ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery

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望んだ青春ライフ送れなくて詰んでる

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「付き合ってください!」
 
放課後の体育館の裏。
俺は今、告白をしている。

ぐっと頭をさげて手を前に差し出す。
心臓がどくん、と大きく跳ねるのがわかった。
 
お願いだ。この手をとってくれ。
今度こそ……今度こそ、この……俺の運命の相手と一緒になって夢のハッピーライフを送るんだ。

その時、彼女は言った。

「……無理です」
「えっ」

ぽかん、とする。

「彼氏いるので無理です!」

あれ、俺……今フラれた?
しかも彼氏がいる!?

覚悟を決めた第23回目の告白はあっけなく散った。

「クソおおおお、またフラれた~~~~!」

教室に戻る廊下で声にならないうめきを押し殺しながら、俺……浅海凪(あさみ・なぎ)は、体育館に繋がる階段下で待っていた友達の元へ足早に駆け寄った。

「まーたダメだったのかよ」

廊下の壁にもたれかかっていた加賀谷悠馬(かがたに・ゆうま)が大袈裟に頭を抱える。

こいつは派手な金髪のくせ毛にピアスという、校則ギリギリを攻める男子。
クラスのムードメーカーで、俺の失恋にも毎回つきあってくれる貴重な存在だ。

しかも毎回笑ってくれるから、こっちも救われるんだよなあ。


「今回こそはいける気がしたんだけどなあ……」

一つ下の学年の天谷唯奈ちゃん。
たまたま唯奈ちゃんが廊下で、ハンカチを落としたことから俺たちの出会いは始まった。

ハンカチを拾って渡したら、少しはにかみながら「ありがとうございます」って言われて、その顔が俺には天使みたいに見えたんだよなぁ……。

それからすれ違うと話をするようになって、おとなしそうな見た目なのに、話すと案外ハキハキするところとか、正義感が強いところが好きだった。

『凪くんみたいな人、話しやすくて一緒にいると楽しい』

なんて言ってくれたから、これはもしかしたらイケるかもって、期待して告白したらこの様だ。

「その気がするが、毎度ハズレてるのよ。もうちょっとデータ収集してからいけよ~普通彼氏いるかどうかくらい調べるだろ」

「それは分かってるんだけどさぁ……」

反論する気力もなく、はぁとため息をつく。

いつも勢いで行動してしまう自覚はある。
すると、その隣で静かに笑っていた綿貫一樹(わたぬき・いつき)が言った。

「悠馬は恋すると周りが見えなくなるからな」

一樹は黒縁メガネが特徴的で勉強が得意な理系男子。
趣味は読書らしく、人混みが嫌いで、とにかく核心を突くことを言ってくるので、よくグサッとくることも多い。


「にしても、23連敗してるんだからいい加減学んだら?サルでも学ぶのに凪はサル以下だね」

こいつ、こうやって笑顔のまま刺してくるんだよなぁ……。

分かってるよ、分かってるんだけどおおお!
俺はこういう時なぐさめて欲しいのよ!

よし、こういう時は……。

「うわああああん、ふたりにいじめられたぁ……!」

俺は奥でやりとりを見ていた碧斗に駆け寄っていき、胸に顔をうずめた。

「凪」

碧斗は俺の頭に手を添えて、ゆっくりと頭を撫でてくれる。

「……よしよし、かわいそうに」
「碧斗~~」

碧斗の優しさが心に沁みる。
やっぱり俺の味方は碧斗だけだ。

久遠碧斗(くおん・あおと)
俺と同じクラスの男子で、身長は187センチくらいある。

黒髪は少しだけ前髪が目にかかるくらいで、切れ長の目に薄い唇、女子がキャーキャー言うくらい整った顔。
……正直羨ましい。

「俺が碧斗みたいな見た目だったら、こんな連敗記録作ることはなかったのかな」

「そんなことないよ」

碧斗は優しくそう言ってくれた。

「いや、そんなことはあると思うぞ」
「うん……たぶんフラれないと思う」

悠馬と一樹は声を揃えて言う。

「お前ら~~!」

こいつらには心がないのか!?

「……碧斗だけだよ、俺に優しくしてくれるの……」

俺はシクシク泣くそぶりをみせながら小さくつぶやく。

「碧斗だって、頑張ってるもんね」

そう、頑張ってるんだ。
これでもな。

「「また甘やかしてる……」」

悠馬と一樹があきれたように言った。

こんなのが俺の日常だ。

みんな同じクラスの高校2年。
そろそろ進路も考え出さないといけないだるい時期。

我ながらいい友達に恵まれたと思うけど、俺の青春ライフはまだまだ先らしい。


その日の帰り道、ホームルームが終わり俺たちは4人並んで駅まで歩いた。
西日がまぶしくて、照り返しでアスファルトがじんわり光ってる。

季節はもうすぐ夏。
なんかこう、センチメンタルになる気温だった。

「あ"~~あちぃ……」

「あんま暑いって言わないでくれる?こっちまで暑くなるでしょ」

一樹が気だるげに言う。

「俺……このままロクに恋愛も出来ずに生涯を終えるのかなあ」

「お前は恋愛したいのか?」

「そりゃしたいだろ!」

話題はいまだに俺のさっきの告白の話だ。

ああ、なんか悲しくなってきた。
何回も告白してるのに、今だ成功はなく彼女が出来たためしがない。

高校生になったらきっと、甘酸っぱいキラキラライフが送れると思ってたのに……。
このままフラれ続けて相手もできず……周りの幸せそうな姿を見ていかなきゃいけないなんて……。

「なんてツラい人生」

夕焼けが差す歩道をとぼとぼ歩きながらつぶやく。

「さすがに可哀想に見えてきた」

一樹でも同情してくれるようになったか。

「でもさ、凪も悪いぜ?すぐ一目ぼれするし、そんなに相手のこと知らないのに突き進むし……」

う“……。
悠馬の純粋なつぶやきに心をグサっと刺される俺。

そりゃぁそうかもしれないけどさ、勢いが大事な時だってあるだろう?

ほら、男らしさをアピールするならこう勢いに任せてだなぁ……。

「短絡的なんだよ」

一樹はメガネをくいっとあげながら言う。

「恋愛の勝率を上げたいなら、もっと相手のことを知らないと」

これでも知ったつもりだったんだよ。
唯奈ちゃんが彼氏がいるってことは知らなかったけど……。

俺たちのやりとりを黙って聞いている碧斗。

「まっ、じゃあ俺誰か紹介してやるよ」
「マジで!?」

悠馬は誰とでも仲良くなれるタイプで、男女共に友達が多い。
悠馬に紹介してもらって、出かけたりして仲を深めていく方が上手く行くかもしれねぇ。

「じゃあ参考までに凪はどんな子がタイプなの?」

「タイプか……」

あんまり考えたことなかったな。
今までは直感つーか、いつもピンっと来たら好き!ってなってたし。

「……うーん、一緒にいて落ち着く人、かな」

ぽつりと口にすると、横で悠馬が少し驚いた顔をした。

「へぇ、意外とちゃんとしてんじゃん」

「意外とってなんだよ」

俺の言葉に一樹が続ける。

「それから?」

「無理に話さなくても平気で、沈黙があっても気まずくならない人」
「うんうん」

「あと……優しくて俺のことめっちゃわかってくれ、俺が落ち込んでる時はそっと側にいてくれる人」

自分で言ってて、ちょっと恥ずかしくなってきたぞ。

「つまり俺のこと大事にしてくれる人がいいな!」

ちょっと恥ずかしくなり鼻をかく。
悠馬に「そんな都合のいい人いない!」とか言われそうだな。

なんて思ったら、悠馬は少し考えた後ひらめいたように目を大きく開いた。

「分かった!いるよ、凪にピッタリの人が!」

「本当か!?」
「うん」

悠馬がニコニコしながら言う。

スマホでも出してその人の写真を見せてくれるのかと思ったら……。
悠馬はある人の腕を引いて、こっちに連れてきた。

「えっ」

俺の目の前に手を引っ張られやってきたのは、なんと碧斗で……。

「凪にピッタリの人……碧斗だよ」
「はっ?」

俺は思わず声が裏返った。

「今考えてみたんだけど、全部碧斗が当てはまってると思うんだ」

「俺?」

碧斗が不思議そうに首を傾げる。

「なるほど、確かにな」

一樹も悠馬の意見に同調する。

確かにじゃなくてだなあ!

「だって、優しいし、凪のことめっちゃわかってるでしょ?凪が落ち込んでる時は側にいてくれるし、なにより凪を一番大事にしてるじゃん!」

そう言って、悠馬が俺と碧斗を交互に見る。
碧斗は相変わらず無表情で、なにを考えているのかサッパリ分からない。

そう言われれば確かに当てはまっているような気がするが、碧斗はちげぇだろ!

誰が男を……しかも友達を紹介しろって言ったんだよ。

「お前ら……適当に決めやがって!俺のことだからどうでもいいって思ったんだな!」

俺が怒りながら伝えると、悠馬は腕を組みながら堂々と言った。

「いや、意外とそうでもないぞ」

どこがだよ!

「そうだね。案外相性ばっちりだったり?」

一樹も言う。
すると悠馬は俺の手と碧斗の手を無理矢理手を繋げさせた。

「ってことで、カップル成立おめでとう~!!」

お、お前……!
一樹も真面目な顔をして拍手をしてくる。

こいつら、まじで悪ノリがすぎるぞ。

俺は失恋で傷ついてるっていうのに、からかいやがって……!

もういい。そんなテキトーされるならノってやるよ。

「じゃあ俺……碧斗と付き合うわ」

ふざけ半分、ヤケ半分。
碧斗の肩を組みながらそう伝える。

「確かに碧斗が俺のこと一番理解してくれるしぃ?こんな俺にも優しいし、包み込んでくれるしぃ?」

碧斗の方を見つめながらそんなことを告げる。

「俺ら付き合いまーす」

俺がそう告げると、碧斗は一瞬、きょとんとした後いつもみたいに穏やかに笑った。

「うん、そうしようか」

その返事は、あまりにもあっさりと俺の耳に届いた。

顔を上げると、碧斗がなにを考えているか分からない表情でこちらを見ていた。

黒髪の前髪がさらりと額にかかり、どこまでも冷静な目が俺を捉えている。

──ドキ。

な、なんだよ。その本気みたいな目。
ちょっとドキッとしちまったろーが!

その時、隣にいた悠馬がふざけた声を上げた。

「これで本当にカップル成立~~~!」

「告白初成功おめでとう」

ついに23連敗の記録が破られたか。
って、なにが嬉しくて告白初成立が碧斗なんだよ……!

なーんて色々思ったが、もうつっこむ気も起きなかった。

「これからは碧斗に幸せにしてもらえよ、凪」
「あー、はいはい」

俺のキラキラ青春ライフは遠いまた夢の先。
あー誰か、俺のこと大事にしてくれるっていう子……本当にいねぇかな。


 


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