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迎えに行くから待っていて
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その後もエリシアと接触できないまま月日は流れた。
どうしても彼女を諦めきれないユーレットがいくら熱い視線を送ろうと、もう、彼を視界に入れないエリシアが気付くことはなかった。そしてその都度、彼女の友人達に邪魔されることも多かった。
エリシアが他の男と話しているのを目にする度に酷い嫉妬に駆られた。できるものなら笑顔の彼女に見惚れている男を突き飛ばして大声で言ってやりたかった。
(彼女が好きなのは俺だ――)
自分だって以前の関係に戻りたくて何度も話しかけようと思った。けれど勇気を振り絞る度に、彼女の友人や他の男に邪魔されるから・・・。
いや・・・違う。・・・本当は違うんだ。
(・・・怖かったんだ)
臆病な自分は、エリシアに拒絶されることを恐れていた。
以前とは違う彼女のそっけない態度に本当は傷ついていた。目も合わせてもらえない今の自分は、本当はもう彼女に必要とされてないんじゃないかと不安で仕方なかった。
もうどうでもいいと言われる気がして・・・怖かった。
自信がなかったんだ・・・。
そして何もできないまま、とうとうエリシアの卒業式を迎えた。
意を決したユーレットは、涙を流して別れを惜しんでいるエリシアの前に立ちふさがると、いきなり彼女の手を取った。
「話があるんだ。少しいい?」
周囲からの注目の中、ユーレットは緊張で自分の顔が強張るのが分かったが、もうそんなことにかまっている暇はなかった。そして、声を掛けられた方のエリシアも目を大きく見開き、声も出せないほど驚いているのが見て取れた。
ユーレットは、何も言わないエリシアの手を引いて歩き出した。
ユーレットにとって、これが最後のチャンスであった。エリシアは学園を卒業してしまったら、きっと直ぐにでも他の誰かと婚約してしまうだろう。コットワール侯爵家の一人娘であるエリシアが縁談に困る理由などあるはずがないのだから。なのでユーレットは、その前にどうしても自分の気持ちを彼女に伝えなくてはいけないと考えていた。
エリシアが好きなら、エリシアを失いたくないのなら、背が伸びるまでなどと、そんな呑気なことを言っている余裕なんてユーレットにはもう残されていないのだ。
ユーレットが何も言わずに連れて来た場所は、いつも二人で座っていた思い出のベンチだった。
「ユーレット・・・」
未だ驚いた顔のエリシアが戸惑いながらもユーレットの名前を呟いた。そんなエリシアの瞳を彼は前髪の隙間から食い入るように見つめた。
(綺麗だな・・・)
エリシアの黒い瞳は驚きと不安に揺れていた。先ほどまで友人と泣いていたせいもあるのだろう、少し赤くなった目元にはまだ少し涙が滲んでいた。数か月ぶりに聞く彼女の声にユーレットの心臓はうるさく音を立てたけれど、彼女の小さな声が不安げに震えていることは直ぐに気が付いた。
きっと、突然こんな場所に連れて来られてしまい、どうしていいか戸惑っているのだろう。
しかし、申し訳ない気持ちを抱きながらもユーレットは彼女から目を離すことができないでいた。
彼女の潤んだ瞳に自分が映っていることが嬉しくて仕方ない。今にも泣いてしまいそうなほど高ぶってしまった自分の気持ちを必死で抑えながらも、彼はどうにか 「うん」 と、返事をした。
そしてユーレットは、じっとエリシアを見据えたまま、大きく息を吸った。
「もう俺を嫌いになったの?」
「え・・・・」
ユーレットの長い前髪の間から見えたのは、彼らしくない酷く真剣な眼差しだった。突然思いもよらない質問を投げかけられたエリシアは答えに窮する。なんて答えたらいいのか分からない。だって、彼を嫌いになれるわけなどないのだから。
人生で初めて好きになった人だ。彼から気持ちを逸らすことが、自分にとってどれほど辛いことだっただろう。エリシアはユーレッドの幸せを毎日ひたすらに祈っていたのだ。そうやって彼への気持ちを懸命に抑えたのだから。
「俺以外に好きな人がいるの?」
「いないわっ!」
つい、前のめりになってまで否定してしまったことに気づくと、エリシアは羞恥で顔を背けた。赤くなってしまった顔を見られたくなくて、慌てて両手で顔を隠そうとした時、ユーレットがその両手を取った。
「ユー・・・レット?」
驚いて彼の方に顔を向けると、髪の隙間から見えるあまりに鋭い眼光にエリシアは一瞬身動きが取れなくなった。ぎゅっと強く握られた両手が酷く熱く感じる。
「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」
どうしても彼女を諦めきれないユーレットがいくら熱い視線を送ろうと、もう、彼を視界に入れないエリシアが気付くことはなかった。そしてその都度、彼女の友人達に邪魔されることも多かった。
エリシアが他の男と話しているのを目にする度に酷い嫉妬に駆られた。できるものなら笑顔の彼女に見惚れている男を突き飛ばして大声で言ってやりたかった。
(彼女が好きなのは俺だ――)
自分だって以前の関係に戻りたくて何度も話しかけようと思った。けれど勇気を振り絞る度に、彼女の友人や他の男に邪魔されるから・・・。
いや・・・違う。・・・本当は違うんだ。
(・・・怖かったんだ)
臆病な自分は、エリシアに拒絶されることを恐れていた。
以前とは違う彼女のそっけない態度に本当は傷ついていた。目も合わせてもらえない今の自分は、本当はもう彼女に必要とされてないんじゃないかと不安で仕方なかった。
もうどうでもいいと言われる気がして・・・怖かった。
自信がなかったんだ・・・。
そして何もできないまま、とうとうエリシアの卒業式を迎えた。
意を決したユーレットは、涙を流して別れを惜しんでいるエリシアの前に立ちふさがると、いきなり彼女の手を取った。
「話があるんだ。少しいい?」
周囲からの注目の中、ユーレットは緊張で自分の顔が強張るのが分かったが、もうそんなことにかまっている暇はなかった。そして、声を掛けられた方のエリシアも目を大きく見開き、声も出せないほど驚いているのが見て取れた。
ユーレットは、何も言わないエリシアの手を引いて歩き出した。
ユーレットにとって、これが最後のチャンスであった。エリシアは学園を卒業してしまったら、きっと直ぐにでも他の誰かと婚約してしまうだろう。コットワール侯爵家の一人娘であるエリシアが縁談に困る理由などあるはずがないのだから。なのでユーレットは、その前にどうしても自分の気持ちを彼女に伝えなくてはいけないと考えていた。
エリシアが好きなら、エリシアを失いたくないのなら、背が伸びるまでなどと、そんな呑気なことを言っている余裕なんてユーレットにはもう残されていないのだ。
ユーレットが何も言わずに連れて来た場所は、いつも二人で座っていた思い出のベンチだった。
「ユーレット・・・」
未だ驚いた顔のエリシアが戸惑いながらもユーレットの名前を呟いた。そんなエリシアの瞳を彼は前髪の隙間から食い入るように見つめた。
(綺麗だな・・・)
エリシアの黒い瞳は驚きと不安に揺れていた。先ほどまで友人と泣いていたせいもあるのだろう、少し赤くなった目元にはまだ少し涙が滲んでいた。数か月ぶりに聞く彼女の声にユーレットの心臓はうるさく音を立てたけれど、彼女の小さな声が不安げに震えていることは直ぐに気が付いた。
きっと、突然こんな場所に連れて来られてしまい、どうしていいか戸惑っているのだろう。
しかし、申し訳ない気持ちを抱きながらもユーレットは彼女から目を離すことができないでいた。
彼女の潤んだ瞳に自分が映っていることが嬉しくて仕方ない。今にも泣いてしまいそうなほど高ぶってしまった自分の気持ちを必死で抑えながらも、彼はどうにか 「うん」 と、返事をした。
そしてユーレットは、じっとエリシアを見据えたまま、大きく息を吸った。
「もう俺を嫌いになったの?」
「え・・・・」
ユーレットの長い前髪の間から見えたのは、彼らしくない酷く真剣な眼差しだった。突然思いもよらない質問を投げかけられたエリシアは答えに窮する。なんて答えたらいいのか分からない。だって、彼を嫌いになれるわけなどないのだから。
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「俺以外に好きな人がいるの?」
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つい、前のめりになってまで否定してしまったことに気づくと、エリシアは羞恥で顔を背けた。赤くなってしまった顔を見られたくなくて、慌てて両手で顔を隠そうとした時、ユーレットがその両手を取った。
「ユー・・・レット?」
驚いて彼の方に顔を向けると、髪の隙間から見えるあまりに鋭い眼光にエリシアは一瞬身動きが取れなくなった。ぎゅっと強く握られた両手が酷く熱く感じる。
「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」
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