33 / 62
22 ライナーとセリ その弐
しおりを挟む「……ライナーが、最初にエレナを見つけちゃったんだ……。なんか、ごめんね……」
まさか前世のセリであるエレナの死に最初に気付いたのがライナーだったなんて。私もレオンも姉弟揃ってライナーに看取らせたなんて、なんだか申し訳なくてつい謝ってしまった。
「謝るなよ。ていうか、セリ。そんな訳で俺は絶対もうお前と離れられない。それを先に謝っとく」
「ううん、なんかトラウマにさせちゃってごめんなさい……。それであの、重いというより私あちこちに行くからそれに全部付き合わなくて大丈夫だよ? ライナーだって用事もあるだろうし1人になりたい時だってあるでしょう?」
セリは反対に心配になって尋ねた。
だってライナーはなかなかどうしていい男だもの。他に誰か女性がいる訳ではないと思うけれど男女共に人気があるし。背が高くて顔は結構小さくて筋肉ガッシリだし男前だし強いし仲間に好かれてるし優しいし、不器用なところがまた可愛いし。
……上げだしたらキリがない程。
「セリが知らないとこ行ってたら、それだけで今の俺はもうダメになっちまうから……。スマンが俺の気の済むまで一緒に居させて欲しい。俺はセリしか愛せない。エレナの時からずっとそうだったから分かる。俺と一生一緒に……すぐじゃなくていい、結婚して欲しい」
ライナーは真剣な顔でセリを見つめながら言った。
セリは自分の顔が熱を持ってくるのが分かった。……絶対、真っ赤になってる。でもライナーから目が離せない。
「ッ……。だって……あれから16年だよ? ずっとって……、そんなはずないでしょう?」
セリは、この間来た聖女マリアの事を思い出した。彼女だけじゃない。この街でもライナーはモテている。告白されている所も何度か見かけた。……まあそれはダリルとアレンもなんだけれど。この街1番の冒険者である彼らは皆結構モテているのだ。
「……ずっと、だよ。セリ」
ライナーはそう言って少し困ったように笑った。
胸が、ドクンと鳴った。
……セリがエレナだった時、ライナーの事が好きだった。
セリが前世を思い出した時、ライナーと会えたらとどこかで願っていた。
数ヶ月前ライナーに本当に会えた時、嬉しくて嬉しくて。……この街に暫く滞在していつか絶対に声を掛けようと心に決めた。
ライナーにパーティーの仲間に誘われた時、奇跡だ運命だと小躍りしたい位に嬉しかった。
ライナー達と仲間となって、……益々彼に惹かれていった……。
そして、ライナーに前世を打ち明けた時。……信じて貰えて本当に嬉しかった。そうしてその時ライナーにエレナが好きだったとまで言ってもらえた。
……だけど、今のセリをどう思うかまでは、聞けなかった。あれから16年も経っている。彼には今の人生や考えがある。ライナーはセリにとても良くはしてくれるけれど、それはエレナやレオンへの気遣いなのかもしれない。
……それが。ライナーが今も私が好きだと。ずっと、私だけだと、そう言ってくれた。
「ライナー……ッ。私……」
上手く言葉が出ない。気付けばセリは涙が溢れていた。
「……ッセリ。大丈夫か? ごめん、こんな年上で重い男なんか嫌だよな。けど、俺……」
ライナーはそんなセリを気遣い引く素振りを見せた。セリはそんなライナーに抱きついた。
「うわッ!? ……セリッ!?」
「……重くなんてないッ。年上っていうなら、エレナの時は私が年上だったんだよ? 今、私年下になれて嬉しいのに……! 私だって……ずっと、ずっと……! ライナーのこと……ッ!」
セリはそう言ってギュッとライナーにしがみついた。
「ッセリ……」
ライナーは少し戸惑ったようだったが、恐る恐るセリの背に手を回す。
体格のいいライナーが小柄で細身のセリを抱きしめる。……愛する人の愛しい体温。ライナーは宝物のように大切にその温かさを感じた。
「セリ……。夢みたいだ……。俺、16年……、違うな、エレナと出会ったあの時からの夢が本当に叶ったんだ……。……セリ。愛してる。ずっと一緒にいよう」
そう言ってセリを優しく包むように抱き締めた。
「ライナー……。私も、好きよ。……愛してる」
2人はそうやって強く抱きしめ合い、愛を確かめ合った。
パチパチパチ……
不意に聞こえてきた拍手に2人がハッと我に返り周りを見渡すと、公園の中に居た人々が祝福の拍手をしてくれていた。
ライナーとセリは、そうだここは人通りの多い公園の中だったとやっと気付く。
そして居た堪れなくなった2人は周囲の生温かい視線と祝福を受けながら、真っ赤になりつつ慌ててその場を立ち去ったのだった。……2人の間でペシャンコになった食べかけのサンドイッチを持ったまま。
◇
「あらぁ。お帰りなさい2人共。……ふーん……。そして、おめでとう?」
公園を出て自宅に帰る途中のベンチで、2人が抱き合いその間でペシャンコになったサンドイッチを急いで食べた後、帰った2人を見たダリルの第一声だった。
「えっ。……なんだよ、ダリル。何が目出てーんだ?」
ライナーは動揺しつつ言った。
「……あ。教皇さまとのお話? うん。教皇さまからはこちらの味方をしてくれるって言っていただいたよ。また連絡してくださるって」
セリも多少動揺していたが、先程ライナーと両想いになったばかりでまさかダリルが知っている訳はないし、きっとこの事だよね? と思って言った。
「…………ふーん。とぼけちゃう訳?」
えっ!?
ライナーとセリが動揺しつつダリルを見ていると、家の奥からアレンが出て来た。
「あ! お帰りー、2人共! どうだった……って、えっ!? 何2人手なんか繋いでるの!」
…………あ。
ライナーとセリは繋がれた手を見てから、2人で目を見合わせた。……しっかり恋人繋ぎ。
コレはバレるわ……。
「ふーーーーん…………。なぁに? 秘密にでもするつもりだったの? 2人で同じソースをしっかり服に付けて。抱き合っちゃったわけ? 昔の秘密は仕方ないけど今の隠し事は許せないわね……! ……じっくり、話を聞かせてもらいましょうか?」
そう言ってニッコリ笑うダリルはとても怖かった……。なまじ美形が凄むと怖さが半端なかった。
その横でアレンはあちゃーという顔をした。
そしてそれでも手を離さない2人を見て苦笑したのだった。
39
あなたにおすすめの小説
【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。
【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!
As-me.com
恋愛
完結しました。
説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。
気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。
原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。
えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!
腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!
私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!
眼鏡は顔の一部です!
※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。
基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。
途中まで恋愛タグは迷子です。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち
せいめ
恋愛
侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。
病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。
また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。
「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」
無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。
そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。
生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。
マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。
「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」
三度目の人生はどうなる⁈
まずはアンネマリー編から。
誤字脱字、お許しください。
素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜
八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」
侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。
その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。
フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。
そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。
そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。
死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて……
※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる