1 / 5
望んだ青春ライフ送れなくて詰んでる
しおりを挟む「付き合ってください!」
放課後の体育館の裏。
俺は今、告白をしている。
ぐっと頭をさげて手を前に差し出す。
心臓がどくん、と大きく跳ねるのがわかった。
お願いだ。この手をとってくれ。
今度こそ……今度こそ、この……俺の運命の相手と一緒になって夢のハッピーライフを送るんだ。
その時、彼女は言った。
「……無理です」
「えっ」
ぽかん、とする。
「彼氏いるので無理です!」
あれ、俺……今フラれた?
しかも彼氏がいる!?
覚悟を決めた第23回目の告白はあっけなく散った。
「クソおおおお、またフラれた~~~~!」
教室に戻る廊下で声にならないうめきを押し殺しながら、俺……浅海凪(あさみ・なぎ)は、体育館に繋がる階段下で待っていた友達の元へ足早に駆け寄った。
「まーたダメだったのかよ」
廊下の壁にもたれかかっていた加賀谷悠馬(かがたに・ゆうま)が大袈裟に頭を抱える。
こいつは派手な金髪のくせ毛にピアスという、校則ギリギリを攻める男子。
クラスのムードメーカーで、俺の失恋にも毎回つきあってくれる貴重な存在だ。
しかも毎回笑ってくれるから、こっちも救われるんだよなあ。
「今回こそはいける気がしたんだけどなあ……」
一つ下の学年の天谷唯奈ちゃん。
たまたま唯奈ちゃんが廊下で、ハンカチを落としたことから俺たちの出会いは始まった。
ハンカチを拾って渡したら、少しはにかみながら「ありがとうございます」って言われて、その顔が俺には天使みたいに見えたんだよなぁ……。
それからすれ違うと話をするようになって、おとなしそうな見た目なのに、話すと案外ハキハキするところとか、正義感が強いところが好きだった。
『凪くんみたいな人、話しやすくて一緒にいると楽しい』
なんて言ってくれたから、これはもしかしたらイケるかもって、期待して告白したらこの様だ。
「その気がするが、毎度ハズレてるのよ。もうちょっとデータ収集してからいけよ~普通彼氏いるかどうかくらい調べるだろ」
「それは分かってるんだけどさぁ……」
反論する気力もなく、はぁとため息をつく。
いつも勢いで行動してしまう自覚はある。
すると、その隣で静かに笑っていた綿貫一樹(わたぬき・いつき)が言った。
「悠馬は恋すると周りが見えなくなるからな」
一樹は黒縁メガネが特徴的で勉強が得意な理系男子。
趣味は読書らしく、人混みが嫌いで、とにかく核心を突くことを言ってくるので、よくグサッとくることも多い。
「にしても、23連敗してるんだからいい加減学んだら?サルでも学ぶのに凪はサル以下だね」
こいつ、こうやって笑顔のまま刺してくるんだよなぁ……。
分かってるよ、分かってるんだけどおおお!
俺はこういう時なぐさめて欲しいのよ!
よし、こういう時は……。
「うわああああん、ふたりにいじめられたぁ……!」
俺は奥でやりとりを見ていた碧斗に駆け寄っていき、胸に顔をうずめた。
「凪」
碧斗は俺の頭に手を添えて、ゆっくりと頭を撫でてくれる。
「……よしよし、かわいそうに」
「碧斗~~」
碧斗の優しさが心に沁みる。
やっぱり俺の味方は碧斗だけだ。
久遠碧斗(くおん・あおと)
俺と同じクラスの男子で、身長は187センチくらいある。
黒髪は少しだけ前髪が目にかかるくらいで、切れ長の目に薄い唇、女子がキャーキャー言うくらい整った顔。
……正直羨ましい。
「俺が碧斗みたいな見た目だったら、こんな連敗記録作ることはなかったのかな」
「そんなことないよ」
碧斗は優しくそう言ってくれた。
「いや、そんなことはあると思うぞ」
「うん……たぶんフラれないと思う」
悠馬と一樹は声を揃えて言う。
「お前ら~~!」
こいつらには心がないのか!?
「……碧斗だけだよ、俺に優しくしてくれるの……」
俺はシクシク泣くそぶりをみせながら小さくつぶやく。
「碧斗だって、頑張ってるもんね」
そう、頑張ってるんだ。
これでもな。
「「また甘やかしてる……」」
悠馬と一樹があきれたように言った。
こんなのが俺の日常だ。
みんな同じクラスの高校2年。
そろそろ進路も考え出さないといけないだるい時期。
我ながらいい友達に恵まれたと思うけど、俺の青春ライフはまだまだ先らしい。
その日の帰り道、ホームルームが終わり俺たちは4人並んで駅まで歩いた。
西日がまぶしくて、照り返しでアスファルトがじんわり光ってる。
季節はもうすぐ夏。
なんかこう、センチメンタルになる気温だった。
「あ"~~あちぃ……」
「あんま暑いって言わないでくれる?こっちまで暑くなるでしょ」
一樹が気だるげに言う。
「俺……このままロクに恋愛も出来ずに生涯を終えるのかなあ」
「お前は恋愛したいのか?」
「そりゃしたいだろ!」
話題はいまだに俺のさっきの告白の話だ。
ああ、なんか悲しくなってきた。
何回も告白してるのに、今だ成功はなく彼女が出来たためしがない。
高校生になったらきっと、甘酸っぱいキラキラライフが送れると思ってたのに……。
このままフラれ続けて相手もできず……周りの幸せそうな姿を見ていかなきゃいけないなんて……。
「なんてツラい人生」
夕焼けが差す歩道をとぼとぼ歩きながらつぶやく。
「さすがに可哀想に見えてきた」
一樹でも同情してくれるようになったか。
「でもさ、凪も悪いぜ?すぐ一目ぼれするし、そんなに相手のこと知らないのに突き進むし……」
う“……。
悠馬の純粋なつぶやきに心をグサっと刺される俺。
そりゃぁそうかもしれないけどさ、勢いが大事な時だってあるだろう?
ほら、男らしさをアピールするならこう勢いに任せてだなぁ……。
「短絡的なんだよ」
一樹はメガネをくいっとあげながら言う。
「恋愛の勝率を上げたいなら、もっと相手のことを知らないと」
これでも知ったつもりだったんだよ。
唯奈ちゃんが彼氏がいるってことは知らなかったけど……。
俺たちのやりとりを黙って聞いている碧斗。
「まっ、じゃあ俺誰か紹介してやるよ」
「マジで!?」
悠馬は誰とでも仲良くなれるタイプで、男女共に友達が多い。
悠馬に紹介してもらって、出かけたりして仲を深めていく方が上手く行くかもしれねぇ。
「じゃあ参考までに凪はどんな子がタイプなの?」
「タイプか……」
あんまり考えたことなかったな。
今までは直感つーか、いつもピンっと来たら好き!ってなってたし。
「……うーん、一緒にいて落ち着く人、かな」
ぽつりと口にすると、横で悠馬が少し驚いた顔をした。
「へぇ、意外とちゃんとしてんじゃん」
「意外とってなんだよ」
俺の言葉に一樹が続ける。
「それから?」
「無理に話さなくても平気で、沈黙があっても気まずくならない人」
「うんうん」
「あと……優しくて俺のことめっちゃわかってくれ、俺が落ち込んでる時はそっと側にいてくれる人」
自分で言ってて、ちょっと恥ずかしくなってきたぞ。
「つまり俺のこと大事にしてくれる人がいいな!」
ちょっと恥ずかしくなり鼻をかく。
悠馬に「そんな都合のいい人いない!」とか言われそうだな。
なんて思ったら、悠馬は少し考えた後ひらめいたように目を大きく開いた。
「分かった!いるよ、凪にピッタリの人が!」
「本当か!?」
「うん」
悠馬がニコニコしながら言う。
スマホでも出してその人の写真を見せてくれるのかと思ったら……。
悠馬はある人の腕を引いて、こっちに連れてきた。
「えっ」
俺の目の前に手を引っ張られやってきたのは、なんと碧斗で……。
「凪にピッタリの人……碧斗だよ」
「はっ?」
俺は思わず声が裏返った。
「今考えてみたんだけど、全部碧斗が当てはまってると思うんだ」
「俺?」
碧斗が不思議そうに首を傾げる。
「なるほど、確かにな」
一樹も悠馬の意見に同調する。
確かにじゃなくてだなあ!
「だって、優しいし、凪のことめっちゃわかってるでしょ?凪が落ち込んでる時は側にいてくれるし、なにより凪を一番大事にしてるじゃん!」
そう言って、悠馬が俺と碧斗を交互に見る。
碧斗は相変わらず無表情で、なにを考えているのかサッパリ分からない。
そう言われれば確かに当てはまっているような気がするが、碧斗はちげぇだろ!
誰が男を……しかも友達を紹介しろって言ったんだよ。
「お前ら……適当に決めやがって!俺のことだからどうでもいいって思ったんだな!」
俺が怒りながら伝えると、悠馬は腕を組みながら堂々と言った。
「いや、意外とそうでもないぞ」
どこがだよ!
「そうだね。案外相性ばっちりだったり?」
一樹も言う。
すると悠馬は俺の手と碧斗の手を無理矢理手を繋げさせた。
「ってことで、カップル成立おめでとう~!!」
お、お前……!
一樹も真面目な顔をして拍手をしてくる。
こいつら、まじで悪ノリがすぎるぞ。
俺は失恋で傷ついてるっていうのに、からかいやがって……!
もういい。そんなテキトーされるならノってやるよ。
「じゃあ俺……碧斗と付き合うわ」
ふざけ半分、ヤケ半分。
碧斗の肩を組みながらそう伝える。
「確かに碧斗が俺のこと一番理解してくれるしぃ?こんな俺にも優しいし、包み込んでくれるしぃ?」
碧斗の方を見つめながらそんなことを告げる。
「俺ら付き合いまーす」
俺がそう告げると、碧斗は一瞬、きょとんとした後いつもみたいに穏やかに笑った。
「うん、そうしようか」
その返事は、あまりにもあっさりと俺の耳に届いた。
顔を上げると、碧斗がなにを考えているか分からない表情でこちらを見ていた。
黒髪の前髪がさらりと額にかかり、どこまでも冷静な目が俺を捉えている。
──ドキ。
な、なんだよ。その本気みたいな目。
ちょっとドキッとしちまったろーが!
その時、隣にいた悠馬がふざけた声を上げた。
「これで本当にカップル成立~~~!」
「告白初成功おめでとう」
ついに23連敗の記録が破られたか。
って、なにが嬉しくて告白初成立が碧斗なんだよ……!
なーんて色々思ったが、もうつっこむ気も起きなかった。
「これからは碧斗に幸せにしてもらえよ、凪」
「あー、はいはい」
俺のキラキラ青春ライフは遠いまた夢の先。
あー誰か、俺のこと大事にしてくれるっていう子……本当にいねぇかな。
21
あなたにおすすめの小説
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き
メグエム
BL
伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。
彼氏の優先順位[本編完結]
セイ
BL
一目惚れした彼に告白されて晴れて恋人になったというのに彼と彼の幼馴染との距離が気になりすぎる!恋人の僕より一緒にいるんじゃない?は…!!もしかして恋人になったのは夢だった?と悩みまくる受けのお話。
メインの青衣×青空の話、幼馴染の茜の話、友人倉橋の数話ずつの短編構成です。それぞれの恋愛をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる