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同じて和せず-6
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教室の窓際最後列。西日の差し込むその席に、机の上で顔を伏せている生徒がいた。
柔らかそうな髪が、光に透けてライトブラウンに染まっている。呼吸に合わせて上下する肩の速度は極めてゆったりとしていて、彼が眠っているのだろうことが察せられた。
室内に入るべきか否か。先輩の教室だし中にいる人物の知り合いでもない。迷いや戸惑いはあったが、あそこにいるのが皇である可能性がある以上、取れる選択は決まっていた。
静かに、なるべく音を立てないように教室内へ足を踏み入れる。机にぶつからないようにするよりも、大きな足音が立たないようにすることの方が難しい。この学校はなぜ室内履きをサンダルにしたのだろうか。
必要以上に神経をすり減らしながら、ゆっくり近づいていく。ここで物音を立てて、全く関係ない見ず知らずの先輩を起こしてしまった時の気まずさを考えると、慎重にならざるを得ない。
ようやく顔が見える距離まで近づいて、ほっと息を吐き出した。
顔の半分ほどしか見えていないし直接相対したこともないのだが、それでも彼が自分の探し人だろうということはわかる。鼻根から綺麗に通った鼻筋や幅広の目、長い手足に均整の取れた体つき。そういう外見的な特徴だけではない。存在感、風格。スピリチュアル系には詳しくないので表現が合っているのかわからないが、これがオーラというものか。
声をかけることも忘れてぼんやりとその姿を見つめる。遠目に見ていた際にはあまり感じなかったのに、近くで見るとここまで違うのかと。いや、むしろ遠目で見たことしかなくても記憶に残るくらいだから、これほどの存在感を持って然るべきなのかもしれない。とにかく、生まれて初めて感じるその力に、ただ圧倒されていた。
「一体何の用だ」
パチリと、閉じていた瞼が開く。薄い唇から体躯に見合った低音がこぼれ落ち、それが耳に入ってきてからようやく金縛りが解けたように体が動き出す。
「す、すんません。えーっと……皇先輩、ですよね?」
「知らずにガンつけてたのか」
「それは、あの。マジで申し訳ないというか……起きてたんすね……」
体を起こした皇はこちらを一瞥して、ふんと鼻を鳴らす。
「ご丁寧にノックをされたからな。返事もないのに入ってきたようだが」
「……すみません」
「で? 用件は? 寝ている俺を睨みつけるためだけに来たのか」
「違います! オレ、新生徒会役員の真柴です! 今日の集まりに来てなかったんで、探してこいって言われて……」
ぶんぶん両手を振って否定するオレをちらりとも見ず「ああ、そうか」と小さく呟くと、スラックスのポケットからスマホを取り出してどこかへかけ始めた。
皇が電話口の相手と話を始めたので、数歩後退る。特別大きな声で話しているわけではないし、流れを考えれば相手は生徒会の誰かである可能性が高いだろう。それでも盗み聞きのような形になるのは些か居心地が悪い。極力会話から意識をそらして窓の外を眺めていると「おい」と声がかかった。
「お前に代われって」
言いながら、皇は手に持った端末を上下に振る。それに慌てて駆け寄って、両手で慎重に受け取ると受話口を耳に当てた。
「はい、真柴です」
『おう。無事見つかったみたいだな』
「教室の方にいたので」
電話の相手は永瀬だ。『ありがとな』と言う声には若干の疲れが見える。向こうも向こうで大変なのかもしれない。
『役職は今決まったんだけど、聞いてたか?』
「え、そうなんですか? あんまり聞いちゃいけないと思って、全然……」
『いや、気にするな。その判断自体はすごくいいことだと思うし』
カラッと屈託なく笑う永瀬の姿が目に浮かぶ。
『このまま伝えようか? 明日全員集合した時でもいいけど』
「今聞いてもいいっすか?」
『了解。ちょっと待ってな』
周りの役員に状況を伝えているのが遠くで聞こえる。このまま向こうと同時に話をするのだろう。
柔らかそうな髪が、光に透けてライトブラウンに染まっている。呼吸に合わせて上下する肩の速度は極めてゆったりとしていて、彼が眠っているのだろうことが察せられた。
室内に入るべきか否か。先輩の教室だし中にいる人物の知り合いでもない。迷いや戸惑いはあったが、あそこにいるのが皇である可能性がある以上、取れる選択は決まっていた。
静かに、なるべく音を立てないように教室内へ足を踏み入れる。机にぶつからないようにするよりも、大きな足音が立たないようにすることの方が難しい。この学校はなぜ室内履きをサンダルにしたのだろうか。
必要以上に神経をすり減らしながら、ゆっくり近づいていく。ここで物音を立てて、全く関係ない見ず知らずの先輩を起こしてしまった時の気まずさを考えると、慎重にならざるを得ない。
ようやく顔が見える距離まで近づいて、ほっと息を吐き出した。
顔の半分ほどしか見えていないし直接相対したこともないのだが、それでも彼が自分の探し人だろうということはわかる。鼻根から綺麗に通った鼻筋や幅広の目、長い手足に均整の取れた体つき。そういう外見的な特徴だけではない。存在感、風格。スピリチュアル系には詳しくないので表現が合っているのかわからないが、これがオーラというものか。
声をかけることも忘れてぼんやりとその姿を見つめる。遠目に見ていた際にはあまり感じなかったのに、近くで見るとここまで違うのかと。いや、むしろ遠目で見たことしかなくても記憶に残るくらいだから、これほどの存在感を持って然るべきなのかもしれない。とにかく、生まれて初めて感じるその力に、ただ圧倒されていた。
「一体何の用だ」
パチリと、閉じていた瞼が開く。薄い唇から体躯に見合った低音がこぼれ落ち、それが耳に入ってきてからようやく金縛りが解けたように体が動き出す。
「す、すんません。えーっと……皇先輩、ですよね?」
「知らずにガンつけてたのか」
「それは、あの。マジで申し訳ないというか……起きてたんすね……」
体を起こした皇はこちらを一瞥して、ふんと鼻を鳴らす。
「ご丁寧にノックをされたからな。返事もないのに入ってきたようだが」
「……すみません」
「で? 用件は? 寝ている俺を睨みつけるためだけに来たのか」
「違います! オレ、新生徒会役員の真柴です! 今日の集まりに来てなかったんで、探してこいって言われて……」
ぶんぶん両手を振って否定するオレをちらりとも見ず「ああ、そうか」と小さく呟くと、スラックスのポケットからスマホを取り出してどこかへかけ始めた。
皇が電話口の相手と話を始めたので、数歩後退る。特別大きな声で話しているわけではないし、流れを考えれば相手は生徒会の誰かである可能性が高いだろう。それでも盗み聞きのような形になるのは些か居心地が悪い。極力会話から意識をそらして窓の外を眺めていると「おい」と声がかかった。
「お前に代われって」
言いながら、皇は手に持った端末を上下に振る。それに慌てて駆け寄って、両手で慎重に受け取ると受話口を耳に当てた。
「はい、真柴です」
『おう。無事見つかったみたいだな』
「教室の方にいたので」
電話の相手は永瀬だ。『ありがとな』と言う声には若干の疲れが見える。向こうも向こうで大変なのかもしれない。
『役職は今決まったんだけど、聞いてたか?』
「え、そうなんですか? あんまり聞いちゃいけないと思って、全然……」
『いや、気にするな。その判断自体はすごくいいことだと思うし』
カラッと屈託なく笑う永瀬の姿が目に浮かぶ。
『このまま伝えようか? 明日全員集合した時でもいいけど』
「今聞いてもいいっすか?」
『了解。ちょっと待ってな』
周りの役員に状況を伝えているのが遠くで聞こえる。このまま向こうと同時に話をするのだろう。
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