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14.閉ざされた扉の向こう
しおりを挟む――学校からの帰り道。家まであと5分ほど歩いたとき、刈谷くんが後ろから声をかけてきた。
夕日が二つの影を伸ばしていたそのとき、ブレザーのポケットに入れているスマホのバイブが鳴った。
取り出して見ると、LINEの通知欄にはママの名前が。
思わず笑顔が消える。
「ごめんなさい。いまから実家に寄らなきゃいけなくて……。実家、向こうだから」
立ち止まって指先を北へ向けると、刈谷くんも足を止め、右手を軽く上げた。
「そっか。じゃあ、また明日学校で」
「……うん、バイバイ」
薄い笑顔のまま彼に手を振る。
軽く背中を見送ってから、実家へ――。
玄関先で、ママから学校の書類を受け取る。
閉ざされた扉から目を離して家を離れると、刈谷くんが門の外に立っていた。
「どうして家に上がらないの?」
私はすかさず目線を落とす。
「……見てたんですね」
書類をぎゅっと握りしめる。
「スマホを見てたとき、顔色が悪かったから、つい気になって」
感情を隠したはずが、まさか見破られてしまうなんて。
「実家だろ? なのに、玄関先で帰るなんて」
彼の横をサッと通り抜けて、自宅の方へ向かった。
私だって、家に上がりたかった――でも、扉が先に閉まったから。
「私のことは気にしないでください」
「ちょっ、さっきの質問まだ答えてないよ」
彼は私の手首を掴んで、自分の方へ。
思わず心拍が上がる。
彼の鋭い眼差しは、私の目線を離さない。
「だって……私、きっとママに必要とされてない」
ママの口癖は、”お姉ちゃんだから”。
さっき受け取ったばかりの書類の端が、くしゃりと折れていた。
弟が背中に被さったまま、不器用な指先で自分の服を折り畳んでいたあの頃の感触と、ほぼ同じ――。
「どうしてそう思うの?」
「六人きょうだいなんです。なのに、邪魔だったんです……私だけが」
胸に手を当てたまま、声を震わせた。
乾いたような車の走行音が、心を逆撫でていく。
「おまえの気持ち、母親に言ったの?」
目線だけを上げて、彼を見つめた。
「言わないことが、自分を苦しめてるんじゃない? だから、クラスの奴らも――」
図星だった。
いままで避けて通ってきた道。
頑張って伝えたとしても、言い返されるのが怖かった。
「お助け券、辛いときに使わなきゃ意味がないよ」
しゅんと肩を落とす。
「なんでも相談して。いつでも話聞くし、力になるから」
彼はそう言うと、私の肩をポンっと叩いて、先を進んだ。
夕日を浴びている背中が、広くて、あたたかそうに見えた。
私の不安を受け止めてくれているように。
ポケットの中に眠る”お助け券”は、きっとこれからも味方でいてくれる。
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