キミに届く、一枚の勇気

伊咲 汐恩

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13.振り向かなかった背中

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 ――俺が転校して2週間くらい経った頃、元カノの紗穂さほが校門の前に立っていた。
 風にサワサワと揺れている草木の下で、落ち着いてきたはずの心はかき乱されていく。
 どうして紗穂が、学校へ――。

 ため息をついて、横を通り過ぎようと思った。
 彼女は俺の腕を掴んで、引き寄せる。

「刈谷くん! どうして電話に出てくれなかったの?」

 紗穂は、半年前まで付き合っていた。
 ”あいつ”からの執着LINEの隙間を縫うように、何度も電話をかけてくるように。
 俺にとってこの二つの通知は、見るたびに気持ちが追い込まれていく。

「このまえ、電話してくれたじゃない。そしたら、会いたくなった」

 ……電話? するわけがない。
 こっ酷く振ってきたくせに、いまさら『会いたくなった』なんて。
 眉間にシワを寄せ、彼女の手を解いて、再び歩き出した。

「知らね」
「嘘つかないで。電話してくれた証拠はあるんだよ」

 彼女は俺の背中に向かって叫んだ。
 電話なんて、かけた記憶がない。

「え」

 振り向くと、彼女はスマホ画面を見せつけた。
 着信履歴を見る。
 日時を確認したら、転校初日の夜だった。
 たしかあの日の夜は、体調不良でミナの家の前でぶっ倒れた。
 翌日ミナの家で世話になっていたことに気づいた。
 それ以外の記憶はないのに、証拠が残ってる。

「ごめん。電話をかけた記憶はない」
「そんなわけなっ」
「誤操作したのかも。もう、忘れて」

 小さくため息をついて、再び歩いた。
 紗穂を忘れるために、どれだけ胸を痛めてきたか。

 ザッ……ザッ……ザッ……。

 踏みしめた砂利の音が、別れを告げられたあの日を思い出させる。
 彼女は隣へついて、再び俺の腕を引いた。

「待って。まだ話があるの」
「俺はない」
「別れたこと、何度も後悔した。諦めようと思ったけど……できなかった」

 弱々しくトーンが落ちていく声。
 同情を引き出そうとでもしているんだろう。
 俺は、騙されない――。
 息を飲んで、再び彼女の目を見つめた。

「他に好きな人ができたから別れたいって言ったのは、紗穂だろ?」

 付き合ってるときから気持ちは素直に伝えてきたし、大切にした。
 なのに、”好きな人ができた”って……。

「本当にごめん。あのときのことは謝る。でも、刈谷くんが忘れられなかった」

 足を止め、拳を握った。
 あの日、別れる直前に名前を読んだとき、紗穂は一度も振り向かなかった。
 駅へと向かう背中に、俺は胸が苦しくなるばかり。
 それなのに、忘れられなかったって――。

「なに、それ。忘れたいとか、意味不明」
「そ……、だよね。でも、別れたことを後悔してる」

 彼女はクイッと顎を上げて、目をしっかり合わせた。

「お願い。今度こそ頑張るから。私たち、やり直そう」

 その言葉が、古傷をやんわりと撫でた。
 彼女が涙を流すところをもう二度と見たくなかった。
 温かい未来で心の傷を埋めてあげたくて、毎日隣へ。
 鉄の槍が降り注ぐ先が、俺に変わっても。
 でも、それを壊したは彼女のほう。

 いまは新生活が始まって、ようやく紗穂のことを思い出さなくなった。
 戻りたいというより、前を向きたい。
 あの日、口にした一杯のスープの味が、もう忘れられないから――。

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