花言葉は「私のものになって」

岬 空弥

文字の大きさ
1 / 33

つまらない二人のお茶会

しおりを挟む
(はぁー・・・長いわ・・・。早く帰りたい。)

「・・・・・・・・。」

「ユニーナ!?」

(帰ったら、昨日の小説の続きを読んで・・・。そうだわ、お母様が焼いたクッキーがあったわね。そうね、ソファーの上で、クッキーと一緒に・・・ふふっ。)

「聞いているのか!?」

(ふふっ、ロザリーナとアルフォンスの話の続きが気になるわ・・・。あれって、アルフォンスが無口すぎるから、いらぬ誤解を招くのよ。無口な男性は素敵だけど、やっぱり言ってほしい言葉って絶対あると思うの。私なら愛情表現はちゃんとしてほしいものね。 はぁー・・・それにしてもまだ終わらないのかしら・・・時間の無駄だわ・・・。 あっ! そう言えば昨日の宿題!)

「どこ見てるんだ!? ユニーナ!! おい!!」

「えっ!?」

 あまりの大きな声に驚いた私が、はっと我に返り、急いで目の前の男性を見ると、綺麗な顔をこれでもかと歪めた婚約者様が、こちらを睨みつけて怒っていました。彼は、カドワーズ伯爵家の嫡男、アレイド様。

そう、伯爵家のおぼっちゃまが、緑のガラス玉のような目を吊り上げて何か吠えていらっしゃるのです。

(いつものことながら、騒々しい・・・。)

うふふ、ですが本心はもちろん、口にも顔にも出したりしません。ここでの正解は、微笑みを絶やさず、お淑やかに。

「どうされましたか?」

ほらね? そうすれば、私への怒りで頭が沸騰されることでしょう。 次に湯気を出して、捨て台詞を吐くのです。

「もう、いい! 話は終わりだ!!」

ふふっ、さーってと、不毛な時間はこれでおしまいです。簡単なことです。こうして怒らせてしまえば、私の勝ちなのです。婚約者様のお話を実は何一つ聞いてなかったこともお咎めなしになるのですから。 やれやれ・・・今回もつまらないお茶会は終了ですわ。

「そうですか?それでは、本日もお招きいただきありがとうございました。わたくしは、これにて失礼いたします。ごきげんよう。」

そう早口で告げた後は、さっと席を立ち、呼び止められる声に振り返ることもなく足早に玄関に向かいます。 エスコート? いえいえ、結構です。そんなもの、迷惑ですから。

 廊下で先ほどお茶を入れてくれたメイドとすれ違います。もちろん声をかけます。

「今日のお茶も、とても美味しかったわ。でも、少し変わった味がしたんだけど・・・、あれは他国のお茶かしら?」

こちらには幼い頃から頻繁にお邪魔していますからね、伯爵家の使用人とは顔なじみもいいところです。眉間に皺をよせて、ただ睨みつけてくる婚約者様などより、ずっと楽しくお話できるというものです。私にとって伯爵家で働く人達は、もはや家族と言ってもいいくらい親しい間柄ですから、正直、あの方と会っている時間以外は、私、幸せなのですよ。

「さすがユニーナ様。よくお気付きになりましたね。先日、旦那様と奥様で隣国に行かれたんですよ。その時のお土産なのですが、奥様がユニーナ様にも是非にとおっしゃいまして。 うふふ、気に入っていただけたと奥様にお伝えしておきますね。」

「まあ、そうなのね。嬉しいわ。今日のお茶もお菓子も、とても美味しかったわ。いつもありがとうございますと、伝えてくれると嬉しいわ。」

私は、メイドとの心温まる会話に喜びを感じながら、にっこり微笑み、別れを告げました。玄関を出て、外の眩しい光に目を細めていると、

「ワン、ワン!!」

甲高い鳴き声と共に勢いよく飛び掛かってくるのは、伯爵家の愛犬ベッキーです。可愛らしい小型犬の彼女は、伯爵家の庭師と一緒にお散歩中なのでしょう。

「毎回毎回すみません、ユニーナ様!!」

ほら、庭師のトーマスが走ってきた。

「まあ、ベッキー!会えて良かったわ。今日も元気いっぱいね!」

「あーあー、ユニーナ様、また洋服が汚れてしまいましたよ。」

「やあね、トーマスったら。こんなの、いつものことじゃない。」

そう、いつものことなのです。なのに毎回トーマスは申し訳なさそうに謝るので、私達は毎回同じ会話を繰り返して笑っているのでした。
ベッキーを挟んで、これまたいつものようにトーマスと少しの会話を楽しんで、ようやく私は馬車に乗って帰宅します。よく考えたら、婚約者様との会話時間より、伯爵家のメイドや使用人との会話時間の方が長いような気もしますが、婚約者様に怒られたことによって、曇ってしまった嫌な気持ちを浄化するには、この時間はとても大切なのです。
もし、この時間を奪われてしまったなら、この邸にはもう、足を運びたくないとすら思っていますもの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんな婚約者は貴女にあげる

如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。 初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

この別れは、きっと。

はるきりょう
恋愛
瑛士の背中を見ていられることが、どれほど幸せだったのか、きっと瑛士は知らないままだ。 ※小説家になろうサイト様にも掲載しています。

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

私のブルースター

くびのほきょう
恋愛
家で冷遇されてるかわいそうな侯爵令嬢。そんな侯爵令嬢を放って置けない優しい幼馴染のことが好きな伯爵令嬢のお話。

処理中です...