サイオニック・レイヤーズ

来星馬玲

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羅刹の風神、雷神

雌の色香は雄の本性を目覚めさせる

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 アラベナが立ち去ってから、一人部屋に残されたぼく。暫しの間、ぼくは寝台に腰を下ろしたまま、昨日の出来事を反芻していた。

 あの廃工場内で繰り広げられた惨劇が終わったあと、アユミはライキに見捨てられた三人の羅刹たちと一緒にレイヤーズの施設内へと搬送された。もちろん、ぼくも同行して傍に付き添っていたけど……あれから、ぼくの呼びかけにアユミが応えたことは一度もない。思えば、アンジュによってこの地下施設から連れ出されてから、ぼくはアユミと言葉を交わしていないんだ。

 ……アンジュ。アンジュの遺体は……やはり、レイヤーズによってどこかへと運ばれていった。アンジュだけでなく、アユミの暴走に巻き込まれて命を落とした、あの羅刹の戦闘員もまた。

 手厚く葬られるのだろう……当初は漠然とそう思ったんだけど、どこへ連れていかれるのかと彼女を運んでいるレイヤーズの仲間に尋ねた際の……一瞬だけ過った、何か後ろめたい感情の露呈を……ぼくは、見逃さなかったんだ。

 羅刹の構成員だった他の三人が軽傷で済んでいたのは幸いだった。ナギの話によると、ライキが三人の身体に植え付けた炎は長時間苦しめることを目的としていたから、先のアユミやアンジュのように、サイオニックの生命活動に必要とされるサイオエナジーを焼き付くすほどのものではなかったのだという。ほっとしたけど、その一方で、ライキの残虐性によるものだという事実に、ゾッとする。

 ぼくはその三人とも言葉を交わしている。いざ、話してみると、彼女たちもまた普通の女の子だった。ただ、サイオニックだというだけで羅刹党に目をつけられ、よくわからないうちに、羅刹の幹部に服従する戦闘員の一員に加えられたのだという。

 羅刹の勧誘は、人間社会から外れた能力者になったことで戸惑っていた彼女たちにとっては、救いの手に思えたそうだ。でも、それは当初の間だけ。気づいたら、もう後戻りのできない立場に立たされていた。

 彼女たちには上司に対する圧倒的な恐怖心が植え付けられていた。裏切れば、即座に処刑される。実際、見せしめと称して、組織内で命を奪われ、闇へと葬られた仲間もいたそうだ。あまりにも……悍ましい話だった。

 だから、彼女たちはレイヤーズたちによって保護されたことを素直に喜んでいた。当初は、レイヤーズにどんな形で利用されるのかと半信半疑といった様子だったけど、レイヤーズの仲間が親身に接してくれたおかげでその疑いも晴れてきたようだ。

 ただ、三人の中の一人――あの、人一倍ライキにすがっていた少女は……何時になったら、家に帰してもらえるのかとレイヤーズの仲間に尋ねたんだ。そしたら、そのレイヤーズは言葉を濁してしまって……わからない、とだけ答えた。

 その少女は半泣きになって、こう繰り返したんだ。お家に帰りたい、お家に帰りたいよぉ……って。

 見かねたナギが少女を優しく介抱してあげた。その時のナギが……なんだか、愛娘をあやしているお母さんに見えて、まるで慈愛に満ちた母子像を前にしているようで、ぼくも心を奪われてしまった。ナギにあんな一面もあるんだな……と、感動を覚えたくらいだ。

 ナギのお陰で、その子は大分落ち着いた。でも、ナギはぼくにだけそっと教えてくれたんだ。サイオニックに覚醒した者はもう、人間社会に戻さないというのが政府が裏で取り決めた決定事項だから、少女の望みが叶う希望は……現状のままでは残されていない、と。

 レイヤーズは……政府との契約により、活動を認められているサイオニックたち。それ以外のサイオニックは、人類を旧世代に引き戻してしまう者として、忌み嫌われている。いや……レイヤーズという組織の存在もまた、政府にとっては全てのサイオニックを敵に回さないための妥協案に過ぎない。サイオニックという新人類の登場によって猿に戻されることを、人類が拒んでいる……と。ナギはそこまで見通していたんだ。

「でもね。あたしたちには、レイヤーズしか居場所がないから。なら、仲間が帰ることのできるこの場所を皆で協力して守らないと……ね」

 ナギの言葉。ぼくはそれに対して気の利いた発言の一つも出来なかったけど、そんなナギの生き方に仄かな憧れを抱いたんだ。

 自分にできることをする……今はそれしかない。

 ぼくは気を引き締め、寝台から腰を上げようとした。でも、思いとどまった。不意に部屋の中に入り込んできたハーブのものと思しき芳香……その香りによって、全身がマヒしたように硬直してしまったからなんだ。

「……アラベナさん?」

 アラベナが戻ってきたのだろうか? そう思い、出入り口に顔を向けるとそこに立っていたのは……。

「カナデ……さん?」

 カナデはぼくの方をちらりと一瞥する。それから部屋の中を見渡し、何か不思議そうな顔をした。

「アラベナは……いないのね」

 カナデはそう言うと、手に持っていた丸い受け皿が一体化している鉢植えを、アラベナが使っていた机の上に置く。

 アラベナが「明晰夢」と呼んでいた黄色い花の隣に並んだのは……彼岸花のような真紅の細かい花びらが全方向に広がっている、奇妙な形状の草花だった。

「アラベナさんなら、さっき部屋を出ていきましたよ。もう診察は済んだからって」

 具体的に何が診察だったのか……判別できないけど、ぼくがあの幻想上の地底世界を巡っている間に終わってしまったのだろう。

「そう……」

 ぼんやりとした、気の抜けた表情カ。いつも凛としている印象のカナデだったけど……何故か、今はそわそわしているように見えた。

 何となくだけど、ぼくは不安を感じていた。部屋の中には二つの花の香りが充満していて、ぼくの意識を混乱させている……そんな気がしたんだ。

 もうアラベナさんとの用事も済んだんだ。早めに立ち去ろう――なかなか力が入らなかったけど、何とかして重い腰を浮かせて、立ち上がろうとした。

「待って……」

 カナデの声。妙に……ねっとりとした声色だった。

「え?」

 カナデがぼくのすぐ隣に座ってきた。ぼくはカナデの行動に驚き、言葉を失う。

 間近で見ると……カナデの衣装はやはり際どい。初対面の時と同じ服装であり、その造形の濃さはコスプレイヤーとしても活動している彼女の日常を想起させてくる。

 胸元が大きくさらけ出されている和服。青紫色の布地は、カナデの小麦色の肌をより際立たせ、濃厚過ぎる女の色香を醸し出している。短すぎる下の丈から覗いている太ももも悩ましく、そこから薄い布一枚を隔てた先にあると思しき女の子の部分を連想せずにはいられない。

「な……なに?」

 自分でも、どぎまぎとした口調になっているのがわかる。何だか、身体が変だ。熱い。全身の血管が脈打っているようだ。

「ねえ。少し……話していかない?」

 そう言ってぼくの顔を覗き込むカナデ。カナデの息遣いが顔面に当たったことで思わず視線を下に落とすと、接近してくるむっちりした双丘が目に入ってしまい、あわてて逸らした先にはこれも肉感的な太もも。藤色のニーソックスによって肌色が一層目立っている。

 一番無難な位置。カナデの姿が入らない方へ視線を向ける。そこにはぼくの下半身があって……。

 ぼくは……ギョッとした。ぼくのズボンが異様なほどに盛り上がっている……大きな傘をさしているような……。

 この身体中を熱に浮かせている流れの行き着く先。それは固く勃起した……ぼくのペニスだった。
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