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キス、意識しすぎて詰んでる
しおりを挟む祭りが終わり、週があけた今日。
俺は1人で学校に来ていた。
碧斗はというと今日は委員会の仕事があるため、俺よりも先に学校に来ている。
セーフ。
だってあいつが迎えに来たら、どんな顔をしたらいいか分からないから。
花火大会の日。
俺たちはキスをした。
事故で唇と唇がぶつかるだけのキスだったが、あの柔らかくて熱を持った唇の感触を思い出さないようにしても、勝手にフラッシュバックした。
鮮明に思い出せちまう……!
ああ、もう忘れる!
考えないようにしないと!
学校には悠馬と一樹がそろって座っていた。
お祭りにいけなかったふたりはつまんなそうに、机に肘を置きながら言った。
「あ~あ、みんなお祭りの話題ばっかり」
悠馬は悔しそうにつぶやく。
「俺も塾終わって少しでも行こうかと思ったけど、けっきょく人多そうだし帰っちゃった」
「この三人は行けなかった組だね。あーあ、ばーちゃん家がなければ俺もお祭り行けたのにな~」
俺が祭りに参加したことは秘密だ。
この辺の祭りということもあってか、みんながその話題について話していた。
「3組の斎藤さんと史郎くんもふたりで行ってたらしいし?けっこう意外なカップルが花火大会見に来てたんだってさ」
悠馬はあいかわらず情報屋だ。
参加していなくても、情報はきっちり仕入れている。
「なんかさ、友達から聞いたんだけど、今年やけにイチャイチャしてるやつらが多かったらしいぜ」
──ギクッ。
ば、バレてないよな?
ま、まあ俺はイチャイチャとかしてないし、あれは事故みたいなものだしな……。
「リア充羨ましい~」
一樹が棒読みで言う。
「その理由がさ、ジンクスがあるからなんだってさ」
ジンクス……?
「誰かが広めたら最近見事に広まったらしい」
「なんのジンクスだよ」
俺がたずねると悠馬はうんちくを話すみたいに話し出した。
「花火を見ている時にキスをすると、そのカップルはずっと幸せになれるってやつ!」
「ごほっ……ごほ。な、なんだよそのジンクス……!」
思わずせき込んでしまう。
俺と碧斗のことじゃねぇか!
昨夜の出来事が鮮明に蘇ってきて、心臓がうるさく鳴りだしたその時。
「おはよう」
静かな声と共に、碧斗が教室に入ってきた。
「お、碧斗!いいとこに来た!」
悠馬が待ってましたとばかりに碧斗を手招きする。
「今ちょうど花火大会のジンクスの話をしてたわけよ~」
悠馬はそんなことを言うと、碧斗の肩がぴくりと揺れた。
もしかして、碧斗のやつ……そのジンクスを知ってたのか!?
「そうなんだ」
いや、この反応は知らなさそう?
「まっ、凪は家で留守番してたからなにも関係ねぇけどな」
その言葉になにも言い返すことはできなかった。
違うって言った方が厄介なことになりそうだし、ここは黙っておこう。
「凪」
するとふと碧斗に名前を呼ばれる。
──ドキン。
「おはよう」
「お、おは……おはよう」
声が裏返った。
最悪だ。
これじゃ意識してますと言ってるようなものじゃないか。
俺は咳払いをして誤魔化そうとする。
「い、委員会!早かったな!お疲れ!」
「うん。早めに終わらせてきたから」
俺は、碧斗の顔をまともに見ることができなかった。
しかし碧斗はいつもと変わらない様子だ。
自然な動作で俺の隣にいる。
こいつ……!俺とキスしたこと忘れたのか!?
普通お前の方がもっと恥ずかしがるだろ!
こういうことも俺よりも慣れてるってか?
「凪?」
俺が顔を上げないのを不審に思ったのだろう。
碧斗が俺の机に手をつき、顔をのぞき込んできた。
「顔、赤いぞ。どうした?」
「……!」
顔を近づけられると唇に視線がいってしまう。
「な、なんでもねえ!」
俺はガタン!とイスを鳴らして立ち上がった。
「ちょ、トイレ!」
「え、あ、凪?」
碧斗の戸惑う声を背中に浴びながら、俺は教室を逃げ出した。
もうあいつの顔、普通に見れねえじゃねぇか……!
それからも俺は過剰なほどに碧斗の行動ひとつひとつに反応してしまった。
プリントを渡した時に手と手が触れ合えば、びくりと反応してしまうし……碧斗が飲んでいるペットボトルのジュースにくぎ付けになってしまうし……。
しまいには……。
「凪、飲む?」
碧斗がペットボトルを差し出してくるのに対して、顔を真っ赤にしてしまい……。
「い、いらねぇよ!」
普通に今までやってたことに対しても過剰に意識してしまって、一日中心臓がドキドキして休まらなかった。
みんなこうなのか……。
恋するとこうなっちまうのか!?
「ちょっ、外行く」
「あ、凪……!俺も」
「お前は来んな」
ついて来ようとする碧斗を止め、俺は花が植えてある校門前にやってきた。
俺は深いため息をついて花壇の縁に腰を下ろした。
色とりどりの花が風に揺れている。
ちょっと前まで友達だったのに、不思議なもんだよな。
今は意識しまくってて……恋人同士って……。
正直どう一緒にいたらいいのか分かんねぇ。
そもそも俺はこんなに人に対して気持ちが動いたのが初めてだったんだよ!
今までは感覚で好きかも、と思ったらすぐにそれを伝えてた。
だからそれ以上先に進んだことはなかったし、自分の気持ちがこんなに荒波みたいに動いていくのも初めてで……。
どうしたらいいか分からない。
オマケに経験もねぇし(泣)
碧斗は誰かと付き合ったことあんのかな。
……あるよな。
あんなにモテるんだから。
それは女か?それとも男?
あーもう!
色々考えすぎだ!俺らしくねぇ!
それから俺は昼休み終わりのチャイムと共に教室に戻った。
碧斗がなにか言いたげに俺を見ていたが、俺は知らないふりをした。
冷静に、いつも通りにだぞ俺……。
そして放課後。
俺は誰よりも早くカバンを掴んだ。
隣の席を盗み見る。
碧斗は日直の仕事で教壇に立っていた。
先生と何か話している。
チャンスは今しかない。
あいつが背を向けている隙に教室を出るんだ!
「……よし」
足音を消して廊下へ滑り出る。
下駄箱へ向かい、くつを脱ごうとしたその時。
──ガシッ。
「……みーつけた」
右肩に重たい衝撃が走る。
恐る恐る後ろを確認すると、そこには、笑顔の碧斗が立っていた。
爽やかに笑っているのに目が笑っていない。
「どこ行くの?」
「か、帰るんだよ!」
「俺を置いて?」
うう……。
捕まっちまった。
碧斗は俺の首の根っこを掴むように確保した。
「ちょっと、話そうか」
「え、あ、でも俺、用事……」
「はいはいウソはいいから」
碧斗は俺の腕を掴んだまま、有無を言わさず歩き出した。
「おい、どこ行くんだよ!」
「……屋上」
屋上のドアを開け、カンカンと錆びた階段を上る。
碧斗は、屋上のフェンスの前でようやく俺の腕を離した。
お互いに向き合いつつも、気まずい空気が流れる。
「凪」
碧斗の声は、いつもより低い。
「……なんで避けるの?」
そ、そんなの言えるわけねぇだろ……!
キスしちゃって意識しまくってます、なんて恥ずかしすぎる!!
「べ、別に?避けてなんか……」
「ウソだ……今日、ずっと変だった。朝から顔も合わせないしさっきも逃げた」
「そ、それは……!」
碧斗は、苦しそうに顔を歪めて言った。
「花火大会の、あれ。やっぱり嫌だったか」
……!
俺は、カッと顔が熱くなるのを感じた。
嫌とかじゃなくて、わかるだろ!
分かってくれ!
そんで聞かないでくれ!
「ち、違えし!あれは事故だし別に……気にするようなことでもねぇだろ」
あああ……。
なんか俺の方が気にしているみたいで恥ずかしくなって変に強がってしまった。
「そっか。凪は気にしてないんだ」
気にしてる。
めちゃくちゃ、気にしてるから問題なんだよ!
でもそんなことを素直に言える俺じゃない。
俺は今めちゃくちゃ恥ずかしいんだよ!
「き、気にしねぇー……」
俺がしどろもどろになっていうと、碧斗は一歩、俺に近づいた。
「な、なんだよ」
戸惑っていると、彼は顔をあげて言う。
「俺は、めちゃくちゃ気にしてる」
「……は?」
「凪を見る度にずっとキスしたこと意識してる」
まっすぐに俺に向けられた目。
その目には熱が宿っている。
「なっ……」
な、な、な、なに言ってんだ、こいつ!?
頭が、沸騰したみたいに熱くなってなにも考えられなくなる。
や、やめろ。
恥ずいから……。
いいんだよ、そんなの黙っておけば!
「あ、あんなの事故だろ!?唇と唇がただぶつかっただけだ!」
「うん、分かってる」
そう伝えても碧斗は俺から目を離さない。
「分かってるけどさ、凪がなんにも気にしてないのは……なんか、悔しいじゃん」
俺だって気にしてたわ!めちゃくちゃ気にしてたから逃げたんだろうが!
碧斗の顔がゆっくりと俺に近づいてくる。
近い、近い、近い!
「碧斗、ちょっと待っ……」
あの花火大会の夜の至近距離の碧斗の顔がフラッシュバックする。
心臓が破裂しそうなくらいドキドキ鳴っていた。
腰が抜けそうになって動けずにいると、碧斗は俺の動揺を完全に見透かしたように低い声で囁いた。
「じゃあ、思い出してよ」
「……っ!」
碧斗の顔がさらに近づく。
あ……これ、本当にキスされる。
俺はもう抵抗もできず、固く目をつぶった。
するとその時。
──ピンポンパンポン。
『石井先生、教員室までお願いします』
放送が屋上に響き渡った。
俺がビックリして目を開けると、碧斗はあと数センチのところで動きを止め、いたずらっぽく笑っていた。
「……は」
「冗談だよ、凪」
し、しねぇのかよ!
俺はその場にへなへなと座り込んだ。
「あまりに凪がかわいいから意地悪しちゃった」
碧斗は、しゃがみ込んだ俺を見下ろし楽しそうに言った。
「か……っ!かわいくねえし、冗談じゃねえぞ、今の……!」
「ふふ。ほら……帰ろう」
俺に向かって手を差し出す碧斗。
俺はその手を取りながら碧斗に尋ねた。
「なぁ……碧斗って花火大会のジンクスのこと知ってたのか?」
その言葉にぴたりと足を止める。
すると碧斗は振り返って言った。
「知ってたよ。だから……嬉しかったんだ」
碧斗は言葉を切ると、気まずそうに視線を逸らした。
白い肌が、首筋から耳の先までみるみるうちに朱に染まっていく。
いつもは涼しい顔をしているくせにこういう時には顔を赤らめるから厄介だ。
……バカ、こっちまでうつるだろうが。
心臓がまだバクバクとうるさい。
「凪の気持ちは分かってるつもり。でも……」
うつむいていた碧斗が顔をあげる。
「避けられるのは悲しいから、無しね」
碧斗は笑顔を作って言った。
その表情を見て、俺の胸が大きく跳ねた。
いつもの涼しげな顔じゃない。
俺だけに向けられた特別な笑顔。
それを俺が独り占めしている事実に、心臓がうるさくて仕方がなかった。
(……ああ、そうか)
俺はこいつに、どうしようもなく惹かれているんだ。
男だとか友達とか、そんな理屈はもう関係ない。
ただ碧斗という人間が好きなんだと自覚した。
碧斗にもこんなにドキドキするんだな。
友達から始まったとしても、最初は意識していなくても気持ちが動いていく。
これがちゃんとした「恋」ってやつなのかもしれない。
(いつか……ちゃんと言わなきゃな)
一方的に想いをぶつけられるだけじゃなくて。 俺も同じ気持ちなんだってことを。
言葉にして伝えないといけない時が来るはずだ。
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