サイオニック・レイヤーズ

来星馬玲

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羅刹の風神、雷神

快楽の罠は、既に張り巡らされていた

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 カナデは両手を伸ばして、ぼくの顔に触れてきた。彼女から視線を逸らしていたぼくの顔を持ち上げ、お互いの正面を向き合わせる。

 間近に迫る、カナデの艶めかしい吐息。悩ましく、熱っぽい表情。普段の……冷静沈着でクールな彼女とは大きく異なる、とても淫らな雰囲気。

(おかしい……変だ)

 ぼくには、カナデが正気であるとは思えなかった。一体何がカナデの身に……そして、ぼくの身体に起こっているのだろう。

 勃起しているぼくのペニス。痛いくらいに固くなっていて、下着とズボンによる圧力からの解放を訴えているかのようだった。いや、それだけじゃなく……その先の淫らな行為を求めているのも明らかなわけで。

「ここ……」

 カナデの手がすーっと伸びて――。

「え? ……う」

 ぼくのズボンの上に押し当てられた。

「う……な、なにを」

 そのままズボン越しにぼくのペニスを握る動作を繰り返してくる。手づかいは優しく、しかし厭らしい。性感を刺激され、ぼくは呻いてしまう。

 カナデの吐息が強まると同時に、ぼくの呼吸もまた、荒くなる。

「やめて……」

 されるがままになっていたぼくは、辛うじてそう訴えた。それは非力な抵抗に過ぎず、カナデの行為は段々とエスカレートしていく。

 最初はズボン越しに触れていたのが煩わしくなったのだろうか。カナデはぼくのズボンのジッパーに手をかけると、ボタンをはずし、一気にずり下げてきた。更にはズボンそのものを引きずり下ろし、下着に触れてきた。

 艶めかしくも早急な動きだった。ぼくはなおも止めようとしたけど、カナデはお構いなし。あっという間に下着も膝まで下げられた。

 解放された肉棒が、勢いよく天を衝く。カナデは待ってましたとばかりにそれを両手でしごいてくる。丹念に、何度も何度も。

 尿道が圧迫され、快楽の中枢を電撃が奔る。手だけでこれほどの快感は与えられたのは初めてだった。でも、それは得体の知れない領域に立たされているという恐怖心をもたらしている。

「やめてよ、こんなこと……しちゃダメだ」

 もはや、懇願に近い。何か自分が悪いことをしたせいで、こうして罰を受けているのだという気持ちが沸き起こってくる。

「自分に正直になって……」
 
 カナデが艶めかしい声でそう言った。

(違う……こんなの……嘘だよ)

 言葉に出すことも叶わぬ感情。ぼくははっきりと否定したかった。でも出てくる声は、カナデによって与えられる快楽に対する、情けない喘ぎ声。とても男が出す声とは思えない。

 カナデは豊満な身体をとてもいやらしくくねられせている。大きな乳房が弾み、あと少しだけズレたら、着物から乳首が露出しそうだ。

(危険だ。このままじゃ……)

 身体が異様に興奮してきている。ぼくのペニスがこの行為の先を望んでいるのは明らかであり、それが互いの求め合おうとする情欲を余計にかきたてていく。カナデだけでなく、ぼくまでが歯止めが利かなくなりそうだった。

 カナデは肉棒から手を離すと、唇で亀頭に吸い付いてきた。そのままタコのような口づかいで吸い上げ、カリを刺激してくる。

「くぅ……あ」

 このフェラチオ行為もまた、過去に感じたことのないほどのものだった。カナデという女性は、男を悦ばせる術を熟知しているのだろうか。

(う……ま、まずい)

 こみ上げてくる、射精感。勃起したペニスに欲望のたぎりが凝縮されていき、今にも放出されようとしている。

 カナデはぼくの顔をちらりと見やると、口を上下に動かして肉棒全体を刺激し始めた。愛撫されている雄の射精の瞬間が近いことを知った、雌の表情だった。

 ぼくはもう、もはやそれ自体が女性器との交わりに匹敵するカナデの口淫がもたらす快感に耐え切れなかった。

「く……うぅぅ」

 限界までせき止められていたものが、一気に放たれた。ぼくの身体の中のエナジーがドクンドクンと流出し、頭の中が白滅する。

「ん……ん……ん」

 カナデは喉を動かし、口内に流し込まれている精液をごくごくと飲み下している。ぼくの射精は、ビクンビクンという痙攣にも似た肉の動きと共に第二波、第三波と勢いよく放出されたが、カナデはなおも貪欲に飲み込んでしまったんだ。

「カ、カナデ……」

 出し切ったあとの気怠さのまま、ぼくはカナデの名を呼んだ。カナデは口の周りについていたぼくの精液をペロペロと舐め、全然物足りないとでも言うように、萎んでいくぼくのペニスを舐め回す。

 カナデの瞳には、なおも淫靡な情炎が揺らめいている。明らかに正気の沙汰とは思えなかった。

(そうだ……正気じゃない。こんなの……いつものカナデと全然違う)

 カナデの正気を失わせているもの。それが何かと考えを巡らす。そして、答えはすぐに導き出された。

(この匂い……)

 机の上に置かれている二つの花。一つは催眠効果によって、ぼくをあの緑の園が広がる地底世界に誘った黄色い花。もう一つは、カナデが持ち込んだ赤い花。おそらく、二つ目の花もアラベナが創り出したものなのだろう。その香りは恐らく、人の欲望をかきたて、淫らな行為に奔らせる効果を備えている。

 ぼくたちは、アラベナの策略にまんまとハマったんだ。

(駄目だ。こんな行為、お互いに望んでなんかいないんだ)

 射精を一旦終えたことで、ぼくの意識は多少なりとも欲情のしがらみから抜け出している。だけど、異常なまでの絶倫であるこの身体だ。すぐに行動へ移さなければ、本当に取り返しのつかない事態になる。

 意を決したぼくは、カナデの身体を思いっきり突き倒した。不意を突かれたであろうカナデは、寝台の上に押し倒される。か細い悲鳴が、ぼくの背徳感と情欲を同時に刺激してきたけど、思いとどまればアラベナの思うつぼだ。

 ぼくは急いで立ち上がると、乱れていた服装を整えた。そのままカナデに背を向け、部屋の出入り口へと駆けこむ。

「待って」

 カナデの止める声。でも、意識した途端、部屋中に充満している花の芳香に危うく飲まれそうになった。……これ以上、ここに居てはいけない。

 ぼくは一切振り返らず、部屋の外へと走り出た。そのまま廊下を走り続ける。

 もう、あの部屋へ戻ってはいけない。ぼくそう固く決心していた。
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