嘘はいっていない

コーヤダーイ

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26山麗

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「楽だな……」
「楽ですね」
「そうか」

 サキとマティアスとクラースは転移を繰り返しヴァスコーネス王国の王都を離れて二日後、北の雪壁へと辿り着いていた。マティアス一人で三人を転移させているので魔力枯渇を防ぐために合間に小休憩を挟み、昨夜は宿で宿泊した。今日も同じ形で転移を繰り返し、夕方というにはまだ十分陽の高い時間に北へ入る山の麓の村で宿をとったばかりである。

「俺普段の生活より動いてない気がする」
「僕ちょっと武術の鍛錬してきます」
「あ、んじゃ俺も行くわ」

 北への山を越えるのは明日の朝出発するので、マティアスは休ませるとして既に宿に着いたサキたちは別段することもない。ちなみに『空間』を自在に操れるマティアスとサキは手ぶらであり、クラースは背負い袋を一つ持っている。マティアスに至っては普段着の上にマントを一枚羽織った姿で、ちょっとそこまでスタイルである。

 マティアスに一応体調を確認すれば、問題ないと返事が来たのでクラースは背負い袋を部屋に降ろすとサキと外へ出て行った。ギィ、パタンと部屋の扉が閉められれば山の麓の宿は静かなものである。マティアスはサキとクラース以外が触れれば分かるようにして扉と窓に結界を張り、ベッドに横たわった。

 久しぶりに魔力を多く使ったので引きずられた精神と身体が高揚している。かといって魔力が枯渇というわけでもないから、横になったとて寝られはしない。マティアスは顎に手を当て少し考えるとサキに伝魔法で部屋をもう一部屋頼んで今夜はそちらで休むと伝える。出発は明日の朝変わらずと言えば、ほどほどにねとサキから返事がきた。





「ではそういうわけで、もう一度お願いします」
「え、なにどういうわけ?」

 再び武術の構えに入ったサキに、混乱しながらもクラースは木の棒を剣に見立てて構える。構えた瞬間に大きく踏み込んできたサキの足元を狙えば、胴を手刀が掠めていく。
 引いたその足を軸にして回し蹴りを放ったサキの一蹴を腕で受けて、反対の肘を顎に向けて差し込み接近戦へと持ち込む。クラースに掴まれた足をそのままにしゃがみ込んだサキが視界から一瞬消え、足を捉えていた腕を支点にくるりと回ったサキが空中からクラースの後頭部を狙って爪先を蹴り出していた。
 
 クラースは間一髪首を反らして蹴りを避け、その足首を掴んで投げた。空中で一度回転したサキが地面に着地すると、その勢いを殺さず再び胸元に迫っている。真っ直ぐに伸びた手刀が狙うは首筋である、受ければ痣では済むまいと手刀を剣で受け流し、同じく首筋を狙えば腹にごつりと当たるものがあった。

 サキがふふふと笑っている、見ればもう片方の手が拳を作ってクラースの腹に当てられていた。対人の接近戦ではサキの方が上なのである、ただしそれはあくまで一対一の話。サキもそれを分かっているから決して一人で無理はしない。

「父さんが今夜はラミ母さんと別の部屋に泊まるそうなので、明日の朝まで自由時間となりました」

 体術の構えを解くと髪をさらりと後ろにはらって、サキが何でもないことのように言った。

「は?ラミさん、いたの?」
「いいえ?呼び寄せですけど?」

 サキがさらりと当たり前のように言うが、二日に渡ってあれだけの魔法を使っておいて、さらに伴侶を呼び寄せて一晩しけこむとはやはりマティアスはマティアスだとクラースは構えを解くとがしがしと頭を掻いた。





 面倒だが一度部屋を出ると一階のカウンターへとサキたちの部屋の鍵を預け、もう一部屋追加で頼む。渡された部屋の鍵と一人前余分に増やしてもらった二人分の夕食を木の盆に載せて、マティアスは部屋へと向かう。テーブルに木の盆を置くと魔力を練ってラミを呼び寄せた。ラミのいる花畑というのは距離がないようで、マティアスがどこにいても使う魔力量は同じである。

 呼び寄せでやってきたラミは相変わらず美しい。年を重ねてようやく二十代に入ったばかりの容貌となったのだが、細い骨の身体には筋肉が付きにくいらしくすらりとしている。薄茶色の髪をふわふわ揺らしてラミは細い腰をマティアスに晒した。

 抱いても抱いても飽くことがない、とマティアスは思う。
 今ラミはベッドに横たわったマティアスの上に跨り両手の平をマティアスの腹に置いて、マティアスを己の奥に咥え込んだまま丸く円を描くように腰を回している。んっんっと鼻から甘い息を出し、目を瞑って自身の快感だけを追うラミをマティアスはじっと見つめている。
 
 つと顎をのけぞらせたラミが愛しくて腰を持ち上げて揺すってやれば、思わぬ快感に揺れたラミが目を開いて上気した顔でマティアスと視線を合わせた。

 伸ばされたラミの腕を取りマティアスが上半身を起こすと、ナカでぐいと押されたラミが声を漏らす。向き合って抱き合えば身体が隙間なく密着し、その感触はひどく心地良い。
 ゆるゆると自分で腰を揺すってあっけなく果てたラミを愛おしそうに抱き寄せて、繋がったまま背を支えてベッドに寝かせてやる。マティアスが動くたびに艶めいた声を上げるラミは、空中に浮いた両足を震わせてマティアスの背中にすがった。





 それからもう何戦か色々な戦闘パターンを試し、風呂など付いていない宿であるから自分たちで浄化魔法を掛けるとサキとクラースは二人で夕食を摂った。

 部屋に戻ったとて他にすることもない。それぞれのベッドに腰掛けると互いに隠しの武器を確認したり持ってきた本を眺めたりするものの、明日からいよいよ北の山へ入るのだと思えばどこか気持ちが高ぶり、サキは寝られそうもないかなと思う。花畑へ行ってもいいのだがいなくなればクラースが心配するだろう、とちらりとクラースを見れば目が合った。

 目が合ったというよりはクラースはサキを眺めていたようだ。何ということもない風にさらりとクラースがここで抜いてもいいかと聞いてきた。明日から余裕なくなりそうだからと言われても何の話か分からず、小首を傾げてはいどうぞと疑問形で答えればクラースは分かってないかと苦笑した。

「明日からのんびりする暇なくなりそうだから、一緒に一発抜くか?って聞いてんだけど」
「……………っぇええっ!?」
「浴室ないんだから仕方ないだろ、屋外よりマシだぞ」

 そうはいってもすぐにずるりと始めるわけでもないクラースはおそらくサキの返答を待っているのだろう、サキはう、とかえ、とか零しながら真っ赤な顔をして僕も抜きますと言い切った。
 サキの答えを意外そうな顔をして受けたクラースは、そかと言ってにかっと破顔するとこっち来いと手招きをした。
 
 真っ赤な顔のままずるずると移動をして、クラースのベッドにのそりと上がる。誰かと一緒に抜き合うなど前世の記憶でもしたことがないので、正真正銘初めての体験である。前世でも恋人か風俗のお姉さん以外知らなかったのだから、男同士の抜き方なぞついぞ知らない。

(まさか口で、ってことはないよな)

 ちらりとクラースの唇を見て一瞬想像をしてしまい、慌てて目を逸らす。

「ん、キスしたい?」

 キスをしたいか尋ねられムスタとの熱い口づけを思い出す。クラースと唇を合わせることに嫌悪感はないが、ムスタ以外とあれをしたいか聞かれればしたくはない。冷静になってサキは首を横に振った。

「んじゃ、するか」

 服脱ぐか、と聞かれて特に何も考えずに頷いてすぽぽんと全て脱ぐ。素早く潔く全裸になったサキに少し驚きながらもクラースは俺も脱いでおくかと言ったので、サキはもしや全裸になる必要はなかったのかと思わず口に出してしまう。
 どっちでもいいけど、まぁ脱いだ方が色々と楽しいよねと服を脱ぎながらクラースに返されてそんなものなのかと納得するサキである。脱いだクラースは着衣のときよりも一回り大きく見えるほど鍛えられた筋肉が分厚い、胸板も厚く二の腕も太腿も随分太い。

「身体、触るよ」
「……っ」

 躊躇いなくすっとサキへと伸ばされた手に、一瞬身体がこわばった。

「……怖いなら、止める」

 サキの顔を見て尋ねるクラースの精気は安定している、サキ自身に欲を感じているのではなく単純に抜き合いのための手段にすぎないのだろう。サキは横に首を振って続きを促す、何しろ何をどうしたらいいのか全くわからないのである。クラースに主導を取ってもらわねば困るのだ。

「こ、こういうの初めてだから、びっくりしただけ。よろしくおねがいします」
「ぶはぁっ、サキはほんとにかわいいなぁ。よし俺に任せて、最高に気持ちよく抜かせてあげる」

 クラースはサキの身体に唇を落とすことは一度もせず、ただ優しい手つきで触れただけだった。首筋や肩や鎖骨には触れたが胸を触るでもなく、するりと背中をなぞって腰へと手は降りた。前から伸びてきた手にびくりと身を竦ませれば、こっちおいでと腰を持ち上げられて向きを変えられ、クラースの足の間にすとんと納まっていた。
 
 背中にぴとりと胸筋を付けられて髪の毛にクラースの吐く穏やかな息遣いを感じる。安定した精気は慣れているクラースのものだからか怖くもない。
 クラースのまっすぐ伸ばした足の間に座ったサキは、ん、と身じろぎをした。背中に当たっている、たぶんクラースのものだ。何が急激な成長を促したのかはわからないが、ぬるりと擦りつけられた背中が濡れる。
 はぁっと一息吐いてクラースがいくぞとサキのまだ立ち上がらぬものに手をやった。色も形も成長途中のそれは、クラースが巧みに手を動かせばその手の中でぴょこりと立ち上がり透明の液を流した。

 はっはっと荒い息を吐いてサキの踵がシーツを蹴る。恥ずかしさと気持ちよさでサキ自身にも射精が近いのかまだまだ遠いのかわからない。再びシーツを蹴って快楽を逃がそうとしサキは曲げた膝を抱えられて、そのまま後ろのクラースに寄り掛かる姿勢になった。

 膝裏をクラースの足の上に乗せられて股が開く、羞恥に顔を染めれば空いた手が後孔と袋の間をつつ、と撫でた。張った筋を何度も撫でられ袋をやわりと揉まれる、その間竿も休むことなく上下にしごかれればサキは一気に昇りつめた。

 あ、出る、と思った瞬間に両手は離れ腰を掴むとくるりと身体を回されていた。行き場を失くした絶頂感に浸る暇なく、片手はサキの腰に回したままのクラースがサキとクラースのそれとを一緒に握りこみ、強く激しく擦り上げた。

 クラースの熱い息を顔に感じて見ればひどく熱を孕んだ瞳とぶつかる。クラースの太腿に跨っているからいつもは見上げる精悍な顔が今は目の前にあるのだ。互いの瞳の奥を見つめ合ったまま、二人は同時にイッた。荒い息をつきながら、サキはクラースの頬にキスをし、クラースも同じく頬に返した。

「あの、これって、こういうのって普通のことなの?」
「ん?」
「みんな、男同士ってこうやって抜き合いをしてるの?」

 まだ整わない息を整えようとしながら、頬を上気させたサキが尋ねた。普通なわけがない、こんなのは完全に前戯である。あとは解して入れりゃ終わりだとは言えないクラースは言葉を慎重に選んだ。

「……人によるだろ。俺は頼まれればするけどな、サキは他の奴とは頼まれてもしちゃ駄目だぞ」
「うん……」

(異世界の抜き合いって半端ないな、気持ちよすぎて危ないよ)

 お互い胸の内は語れない二人である。

 もぞりと動いてサキが服を着る。

「あの、クラース……」
「ん?」
「あの、ありがとう、気持ちよかった。おやすみなさい」
「あぁ、うん。おやすみサキ」

 やはり緊張していたのか、ベッドに戻って横になるとすっと寝てしまったサキを見てクラースも横になる。戦いに赴く際によくやる方法をとったまでだった、若い騎士から余計な力を抜いてやる手っ取り早く確実な方法である。閨事には慣れているし冷静さを失わない自信もあったが、自分で思っていた以上にサキに煽られた。

(だがまぁ役得だったな)

 最後の最後、思わず齧りつきそうになったサキの唇に耐えた自分を誉めてやりたい。はじめにキスをしないと約束していて良かった、あれでキスをしていたなら抜いただけで止まることなどできなかっただろう。

 明日は万年雪の厳しい山へと入るのだ、気を引き締めて行かなければならない。クラースは改めて瞳を鋭くすると気持ちを改めた。
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