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侍女の赤い糸
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久しぶりに楽しい気分で帰路についているアリシア。
帰りの馬車の向かいに座る父は、なぜか行きよりも更に機嫌が良く、娘の様子をチラチラと窺っている。
お父様ったらどうしたのかしら?
言いたいことがあれば言えばいいのに。
エリオットと二曲も踊ったアリシアは、今夜の夜会で噂の的になっていたのだが、本人は全くわかっていない。
父はエリオットとの関係が気になって仕方がなかったが、うまく尋ねられないまま屋敷に到着してしまった。
部屋に戻ってドレスを脱いでいると、なんだか侍女の様子がおかしいことに気付いた。
侍女のサリーは夜会にも付き添ってくれていたが、どこか体調が悪いのかもしれない。
「サリー大丈夫? 顔色が悪いみたいだけれど」
「いえ、問題ありません」
「そう? 今夜はもう休んでね」
「ありがとうございます」
サリーを見送ったアリシアに、すぐに眠気が襲いかかる。
久々のダンスに疲れていたせいかもしれないが、それよりも楽しく、充実した気持ちで満たされていた。
瞼の裏に、エリオットの翡翠の瞳が愛おし気に細められる様子が思い浮かび——。
恥ずかしさで足をバタバタさせ、見悶えているうちに、アリシアは眠りに落ちていた。
翌朝、顔を見せたサリーは、目を赤く腫らしていた。
「サリー!? その目はどうしたの? やっぱり昨日何かあったのね?」
「たいした事はありませんので。ご心配をおかけして申し訳ございません」
「何言っているの! たいした事、大アリよ!」
サリーを椅子に座らせ、多少強引に尋問すれば、おずおずと昨夜の出来事を話し出した。
まとめると、サリーはアリシアの夜会に付き添っているうちに、どこかの家の侍従と親しくなったらしい。
彼も主のお供で来ていて、名前はニコラスというそうだ。
温和で礼儀正しいニコラスにサリーは惹かれ、彼もサリーを憎からず思ってくれるようになり、将来の話をする仲になったとか。
サリーってば、私がモグモグしているうちにそんなことになっていたのね!
というか、私って相当鈍いのかしら?
知らない内にジェシカとミシェル、サリーまでもが好きな人を見つけているなんて。
ガーン……とショックを受けるが、それどころではない。
今はサリーを慰めなければ。
「昨夜もニコラス様にお会いしたのです。ですが、彼は主にお見合いを勧められ、断ることができなさそうだと……」
うっうっと泣き出してしまったサリー。
「サリー……。でもお見合いはまだなのよね? 結婚が決まってしまったわけではないのでしょう?」
「は、はい……。でもお世話になっている身で、自分からは断れないと……」
それはそうだろう。
きっとその主人も良かれと思って、彼に見合い話を持ってきたに違いない。
それだけニコラスは信頼され、期待される人物だということだ。
「お嬢様、聞いてくださりありがとうございました。私、彼のことは諦めます……」
「待って! 諦めるのはまだ早いと思うわ。私、サリーには幸せになって欲しいもの」
膝に置かれていたサリーの両手を、アリシアが握ると——。
きたきた! 今回もちゃんと赤い糸が見えるわ!
弱弱しい細い糸だけれど、切れていないようで良かった。
サリーの赤い糸は、細いながらもしっかりと伸びている。
窓の外を見れば、門の先へと繋がる糸がキラッと光った。
この糸の先が、ニコラスに続いているかどうかはわからない。
だけどせっかくこの力を得たのだから、私はしっかりと糸の行方を見定めないと!
「サリー、私に任せて。悪いようにはしないから」
「お嬢様? よくわかりませんが、ありがとうございます」
ようやくサリーが泣き腫らした顔で笑顔を見せてくれる。
こうしてはいられないと、アリシアは屋敷を飛び出したのだった。
帰りの馬車の向かいに座る父は、なぜか行きよりも更に機嫌が良く、娘の様子をチラチラと窺っている。
お父様ったらどうしたのかしら?
言いたいことがあれば言えばいいのに。
エリオットと二曲も踊ったアリシアは、今夜の夜会で噂の的になっていたのだが、本人は全くわかっていない。
父はエリオットとの関係が気になって仕方がなかったが、うまく尋ねられないまま屋敷に到着してしまった。
部屋に戻ってドレスを脱いでいると、なんだか侍女の様子がおかしいことに気付いた。
侍女のサリーは夜会にも付き添ってくれていたが、どこか体調が悪いのかもしれない。
「サリー大丈夫? 顔色が悪いみたいだけれど」
「いえ、問題ありません」
「そう? 今夜はもう休んでね」
「ありがとうございます」
サリーを見送ったアリシアに、すぐに眠気が襲いかかる。
久々のダンスに疲れていたせいかもしれないが、それよりも楽しく、充実した気持ちで満たされていた。
瞼の裏に、エリオットの翡翠の瞳が愛おし気に細められる様子が思い浮かび——。
恥ずかしさで足をバタバタさせ、見悶えているうちに、アリシアは眠りに落ちていた。
翌朝、顔を見せたサリーは、目を赤く腫らしていた。
「サリー!? その目はどうしたの? やっぱり昨日何かあったのね?」
「たいした事はありませんので。ご心配をおかけして申し訳ございません」
「何言っているの! たいした事、大アリよ!」
サリーを椅子に座らせ、多少強引に尋問すれば、おずおずと昨夜の出来事を話し出した。
まとめると、サリーはアリシアの夜会に付き添っているうちに、どこかの家の侍従と親しくなったらしい。
彼も主のお供で来ていて、名前はニコラスというそうだ。
温和で礼儀正しいニコラスにサリーは惹かれ、彼もサリーを憎からず思ってくれるようになり、将来の話をする仲になったとか。
サリーってば、私がモグモグしているうちにそんなことになっていたのね!
というか、私って相当鈍いのかしら?
知らない内にジェシカとミシェル、サリーまでもが好きな人を見つけているなんて。
ガーン……とショックを受けるが、それどころではない。
今はサリーを慰めなければ。
「昨夜もニコラス様にお会いしたのです。ですが、彼は主にお見合いを勧められ、断ることができなさそうだと……」
うっうっと泣き出してしまったサリー。
「サリー……。でもお見合いはまだなのよね? 結婚が決まってしまったわけではないのでしょう?」
「は、はい……。でもお世話になっている身で、自分からは断れないと……」
それはそうだろう。
きっとその主人も良かれと思って、彼に見合い話を持ってきたに違いない。
それだけニコラスは信頼され、期待される人物だということだ。
「お嬢様、聞いてくださりありがとうございました。私、彼のことは諦めます……」
「待って! 諦めるのはまだ早いと思うわ。私、サリーには幸せになって欲しいもの」
膝に置かれていたサリーの両手を、アリシアが握ると——。
きたきた! 今回もちゃんと赤い糸が見えるわ!
弱弱しい細い糸だけれど、切れていないようで良かった。
サリーの赤い糸は、細いながらもしっかりと伸びている。
窓の外を見れば、門の先へと繋がる糸がキラッと光った。
この糸の先が、ニコラスに続いているかどうかはわからない。
だけどせっかくこの力を得たのだから、私はしっかりと糸の行方を見定めないと!
「サリー、私に任せて。悪いようにはしないから」
「お嬢様? よくわかりませんが、ありがとうございます」
ようやくサリーが泣き腫らした顔で笑顔を見せてくれる。
こうしてはいられないと、アリシアは屋敷を飛び出したのだった。
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