転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん

文字の大きさ
14 / 62

レーベン王国 会議 その弐

しおりを挟む



 ハインツが姉シルビアに対して感じた疑惑。

 そしてその可能性に気付いたのはこの国の王子クリストフも同じだった。
 ……いや、正確にいえばクリストフはもっと早くにその可能性に気付いていた。


「……私の婚約者選びの件だが、私はあらぬ疑いがかかる令嬢を選ぶ事はない」


 王子の宣言に、ラングレー侯爵家と懇意にしている貴族が発言する。

「……いえしかし! 一年前の混乱時にはたくさんの人々が、そして令嬢達も被害に遭っております。今生き残った後継でない令嬢で一番力があり婚約者がおらぬのはシルビア ラングレー侯爵令嬢くらいでありまして……」

「混乱時とはいえ自分の妹を囮に出そうとしたかもしれぬ令嬢をこの国の将来の王妃にと? 馬鹿も休み休み言うんだな」

 ざわり。
 会議室内はさざなみのように騒めいた。


 ……クリストフは、苛立っていた。

 約一年前の茶会。自分が一目で気に入った美しい少女セリーナ。見た目の美しさも勿論だが他の令嬢にはない清廉さ、温かな雰囲気を持っていた。彼女と話がしたい。そう思わせる何かを持っていた。
 ……しかし彼女は魔法が使えなかった。そして自分が見初めたが為に、彼女は周囲に白い目で見られとても辛い思いをさせてしまったのだ。クリストフはそれをずっと悔やんでいた。

 そしてその日の夜に起こったあの悪夢の魔物騒ぎの後、クリストフはセリーナに会いたいと彼女の安否を尋ねたのだが……。

 
 ……返ってきた答えは、『セリーナの死』。

 魔法使いとして出払っていた者以外でラングレー侯爵家の屋敷で生き残ったのは、セリーナの姉のシルビアだけだった。


 公爵家出身で魔力の強かった侯爵夫人でさえ、魔物に襲われて亡くなっていた。シルビアは当時の事は混乱していて覚えていないという。


 その後もクリストフは何故か諦めきれず、ラングレー侯爵家の事を調べた。筆頭魔法使いであるラングレー侯爵が魔物達が殲滅された後、大怪我を負った状態でラングレー侯爵家の屋敷前で発見されたのでそれを調べる為でもあった。

 当初、魔物達の殲滅はラングレー侯爵が成した事だと思われた。それは侯爵家の屋敷を中心に魔法が発せられたと思われた事、そしてそこに倒れていたラングレー侯爵。彼が最後に力を振り絞り魔物の殲滅を成し遂げたのだと。そしてその後侯爵はずっと昏睡状態になっていた。

 しかし魔法使い達の見立てでは、侯爵は大怪我を負っていたものの、持っている魔力に大きな変化はなかった。力を爆発させたとはとても思えないとの事だった。
 

 だとしたら、誰が魔物達を殲滅させたのか?
 侯爵夫人は無惨にも魔物に襲われた姿で発見されており明らかに違う。それならば、もしや生き残ったシルビア嬢なのでは? という憶測が世間で飛び交った。
 ……しかしそれならばとっくに彼女はこの世にその力を表に出しているだろう。

 そうして私は一つの可能性に気が付いた。……もしや、彼女か? 非常に弱い治療魔法以外『魔力ナシ』とのレッテルを貼られていた、セリーナの力が目覚めたという事ではないかと。


 一際輝く星が流れた夜に魔力の高いラングレー侯爵家に生まれたというセリーナ。初めは高い魔法力の持ち主として大きな期待をされ育てられていたという。

 それが、ある時から急に魔法が使えなくなったと聞いた。

 それは、何かに魔力を押さえつけられていたからではないのか? 幼い頃突然伸びなくなったという魔力。その頃に何かあったのでは?
 私は人の魔力を封じるなどという事が可能なのかと、時間さえあれば書物を読み調べた。……そして見付けた一つの気になる文言。


 ……『どれ程大きな力を持った魔法使いも、その力が目覚める前に『封印』を掛けられれば目覚める事が出来ない』、と。

 ……『封印』?

 もしも、幼い頃に何者かによってセリーナ嬢がその大きな力を『封印』されていたのなら。そしてあの魔物騒ぎで目の前で母親の死を見て、その力が目覚めたのだとしたら……!


 ……ぞくり。

 クリストフに恐ろしさからか興奮なのかよく分からない身震いが起こった。


 あれだけの大きな力が目覚め、そして美しく身分も申し分ないセリーナ。
 
 セリーナ嬢こそがこの私に相応しい令嬢だったのではないか? ……やはり、あの茶会で感じた彼女に対する私の直感は正しかったのだ。


 それでは、その肝心のセリーナ嬢はどこへ行ったのだ?

 幼い頃から魔法の無い者として扱われてきたセリーナ。兄であるハインツにそれとなく聞けば、あの茶会のせいでその後領地に送られる事になっていたらしい。そしてハインツの反応から、セリーナ嬢は侯爵家で冷遇されていたと思われた。

 もしも本当にあれ程の力を手に入れたのならば、兄達に拘束されてはいないだろう。……だとすれば、自ら姿を消したという事……。いったいどこへ? 
 もしも私ならば、それまでの境遇から考えて誰も自分を知らない所へ行きたいと思うのではないか。……となれば、国外か!? 


 私はもしセリーナ嬢が生きているのならばその可能性が高い事に気付いたが……、残念ながら動く事が出来ずにいた。

 今このレーベン王国が国を挙げて未曾有の事態の後始末をしている時に、理由も告げずしかも確実な証拠も無しに一人の少女を探すなどという事は出来なかったのだ。


 それで、私は勝負に出た。

 最近一部の貴族の間で名前の挙がっているセリーナの姉シルビアとの縁談を完全に潰す事。
 そして……セリーナの、魔法使いとしての可能性を指し示す事を。

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

処理中です...