ヴォールのアメジスト 〜悪役令嬢の『予言』は乙女ゲームの攻略本から〜

本見りん

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卒業パーティー

卒業パーティー 3

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「……殿下はご覧になられましたか?」

 側近のジルにレティシアを医務室まで送ってもらい、イヴァンと2人で会場に向かおうとしていると不意に問われる。
 リオネルは険しい表情をしながら頷いた。


「……ああ。ローズマリーが笑いながらレティシアを突き飛ばしたのを。……イヴァン、君もか?」


「はい。私はコベール子爵令嬢を突き落とした後の満足そうな公爵令嬢の横顔と翻った真っ赤なドレスが見えました」


「……そうか。しかし私達2人だけしか見ていないのならば、おそらくは彼女は否定するのだろうな」


 今まで自分が見て来たローズマリーの陰の部分は、自分だけの証言だけでは信じてもらえない事が多かった。……彼女は『予言』と『涙』を使って、色んな不利な部分を自分に都合のよいものに変えてきた。
 ローズマリーがこの大詰めの舞台で抜かりがあるはずがない。リオネルは小さくため息を吐いた。


「それでしたら、先程こちらに案内させた者に証言を頼めば……」

 イヴァンがそう進言したが、リオネルはすぐさま首を振った。

「難しいな。我ら王家側の人間の証言は『信用出来ない』と言われるだろう。そしておそらく今日この周辺にいるのは公爵もしくは王太后の息がかかった者達だ。彼らも今日の一世一代の大舞台に抜かりはないという事だろう。もうすぐ、待ちに待った『権力』というエサを取れる時がやってきているのだから」


 国王派の者達の中でもフランドル公爵側の横暴さに公爵家側に徹底抗戦を求める声もある。しかしフランドル公爵家とその派閥の力は大きく、負けないまでもその戦いの代償は大きくつく可能性が高い。

 国を乱さず、それでいてフランドル公爵側の企みを無くすのは難しい話だ。気を抜けばこちらがやられてしまう。


 ……今までは、このパーティーを穏便にやり過ごし徐々に公爵家側の力を削いでいく方法が最善かと思っていたのだが……。

 しかしフランドル公爵側はリオネルを『予言』通りに動かす為にレティシアに目を付け、この馬鹿げた舞台に引っ張り出そうとした。……そして王家側も彼らの企みを壊す為に敢えてレティシアを利用しようとしている。


 ……自分が想いを寄せたというだけでこの事態にレティシアを巻き込んでいる事に非常に悩むリオネルだったが、ここまできては彼女ももうこのまま何事もなかったように済む事は出来ないだろう。自分が全力でやりきらなければ。ここまでくれば後には引けない。……レティシアを守る為にも。


 リオネルは意を決してパーティー会場に向けて歩き出した。



 ◇ ◇ ◇


 
 学園の卒業パーティーは王宮の王家主催のパーティーとは違い、身分順に入場することはない。生徒達は身分の差なく来場し自由に交流を深めている。

 
 昨日までは一応婚約者であるローズマリーをエスコートしようと考えていたリオネルだが、それも公爵家側から『王太后に呼び出されている』と上手く躱された。しかし人々にはリオネルが婚約者をエスコートしなかったとだけ伝わるのだろう。
 

 リオネルはレティシアを医務室に送ったジルが戻ってからイヴァンと3人で入場した。……2人にも婚約者はいるのに申し訳ない気持ちはあるが、まだ2人の婚約者は学園に入学していないので許してもらおう。


 王太子が婚約者無しで入場して来たことに、会場が騒めく。けれども、他の誰かをエスコートしている訳でもない。
 そうこうしている内に、王太子である自分に人々が寄ってくる。事情を分かっている王家派の貴族がわざと「今日はお一人で?」と尋ねてきたので、「ローズマリー嬢は王太后様に呼ばれていてね」と周りによく聞こえるように答えておいた。……これで大半の者達にエスコートをしていない理由は知れ渡るだろう。


 暫くすると真っ赤なドレスを着たローズマリー フランドル公爵令嬢が1人で入場してきた。

 公爵派の者達が「どうしてお一人で?」と尋ね、ローズマリーは「それは……」と言葉を濁す。あれでは婚約者であるリオネルがエスコートをわざとしなかったと思われてしまう。

「あら。フランドル公爵令嬢は王太后陛下に呼ばれていたのですわよね。それをどうして仰らないのでしょう……。まさか公言出来ない様なお話をされていたという事なのでしょうか?」


 おそらく王家派の令嬢達からその様な声が上がった。リオネルがチラリと声のした方を見ると、それはベルニエ侯爵令嬢。……確か彼女はレティシアの友人だったはず。レティシアの良き友人である彼女は、フランドル公爵令嬢の友人への攻撃に相当怒っているのだろう。ここ数日レティシアを保護してくれていると聞く。

 そのベルニエ侯爵令嬢の発言のお陰で、周囲の空気はフランドル公爵令嬢に対して冷たい雰囲気になった。


 今このランゴーニュ王国での貴族社会では主に王家派とフランドル公爵家派に分かれているが、どちらにもつかない中立派もかなりいる。
 その中立派の彼らは公爵令嬢の『予言』は当たると認めながらも、『浮気者の王太子』の件ではまだその本人が10歳という年齢の子供の時に対して出されたものだった事や、その『予言』を理由に王家から婚約の解消を申し出られても『王妃の立場』欲しさに解消しないでいる事情をある程度は知っている。


 だから、こうしてフランドル公爵令嬢が自分の都合の良いようにリオネルを悪く見せようとしているのが分かると彼らは離れていくのだ。


 自分を冷ややかに見る周囲の視線に気付いたローズマリーは一瞬悔しげに唇を噛んだが、気を取り直したのかニコリと笑ってこちらに来た。


「リオネル王太子殿下。ご機嫌麗しく。久々にお会い出来て嬉しく思います」


 ……ローズマリーは先ほどの事に懲りず、まだ『暫く会っていない』作戦を続けるつもりなのか?

「私が貴女の屋敷を訪ねても会えないままに帰されるのだからね、久々なのは仕方ない」


「まあ! 我が公爵家が貴方様を無碍むげに扱うなどとんもないことですわ! 我が家は婚約者たる王太子殿下を敬愛しお仕えしておりますのに」


 あくまでも不誠実なのは『王太子』。そう印象づけようと動いているのがありありと分かる。

 しかし今更ながら、リオネルは自分が彼女達に何かをした訳でないのにここまでいとわれる理由が分からない。……ただ、より権力を握りたいだけなのならばそんな愚かな考えなど分かるはずもないが。


 そうやってローズマリーはリオネルを陥れる為の話題を何度も振ってきたが、リオネルは相手にはしなかった。


 そして彼女のその口ぶりから、おそらくは早く『予言』通りに『婚約破棄』を言い出して欲しいと思っているのだと感じた。




ーーーーー


リオネル王子とフランドル公爵令嬢ローズマリーとの攻防戦が始まりました。
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