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一村雨の雨宿り-1
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————現在
着々と近づく顔合わせの日。多少の緊張はしつつも不安などはあまり感じていなかった。ちゃんとこなせるかなんてやってみないと分からないし、そもそも初めてのことを最初から上手くやれるなんて思っていない。考えているのは挨拶のイメージトレーニングくらいだ。なにをするにも初対面は大事だし。
当の本人はこんな感じだが周りはそうでもないようで、クラスメイトにはことあるごとに頑張れよと肩を叩かれ、優には興奮した様子で生徒会について語られ、湊には心配の目を向けられている。そういう対応をされると逆に怖いというか、やはり生徒会はやばい組織なのではと疑ってしまうのだが。学校では終始そんな調子でなんとなく息が詰まる。
そんなわけで、普段あまり外出しないオレにしては珍しく二月最後の休日は連日街に下りてきていた。
都会とは比ぶべくもないが、麓の街には商店や飲食店、少し足を延ばせばショッピングモールもあるので、ちょっとした買い物や気晴らしに喫茶店に行くくらいなら、わざわざ電車で遠出する必要もない。
特に目的もなく、見慣れた街並みをふらふら歩く。一人で街を歩くのは新鮮だった。誰かと一緒に来る時は大抵行き先が決まっていて、たまに知らない店を覗くこともあるけれど、ゆっくり景色を眺めるのはそれこそ入学してすぐの一、二ヶ月ぶりだ。
こういう時でないとなかなかできないし、どうせなら行ったことのない場所に行ってみるのもいいかもしれない。
ふと思い立って、商店街の細い路地へ入っていく。
まっすぐ伸びていた大通りとは打って変わって、十字路や三叉路が多い道の脇には民家が並んでいる。しばらくはぽつぽつあった商店も、先に進むほどその数を減らしていく。五分も歩けば住宅街だ。迷わないうちに戻らなければと思いながら歩いていた時、生垣の陰から小さな塊が飛び出してきた。
「わ!」
真横から飛んできたそれをよろめきつつも受け止める。驚いた声を上げたのは、頭ひとつ分ほど小さな子供だった。小学校高学年から中学生くらいだろうか。可愛らしい顔をした男の子だ。
「っと……大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい……っ」
「いや。痛いところは?」
「僕は全然……!」
興奮気味にぶんぶん首を振る少年は、見たところどこかを痛めている様子はない。
「ならよかった。こういう見晴らし悪いところは気をつけてな」
何も考えずぽんと頭に手を置いてから、しまった、と思った。無遠慮に触れるだけでもまずいのに、子供がヤンキーに絡まれているように見えてもおかしくない。
勢いよく手を離して周囲を見回す。視界に映る範囲に人影は見えず、安堵の息をついた。
気をつけて歩けよと、軽く注意をしようとした言葉は素っ頓狂な音に取って代わった。離したはずの手は、少年の両手に握りしめられている。
「あの、お兄さんはこの辺の人ですか?」
「へ?」
「僕、蘭……兄と一緒にいたんですけど、気づいたらいなくなってて……」
大きな目がじわりと潤む。走っていたのもはぐれた兄を探すためだったのかもしれない。この辺りの地理に詳しいとはとても言えないが、放っておくことはできなかった。包まれた右手を握り返して少しでも安心させようと笑顔を浮かべる。
「じゃあオレも一緒に探すよ。最後に見たのはどこか覚えてるか?」
「えっと……多分、商店街のパン屋さん」
「本屋の隣の?」
こくりと頷いたのを見て少しばかり気が楽になる。ついさっき路地に入ろうと曲がってきたところだ。
「とりあえず、そこに戻るか。お兄さんも探してるかもしれないし」
「はい……」
涙を堪える少年の手を引いて、来た道を戻ることにした。
着々と近づく顔合わせの日。多少の緊張はしつつも不安などはあまり感じていなかった。ちゃんとこなせるかなんてやってみないと分からないし、そもそも初めてのことを最初から上手くやれるなんて思っていない。考えているのは挨拶のイメージトレーニングくらいだ。なにをするにも初対面は大事だし。
当の本人はこんな感じだが周りはそうでもないようで、クラスメイトにはことあるごとに頑張れよと肩を叩かれ、優には興奮した様子で生徒会について語られ、湊には心配の目を向けられている。そういう対応をされると逆に怖いというか、やはり生徒会はやばい組織なのではと疑ってしまうのだが。学校では終始そんな調子でなんとなく息が詰まる。
そんなわけで、普段あまり外出しないオレにしては珍しく二月最後の休日は連日街に下りてきていた。
都会とは比ぶべくもないが、麓の街には商店や飲食店、少し足を延ばせばショッピングモールもあるので、ちょっとした買い物や気晴らしに喫茶店に行くくらいなら、わざわざ電車で遠出する必要もない。
特に目的もなく、見慣れた街並みをふらふら歩く。一人で街を歩くのは新鮮だった。誰かと一緒に来る時は大抵行き先が決まっていて、たまに知らない店を覗くこともあるけれど、ゆっくり景色を眺めるのはそれこそ入学してすぐの一、二ヶ月ぶりだ。
こういう時でないとなかなかできないし、どうせなら行ったことのない場所に行ってみるのもいいかもしれない。
ふと思い立って、商店街の細い路地へ入っていく。
まっすぐ伸びていた大通りとは打って変わって、十字路や三叉路が多い道の脇には民家が並んでいる。しばらくはぽつぽつあった商店も、先に進むほどその数を減らしていく。五分も歩けば住宅街だ。迷わないうちに戻らなければと思いながら歩いていた時、生垣の陰から小さな塊が飛び出してきた。
「わ!」
真横から飛んできたそれをよろめきつつも受け止める。驚いた声を上げたのは、頭ひとつ分ほど小さな子供だった。小学校高学年から中学生くらいだろうか。可愛らしい顔をした男の子だ。
「っと……大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい……っ」
「いや。痛いところは?」
「僕は全然……!」
興奮気味にぶんぶん首を振る少年は、見たところどこかを痛めている様子はない。
「ならよかった。こういう見晴らし悪いところは気をつけてな」
何も考えずぽんと頭に手を置いてから、しまった、と思った。無遠慮に触れるだけでもまずいのに、子供がヤンキーに絡まれているように見えてもおかしくない。
勢いよく手を離して周囲を見回す。視界に映る範囲に人影は見えず、安堵の息をついた。
気をつけて歩けよと、軽く注意をしようとした言葉は素っ頓狂な音に取って代わった。離したはずの手は、少年の両手に握りしめられている。
「あの、お兄さんはこの辺の人ですか?」
「へ?」
「僕、蘭……兄と一緒にいたんですけど、気づいたらいなくなってて……」
大きな目がじわりと潤む。走っていたのもはぐれた兄を探すためだったのかもしれない。この辺りの地理に詳しいとはとても言えないが、放っておくことはできなかった。包まれた右手を握り返して少しでも安心させようと笑顔を浮かべる。
「じゃあオレも一緒に探すよ。最後に見たのはどこか覚えてるか?」
「えっと……多分、商店街のパン屋さん」
「本屋の隣の?」
こくりと頷いたのを見て少しばかり気が楽になる。ついさっき路地に入ろうと曲がってきたところだ。
「とりあえず、そこに戻るか。お兄さんも探してるかもしれないし」
「はい……」
涙を堪える少年の手を引いて、来た道を戻ることにした。
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