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9 レオンの姉エレナ
しおりを挟む「うーん……。なんだか、イヤな夢見ちゃった……」
目を覚ましたセリは、そう呟いてため息を吐いた。
……多分、前世での弟レオンの死の話を聞いたからだ。身体の弱かった前世のセリをいつも気遣い守ってくれた優しい弟。生まれつき身体の弱かった前世のセリと違って、とても身体が丈夫で魔法も剣の才能もあったレオン。
多分、レオンがあんなに剣も魔法も頑張っていたのはセリの為だったと思う。身体の弱い姉を守ろうとした強い弟。そして、ぶっきらぼうながらも優しかった弟の親友ライナー。……まさかセリ亡き後勇者になったとは思わなかったけれど。
また色々と考え込んでしまって、ふぅーっと一度大きく息を吐いた。
そこに扉がノックされる。「どうぞ」と言うと、そろりとライナーが入って来た。
「よぉ。飲み物持って来た。……どうだ? 気分は」
「ん……。ありがと……。正直、まだ、あんまり良くないけどね。……コレ飲んだら、も少し寝させてもらっていいかな?」
実はそこまで具合が悪い訳ではないのだが、ライナーと顔を合わせるのがすこし気づまりな気がしてそう言った。
そして身体を起こしてライナーから飲み物をを受け取る。
「……そっか……。セリ。そのままでいーから一つだけ聞かせてくれ。
昨日、セリは勇者レオンの死の話を聞いて倒れたよな。……なぁ、セリはどこでレオンと知り合ったんだ? 俺はアイツと殆どの時間を一緒に過ごしたけど、俺の知る限りお前はレオンと会う機会は無かったと思うんだが」
ドキン……。
急にライナーらしからぬ鋭い質問がきたので驚く。
「えっと……。ずっと、勇者に憧れてて……」
セリは適当なことを言って誤魔化そうとしたが、ライナーはそれを許してはくれなかった。
「セリは、勇者レオンに憧れていたのに、そのレオンが死んでいた事を知らなかったのか? それに、勇者は死んだらすぐに新しい勇者が世界のどこかに現れる。そして今は別の勇者がいる。それなのに、5年も前に死んだ勇者レオンの活躍だけを知ってるのはおかしくないか?」
ライナーは真剣な顔でセリに詰め寄った。
「……小さな頃、どこかで助けてもらったような……」
「俺たちはレーベン王国やその近隣国には行った事がない。それにレーベン王国は特殊な国だから、あの魔物が溢れた事件以前は国民は滅多に国外には行かないんだよな?」
「……良くご存知で……」
まるで追求の手を緩める気のないライナーに、セリは白旗を揚げた。
「……でも、真実を言っても、ライナーは絶対に信じないと思うよ」
前世での家族、レオンや両親にはもし会えたら話してみてもいいかなと思っていた。だけど、ライナーには話すのは迷っていた。だって、こんな事を話したって、迷惑なだけじゃない? だからこそこの3ヶ月、ライナーにレオンの事を聞けずにいたのだ。ライナーは家族や故郷の話題を避けていた様だったし。
……けれど、今回この話を聞きたがったのはそのライナー本人だ。あなたの親友の姉でしたって言われてもどうしていいか分からないだろうけど……。
「……私は、レオンの姉。エレナの生まれ変わりなの」
ポツリとそう言うと、ライナーは「……ぐはっ!?」と意味の分からない単語を発してセリを食い入るように凝視した。
「ライナー。……エレナの時はありがとね。そしてずっとレオンと一緒にいて仲良くしてくれてありがとう。どうかお願いだからどうしてレオンが死んでしまったのか、その理由を教えてくれないかしら?」
前世での口調でそう言うと、ライナーは初め目を見開いて、……そして、とても懐かしそうな優しい目でセリを見つめたのだった。
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