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14昔話
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サキはマティアスと並んで歩きながら、朝の武術について語っていた。そういえばマティアスは毎回ラミを抱き潰しているのだが、どこでその体力をつけているのだろうか。マティアスが身体を鍛えているところなど見たことがないので、気になったサキは尋ねてみた。
「ラミを抱いていれば身体を鍛えることもなかろう」
斜め上の返答が真顔で返ってきて、サキは頬を赤らめて聞かねばよかったと後悔する。ちらりと見上げればマティアスは片頬を上げて見下ろしているから、からかわれたらしい。
「僕をからかったんですか」
「いや、本当のことだが?」
マティアスは無駄口を利かないかと思っていたがそうでもないようで、たまにこのようにからかわれることがある。今も再度頬を赤く染めたサキを見て、おかしそうに声を立てて笑った。マティアスが声を上げて笑うものだからサキまでついにおかしくなってきて、結局ぷっと笑ってしまった。マティアスの手が伸びてサキの頭を撫でる。
「人嫌いって聞いてたが、家族とはずいぶん仲がいいんだな」
突然愉快そうに大きな声を掛けられて、サキはびっくりして足を止めた。声のした方を見れば積んだ石材の上から焦げ茶色のもじゃもじゃした塊が覗いていた。マティアスの手がサキから離れず撫でているから、危険はないのだろう。焦げ茶色の塊はのそのそ動いてがっしりと分厚い大きな手が石にかかり、ついで焦げ茶色のもじゃもじゃの間に目がついているのが見えた。魔力はほとんどないようであるが紅い精気が綺麗に身体を覆って視える。
「オーシュ殿、久方ぶりです。こちらは息子のサキで8歳です」
「サキです、どうぞよろしくお願いいたします」
「おお、これがマティアスの息子か。どおれサキ、じじぃんとこ来い」
「……ふわぁっ!?」
「おうおう、軽くてかわいいの」
石材の上からどんっと飛び降りてきたドワーフが、サキの身体を分厚い大きな両手で包み軽々と持ち上げた。あまりにふわりと持ち上げられすぎて、そのまま空に打ち上げられそうな心地がする。
ふわりと優しく地面に降ろされると、ドワーフの背はサキより少し高いくらいだが、樽のような身体はサキを4つまとめて束ねても足りないほど分厚く丸い。サキを持ち上げた腕はたぶんサキの足より太そうだ。
「オーシュ殿に建てて頂けるのであれば、こんな光栄なことはありません。感謝いたします」
「おう、エーヴェルトの頼みだしな、マティアスが家族と住む家ってんだから当たり前よ」
「ときにオーシュ殿、希望があれば頼んで良いとのことですが、構いませんか」
「どんとこいよ」
マティアスは『空間』から出した図面をいくつか、ドワーフに手渡した。図面を広げて見たドワーフはふむふむと大きく頷き「エイガ」室の壁ってのはこれか、と指で示したり窓や壁に埋め込みたい魔導具についてのマティアスの説明を聞いたり、その場ですぐに入り組んだ話に発展していった。
マティアスの魔導具についての具体的な魔術式の説明を聞いて頷いているのだから、魔力とは関係なくよほど魔方陣や魔力回路といったものに精通しているのだろう。かなり高難度の専門用語が飛び交い、ある一点でそこはどうするよと話が詰まった。
水道に組み込む魔導具の話で、現在ではシャワーなどを使う場合予め湯を準備する必要がある。できれば個人宅で使いやすいよう直接湯が出る魔導具を開発しようとしているのだが。そこはまだ開発途中で二人の会話はそこにどのような魔力回路を施すか、というところで止まっているのであった。
サキは電線を思い出し、マティアスに以前使用した魔力を通す虹蜘蛛の糸を使う案を出した。一つの魔力基盤から虹蜘蛛の糸を伝って魔力を供給させてはどうかと提案したのである。マティアスもドワーフもなるほどそれならば、と二人して早速そのまま試作に取り掛からん勢いである。
(父さんも楽しそうだなあ)
「僕もう一度エーヴェルト邸へ行って、お茶をもらってきます」
「おう、茶ならそこの小っせえ小屋に湯沸かしと茶葉と菓子もあんぞ。勝手にやってくれ」
「はい」
石材に隠れていたが休憩所として即席で造られたにしては、いやに完成度の高い小屋があった。中に入るとロッジのようになっており木の香りが心地良い。テーブルも椅子も木で組まれているが、どれも丁寧にやすりが掛けられドワーフの仕事ぶりが伺える造りである。
湯沸かしと茶葉、と見れば魔石をはめ込んだ簡易コンロがあり、汲み置きの水を薬缶で沸かす仕組みである。十人分は入りそうな大きなポットと片手で持つには大きすぎるカップがいくつか置かれており、葉とカップの描かれた瓶がおそらく茶葉であろう。
瓶のふたを開ければ良い香りが漂い、サキは三人分のお茶を用意してカップに注いだ。茶葉の瓶横にクッキーが詰まった瓶があったので、木の皿に適当に盛り試作品を製作中の現場へ持っていった。
サキには両手で持ち上げなければならないカップを片手で傾け、カップを置いたその手でクッキーを数枚掴み取りそのままバリボリと口に入れるドワーフを見て、マティアスと顔を見合わせて楽しそうに笑うサキは、朝の光を受けて幸せそのものであった。
ドワーフはそんな楽し気な親子を見て、口の中のクッキーをカップのお茶で流し込んだ。
ドワーフのオーシュは古い話を憶えていた、旅をして回った若い頃の話だ。古い国が一つ滅びた、たった一人の人間のせいだったとは信じがたいが、落ち人様が幸せでいる国は幸せになれると、人の幸せの形など気にしない国があったことを憶えていた。
ずいぶん昔の話である。ヴァスコーネス魔法王国とは遠く離れた西方の国、陽の光の射さない暗い石造りの建物の中でも人が生きていた。床には分厚い絨毯を幾枚も重ね、何かの物語を綴った大きなタペストリーがおそらく年代順に壁へと掲げられている。蝋燭を幾本も並べて使うガラスの燭台が天井から吊るされ、テーブルの上にも銀でできた燭台に幾本かの蝋燭が揺れている。
テーブルに広げられた古い何冊もの書物にはうっすらと埃が溜まり、絨毯のない剥き出しの石の床にはすでに黒く固まっている血を混ぜたインクで描かれた大きな魔方陣。魔方陣は靴の裏で擦ったものか、一部が擦れて消されている。
同じ部屋の古びて虫喰いのある絹を貼った衝立の向こうでは、人の荒い息遣いと一定のリズムで木材がきしむ音、掠れた悲鳴が聞こえていた。二人で使うには大きすぎるベッドが天蓋もなくそのまま置かれ、皺になったシーツがズレてしまい汚れたマットレスの上にはたるんだ裸の尻を晒して、抑えつけた青年に己の腰を打ちつける男がいた。
男が奥まで腰を進めるたびに男の腹の肉が青年の棒と玉を包んで擦るので、青年は女のようにずっと中でイキ続けていた。トン、トン、と男のモノが同じところを一定のリズムで叩き続けるから、青年は声が枯れてもよがり続けるしかなく、嬌声というよりそれはもう苦痛を感じさせる悲鳴であった。
食事にも飲み物にもおよそ口にするすべてのものに媚薬を含まされ、青年は自分の名前もすでに忘れた。ただただ快楽を享受する日々のためにだけ、ここで生かされていた。
青年の相手をする男は幾人も用意されており大変な床上手ばかりで揃えてある、青年に恐怖を与えたり逆に入れ込みたりしすぎないよう管理され、その役を授かることはかの国では大変名誉なこととされた。
ともあれ青年を正気に戻さぬよう薬を盛り続け、快楽で脳を支配したとしても何年か経てばやがては限界がくる。それは脳が先か身体が先か、あるいはとうに壊されたはずの心からくるものか。
青年はもう何十日間もこの石造りの部屋から出されずに、ただ飼われていた。ある日突然この部屋に呼び寄せられた。通じない言葉、見たことも無い書物の字、心許せる人もなく、陰気な部屋からは出ることも叶わない。
何を言っても通じないなか、怒鳴っても掴みかかっても暴力を振るわれることもない。いつも笑みを絶やさないとてつもない美形が毎回運んでくる食事だけは大層豪華で、それだけが救いだった。だがある日食後しばらくして身体がとてつもなく熱くなった、感じるはずもない身体の奥の方が痒いように疼いた。
一人きりで汗を流して耐えていると、食器を下げに来た美形が笑みを潜め青年に触れた。俺に触れるな、と怒鳴って手を振り払ったつもりだったが、美形はそっとその手を掴み手の甲にキスをした。上目遣いで青年を見た美形の顔をそんなに近くに見たのは初めてで、青年は頼る者のない場所で初めて助けてと言った。
辛いんだ助けて、と言った意味を理解したのかはわからない。しかし美形は笑みを浮かべると青年に丁寧に口づけをした。青年の様子を伺うように少しずつ口づけを深めていき、青年がもっとと求めればその先に進んだ。
青年の身体で口づけられていないところはなくなった。もっとと強請れば次いで全身を余すことなく舐められた。もっとしてと青年がその身体にしがみつけば噛まれた。噛まれた痛みも気持ちいい刺激にしかならない、もっと噛んでと言えば乳首が取れるかと思うほど噛みつかれた。
美形にモノを丁寧に口で愛撫され、しゃぶられて果てた。まだ出したいのだと言えば、互いのそれをまとめて擦られあっけなくまた果てた。
奥が疼くと言えば、香油をまとった手が伸びてきて尻を開いて丁寧に解された。長い指が届く気持ちのいいところを何度も擦られてまたイッた。もっと奥がまだ足りないのだと言えばもっと奥まで与えられた。優しい律動を繰り返されて、透明の汁を零しながら青年はもっとと啼いた。
すべては青年の望むままに、優しく蕩けさせられる日々が続いていた。何かがおかしいのはわかっていたが、もうそれもどうでもよかった。青年は快楽だけを与えてくれた美形にすがり、服など纏わず美形が食事を運んでくると食べるより先に快楽を強請った。
困ったように宥めて食事をとらせようとする美形に、口を開けて食べさせてもらう。全部口にすればご褒美に快楽を与えられる。
あるときから美形は運んできた食事を青年に摂らせず、胸や腹に隠し持ってきたパンや瓶入りの水だけを与えるようになった。食事を食べたがっても首を横に振るだけの美形は、青年が文句を言いながらパンを食べ瓶の水を飲むのを微笑んで見ていた。
パンを食べた後に欲しがれば、きちんと丁寧にいつもの快楽を与えてくれるから青年とて満足していた。そんな日が長く続くと、頭の霧がすっきり晴れてきた。パンを食べても瓶の水を飲んでも性欲は沸かず、服を着るようになり部屋も整えるようになった。
いつものように美形が食事を運んでくると、一人の男が一緒に付いてきていた。やせ細った黒っぽい髪のうつろな目をした男をベッドに寝かせ布を掛けると、美形は青年に頭から布を被せて目だけが見えるように縛って布を固定させた。
腹のあたりから出した布で器用に青年を巻いていくと仕上げに胸部分にパンを入れた。女装のつもりだろうか、なるほどここから連れ出してくれるらしいと思い黙って付いて行った。
静かな石の建物の階段をぐるぐる回りながら降りて行く。自分はずいぶん高い塔に閉じ込められていたらしい、と初めて気づく。階段を降りきって扉付近に倒れる人を見た、石の床に黒っぽい水たまりがあった。
それが死体なのだと気づくと急に怖くなった。おそらく自分を助けるためにこの美形が殺したのだろう、自分のせいで人を殺させてしまった、と思ったら怖くて堪らなくなった。
青年の様子に気づかず美形は辺りを気にしながら扉をそっと開いた。扉の向こうにも血だまりに倒れる人を見て、青年は完全に怖気づいてしまった。人を何人も殺した美形のことも怖くて堪らなくなった。
美形に手を引かれたが、足を踏ん張って首を横に振り手を振りほどこうとした。青年はここから出ていけない。静かな問答を繰り返していると、扉が大きく開き服の上から革の鎧に身を包んだ男たちが何人も立っていた。
美形が青年に向かって何かを叫び、青年はそれすら何を言ったのか理解できず、ごめんわからないと首を横に振った。固まった美形を一歩進んだ鎧の男たちがいくつもの槍先で串刺しにした。
それは一瞬の出来事で、鎧の男たちがそれぞれ一気に槍先を引けば美形はその場で力なく倒れた。
声にならず動けない青年をあざけるように笑った鎧の男の一人が、青年を扉の外に引っ張り出すと作り物の胸をぐっと掴んだ。布に手を入れられパンを取り出すと男は大きな声を上げて、周りの鎧も合わせて笑った。
扉のすぐ外は青年がいた石の塔以外何もなかった、固い土埃の立つ地面にいくばくかの雑草、その他は少し離れたところに森のようなものが見えるだけであった。
固い土の地面に背中を押されてひざまずいた青年は、ワンピースのような形の腰をヒモでくくっただけの服を着ていたのだが、服を捲られ尻を手の平で何度も叩かれた。誰も止めず鎧を鳴らしてヤジのような声を上げて笑っているばかりである。
そのうちガチャガチャと音が聞こえ、腰周りの鎧を外した男の一人が青年の尻に油を垂らし、自分のモノで何度か擦っただけで一気に挿入を果たしてきて青年はぐぅと呻いた。
ここ何日間もずっとパンと水だけで身体が火照る食事を口にしていないし、美形のことも受け入れていなかった尻のすぼまりは、急に挿入されると切れて出血した。出血で滑りがよくなったのか、自分勝手に腰を打ち付け早々に男は青年のなかで果てた。
そういえば美形は青年のなかで果てたことがなかったな、と痛みを紛らわせようと青年は考えた。果てた男が抜けば、すかさず次の鎧が挿入した。果てた男の白濁で滑りがよくなり次の男も自分勝手に腰を打ち付け勝手に果てて出て行った。男たちは奇妙な高揚感に包まれているのか、大声を上げて笑いながら青年を囲んで順番を待つ。
長さも太さも硬さも違う何人もの鎧に勃起が復活しては尻を犯され、地面についたヒザも手も擦り剥け血を流し、傷口には小さな石が入り込んだ。男たちに揺すられるたびにその傷も痛むが、もう青年はそんなこともどうでもよかった。
四つん這いになっていられず、尻だけを持ち上げられて犯されているところへ、別の鎧の男たちが現れた。犯す人間が増えたかとぼんやりと考えると、互いが剣を抜き殺し合いを始めた。犯した鎧たちがあっという間に片付けられ、新しい鎧の男たちに介抱されたが、青年は自分で塔のてっぺんに行きたいと身振り手振りで伝えた。青年の身代わりに置かれたやせ細った黒っぽい髪の男を新しい鎧の男たちに預けると、青年は元通りそこに閉じこもった。
それからは毎日違う男が食事を運ぶようになり、青年は黙ってそれを食べ男たちに抱かれるようになった。あれから何年か経ったのだろう自分の名前など忘れてしまった、この世界の言葉を理解しようとすることもやめてしまった。自分が何のために生かされているのかはわからないが、この世界はどうにかして青年を生かしておきたいらしい。
ある日突然に全てが終わった。青年は自分のモノを自分でしごきながら尻に張りぼてを突き刺したまま死んだ。青年を死なせてしまった国はその後滅びた。
ドワーフのオーシュはエーヴェルトからサキの話を聞いていた、転生者だということだ。まさかと思う、だが落ち人様の話とて本当のことだ。この小さな少年がずっと笑っていられるといいとドワーフは心から願った。
「ラミを抱いていれば身体を鍛えることもなかろう」
斜め上の返答が真顔で返ってきて、サキは頬を赤らめて聞かねばよかったと後悔する。ちらりと見上げればマティアスは片頬を上げて見下ろしているから、からかわれたらしい。
「僕をからかったんですか」
「いや、本当のことだが?」
マティアスは無駄口を利かないかと思っていたがそうでもないようで、たまにこのようにからかわれることがある。今も再度頬を赤く染めたサキを見て、おかしそうに声を立てて笑った。マティアスが声を上げて笑うものだからサキまでついにおかしくなってきて、結局ぷっと笑ってしまった。マティアスの手が伸びてサキの頭を撫でる。
「人嫌いって聞いてたが、家族とはずいぶん仲がいいんだな」
突然愉快そうに大きな声を掛けられて、サキはびっくりして足を止めた。声のした方を見れば積んだ石材の上から焦げ茶色のもじゃもじゃした塊が覗いていた。マティアスの手がサキから離れず撫でているから、危険はないのだろう。焦げ茶色の塊はのそのそ動いてがっしりと分厚い大きな手が石にかかり、ついで焦げ茶色のもじゃもじゃの間に目がついているのが見えた。魔力はほとんどないようであるが紅い精気が綺麗に身体を覆って視える。
「オーシュ殿、久方ぶりです。こちらは息子のサキで8歳です」
「サキです、どうぞよろしくお願いいたします」
「おお、これがマティアスの息子か。どおれサキ、じじぃんとこ来い」
「……ふわぁっ!?」
「おうおう、軽くてかわいいの」
石材の上からどんっと飛び降りてきたドワーフが、サキの身体を分厚い大きな両手で包み軽々と持ち上げた。あまりにふわりと持ち上げられすぎて、そのまま空に打ち上げられそうな心地がする。
ふわりと優しく地面に降ろされると、ドワーフの背はサキより少し高いくらいだが、樽のような身体はサキを4つまとめて束ねても足りないほど分厚く丸い。サキを持ち上げた腕はたぶんサキの足より太そうだ。
「オーシュ殿に建てて頂けるのであれば、こんな光栄なことはありません。感謝いたします」
「おう、エーヴェルトの頼みだしな、マティアスが家族と住む家ってんだから当たり前よ」
「ときにオーシュ殿、希望があれば頼んで良いとのことですが、構いませんか」
「どんとこいよ」
マティアスは『空間』から出した図面をいくつか、ドワーフに手渡した。図面を広げて見たドワーフはふむふむと大きく頷き「エイガ」室の壁ってのはこれか、と指で示したり窓や壁に埋め込みたい魔導具についてのマティアスの説明を聞いたり、その場ですぐに入り組んだ話に発展していった。
マティアスの魔導具についての具体的な魔術式の説明を聞いて頷いているのだから、魔力とは関係なくよほど魔方陣や魔力回路といったものに精通しているのだろう。かなり高難度の専門用語が飛び交い、ある一点でそこはどうするよと話が詰まった。
水道に組み込む魔導具の話で、現在ではシャワーなどを使う場合予め湯を準備する必要がある。できれば個人宅で使いやすいよう直接湯が出る魔導具を開発しようとしているのだが。そこはまだ開発途中で二人の会話はそこにどのような魔力回路を施すか、というところで止まっているのであった。
サキは電線を思い出し、マティアスに以前使用した魔力を通す虹蜘蛛の糸を使う案を出した。一つの魔力基盤から虹蜘蛛の糸を伝って魔力を供給させてはどうかと提案したのである。マティアスもドワーフもなるほどそれならば、と二人して早速そのまま試作に取り掛からん勢いである。
(父さんも楽しそうだなあ)
「僕もう一度エーヴェルト邸へ行って、お茶をもらってきます」
「おう、茶ならそこの小っせえ小屋に湯沸かしと茶葉と菓子もあんぞ。勝手にやってくれ」
「はい」
石材に隠れていたが休憩所として即席で造られたにしては、いやに完成度の高い小屋があった。中に入るとロッジのようになっており木の香りが心地良い。テーブルも椅子も木で組まれているが、どれも丁寧にやすりが掛けられドワーフの仕事ぶりが伺える造りである。
湯沸かしと茶葉、と見れば魔石をはめ込んだ簡易コンロがあり、汲み置きの水を薬缶で沸かす仕組みである。十人分は入りそうな大きなポットと片手で持つには大きすぎるカップがいくつか置かれており、葉とカップの描かれた瓶がおそらく茶葉であろう。
瓶のふたを開ければ良い香りが漂い、サキは三人分のお茶を用意してカップに注いだ。茶葉の瓶横にクッキーが詰まった瓶があったので、木の皿に適当に盛り試作品を製作中の現場へ持っていった。
サキには両手で持ち上げなければならないカップを片手で傾け、カップを置いたその手でクッキーを数枚掴み取りそのままバリボリと口に入れるドワーフを見て、マティアスと顔を見合わせて楽しそうに笑うサキは、朝の光を受けて幸せそのものであった。
ドワーフはそんな楽し気な親子を見て、口の中のクッキーをカップのお茶で流し込んだ。
ドワーフのオーシュは古い話を憶えていた、旅をして回った若い頃の話だ。古い国が一つ滅びた、たった一人の人間のせいだったとは信じがたいが、落ち人様が幸せでいる国は幸せになれると、人の幸せの形など気にしない国があったことを憶えていた。
ずいぶん昔の話である。ヴァスコーネス魔法王国とは遠く離れた西方の国、陽の光の射さない暗い石造りの建物の中でも人が生きていた。床には分厚い絨毯を幾枚も重ね、何かの物語を綴った大きなタペストリーがおそらく年代順に壁へと掲げられている。蝋燭を幾本も並べて使うガラスの燭台が天井から吊るされ、テーブルの上にも銀でできた燭台に幾本かの蝋燭が揺れている。
テーブルに広げられた古い何冊もの書物にはうっすらと埃が溜まり、絨毯のない剥き出しの石の床にはすでに黒く固まっている血を混ぜたインクで描かれた大きな魔方陣。魔方陣は靴の裏で擦ったものか、一部が擦れて消されている。
同じ部屋の古びて虫喰いのある絹を貼った衝立の向こうでは、人の荒い息遣いと一定のリズムで木材がきしむ音、掠れた悲鳴が聞こえていた。二人で使うには大きすぎるベッドが天蓋もなくそのまま置かれ、皺になったシーツがズレてしまい汚れたマットレスの上にはたるんだ裸の尻を晒して、抑えつけた青年に己の腰を打ちつける男がいた。
男が奥まで腰を進めるたびに男の腹の肉が青年の棒と玉を包んで擦るので、青年は女のようにずっと中でイキ続けていた。トン、トン、と男のモノが同じところを一定のリズムで叩き続けるから、青年は声が枯れてもよがり続けるしかなく、嬌声というよりそれはもう苦痛を感じさせる悲鳴であった。
食事にも飲み物にもおよそ口にするすべてのものに媚薬を含まされ、青年は自分の名前もすでに忘れた。ただただ快楽を享受する日々のためにだけ、ここで生かされていた。
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一人きりで汗を流して耐えていると、食器を下げに来た美形が笑みを潜め青年に触れた。俺に触れるな、と怒鳴って手を振り払ったつもりだったが、美形はそっとその手を掴み手の甲にキスをした。上目遣いで青年を見た美形の顔をそんなに近くに見たのは初めてで、青年は頼る者のない場所で初めて助けてと言った。
辛いんだ助けて、と言った意味を理解したのかはわからない。しかし美形は笑みを浮かべると青年に丁寧に口づけをした。青年の様子を伺うように少しずつ口づけを深めていき、青年がもっとと求めればその先に進んだ。
青年の身体で口づけられていないところはなくなった。もっとと強請れば次いで全身を余すことなく舐められた。もっとしてと青年がその身体にしがみつけば噛まれた。噛まれた痛みも気持ちいい刺激にしかならない、もっと噛んでと言えば乳首が取れるかと思うほど噛みつかれた。
美形にモノを丁寧に口で愛撫され、しゃぶられて果てた。まだ出したいのだと言えば、互いのそれをまとめて擦られあっけなくまた果てた。
奥が疼くと言えば、香油をまとった手が伸びてきて尻を開いて丁寧に解された。長い指が届く気持ちのいいところを何度も擦られてまたイッた。もっと奥がまだ足りないのだと言えばもっと奥まで与えられた。優しい律動を繰り返されて、透明の汁を零しながら青年はもっとと啼いた。
すべては青年の望むままに、優しく蕩けさせられる日々が続いていた。何かがおかしいのはわかっていたが、もうそれもどうでもよかった。青年は快楽だけを与えてくれた美形にすがり、服など纏わず美形が食事を運んでくると食べるより先に快楽を強請った。
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パンを食べた後に欲しがれば、きちんと丁寧にいつもの快楽を与えてくれるから青年とて満足していた。そんな日が長く続くと、頭の霧がすっきり晴れてきた。パンを食べても瓶の水を飲んでも性欲は沸かず、服を着るようになり部屋も整えるようになった。
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腹のあたりから出した布で器用に青年を巻いていくと仕上げに胸部分にパンを入れた。女装のつもりだろうか、なるほどここから連れ出してくれるらしいと思い黙って付いて行った。
静かな石の建物の階段をぐるぐる回りながら降りて行く。自分はずいぶん高い塔に閉じ込められていたらしい、と初めて気づく。階段を降りきって扉付近に倒れる人を見た、石の床に黒っぽい水たまりがあった。
それが死体なのだと気づくと急に怖くなった。おそらく自分を助けるためにこの美形が殺したのだろう、自分のせいで人を殺させてしまった、と思ったら怖くて堪らなくなった。
青年の様子に気づかず美形は辺りを気にしながら扉をそっと開いた。扉の向こうにも血だまりに倒れる人を見て、青年は完全に怖気づいてしまった。人を何人も殺した美形のことも怖くて堪らなくなった。
美形に手を引かれたが、足を踏ん張って首を横に振り手を振りほどこうとした。青年はここから出ていけない。静かな問答を繰り返していると、扉が大きく開き服の上から革の鎧に身を包んだ男たちが何人も立っていた。
美形が青年に向かって何かを叫び、青年はそれすら何を言ったのか理解できず、ごめんわからないと首を横に振った。固まった美形を一歩進んだ鎧の男たちがいくつもの槍先で串刺しにした。
それは一瞬の出来事で、鎧の男たちがそれぞれ一気に槍先を引けば美形はその場で力なく倒れた。
声にならず動けない青年をあざけるように笑った鎧の男の一人が、青年を扉の外に引っ張り出すと作り物の胸をぐっと掴んだ。布に手を入れられパンを取り出すと男は大きな声を上げて、周りの鎧も合わせて笑った。
扉のすぐ外は青年がいた石の塔以外何もなかった、固い土埃の立つ地面にいくばくかの雑草、その他は少し離れたところに森のようなものが見えるだけであった。
固い土の地面に背中を押されてひざまずいた青年は、ワンピースのような形の腰をヒモでくくっただけの服を着ていたのだが、服を捲られ尻を手の平で何度も叩かれた。誰も止めず鎧を鳴らしてヤジのような声を上げて笑っているばかりである。
そのうちガチャガチャと音が聞こえ、腰周りの鎧を外した男の一人が青年の尻に油を垂らし、自分のモノで何度か擦っただけで一気に挿入を果たしてきて青年はぐぅと呻いた。
ここ何日間もずっとパンと水だけで身体が火照る食事を口にしていないし、美形のことも受け入れていなかった尻のすぼまりは、急に挿入されると切れて出血した。出血で滑りがよくなったのか、自分勝手に腰を打ち付け早々に男は青年のなかで果てた。
そういえば美形は青年のなかで果てたことがなかったな、と痛みを紛らわせようと青年は考えた。果てた男が抜けば、すかさず次の鎧が挿入した。果てた男の白濁で滑りがよくなり次の男も自分勝手に腰を打ち付け勝手に果てて出て行った。男たちは奇妙な高揚感に包まれているのか、大声を上げて笑いながら青年を囲んで順番を待つ。
長さも太さも硬さも違う何人もの鎧に勃起が復活しては尻を犯され、地面についたヒザも手も擦り剥け血を流し、傷口には小さな石が入り込んだ。男たちに揺すられるたびにその傷も痛むが、もう青年はそんなこともどうでもよかった。
四つん這いになっていられず、尻だけを持ち上げられて犯されているところへ、別の鎧の男たちが現れた。犯す人間が増えたかとぼんやりと考えると、互いが剣を抜き殺し合いを始めた。犯した鎧たちがあっという間に片付けられ、新しい鎧の男たちに介抱されたが、青年は自分で塔のてっぺんに行きたいと身振り手振りで伝えた。青年の身代わりに置かれたやせ細った黒っぽい髪の男を新しい鎧の男たちに預けると、青年は元通りそこに閉じこもった。
それからは毎日違う男が食事を運ぶようになり、青年は黙ってそれを食べ男たちに抱かれるようになった。あれから何年か経ったのだろう自分の名前など忘れてしまった、この世界の言葉を理解しようとすることもやめてしまった。自分が何のために生かされているのかはわからないが、この世界はどうにかして青年を生かしておきたいらしい。
ある日突然に全てが終わった。青年は自分のモノを自分でしごきながら尻に張りぼてを突き刺したまま死んだ。青年を死なせてしまった国はその後滅びた。
ドワーフのオーシュはエーヴェルトからサキの話を聞いていた、転生者だということだ。まさかと思う、だが落ち人様の話とて本当のことだ。この小さな少年がずっと笑っていられるといいとドワーフは心から願った。
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表紙は力不足な自作イラスト
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お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
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初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
【BLーR18】箱入り王子(プリンス)は俺サマ情報屋(実は上級貴族)に心奪われる
奏音 美都
BL
<あらすじ>
エレンザードの正統な王位継承者である王子、ジュリアンは、城の情報屋であるリアムと秘密の恋人関係にあった。城内でしか逢瀬できないジュリアンは、最近顔を見せないリアムを寂しく思っていた。
そんなある日、幼馴染であり、執事のエリックからリアムが治安の悪いザード地区の居酒屋で働いているらしいと聞き、いても立ってもいられず、夜中城を抜け出してリアムに会いに行くが……
俺様意地悪ちょいS情報屋攻め×可愛い健気流され王子受け
番だと言われて囲われました。
桜
BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。
死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。
そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
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