キミに届く、一枚の勇気

伊咲 汐恩

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20.破れた写真、置き去りの心

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 ――ある日、俺は学校から帰宅して玄関扉を開けた。
 風華が私服姿で玄関に駆け寄ってくる。

「お兄ちゃん、帰りが遅かったね。寄り道してたの?」

 わくわくとしている目。まるで、生まれたての子犬のよう。
 俺は横を抜け、部屋に向かった。
 まともなプライベートなんて、存在しない。

 ミナに『家族と幸せに暮らしている人になんて、私の気持ちがわかるはずない』と。
 でも、俺自身も、幸せとはほど遠い毎日――。
 深いため息をついて、部屋の扉を開けた。
 足元を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
 元カノ紗穂とのツーショット写真が破かれて、散らばっている。

「……また、部屋を勝手にあさったの?」

 紗穂との思い出の品は、引っ越し前にゴミ箱の中で発見した。
 そのあと、写真は隠しておいた――いつでも見返せるように。
 だが、このザマだ。
 しゃがんで、破れた写真を一つ一つ拾っていく。
 あの日の思い出を、一つ一つ振り返りながら。

「だって、そんな女の写真なんて、もう要らないじゃない」

 ”そんな女”……。
 紗穂が恋人だった頃は、少なくとも俺の中で一番大切な人だった。
 眉間にシワを寄せ、写真をクシャリと握りしめた。

「いい加減にしろよ」

 拳を震わせていると、風華は腕にしがみついてきた。

「忘れたの? あの人は簡単にお兄ちゃんを捨てたんだよ」

 反省の色など見せずに、俺の耳元で淡々と呟く。
 彼女と別れたことに、どれだけ胸を痛めたか知るはずもなく。
 
「……っ」
「過去の恋愛に縛られていても幸せになれないよ? 風華なら、一生お兄ちゃんを幸せにする!」

 俺は風華の手をほどいた。
 左手首の傷の感触が、指先から伝わった。
 胸に重りがのしかかったように、苦しくなる。

 リリリン……、リリリン……。

 このタイミングで、風華の部屋で電話が鳴った。
 窮屈な気持ちを解いてくれるかのように。

「電話」
「えっ」
「おまえの部屋で鳴ってる。出なくていいの?」

 聞くと、風華はううんと首を振る。

「……いい。お兄ちゃんの方が大事」

 自分の用事さえ後回しにする。
 今日だけじゃない。昨日も、おとといも……。
 俺は風華の背中に手を回して、部屋から追い出した。

「もう二度と俺のことを干渉しないで」

 バタンと扉を閉め、床に滑り落ちた。
 部屋の冷たい香りに包まれたまま、両手で頭を抱える。

 親の再婚には反対していた――いや、最初は賛成だった。
 半年前、”妹になる人”として親に紹介された。
 そのとき、全身の血の気が引いた。
 その一方で、兄妹になれば、流れが変わると思っていた。

 そんな甘い考えなど通用するはずもなく、今日に至る。
 命の恩人として、終わるはずだったのに――。

 こんなときは、ミナのコンソメスープが飲みたい。
 LINEを送信してすぐ既読になったけど、返事が来ない。
 きっと、本心に触れてはいけなかったのだろう。

 部屋で小さく響く秒針音が、心臓の音と重なり合った。

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