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裏切られた過去
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邸に戻ると、ミズリーお姉様の婚約者、ロステル侯爵家の嫡男、スワルス様がいらしているとのことでした。二人仲良く、我が家の小さなお庭でお茶を楽しんでいるそうなので、私もご挨拶に伺うことにしました。
「お姉様、ただいま戻りました。こんにちは、スワルス様。ようこそ起こしくださいました。」
相手はまさかの侯爵様ですからね、私とて、スカートの端を持ち上げてきちんと挨拶しますとも。
素敵な二人に笑顔で迎え入れていただき、私はこっそり思うのです。
(まるで絵画の世界ね。なんなのかしら、この美男美女。眩しくて直視できないわ。)
美しい姉が両親の良い所ばかりを抱え込めるだけ抱えて産まれてきたのに対して、考えの足りない私は、その辺に落ちてるものを適当に拾って産まれました。では弟のリョシューは?と、黙って見ていると、なんと彼は、本当に自分に必要な物だけをちゃんと吟味して持ち出したような賢い子でした。要は、姉は美しい容姿で性格は良く、さらに頭も良いという完璧令嬢。弟は、頭脳明晰ですが、容姿は、まぁ、そこそこ。けれど非常に愛嬌があって要領も良いので誰からも好意を持たれる、将来苦労とは無縁そうなタイプです。同じ親から産まれたとは思えないほどに姉弟に差をつけられた私は、なんとも特徴のない地味な少女時代を、肩を落としてトボトボ歩いて参りました。
「ひどいわ!! お母様が、私を産む時だけ気を抜いたせいよっ!!」
随分前のことですが、お母様に向かって、こうして自分の不幸を嘆いてみたところ、ムッとしたお母様が、真っ赤な顔で怒鳴りつけて来たことを思い出します。
「産み方なんてみんな一緒よ!!痛くて苦しくてそんなこと考えてる暇なんてないわよっ!!」
それをたまたま聞いていたお父様や使用人達が、お腹を抱えて笑っていたことは、我が家の笑い話のほんの一例なのです。
「やあ、こんにちは、ユニ。今日も可愛らしいね。カドワーズ伯爵家へ行っていたのだろう?楽しかったかい?」
お姉様の婚約者のスワルス様が、優しく微笑んで挨拶をしてくれました。
「ありがとうございます。私のことを可愛いと言ってくれるのは、お姉様とスワルス様だけですわ。あ・・・、あとお父様。 伯爵家は、ええ・・・楽しかったように思います。」
私が、いかにもどうでもいいように適当な返事をすると、お姉様が眉を下げて困ったような顔をしました。
「まあ、ユニ。あなたは可愛いわよ。アレイドだってきっと・・・。」
「うふふ、いいのですよ。もう幼い頃とは違いますから。いつもありがとう、お姉様。」
「ユニ・・・。」
まるでお姉様が、何かいい訳でも探しているように見えてしまった私は、姉の優しさが辛く感じてしまう前に、会話を遮ることにしました。
(お姉様。私は、もう大丈夫ですから。そんなに気を使わないでください・・・。)
「このケーキ、お姉さまが焼いたのかしら?ねえ、一つ頂いてもいい?」
何事もなかったかのように、私は嬉しそうな顔をして、ケーキを一つお皿に貰いました。
「では、ごゆっくり」 と、笑顔を作ると二人に頭を下げて自室に戻ったのでした。
姉の焼いたケーキと紅茶を頂いて一息入れた後、私は心を落ち着け今日一日の出来事を振り返りました。お互いに気持ちのない婚約者様と私。結婚間近の幸せそうなお姉様とスワルス様。それぞれを思い浮かべ、私は一人呟くのです。
「偽物婚約劇場。そろそろ終演にございます! かぁー・・・。」
(婚約して、もう三年・・・。てっきりお姉様の婚約が決まった時に、私の婚約は破棄されるものと身構えていたのに。なぜかまだ続いているわ・・・。でも、さすがに結婚するとなったらもう無理よね。いくらなんでもスワルス様は侯爵家の嫡男よ。今からチャンスを狙った所で勝ち目はないでしょう。なら、今度こそ破棄になるわよね?そうしたら、別に私は何も悪くないんだし、慰謝料もらえるのかしら・・・。)
将来を考えながら体をソファーに投げ出すと、重くなった瞼と共に、なぜか婚約当時を思い出しました。ウトウトしながら過去のシーンを振り返ると、どこかのお茶会で一人立ち尽くしている自分が見えました。手にはお菓子の包みが握られています。きっと一緒に食べようと思っていたのかもしれません。ですが、今はもう手の中で握りつぶされているようです。ああ、思い出しました。これは、前の日にお姉様と一緒に手作りしたものでした。婚約者様にプレゼントしたかったのでしょう。
「どうして・・・婚約・・・。・・・なぜ・・・。」
本当は良く聞こえませんでした。立ち聞きですしね。ですから、聞こえたのは少しだけ。
「ああ!そうか!姉の方が目的なんだな? そうだな。確かにミズリー嬢は綺麗だよな。」
「それなら納得だよ。妹の方じゃ、ちょっとな・・・。申し訳ないけど、お前とは釣り合わないと思っていたよ。」
「だが、妹を利用するって・・・、なんでそんな・・・いくらなんでも失礼だろう?」
「ライナー、そう怒るなよ。なにせ三つも上なんだぞ?それくらいやらないと相手にされないだろ?」
「なんだよそれ! ふざけるな!! 相手の気持ちも考えろよ!!」
ああ、結局、私なんてこんなものなのです。この前後に婚約者様の声があったかどうかも、今はもう覚えていません。聞こえてきたのは、確かこれが全てだったはずなのですが・・・。この後、持っていたお菓子を地面に叩きつけて走って逃げたものですから、そちらの記憶の方が強く残ってたりもするのです。
(あんなに優しかったのに・・・。小さい頃からいつも一緒で、彼だけは私のことをちゃんと見てくれているって信じてたのに・・・。あーあ・・・可哀想な私。あの時は、本当に大好きだったんだけどなぁ・・・。あの優しさが、全て大切な人を手に入れる為の演技だったなんて・・・。ふふふ、もう、馬鹿馬鹿しくて笑ってしまうわ。
今となっては、どうでもいいことだわ。何もかも忘れましょう。だって、今は、とても眠いから・・・。)
「お姉様、ただいま戻りました。こんにちは、スワルス様。ようこそ起こしくださいました。」
相手はまさかの侯爵様ですからね、私とて、スカートの端を持ち上げてきちんと挨拶しますとも。
素敵な二人に笑顔で迎え入れていただき、私はこっそり思うのです。
(まるで絵画の世界ね。なんなのかしら、この美男美女。眩しくて直視できないわ。)
美しい姉が両親の良い所ばかりを抱え込めるだけ抱えて産まれてきたのに対して、考えの足りない私は、その辺に落ちてるものを適当に拾って産まれました。では弟のリョシューは?と、黙って見ていると、なんと彼は、本当に自分に必要な物だけをちゃんと吟味して持ち出したような賢い子でした。要は、姉は美しい容姿で性格は良く、さらに頭も良いという完璧令嬢。弟は、頭脳明晰ですが、容姿は、まぁ、そこそこ。けれど非常に愛嬌があって要領も良いので誰からも好意を持たれる、将来苦労とは無縁そうなタイプです。同じ親から産まれたとは思えないほどに姉弟に差をつけられた私は、なんとも特徴のない地味な少女時代を、肩を落としてトボトボ歩いて参りました。
「ひどいわ!! お母様が、私を産む時だけ気を抜いたせいよっ!!」
随分前のことですが、お母様に向かって、こうして自分の不幸を嘆いてみたところ、ムッとしたお母様が、真っ赤な顔で怒鳴りつけて来たことを思い出します。
「産み方なんてみんな一緒よ!!痛くて苦しくてそんなこと考えてる暇なんてないわよっ!!」
それをたまたま聞いていたお父様や使用人達が、お腹を抱えて笑っていたことは、我が家の笑い話のほんの一例なのです。
「やあ、こんにちは、ユニ。今日も可愛らしいね。カドワーズ伯爵家へ行っていたのだろう?楽しかったかい?」
お姉様の婚約者のスワルス様が、優しく微笑んで挨拶をしてくれました。
「ありがとうございます。私のことを可愛いと言ってくれるのは、お姉様とスワルス様だけですわ。あ・・・、あとお父様。 伯爵家は、ええ・・・楽しかったように思います。」
私が、いかにもどうでもいいように適当な返事をすると、お姉様が眉を下げて困ったような顔をしました。
「まあ、ユニ。あなたは可愛いわよ。アレイドだってきっと・・・。」
「うふふ、いいのですよ。もう幼い頃とは違いますから。いつもありがとう、お姉様。」
「ユニ・・・。」
まるでお姉様が、何かいい訳でも探しているように見えてしまった私は、姉の優しさが辛く感じてしまう前に、会話を遮ることにしました。
(お姉様。私は、もう大丈夫ですから。そんなに気を使わないでください・・・。)
「このケーキ、お姉さまが焼いたのかしら?ねえ、一つ頂いてもいい?」
何事もなかったかのように、私は嬉しそうな顔をして、ケーキを一つお皿に貰いました。
「では、ごゆっくり」 と、笑顔を作ると二人に頭を下げて自室に戻ったのでした。
姉の焼いたケーキと紅茶を頂いて一息入れた後、私は心を落ち着け今日一日の出来事を振り返りました。お互いに気持ちのない婚約者様と私。結婚間近の幸せそうなお姉様とスワルス様。それぞれを思い浮かべ、私は一人呟くのです。
「偽物婚約劇場。そろそろ終演にございます! かぁー・・・。」
(婚約して、もう三年・・・。てっきりお姉様の婚約が決まった時に、私の婚約は破棄されるものと身構えていたのに。なぜかまだ続いているわ・・・。でも、さすがに結婚するとなったらもう無理よね。いくらなんでもスワルス様は侯爵家の嫡男よ。今からチャンスを狙った所で勝ち目はないでしょう。なら、今度こそ破棄になるわよね?そうしたら、別に私は何も悪くないんだし、慰謝料もらえるのかしら・・・。)
将来を考えながら体をソファーに投げ出すと、重くなった瞼と共に、なぜか婚約当時を思い出しました。ウトウトしながら過去のシーンを振り返ると、どこかのお茶会で一人立ち尽くしている自分が見えました。手にはお菓子の包みが握られています。きっと一緒に食べようと思っていたのかもしれません。ですが、今はもう手の中で握りつぶされているようです。ああ、思い出しました。これは、前の日にお姉様と一緒に手作りしたものでした。婚約者様にプレゼントしたかったのでしょう。
「どうして・・・婚約・・・。・・・なぜ・・・。」
本当は良く聞こえませんでした。立ち聞きですしね。ですから、聞こえたのは少しだけ。
「ああ!そうか!姉の方が目的なんだな? そうだな。確かにミズリー嬢は綺麗だよな。」
「それなら納得だよ。妹の方じゃ、ちょっとな・・・。申し訳ないけど、お前とは釣り合わないと思っていたよ。」
「だが、妹を利用するって・・・、なんでそんな・・・いくらなんでも失礼だろう?」
「ライナー、そう怒るなよ。なにせ三つも上なんだぞ?それくらいやらないと相手にされないだろ?」
「なんだよそれ! ふざけるな!! 相手の気持ちも考えろよ!!」
ああ、結局、私なんてこんなものなのです。この前後に婚約者様の声があったかどうかも、今はもう覚えていません。聞こえてきたのは、確かこれが全てだったはずなのですが・・・。この後、持っていたお菓子を地面に叩きつけて走って逃げたものですから、そちらの記憶の方が強く残ってたりもするのです。
(あんなに優しかったのに・・・。小さい頃からいつも一緒で、彼だけは私のことをちゃんと見てくれているって信じてたのに・・・。あーあ・・・可哀想な私。あの時は、本当に大好きだったんだけどなぁ・・・。あの優しさが、全て大切な人を手に入れる為の演技だったなんて・・・。ふふふ、もう、馬鹿馬鹿しくて笑ってしまうわ。
今となっては、どうでもいいことだわ。何もかも忘れましょう。だって、今は、とても眠いから・・・。)
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