ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery

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別れよう大作戦が失敗し続けて詰んでる

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その日、俺は家にひとりで帰宅した。

当然あれだけ食って腹が減ることもなく、俺は帰るなりすぐに自分の部屋に引きこもった。

そして考えるのは碧斗のことだ。
このまま碧斗と別れられなかったら、恋がはじめられねぇじゃねぇか。

俺のハッピー青春ライフが……。
だいたい俺は女の子が好きなんだよ!

碧斗みたいなイケメンで逞しくて頼れる彼氏が欲しいわけじゃねぇの!
それなのに……碧斗があんな感じなら、もしかしてこのまま一生!?

女の子と付き合えず終わっちまうのか!?
そんなの絶対に嫌だ!

なんとしてでも碧斗には別れることを了承してもらわないとならねぇ。
でもそのまま別れたいって伝えてもダメだったし、どうしたら……。

うーん、と考えて思う。
そうだ……!

別れてもらえないなら、こっちから嫌われればいんじゃないか?

『やっぱりさ、凪のこと好きだって言うのは無しにして』

そうだ!
名案だ!
俺から言うのが無理なら碧斗に嫌われればいいんだ!

俺はひとりで頷く。
そうと決まれば、どうやって嫌われるかだな!

俺は自室のベッドに寝転びながら、スマホで【人に嫌われる方法】と検索した。

なるほど……。
検索結果はすぐに出てきた。

ワガママを言う。だらしない姿を見せる。相手の嫌がることをする……。
たしかに、こういうやつは嫌われるな!
いいぞ!

これは案外簡単に碧斗に無理だと言わせられるかもしれない!
そうと決まれば、さっそく作戦開始だ。
 
翌日。
昨日碧斗に嫌われる方法をばっちり探して対策を練ってきた俺。
完璧だ。

今日はさっそく碧斗にやってやる!

リビングで靴下を履きながら、準備をしていると。

──ピーンポーン。

案の定チャイムが鳴った。
窓の外をふと見れば、碧斗が家の前に立っていた。

来たな、碧斗。
ふっ、俺を嫌いになる日はもう近いぜ。

俺が玄関を開けると、碧斗が「おはよう」と笑顔で出迎える。

ええっとまずは、作戦第一。
わがままを言う……だな。

「はよ」

そして俺は、碧斗の前に行くなり「ん」と自分のカバンを差し出した。

「凪……?」
「今日、教科書重いんだよなぁ~だから碧斗が俺のカバン持ってくんね?彼氏ならそれくらいやるだろ?」

碧斗はぽかんとしていた。

ほら、不快になるだろ?
カバンくらい自分で持てって話だもんなぁ。

俺が急にこれ言われたら、ブチギレる自信があるぜ?
ふふんっとえらそうに碧斗の反応を待つ。

すると彼はさらりと言った。

「ああ、凪が持ってほしいなら全然持つよ」
「えっ」

碧斗は眉ひとつ動かさず、俺のカバンをすっと受け取った。

ちょ……。
そのまま肩に軽々と掛け、なにごともなかったかのように歩き出した。

「今日の1限さっそくテストあるね」
「いやいやいや……!」

お、おかしい。
なんで受け入れるんだよ!

せめて嫌な顔のひとつくらいしろよ!

「どうしたの?」
「あ、いや……カバン……ほ、ほんとにいいのか?」

俺が聞くと、碧斗は目を輝かせながら言った。

「もちろんだよ。凪が俺に頼ってくれるの、なんだか嬉しいし……それに彼氏ってようやく認めてくれたみたいだから」

ち、ちげぇ……!
違う方に捉えちまってる!

まずい、彼氏だからとか余計な言葉付け加えなければ良かった……。

けっきょくわがまま作戦は失敗に終わった。
ええい、もういい次だ次!

俺には何個も作戦がある。
1個失敗したくらいでめげないからな。

それから学校について俺たちは授業を受けた。
次の作戦は……昼休みに実行だ。

ようやく念願の昼休みになり、俺たちは机を向かい合わせて4人で昼食をとっていた。
俺は弁当を開けながら、向かいに座っている碧斗をちらっと見る。

碧斗……今度こそお前にもう別れたいって言わせて見せるからな。
俺はガツガツと口にご飯を詰め込む。

「ちょっ、凪~お腹空いてたの?食べ方汚いよ~」

悠馬が呆れ顔で言う。
一樹もうげ、という目で俺を見ていた。

そうだ、そうだ。その反応が正解だ!

「しょーがないだろ、めっちゃ腹空いてんの」

そして俺はそのまましゃべり出した。

「ほんではぁ~俺は、いっひゃわけよ~」

しかもわざと口の端に一粒、白いごはん粒を残した。
女子だったら「うわ、ついてる」ってすぐ蛙化するやつだ。

碧斗の視線が、ちらっと俺の口元をかすめた。

……お、見てるな。
いいんだぞ。ハッキリ気持ち悪いと思ってもらって。
そんで別れたいと言ってくれたら、俺は止めたりはしない。
だってそれは仕方のないことだからな。

俺の胸は期待に膨らむ。
しかし――。

「……ついてるよ」

なんのためらいもなく手が伸びてきて、俺の口元からそのご飯粒を取る。
すると、あろうことか碧斗はそれをパクっと口に入れた。

なっ……。
お、ま……それ、彼氏が付き合ってる女子とかにやるやつ!!

「ふふ……そんなにお腹空いてたんだ、かわいい」

な、なんでそんなこと平気でできるんだよぅ……。

「凪がかわいい?さすがにそれは……」
「俺も反対」

悠馬と一樹が引いた目で見ている。

そうなんだよ。
そうなるはずなんだよ泣。

なのになんで碧斗にはならない!?

もしかして……碧斗のやつ……ちょっと頭のネジが外れてるんじゃねぇか!?

「碧斗、もしかしてここ最近強く頭をぶつけたりしたか?」

「えっ、してないけど……」

じゃあ一体なんなんだ!

今の所全部失敗に終わってる。

それからも、ちょいちょいわがままを言ったり、ガサツなところを見せたりしてみたものの……碧斗にはなにも響かず……それどころかなんか嬉しそうな顔をする始末。
絶対に別れたいって言わす!と意気込んでたのに、完全に意気消沈してしまった。

もしかしたら碧斗は催眠術にでもかけられているのかもしれない。

でも、そんなことで諦めたらダメだ!
俺は女子と付き合って、ハッピー青春ライフを送るんだ!

そのためならどんなことでもする!

放課後になり、他のクラスの女子が碧斗の周りを囲んでいた。

こういうのはよくあることだ。
羨ましい……じゃなくてだな。

「碧斗くん、この曲聞いてみて~おすすめなの」

碧斗は、放課後遊ぼうと女子から毎日のように誘われている。

そこでだ。
碧斗の嫌がることをするってことで、邪魔をしてやろうと思う。

俺も女子からの誘いを碧斗に邪魔された時は本当に許せなかったからな。
誰だって下心はあるものだろう?

俺は胸を張りながらズンズンっと碧斗のいる場所へ向かっていった。

「おい、碧斗」

その小さな輪にずかずか入っていく。
女子たちが「あ、凪くん」と言ってきたのをほぼ無視し、俺は碧斗の肩をぐっと引き寄せた。

「碧斗は俺と予定あるんで、みんな散ってくんね?」

ちょっと嫌な感じで女子に告げる。
すると碧斗が一瞬きょとんと目を瞬かせた。

女子たちは「え?」と視線を交わし、戸惑いの空気が漂う。

いいぞ、いいぞ。
ほら、碧斗も言え……。

「今女子としゃべってるのに、それはないってな」

不快だって言うんだ!
すると……。

「キャー!!ありあり」
「ふたり、そういう関係?OK!把握しました~」

へっ……?
女子たちはニコニコ笑顔を見せながら黄色い声を出している。

なんか盛り上がってねぇか?
すると、俺の肩をポンと叩く女子。

「凪くん、応援するからね」

そして軽く拳を握り、親指を立ててみせた。
いや、グーじゃなくて……。

そして碧斗がさらりと言う。

「ありがとう、みんな」

いやいやいや!
ありがとうじゃなくてだな。

なにちょっと嬉しそうな顔してんだよ、碧斗は……。

「じゃあ私たちはお邪魔になっちゃうから、またね!」

そう言うと、女子は全員空気を呼んで帰っていった。

「あ、待っ……ちが」

どうして……どうしてこうなる。

「凪、ありがとう……じゃあさ、帰ろうか」

碧斗はなんだか照れくさそうに立ち上がた。

おい、待てよ。
なんか思ったのと違う方に行ってねぇか。

「俺、嬉しかったな。凪があんな風に思ってくれるなんて」

ちげーよ!違うって……!
あれは俺の本心じゃねぇ。

「なんでこうなる……」

けっきょく、俺と碧斗はいつも通りふたりで帰ることになった。
隣にはなんだか嬉しそうな碧斗と。

「はい、カバン持つよ。凪の家までちゃんと運ぶから安心してね」

めちゃくちゃ彼氏ムーブかましてきて……女子の公認をもらっちまったみたいで、さらに別れづらい方に行っちまってる俺。

あーあ。
どうしたらコイツと別れられるんだ……。
っていうか碧斗は俺のどこが好きなんだ?
コイツが俺を好きになる要素あるか……?

「……なぁ、碧斗」
「ん?」
「やっぱお前、催眠術でもかけられてるんじゃね?」

「凪……さっきから何言ってるの?」

不思議そうな顔を浮かべる碧斗。
じゃなきゃおかしいだろ!

「だいたいお前って俺のどこが好きなの」

呆れながらそう尋ねたら時、はっと気がついた。

そうだ。
そうやって追求してやれば、答えられなくてなんで俺……好きだったんだろうって我に返るかも!?

そんな淡い期待を浮かべると、碧斗はゆるやかに笑って言った。

「どこ、って……全部だけど?」
「は?」

「ちょっと不真面目なとことか、意地張るとことか。あと、不器用なのに友達思いなところとか……」

淡々と並べ始める碧斗に、俺は口をぽかんとあける。

答えられんのかよ!

「それにさ、ちょっと拗ねたときの顔とか、困ったときに頭かくクセとか……あ、あとね」
「いや、多すぎだろ!」

「そう?あと3時間くらい語れるけど」
「いらねぇよ」

なんか……。
俺人生で一番、今が愛されてる気がする。

ここまで俺のこと好きって言ってくれるやつ、今後現れないような気さえしてきた。

なにちょっといいかも、とか思っちまってんだよ!

俺がはぁっとため息をつくと、それを見て碧斗は静かに言った。

「ごめんね、凪……もう少しだけ俺のわがままに付き合ってほしい」

眉を下げて俺を見つめる。
その瞳はなんだか寂しげだった。

もう少しだけ……?

すると、俺の返事を待たずにす、と手が伸ばされる。
俺の右手が包み込まれ、碧斗はそのまま俺の手の甲にキスをした。


「なっ……」

ちゅっと微かな音が響くと同時。
俺の心臓もドキンと胸を打った。

「お、おい!」

そういうのやめろ……っ。
なんか顔がいいからときめくんだよ!!

これだからイケメンは……っ。

すると碧斗はまっすぐにこっちを見つめて言う。
 
「凪はさ、優しいんだよ。人に……どんな人にだって優しくしてくれる、から……好き」

碧斗のまっすぐな言葉が、俺の胸に突き刺さる。
その表情はいつものからかうような表情とは違かった。

真剣な表情ででもどこか目は合わなくて、遠くに感じる瞬間──。

碧斗は俺に心を開いてるなんて言うけれど、そうじゃない時があることを知っている。

相手と上手に距離を置いて、自分の殻に閉じこもる瞬間を。




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