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あなたを好きでいていいの?

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 ユーレットに両手を掴まれているエリシアは、近すぎる彼との距離に、壊れそうなほどの心臓の鼓動を感じていた。いつも視線すら合わせてくれなかった彼が両手を繋いだ状態で真っすぐにエリシアを見ているのだ。

大好きなユーレットの信じられないほどの強い眼差しに、エリシアは身体ごと絡めとられたかのようにピクリとも動けなくなってしまっていた。

その上、エリシアにはユーレットの言っていることがいまいち理解できていない。
待つとはどういうことなのか、もっとちゃんと説明してほしい。少なすぎる彼の言葉では、確かめなくてはいけないことが多すぎるのだ。

だが、これ以上先を待っていても彼から答えを聞き出すことは難しいように思えた。
なぜなら、彼は縋るようにこちらを見つめ、エリシアの返事を辛抱強く待っていたからだ。

「わかった」

気が付いた時には、もう答えてしまった後だった。

だが、もしも考える時間をたくさん与えられたとしても、エリシアの答えは同じだっただろう。
疑問はたくさんある。いや、ほぼ疑問しかない。

でも、ユーレッドが待っていてほしいと言ったのだ。

彼が卒業するまであと二年もある。あまりに少ない彼の言葉が、後々自分をどれだけ不安にさせるかなど容易に想像できる。本当だったら、家の為にも自分の為にも、訳の分からない話に軽はずみな返事などするべきではない。

なのに・・・。

(私は彼を待ちたい・・・)

これが全てであった。

ユーレットとの関係を断った後、エリシアの前には今まで話したことのない男性が次々と現れた。それは、相手が突然話しかけてくる場合もあれば、友人を通して紹介を受けたりもした。皆、とても親切で紳士的だった。優しそうな笑顔はエリシアの警戒心を解いたし、気遣いある言葉に強張った笑みも随分とましになっていった。

しかし、どんなに素敵な男性を前にしてもエリシアが望むのはユーレットの姿だった。近くで視線を合わせるわけにいかない今、エリシアが見ることのできる彼はあまりに遠く、まるで豆粒のように小さなユーレットであった。
それでも彼女の中では、近寄ることもできない豆粒ほどのユーレットの方が、女性の扱いに長けた他の男性よりも何倍も魅力的であり誰よりも尊い存在に思えた。

エリシアの言葉を聞き、まるで安心したかのように身体の力を抜いたユーレットは、エリシアの両手を包み込むように優しく握った。

「良かった」

温かなユーレットの手が微かに震えていたことに、エリシアはこの時初めて気づいた。

(・・・でも)

「ユーレット・・・、あの、一つだけ教えてほしいの」

待つと決めたエリシアであったが、最後にどうしてもこれだけは教えてほしいと思った。そして、これさえ知ることができれば、彼を待ち続ける自分が不安に押しつぶされることがないような気がする。

「あ・・・、でもその前に・・・」

何かを思い出したようなエリシアが、繋いだ手をするりと離した。
手を離されて寂しそうな顔をするユーレットであったが、エリシアの指先が自分の前髪に近づいてくることに気づくと、安心したように静かに目を閉じた。

しかし、ユーレットがいくら待っても彼女の指は自分の髪に触れてこなかった。不思議に思いそっと目を開けると、直ぐ目の前まで来ている彼女の指がフルフルと震えている。そして彼女の顔を見れば、その瞳には涙がいっぱい溜まっていた。

「ごめんなさ・・・私、なんか、怖くて・・・できない」

一度失ったユーレットを前に、エリシアの中では様々な感情が混ざり合っていた。心の整理が追いついていない中、自分が望んだにも拘らず、彼に触れることも、彼の瞳を見ることも急に恐ろしくなってしまったのだった。

すると、口元に笑みを浮かべたユーレットがもう一度エリシアの手を取った。

「ほら」

震えるエリシアの手を掴み、そっと自分の前髪に押し当てた。長い前髪が横に流れるとユーレットの美しい琥珀色の瞳がエリシアを優しく見つめていた。

「ユーレット・・・」

にっこりと幸せそうに微笑むエリシアの瞳からは、次々と涙がこぼれた。

「お願い・・・一つだけ教えて?
・・・待っている間、私は・・・あなたを好きでいていいの?」

その言葉に、一瞬目を丸くしたユーレットであったが、今にも泣き出しそうに瞳を細めると、

「うん」

と、言いながらエリシアの片手を自身の口元に持って行き、その手にゆっくりと口づけた。
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