身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち

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29 ボーナスタイム

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 (すき?好きって……?)

 カイユーから向けられているのはあくまで友情で、それすら最近は薄れてきているものだと思っていた。でも、今キスされた。
 ヤマトはおもわず自分の唇に触れた。自分のカサついた指が先ほどの感触を上書きしてしまった気がしてパッと離した。挙動不審なヤマトを見て、カイユーが謝罪する。

「ごめん。ヤマトは恋愛が本当にダメって分かっていたのに、こんなことして」

 カイユーが本当に申し訳なさそうに言うので、ヤマトは何か言わなければと自分の気持ちはそっちのけで頭を回転させる。

「えっと、殿下は、勘違いしてるんですよ。この年頃特有の友達に対する独占欲とか、あ、この見た目のせいでそんな気がしてしまっているだけで……」

 ヤマトは初対面でなんの気持ちもなくてもドキッとしてしまうようなとてつもなく良い容貌をしている。だから、思春期にすぐ近くにいては勘違いすることもあるだろう。
 しかし、ヤマトは話している途中で自分が口にした言葉に、なぜか自分自身が傷ついていることに気付いて口を閉じる。

(殿下の気持ちは、きっと勘違いだ。でも、……勘違いだったら、嫌だってオレは思ってる……?それって)

 ここ最近、無意識に目を逸らし続けていた感情と向き合う時が来てしまった。
 カイユーの唇が己のものに擦れた時、ヤマトは喜んでいる自分がいるのは確かだったのだ。キスされて、嬉しい、それはつまり、

(オレって、殿下のこと好き、なのか)

 ヤマトはいつも自分の気持ちが高まり切ってから自覚する。苦手な社交を頑張ろうとしたのも、カイユーに傷付いて欲しくないと強く思っていたのも、恋をしていたからだ。きっと、ずっと前からカイユーのことが好きだった。
 じわじわとヤマトが自身の恋心を認めようとしている間にも、時間は流れる。自分の思考に囚われているヤマトは、目の前にいるカイユーがどんな顔をしているかも目に入っていなかった。

「受け入れられないだろうとは思っていた。でもヤマトは、俺の気持ちを認めることすらしてくれないんだね……」

 ヤマトはカイユーの言葉にハッとした。
 カイユーの気持ちはやはり勘違いではないかと疑っている。いやでも、勘違いだったら悲しい。
 カイユーが本当にヤマトを想っているのだとしたら、その気持ちに応えたら恋人になれる。
 だけど、恋人になったヤマトが死んでしまったら……、友達でも心の傷になるだろうと心配していたのに……
 様々な思考の中で混乱したヤマトは、おそらくこの時一番言ってはいけなかっただろう言葉が出てしまった。

「もし、殿下が王位を目指してくれるなら、そうしたら……」

 ヤマトが言い切る前にカイユーはこの世の終わりのような顔をした。ヤマトは自分が最低なことを言ったとすぐに気付いた。
 きっとカイユーは、ヤマトが彼が王になるなら交際するというような意味に受け取っただろう。
 実際は『そうすればカイユーと一緒に生きていける』という気持ちが先走って出てしまった言葉だった。しかし、それにしても最低だ。ヤマトは自分がカイユーと一緒に暮らす未来を掴みたいがために、彼に死ぬほど嫌がっている選択を迫ろうとしてしまったのだ。

「あ……えっと、ごめんなさい……。本当に。今のは、その、冗談です。ちがう、その」

 カイユーの勘違いを正したところで結局は酷いことに変わりがない。なんとか誤魔化そうと口を開くが言葉を一音発するごとに、カイユーとの距離が一歩遠くなっているようだった。カイユーは「そう……」とだけ呟いてヤマトに背を向けた。
 口に出してしまった言葉は、取り消すことができない。
 ヤマトはいつもこうだ。自分の気持ちに気づくのも遅ければ、口に出してからその言葉の加害性に気付いて後悔する。





「思ったよりも影響が出てたね……」
「へ?」

 ミヤツキの呟きにヤマトは間抜けな声を返してしまった。

「もーしっかりしてよ」

 呆れた調子のミヤツキに、ヤマトは何も言えない。

「行きの道中は馬車酔いかなって思って放っておいたけど領地についても変だし。じゃあ領地の家族と気まずい関係で気が重いのかと思ってたらそうでもなさそうだし。もう帰りなのにまだポヤポヤしてんの?」

 ふとした瞬間に、カイユーのことを思い出して思考がグルグルと回ってしまうのだ。領地までの道中も領地にいる間も、時間が少しでもあるとただ考えこんでしまっていた。

「すみません。領民から聞いた……凶暴化した獣や、体調不良者の話ですよね」

 桜花子爵領に着いたら、ちょうど祭りの時期だったので顔を出さないわけにもいかず参加した。
 ちなみに、たいていの領地の貴族の祖先は、夜狩りたちが到着するまで死ぬ思いでその土地を守り続けた人たちなのだそうだ。それで危険手当として領地の税収を手に入れる権利を得ていたそうだ。そんな訳で、どの領地でも一大イベントである夏の祭りの起源は夜喰魔への恐れを慰めるためだったらしい。

「そうそう。思ったより宵闇瘴気の影響が出てるなって」

 領民たちに話を聞くと、夜喰魔化した獣や宵闇瘴気の影響が出たのではと思われる話が出ていた。

 (ゲーム決まっていた未来よりもイナゲナの影響が早く出てる気がする。これもまた、オレというイレギュラーがいるからかも……)

 覚悟していたことだが、自分のせいで見知らぬ誰かが傷付いたのかもしれないと思うと心が痛い。ヤマトはいつも誰かを傷付けてばかりだ。

「それで、何をそんなに悩んでるの?死ぬのが怖くなった?」
「……ほっといてください」

 ヤマトはずっと、死ぬのは怖くなかった。現代日本で生きていた時に死を意識したことがなかったが、普通に死ぬことへの恐怖はあったと思う。やはり、一度死んで転生したという異常な体験のせいなのかもしれない。
 それよりもヤマトは人間関係が怖かった。特に、恋愛が絡むものだ。ヤマトも自分でうまく説明できないが、恋愛は死ぬ事よりも怖いものだった。前世でのトラウマによってヤマトのなかで恋とは誰かを傷付けて、傷付けられるものの代名詞になってしまっていたのかもしれない。
 
 (結局は殿下に恋して、そして殿下を傷つけてるんだから、オレって本当にダメだな)


「君には感謝してるんだよ」

 またもや自分の思考に陥っていたヤマトは、ミヤツキの言葉にハッと意識を戻す。

「何にですか?」
「封印の礎になってくれること」

 ミヤツキの予想では、イナゲナは宵闇瘴気に染まって理性は残っていない。それが封印の礎になっているのはリスクが高すぎる。しかも、カイユーの影響で既に封印は緩くなっているのだから。
 ミヤツキにとっては、このタイミングでヤマトがイナゲナの代わりに封印の礎になってくれるのはありがたいことらしい。

「だからさ、未練持ちながら封印されてたら嫌じゃん。なんか思い残すことがある人が封印の礎になってたら、祟られそうで怖いでしょ。悔いなく封印されて欲しいっていうかぁ」

 割と酷めのことを言われているのだが、ノリの軽い女子高生みたいな口調で言われるとヤマトは呆れが勝った。

「悩んでるのは、どうせカイユー殿下のことでしょ?」
「……」
「言う気はないってことね」

 ミヤツキは軽いテンションのまま核心をついてくる。しかし、ヤマトが言う気がないと察したら話題を変えた。
 同じことをされてもカイユーからは気遣いを感じるのに、ミヤツキにやられると自分勝手な印象を受けるので不思議だ。

「あ、そういえば、初代王と初代星読みとイナゲナは三角関係だったんだよ」
「え、そうなんですか」

 あまりに突拍子もない話題の転換に意表をつかれたヤマトだったが、内容がキャッチーで普通に興味を惹かれてしまった。

「イナゲナも初代王が好きだったみたいだよ」

 (え、ちょっと待て。初代王は男だし、初代星読みも男だし。あれ、初代星読みは初代王が好きって言ってた気がする。あ、イナゲナは女性の可能性も……)

 予想外の三角関係に、想像上の三人の姿が脳裏で錯綜する。ヤマトが何を考えているのか察したらしきミヤツキにニヤニヤしながら否定される。

「ちなみに、イナゲナも男。男三人で何してんだって感じだよね」

 星読みは笑い話のような口調で喋っているわりに、目に浮かぶ感情は楽しそうに見えなかった。遠くにある何かを見るようだった。

「初代王が死ぬ時に思い出したのは二人のうちどっちだったのかな」

 イナゲナは初代王を助けるために自分を犠牲にして、初代星読みは初代王が幸せになる道を作り王都を離れて一緒に生きることはなかった。初代王は二人とは違う女性と結ばれて子供を作っている。
 問いかけたくせにヤマトが何らかの答えを出す前に、ミヤツキがあっさりと自分の考えを話し出す。

「いや、どっちでもない可能性の方が高いか……。じゃあ僕は、二人とも忘れられてる方に賭けるね。妃や子供たちと過ごした時間の方が長いんだから。いくら恩があるからって死ぬ瞬間に若い時期に数年関わったくらいの人たちのことは思い出さないよ」

 (それは、そうだろうけど……)

「……何が目的でそんなこと言ってるんですか?」

 ヤマトはカイユーを助けるために封印の礎になろうとしている。ミヤツキの今の話はそれを思い止まらせようとしているように聞こえる。

「別にー。あ、ちなみに初代たちとイナゲナの三角関係は、僕の妄想ダヨー」
「は……?」

 幼少期にゲームで無駄足を踏まされた時のことがフラッシュバックしてイラッとした。ミヤツキはもう話は終わったとばかりに明後日の方を向いている。

 (結局何が言いたかったんだ……)

 ミヤツキが何を言いたかったか分からない。分からないが、最大限好意的に受け止めると、そんなに深刻に考えるなというメッセージなのだろうか。
 たとえ、自分のために誰かが傷付いてもいつか傷は癒える。初代王は、その後女性と結婚して幸せな家庭を築いた。
 ミヤツキなりに、ヤマトを励ましてくれたのかもしれない。

 (いつか、傷も癒えるなら、それならオレはどうしたいだろう)
 
 ヤマトはまだ迷っているが、少しだけ道が見えた気がした。それから王都までの道、ミヤツキがちょっかいをかけてくることもなかったのでヤマトはじっくりと時間をかけて考えた。






「すみません散らかってて」
「いや、綺麗に整理されてるよ」

 王都についたヤマトは自室にカイユーを呼んだ。二人きりで邪魔が入らない場所で話をしたかった。
 
「あ、これって」
「え……あ、すみません。綺麗だったからつい」

 カイユーが目を止めたのがお菓子の空き箱で、ヤマトは貧乏臭さに恥ずかしくなった。カイユーが誕生日プレゼントに茶会だけでは申し訳ないからとくれたお菓子の箱がおしゃれで、小物入れにしていたのだ。これから話すことに頭がいっぱいで頭が回っていなかった。
 羞恥に頬を染めるヤマトを見て、カイユーがもどかしそうな顔をした。

「ヤマト、ダメだよ。君のことを好きな男と二人っきりになったら」

(殿下はまだ、オレのこと好きなんだ)

 正直、カイユーの地雷を思いっきり踏み抜いてしまっていたので、もうヤマトに対する好意が吹き飛んでいる可能性もあると思っていた。
 それならそれで、ヤマトは悲しいがカイユーにとっては良いことかとも思っていた。だが、そうでないのだとしたらやはりこれからの話が必要だ。

「今日お呼びだてしたのは、その件についてなんです」

 ヤマトは自分に甘すぎるのではないかと、この提案をするのをとても悩んだ。
 だが、ヤマトは最近自覚したが、自分の気持ちにかなり鈍感なタイプだ。自分の気持ちを抑え過ぎては、大丈夫と思っていても土壇場で爆発するかもしれない。ミヤツキの冗談ではないが、本当に祟ってしまうかもしれない。
 だから、悔いが残らないようにヤマトは自分にほんの少しだけご褒美の時間をあげようと思った。

「その、……期間限定の恋人、ってどうですか」



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