらしい。それに…」
「…それに?」
「なんと、僕の領地から首都への道路整備を行うと言って下さったんだ。しかも費用は全額ホワイト家が負担して下さると!」
「…待てカイル、それはつまり、この家へやってくる見返りということか?」
「もちろん、君の父上はタダでそうしようと思ったわけではないよ。僕の領地で生産されている果実があるんだけれど、とても希少な物らしく、今後それを事業につなげていきたいと考えているそうだ。もしかしたら、僕の領地の特産物としての果実酒も出来るかもしれない。とにかく本格的に事業として進めるなら、道路整備は必要投資になる」
「…カイル、お前がここに来た理由って…」
「そういう事で、僕の家族とは話がついている。僕はこれから、ここで暮らしていくよ。これからやることも沢山あるし…忙しくなるな」
「…」
ルーンは何とも言えない表情でカイルを見ていた。
カイルは…俺の為にここにやって来た訳ではないのか?
「どうしたルーン?何だか泣きそうな顔して…もしかして、まだどこか体調が悪いんじゃないか?誰か呼んでこようか?」
ベッドのそばから離れようとしたカイルの腕を、ルーンが掴む。そしてそのままカイルを引き寄せて腰に抱きついた。
「…カイル、ここにやって来たのは…カイルの家のためか?」
「…9割ほど」
「っ、多いっ!せめて2割だろ!」
「嘘だよ。…君が倒れたと聞いて、君の父上が僕を呼んでくださって…僕はここで君の父上に会って、真っ先にお願いしたんだ」
「…何をお願いしたんだ?」
「これからも君に会わせて欲しいって…情けないけれど、それしか言えなかった。
もちろん呼んでくださったから、今回は会わせてくれるとは思ったんだけど…一度会ったら、次もまた絶対会いたくなる。もっと、これからも…君と付き合っていきたいと思ったんだ」
「そこは…俺を愛してるとか言ってくれても良かったんじゃないか?」
「そこで言える性格だったら…とっくに学園で言ってるよ」
ルーンは驚いてカイルを見上げる。カイルは顔を逸らしているが、耳まで真っ赤にしていた。
カイルは必死に顔を逸らしながら話しを続ける。
「君の父上には驚いたよ。僕がルーンにこれからも会いたいと言っただけで、先ほどの提案をしてくれたんだ。それに…今までの当主で、僕たちみたいな人はいたし、子供がいなかった夫婦もいたそうだ。そんな時は、一族の者の中から次の当主を選ぶから気にするなとまで言われて…ルーン、聞いてる?」
「カイル…学園に居た時も、俺の事が好きだったのか?」
「…」
「カイル…俺を見てくれ」
カイルは渋っていたが、ルーンはカイルを強く抱きしめて離そうとしない。
カイルは諦めてゆっくりとルーンを見たが、その表情は、恥ずかしさを我慢しようと必死になっている。
「…っ」
ルーンはその表情を見て、さらに強くカイルに抱きついた。
「痛いっ、ルーンもう元気じゃないか」
「…元気だったら、今ここでお前を押し倒してる」
「なっ!?」
「…カイル、俺の元に来てくれて…ありがとう」
「…うん」
カイルもゆっくりと手を回し、そっとルーンを抱き返した。
卒業の時、別れの際に感情を押し殺して抱き合ったのは違う。
互いに相手を大切に思い、相手からの溢れる思いを感じながら、強く優しく抱き合っていた。
カイルは毎日ルーンの様子を見に部屋を訪ねていて、今日もベッドに座っているルーンの傍で話をしていた。
「そういえばカイル、これからどうするんだ?俺の体調が良くなったからって、家に帰るだなんて言わないよな?」
「実は君の父上に、僕をホワイト家の一員として迎えたいと言われたんだ」
「…父上が?」
「僕は貴族としての位は高くないし、以前も縁談をお断りしてしまったのだけれど、それならばホワイト家の一員として色々働いてほしいと言われてね。以前、夏の休暇中に一緒に視察に行った時も、君の父上が、僕なら一族の役に立ってくれると思ってくれたらしい。それに…」
「…それに?」
「なんと、僕の領地から首都への道路整備を行うと言って下さったんだ。しかも費用は全額ホワイト家が負担して下さると!」
「…待てカイル、それはつまり、この家へやってくる見返りということか?」
「もちろん、君の父上はタダでそうしようと思ったわけではないよ。僕の領地で生産されている果実があるんだけれど、とても希少な物らしく、今後それを事業につなげていきたいと考えているそうだ。もしかしたら、僕の領地の特産物としての果実酒も出来るかもしれない。とにかく本格的に事業として進めるなら、道路整備は必要投資になる」
「…カイル、お前がここに来た理由って…」
「そういう事で、僕の家族とは話がついている。僕はこれから、ここで暮らしていくよ。これからやることも沢山あるし…忙しくなるな」
「…」
ルーンは何とも言えない表情でカイルを見ていた。
カイルは…俺の為にここにやって来た訳ではないのか?
「どうしたルーン?何だか泣きそうな顔して…もしかして、まだどこか体調が悪いんじゃないか?誰か呼んでこようか?」
ベッドのそばから離れようとしたカイルの腕を、ルーンが掴む。そしてそのままカイルを引き寄せて腰に抱きついた。
「…カイル、ここにやって来たのは…カイルの家のためか?」
「…9割ほど」
「っ、多いっ!せめて2割だろ!」
「嘘だよ。…君が倒れたと聞いて、君の父上が僕を呼んでくださって…僕はここで君の父上に会って、真っ先にお願いしたんだ」
「…何をお願いしたんだ?」
「これからも君に会わせて欲しいって…情けないけれど、それしか言えなかった。
もちろん呼んでくださったから、今回は会わせてくれるとは思ったんだけど…一度会ったら、次もまた絶対会いたくなる。もっと、これからも…君と付き合っていきたいと思ったんだ」
「そこは…俺を愛してるとか言ってくれても良かったんじゃないか?」
「そこで言える性格だったら…とっくに学園で言ってるよ」
ルーンは驚いてカイルを見上げる。カイルは顔を逸らしているが、耳まで真っ赤にしていた。
カイルは必死に顔を逸らしながら話しを続ける。
「君の父上には驚いたよ。僕がルーンにこれからも会いたいと言っただけで、先ほどの提案をしてくれたんだ。それに…今までの当主で、僕たちみたいな人はいたし、子供がいなかった夫婦もいたそうだ。そんな時は、一族の者の中から次の当主を選ぶから気にするなとまで言われて…ルーン、聞いてる?」
「カイル…学園に居た時も、俺の事が好きだったのか?」
「…」
「カイル…俺を見てくれ」
カイルは渋っていたが、ルーンはカイルを強く抱きしめて離そうとしない。
カイルは諦めてゆっくりとルーンを見たが、その表情は、恥ずかしさを我慢しようと必死になっている。
「…っ」
ルーンはその表情を見て、さらに強くカイルに抱きついた。
「痛いっ、ルーンもう元気じゃないか」
「…元気だったら、今ここでお前を押し倒してる」
「なっ!?」
「…カイル、俺の元に来てくれて…ありがとう」
「…うん」
カイルもゆっくりと手を回し、そっとルーンを抱き返した。
卒業の時、別れの際に感情を押し殺して抱き合ったのは違う。
互いに相手を大切に思い、相手からの溢れる思いを感じながら、強く優しく抱き合っていた。
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