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一緒にいると楽しすぎて詰んでる
しおりを挟むあの日から一夜が明けた。
昨日は普通に一緒に帰って解散って形になったものの俺は、昨夜ほとんど眠れなかった。
碧斗がまじでなにを考えてるのか分からねぇ!
今日の朝だって玄関を開けると、昨日となにも変わらない顔で碧斗が立ってるし?
「おはよう、凪」
「……お、おぅ」
いつも通りの笑顔が今は恐ろしく感じる……。
「今日の放課後はなにして遊ぶ?」
「あー……えっと」
遊ぶのは決定なのか?
いや、友達としてなら予定もねぇしいいんだけど!
昨日の話を聞いてから遊ぶってなるとまた特別な意味を持ちそうで……。
「俺の家に来てもらってもいいし、凪の家で漫画読むのでもいいよね」
「お、おう……」
並んで歩く通学路も、地獄のような気まずさだった。
だいたい碧斗は本当に俺のことが好きなのか?
好きだとしたらいつ好きになった?
好きになるような要素ねぇぞ!?
相変わらず分からないことばかりだ。
「冗談だよ」とか「ドッキリでしたー」なんて言ってくれたらスッキリするのに。
教室につくと、いつも通り一樹と悠馬が「おはよう」と声をかけてくる。
こいつらは知ってるのか……?
碧斗が本気で俺の告白を受けたってこと……。
頭の中でモヤモヤと考えなきゃいけないことばかりでパンクしそうになった。
ええい、もう直接聞くしかねぇだろ!
するとちょうどいいタイミングで碧斗が隣のクラスの女子に呼び出された。
碧斗がめんどくさそうに教室から出ていく。
「お前ら、話がある!ちょっと来い」
俺はそう言って悠馬と一樹を呼び出した。
「なに、こんなところまで来て~」
めんどくさそうにいう悠馬。
連れてきたのは人がいない非常階段。
一樹も「本読んでた途中なんだけど」と文句をたれた。
「ちょっと相談があるんだけどよ」
そう言いかけて俺は止まった。
いや、待てよ。
なんて言うんだよ。
碧斗が俺のこと好きみたいなんだけど知ってた?って。
いやいやおかしい。
何言ってるんだってなるよな?
ここはそれとなぁ~く聞いてみることにするか。
「……あのさ、碧斗のことなんだけどよ」
俺はわざとらしく前置きした。
「最近けっこう距離近くね?」
俺がそうやって聞いてみると、ふたりは顔を見合わせてきょとんとした顔をする。
「あー……いや、なんつーかさ」
なんて聞いたらいいか分かんねぇ!
「なんか変じゃないかって!」
コイツらは普段一緒にいるのに気づかねぇのかよ!
あの碧斗の彼氏ムーブ。
見てれば分かるはずだー!
しかしふたりは意味が分からないとでもいいたげな表情を浮かべた。
なんで伝わらねぇんだよ!
「そうかなぁ?」
悠馬はあごに手をあて、考えるそぶりを見せながら答えた。
「別に最近変とかはないけど……碧斗は元々、凪にだけ距離が近いよね?」
一樹に同調を求めると、一樹はこくこくと頷きながら言った。
「そうそう。俺たちにはまだ心開いてないところがあるけど凪には心預けてる感じがするよね」
俺には心預けてる?
そうか?
俺からすれば悠馬にも一樹にも平等に心開いてるように見えるけど……。
いつも一緒にいるのは変わらないしな。
「まっ、碧斗にとっては凪は特別な存在ってことだよ♡」
悠馬は呑気にそう言った。
おい!!
人の話を簡単に片づけんなー!
「っていうかさ、凪は碧斗のことどう思ってんの?」
「は?」
急に質問が俺に飛んで来て俺は動揺する。
「どう、ってなんだよ」
「だってさ、俺が言った通り碧斗と凪合ってるでしょ?」
へへんと誇らしげに笑う悠馬を見て、俺はわなわなと身体を震わせた。
「お前なぁ……!だいたいお前が変なこと言うから……」
「言うから?」
「い、いや……別に」
言うから付き合うことになったんだー!
なんて言ったら変な感じになるに決まってるから言えねぇ。
だってふたりだってノリだって分かってるよな。
分かっていないのは碧斗だけで……。
たしかに碧斗とは気が合うけど、そういうのじゃなくてだな……。
俺は言葉を探しながら言った。
「と、とにかく、気が合うのは当然だ!だってダチなんだからな!」
仲良くしてるのは気が合うからに決まってる!
「そう?俺と凪は合ってる感じしないけど」
一樹が遠慮なしにそんなことを言う。
「それは、えっと……」
合わなくたって仲がいいのはある。
えっーと、えっとつまり?どういうことだ?
すると1時限目開始のチャイムが鳴り響いた。
「やば、急いで戻らないと」
悠馬と一樹は小走りで教室に戻っていく。
つーか、けっきょくなんにも聞き出せなかった……。
しかも逆によく分からなくなったし!
クッソ……聞かなきゃよかった。
俺はとぼとぼと教室に戻っていった。
教室のドアを開ける。
そこには、もう自分の席に戻っていた碧斗の姿があった。
パチリと目が合うと、
……目が、合ってふわりと笑いかけてくる碧斗。
うわ……。
俺は思わず目を逸らした。
もう、そういうのもやめろよな。
俺にやるならみんなにもやってくれ!
なんで俺だけなんだ……っ。
そして、ホームルームが終わった放課後。
碧斗がカバンを持って俺の机にやって来た。
「碧斗、帰ろう」
俺はこんなに悩んでいるというのに、そんなこと気にもせず誘って来やがって……!
俺は今悩んでるんだ!
なんたって友達が急に彼氏になったんだからな!
とりあえず、今は距離を置いてこの状況をどう打開するか考える。
今日はひとまずひとりで帰るぞ!
「いや、今日は……」
そこまでいいかけると、碧斗は被せるように言った。
「今日さ、駅前のカフェ行かない?」
「はあ!?行かねぇし、腹減ってねぇ!」
俺の言葉を被せんなっ!
「そっか……それは残念だな。ほら……新しく巨大パフェが出来たからいつか行きたいって凪言ってたでしょ」
パフェ……。
おお、そういえば前にそんなこと言ったな!
実はめちゃくちゃ行きたかったんだよなぁ。
期間限定で巨大パフェがオトクに食べられるらしくてよ。
3人前とかあるから誰か誘って行こうとは思ってたけど、まだ実現出来てないんだよな。
「それ今日までだったから、行けたらいいなと思ってたんだけど……」
今日まで!?
「まじで!?」
うう“……巨大パフェ……食いてぇ!
脳裏に、SNSで見たそびえ立つ生クリームとフルーツの塔が浮かぶ。
喉がゴクリと鳴った。
だが、碧斗とは距離をおくって決めたんだ!
こんな簡単に自分の思ったことを覆すわけにはいかねぇ。
「俺が誘ったから、お金は俺が払おうと思ってたんだけど……行けないなら残念だなぁ」
「えっ、本気で言ってる?」
「ああ、凪にはついてきてもらえるだけでありがたいから」
ええっ……!
俺の心はときめいていた。
巨大パフェ、碧斗のおごり……。
それって天国……。
「いく!」
気づけば俺は即答していた。
「やった、嬉しい」
……うう、意思の弱い自分を恨みたい。
でも仕方ねぇよな!
巨大パフェに罪はねぇし!
食べなきゃ、巨大パフェにも申し訳ねぇ。
こうして俺たちはふたりで駅前のカフェにやってきた。
駅前のカフェは、放課後の女子高生でほぼ満席だった。
人目が気になるが、彼女と来れない俺は碧斗と来るしか選択肢がない。
あ、いや……今は俺碧斗の彼女なんだっけか?
いや紛らわしいのとは今は無しだ!
俺たちのテーブルに運ばれてきたチョコバナナパフェは、想像を絶するデカさだった。
そびえ立つ生クリームの城。
宝石みたいに散りばめられたフルーツ。
「うお……!でっけぇ!」
「全部食べられるかな?」
「余裕だろ」
俺は感動した。
悠馬も一樹も甘いものが嫌いだ。
こういうのに付き合ってくれるのは碧斗しかいない。
「完食チャレンジな、絶対に食切るぜ」
俺がスプーンを二本持って、ニヤリと笑う。
すると碧斗もやる気満々スプーンを持ち出した。
「どっちが多く食えるか勝負な!」
「仕方ないなぁ」
朝までの気まずさがウソみたいに、俺はテンションが上がっていた。
俺はさっそく上にある生クリームの山に突撃した。
「うめええ!このアイス、超濃厚!」
口いっぱいに頬張ると、冷たい甘さが脳天を直撃する。
「凪、そっちのチョコソースも美味しいよ」
「マジか!」
もう夢中だった。
男同士でこのデカパフェをチャレンジするのは異様な凪景だったが、こうやって好きなものが似てるところとか、同じことで喜べるところが碧斗は友達として最高の存在なんだよなぁ……。
ひとしきり食べて、お腹がだいぶ満たされてくる。
俺も碧斗も疲れたようにイスにもたれ掛かった。
「だいぶ食ったな……」
さっぱりしたイチゴが食いたいが、あとひとつしかない。
碧斗の金だし、ここは遠慮するか……なんて思っていると。
「凪」
碧斗が自分のスプーンを俺の目の前に差し出してきた。
スプーンの上には、一番デカいイチゴが乗っている。
「え」
俺が顔を上げると、碧斗は目を細めながら言った。
「食べたいんでしょ、いいよ。あーん」
「……は?なにして……」
「いいから」
すっと口元に差し出すものだから、俺は思わずパクっとイチゴを口に入れた。
周りの女子たちが俺たちを見てひそひそとウワサする。
「え、今の見た?」
「あーんってしてた……かわいい」
急にカッと血が上る。
恥ずかしすぎるだろ!
「おい、それ……!」
「ん?」
碧斗はなにも気にしていないようだった。
「だって一応デートだから」
「俺は認めてねぇぞ!」
これはデートなんかじゃねぇ。
ダチとの友情物語だ!
「凪が嬉しそうな顔して食べてた姿見られてよかった」
本当に嬉しそうにそんなことを言うもんだから、俺はどこを見ていいか分からなくなった。
なんだよ。
そういう女子を喜ばせるようなセリフやめろよ。
俺と碧斗は彼氏と彼女じゃない。
友達のまま楽しく遊ぶじゃダメなのかよ。
けっきょく、巨大パフェは完食したものの店を出る頃にはすっかり日も暮れかけていた。
並んで歩く帰り道。
駅までの人混みを抜けると、時々歩いている隼人の手が俺の手にあたる。
今まではそんなこと、どうも思わなかったはずなのに妙に意識してしまう。
ああ、もう!
このままじゃダメだ!
碧斗にはちゃんと言わないと!
人通りの途切れた路地で、俺は足を止めた。
「碧斗」
「……ん?」
俺につられて、碧斗も立ち止まる。
俺は、息を一度吸い込んで碧斗に伝えた。
「その……ちゃんと言わなきゃなんねぇことがある」
「なに?」
碧斗は友達だ。
超気が合って一緒にいたら楽しい友達。
それでしかない。
「やっぱり俺……碧斗と付き合うのは無理だ。だから別れてほしい」
俺の声が静かな夜道に響いた。
「そうだよね……」
するとすぐに碧斗からの返事が返ってくる。
なんだ、分かってくれたじゃん!
そうだ。
最初からそういえばよかったんだ。
ノリで付き合っちまったのは不本意だったが、すぐに別れればそれは終わり。
俺は全然無かったことに出来るし、問題無し!
そんなことグダグダ悩まないですぐに言えば良かったぜ。
すると、碧斗は笑顔を作りながらさらに続けた。
「でも……無理かな」
「えっ」
さっき納得したんじゃ……。
「だって付き合ってって言ったの凪じゃん」
「それはそうだけど、あの時はノリで……」
「ノリで言っていいことと悪いことがあるよね?」
碧斗はいつもの笑顔を作りながらそんなことを言う。
「そ、それは……っ」
どう考えても分かるだろう?
碧斗だってそんなに勘が悪いわけじゃないはずだ。
すると碧斗は追い討ちをかけるように言った。
「……凪、自分の言葉に責任持とうね?」
爽やかに告げられた言葉に俺は声すら出すことができない。
「じゃあ、これからもよろしく」
そう言うと、碧斗は立ち去ってしまった。
「なんで別れてくれないんだよぅ~」
俺は情けない声を漏らし、壁にずるずると背中を預けることしかできなかった。
まだまだこのノリではない本気の関係が続きそうです。
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