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Shall we dance?
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エリオットは確か二十一歳。
カーティス侯爵家の嫡男で、上品な物腰が兄のシルヴァンとは大違いな、社交界きっての優良物件である。
明るい金髪に翡翠のような瞳、通った鼻筋が作り物のような美青年だが、人当たりがいいのに軽薄さを感じさせないところがまた人気で、いつも女性に囲まれている印象だ。
時々会話に疲れたのか、モグモグしているアリシアの元を訪れては、たわいもない会話をしていくことがあったが、二人はそれだけの関係だった。
エリオットの顔はイケメン過ぎて消化に悪いし、たまに見せる極上の笑顔は、デザートが食べられなくなりそうなほどに甘い。
恐れ多く感じてしまうアリシアは、正直クロエだけでなく、彼女の兄も苦手だったのだ。
「アリシア様ったら、友人が婚約してしまって寂しいみたいですの。お兄様、慰めてさしあげて?」
「なるほど、そういうことなら私が喜んで引き受けよう」
「頼みましたわ」
へ? なんか語弊があるような……。
しかも、喜んで引き受けちゃうの?
今の私、自分で言うのもなんだけど、とっても面倒臭いと思うのだけど。
クロエは手を振って去ってしまった。
エリオットはニコニコとアリシアを見下ろしている。
長身の彼は、アリシアより頭一つ分背が高いのだ。
「ねえ、アリシア嬢。良かったらダンスでも踊らないか?」
「ダンスですか?」
「ああ。少しは気分転換になるかもしれないよ? 今までも何度も誘おうとしたんだけど、いつもお腹が一杯そうだから遠慮していたんだ」
「ああ……」
確かに、毎回お腹が膨れるまで食べていた自覚はある。
あんな状態でクルクル踊ったら、リバースしていたに違いない。
煌びやかな会場で起こっていたかもしれない大惨事を思い浮かべて、アリシアは吹き出しそうになっていた。
「ふふっ、今日はまだ食べていないので、ちょうど良かったです。一曲お付き合いいただいてもいいですか?」
「ああ! 喜んで!」
エリオットが嬉しそうに破顔した。
そんなにダンスがしたかったのだろうか。
アリシアが皿を置き、二人がホールの中心へと手を取り合って進むと、周囲には自然と空間ができていた。
食道楽のアリシアがダンスに参加するのも珍しいが、何よりエリオットは誘われても決して踊らないと有名だったからである。
——普段ダンスに興味のないアリシアは、知る由もなかったのだが。
エリオットのエスコートは素晴らしかった。
踊り慣れず、たどたどしい動きのアリシアを上手くサポートし、余計な動作すらダンスのアレンジに変えてしまう。
まるで羽根が生えたように自由に踊ることができ、アリシアは初めてダンスが楽しいと思った。
さっきまでの寂しさなどどこかへ行ってしまい、笑顔で顔を上げれば、エリオットが優しい瞳でアリシアを見つめていた。
さすがイケメンは何をしてもイケメンなのね!
モテ男に興味はなかったはずなのに、気を付けないと沼に落ちてしまいそうな魅力があるわ。
……まあ、私には効かないけれど。
強がっていても、とっくに胸はドキドキと高鳴っている。
それを全て、久しぶりのダンスで息が上がったせいにして、アリシアはステップを踏み続けた。
やがて一曲終わると、エリオットがさりげなく提案した。
「良かったらもう一曲どうかな? せっかく体がダンスの感覚を思い出してきた頃だろう? 私もアリシア嬢とのダンスはとても楽しいし、もう少し君と踊っていたいな」
「私も楽しいです。エリオット様がそうおっしゃるならもう一曲だけ……」
アリシアは忘れていた。
この国では、二曲続けて踊ることは、婚約者以上の関係を意味していることを——。
カーティス侯爵家の嫡男で、上品な物腰が兄のシルヴァンとは大違いな、社交界きっての優良物件である。
明るい金髪に翡翠のような瞳、通った鼻筋が作り物のような美青年だが、人当たりがいいのに軽薄さを感じさせないところがまた人気で、いつも女性に囲まれている印象だ。
時々会話に疲れたのか、モグモグしているアリシアの元を訪れては、たわいもない会話をしていくことがあったが、二人はそれだけの関係だった。
エリオットの顔はイケメン過ぎて消化に悪いし、たまに見せる極上の笑顔は、デザートが食べられなくなりそうなほどに甘い。
恐れ多く感じてしまうアリシアは、正直クロエだけでなく、彼女の兄も苦手だったのだ。
「アリシア様ったら、友人が婚約してしまって寂しいみたいですの。お兄様、慰めてさしあげて?」
「なるほど、そういうことなら私が喜んで引き受けよう」
「頼みましたわ」
へ? なんか語弊があるような……。
しかも、喜んで引き受けちゃうの?
今の私、自分で言うのもなんだけど、とっても面倒臭いと思うのだけど。
クロエは手を振って去ってしまった。
エリオットはニコニコとアリシアを見下ろしている。
長身の彼は、アリシアより頭一つ分背が高いのだ。
「ねえ、アリシア嬢。良かったらダンスでも踊らないか?」
「ダンスですか?」
「ああ。少しは気分転換になるかもしれないよ? 今までも何度も誘おうとしたんだけど、いつもお腹が一杯そうだから遠慮していたんだ」
「ああ……」
確かに、毎回お腹が膨れるまで食べていた自覚はある。
あんな状態でクルクル踊ったら、リバースしていたに違いない。
煌びやかな会場で起こっていたかもしれない大惨事を思い浮かべて、アリシアは吹き出しそうになっていた。
「ふふっ、今日はまだ食べていないので、ちょうど良かったです。一曲お付き合いいただいてもいいですか?」
「ああ! 喜んで!」
エリオットが嬉しそうに破顔した。
そんなにダンスがしたかったのだろうか。
アリシアが皿を置き、二人がホールの中心へと手を取り合って進むと、周囲には自然と空間ができていた。
食道楽のアリシアがダンスに参加するのも珍しいが、何よりエリオットは誘われても決して踊らないと有名だったからである。
——普段ダンスに興味のないアリシアは、知る由もなかったのだが。
エリオットのエスコートは素晴らしかった。
踊り慣れず、たどたどしい動きのアリシアを上手くサポートし、余計な動作すらダンスのアレンジに変えてしまう。
まるで羽根が生えたように自由に踊ることができ、アリシアは初めてダンスが楽しいと思った。
さっきまでの寂しさなどどこかへ行ってしまい、笑顔で顔を上げれば、エリオットが優しい瞳でアリシアを見つめていた。
さすがイケメンは何をしてもイケメンなのね!
モテ男に興味はなかったはずなのに、気を付けないと沼に落ちてしまいそうな魅力があるわ。
……まあ、私には効かないけれど。
強がっていても、とっくに胸はドキドキと高鳴っている。
それを全て、久しぶりのダンスで息が上がったせいにして、アリシアはステップを踏み続けた。
やがて一曲終わると、エリオットがさりげなく提案した。
「良かったらもう一曲どうかな? せっかく体がダンスの感覚を思い出してきた頃だろう? 私もアリシア嬢とのダンスはとても楽しいし、もう少し君と踊っていたいな」
「私も楽しいです。エリオット様がそうおっしゃるならもう一曲だけ……」
アリシアは忘れていた。
この国では、二曲続けて踊ることは、婚約者以上の関係を意味していることを——。
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