【完結】運命の赤い糸が見えるようになりまして。

櫻野くるみ

文字の大きさ
6 / 10

Shall we dance?

しおりを挟む
エリオットは確か二十一歳。
カーティス侯爵家の嫡男で、上品な物腰が兄のシルヴァンとは大違いな、社交界きっての優良物件である。
明るい金髪に翡翠のような瞳、通った鼻筋が作り物のような美青年だが、人当たりがいいのに軽薄さを感じさせないところがまた人気で、いつも女性に囲まれている印象だ。

時々会話に疲れたのか、モグモグしているアリシアの元を訪れては、たわいもない会話をしていくことがあったが、二人はそれだけの関係だった。
エリオットの顔はイケメン過ぎて消化に悪いし、たまに見せる極上の笑顔は、デザートが食べられなくなりそうなほどに甘い。
恐れ多く感じてしまうアリシアは、正直クロエだけでなく、彼女の兄も苦手だったのだ。

「アリシア様ったら、友人が婚約してしまって寂しいみたいですの。お兄様、慰めてさしあげて?」
「なるほど、そういうことなら私が喜んで引き受けよう」
「頼みましたわ」

へ? なんか語弊があるような……。
しかも、喜んで引き受けちゃうの?
今の私、自分で言うのもなんだけど、とっても面倒臭いと思うのだけど。

クロエは手を振って去ってしまった。
エリオットはニコニコとアリシアを見下ろしている。
長身の彼は、アリシアより頭一つ分背が高いのだ。

「ねえ、アリシア嬢。良かったらダンスでも踊らないか?」
「ダンスですか?」
「ああ。少しは気分転換になるかもしれないよ? 今までも何度も誘おうとしたんだけど、いつもお腹が一杯そうだから遠慮していたんだ」
「ああ……」

確かに、毎回お腹が膨れるまで食べていた自覚はある。
あんな状態でクルクル踊ったら、リバースしていたに違いない。
煌びやかな会場で起こっていたかもしれない大惨事を思い浮かべて、アリシアは吹き出しそうになっていた。

「ふふっ、今日はまだ食べていないので、ちょうど良かったです。一曲お付き合いいただいてもいいですか?」
「ああ! 喜んで!」

エリオットが嬉しそうに破顔した。
そんなにダンスがしたかったのだろうか。

アリシアが皿を置き、二人がホールの中心へと手を取り合って進むと、周囲には自然と空間ができていた。
食道楽のアリシアがダンスに参加するのも珍しいが、何よりエリオットは誘われても決して踊らないと有名だったからである。
——普段ダンスに興味のないアリシアは、知る由もなかったのだが。

エリオットのエスコートは素晴らしかった。
踊り慣れず、たどたどしい動きのアリシアを上手くサポートし、余計な動作すらダンスのアレンジに変えてしまう。
まるで羽根が生えたように自由に踊ることができ、アリシアは初めてダンスが楽しいと思った。
さっきまでの寂しさなどどこかへ行ってしまい、笑顔で顔を上げれば、エリオットが優しい瞳でアリシアを見つめていた。

さすがイケメンは何をしてもイケメンなのね!
モテ男に興味はなかったはずなのに、気を付けないと沼に落ちてしまいそうな魅力があるわ。
……まあ、私には効かないけれど。

強がっていても、とっくに胸はドキドキと高鳴っている。
それを全て、久しぶりのダンスで息が上がったせいにして、アリシアはステップを踏み続けた。

やがて一曲終わると、エリオットがさりげなく提案した。

「良かったらもう一曲どうかな? せっかく体がダンスの感覚を思い出してきた頃だろう? 私もアリシア嬢とのダンスはとても楽しいし、もう少し君と踊っていたいな」
「私も楽しいです。エリオット様がそうおっしゃるならもう一曲だけ……」

アリシアは忘れていた。
この国では、二曲続けて踊ることは、婚約者以上の関係を意味していることを——。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

良くある事でしょう。

r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。 若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。 けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都
恋愛
 ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。  そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。  それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

転生公爵令嬢は2度目の人生を穏やかに送りたい〰️なぜか宿敵王子に溺愛されています〰️

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リリーはクラフト王子殿下が好きだったが クラフト王子殿下には聖女マリナが寄り添っていた そして殿下にリリーは殺される? 転生して2度目の人生ではクラフト王子殿下に関わらないようにするが 何故か関わってしまいその上溺愛されてしまう

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

処理中です...