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8.心の中の光
しおりを挟む――夜21時半。バイトが終わり、静寂に包まれている夜道を歩いていると、近所の公園のベンチに人影があった。
金髪と気付いて、目線が吸い寄せられる。
街灯に照らされている顔を見ると、刈谷くんと判明した。
こんな時間に、公園でなにやってるんだろう。
コンビニのレジ袋を揺らしたまま、彼のそばへ。
「刈谷くん、こんな時間になにしてるんですか?」
「お、ミナじゃん。もしかして、バイト帰り?」
彼は私と目が合うと、にこりと微笑んだ。
手にはスマホ。ゲームをしているように見える。
「そうですけど……。家に帰らないんですか?」
首を傾けて聞いた。
彼は目線を落として、小さくため息をつく。
「……居場所、ないし」
低く落ちた声。
足元でカサカサと枯葉が舞い、胸をざわつかせた。
「どういう意味ですか?」
「……いや、気にしないで。ゆっくりしたいだけだから」
街灯に照らされた彼の薄い笑顔が、私の瞳に映し出される。
「でも、もう遅い時間だし、そろそろ帰ったほうが……」
「男だし、平気。おまえこそ早く帰れよ」
「あ……うん。じゃあ、また明日」
キレが悪い返事のまま、その場を離れた。
でも、気になってしまい、少し先で足を止めた。
振り返ると、彼は再びスマホへ。
いつまで公園にいるつもりだろう。
帰宅して、夕食を済ませた。
食器を片付けている時に時計を見ると、22時10分。
刈谷くん、もう家に帰ったかな。
さっきは薄着だった。いまは少し肌寒いかもしれない。
それに、『居場所、ないし……』と言う言葉が、なぜか頭から離れない。
お風呂に入っている最中も、刈谷くんのことばかりが頭に浮かんでいる。
時計を見ると、23時過ぎ。
さすがにもう帰ったよね。
お風呂の湯気が、視界を曇らせる。
「心配……だよ……」
気付いたときには、上着を羽織って家を飛び出した。
彼の家の前に立つ。
通路に面している二部屋は、電気が消えていた。
まだ帰ってないのかな。
気づけば、無意識のうちに公園へ向かっていた。
小走りになっていることさえ、気付かずに。
刈谷くんは2時間前と同じ位置に座ったまま、スマホを眺めていた。
その姿は、心の中を映し出しているかのよう。
自分と重なって、視界が霞んだ。
「刈谷くん!」
名前を叫んで、彼の方に駆け寄った。
彼は気づくと、目を見開く。
「どうして戻ってきたの?」
正直、自分でもよくわからない。
けれど、放っておくことはできなかった。
「よくわからないけど、刈谷くんを一人にしちゃいけないような気がして……」
心の中の孤独と、刈谷くんの姿が一瞬重なった。
迎えに来てしまったのは、たぶん自分との戦いだ。
「ミナ……」
「こんなこと言って厚かましいですよね。でも、寂しそうに見えてしまったんです」
泣きそうになったから、彼に背中を向けた。
こんな情けない顔、見せたくない。
「……勝手に迎えに来てしまって、ごめんなさい」
さっきは帰ってって言われたのに。
迎えに来ちゃうなんて、迷惑……だよね。
すぐ脇の道に車が通り、ライトが私たちを照らす。
「厚木ってさ、強く生きてんだね」
掠れた声が届く。
私は首を振った。
「人に好き勝手言われっぱなしで、言い返す言葉も出てこない弱虫です」
だから、いつもひとりぼっち。
気持ちを伝えても届かないんじゃないかと思うだけで、無駄と決めつけ、言葉を飲み込んでしまう。
「でも、心配してる。ほぼ他人の俺とかさ」
刈谷くんは小さく息を吐いた。
私は首を振り、つばを飲み込んだ。
「刈谷くんは……他人じゃない」
自分でもびっくりするくらい、断言していた。
刈谷くんの瞳が揺れる。
「え」
「私の救世主です。だから、今度は私が手を差し伸べる番です」
刈谷くんがしてくれたほどのことは、できないかもしれない。
でも、できる範囲で恩返しがしたい。
辛いとき、彼がいつも力になってくれたから。
――あとで思った。
このときはもう、彼は心の中にいたのだと。
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