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34 教皇への感謝
しおりを挟むセリは教皇の部屋に転移した途端、がしりと後ろから抱き込まれた。
「……えーと……。ライナー?」
セリはこの腕の主であるライナーに問いかける。
「あー、セリ様。さっきからライナーはもうぐるぐるぐるぐると部屋を歩き回って私も何やら落ち着かんのじゃ。セリ様が遅過ぎると言うての。私は久々の兄妹の対話なんじゃからこれくらいはかかるじゃろうて、何度言うてもこれなのじゃ」
教皇が困りきった様子でセリに訴えた。
「セリ……! 大丈夫だったか? あのにーちゃんは思ったよりは悪いヤツじゃなさそうだったけど、2人きりになったらやっぱりセリに酷い言い方してんじゃないかって……。そう思ったらいても経ってもいられなくて……!」
ライナーはそう言ってセリを更にグッと抱き込んだ。
「ちょっ……、ライナー、苦しいわ!」
「……ッあ、ごめん……!」
ライナーは慌てて腕を緩めた。セリはその腕から逃れライナーを軽く睨んでから言った。
「もうライナーったら。……でも、心配してくれてありがとう。教皇さまも、本当にありがとうございました」
セリは2人にペコリと頭を下げた。
「……セリ様。十分にお話は出来ましたかな?」
「はい。……なんだかお兄様の毒気が抜けてて拍子抜けしました。
……そして我が家では一番上のお兄様とお母様が亡くなりお父様も身体を悪くされたようで、ほぼお兄様お一人でこの一年半奮闘されていた様でした」
「……成る程。それは随分とご苦労されたのでしょうな。あのお若さで侯爵家の当主代行をされていたとは」
しかもハインツは次男で、侯爵家は本来なら優秀な長兄が継ぐはずだった。突然何を教わるでもなく侯爵家としてやっていかねばならなかったとは並大抵の苦労ではなかっただろう。
「そっか……。あのにーちゃんも苦労したんだな」
そう言ってセリを労ってくれる教皇とライナー。
……2人は、本当は気付いているけど聞かないのだろうな、とセリは思った。けれどここまでセリの為にしてくれた2人にきちんと話をしようとセリは決めた。
「教皇さま。ライナー。……シルビア姉様が、王宮の塔に幽閉されたそうです。……『封印』の力を、一年半前の大災害の時に使わなかった、という罪で。そして父や兄、レーベン王国の王家の方々も姉が私の力を封じた事を知っているそうです」
2人は最初苦い表情をした。……やはりという思いと、セリはそれを知って苦しんではいないかという思いからだ。
「私は大丈夫です。……教皇さまからのお話を聞いてから色々考えて、……多分シルビア姉様なんだろうとは思ってましたから。
そして既にその事をレーベン王国王家の方々が知っていた事からも、今回こうして彼らに釘を刺せた事は良かったと思います。教皇さま、本当にありがとうございました」
シルビア姉様が王宮に幽閉され、殿下や兄様達が私を捜索し出したのはそういう事。セリーナが『大魔法使い』だとレーベン王国の人間に知られたからだ。
やはり教皇さまにご相談して良かったとセリは思った。
「……いや。私はセリ様が苦しむ事なく、そしてあちらに囚われてしまう事のない様にと思ったまでです。ここでセリ様に会えなくなってしまったら、私は寂しくて生き甲斐がなくなってしまいますのでな」
教皇はそう言ってセリにウィンクした。
「けどセリ。レーベン王国に行く時は絶対俺もついて行くから。セリの力は分かってるつもりだしにーちゃんは良さげな感じだけど、他の奴らは分かねーからな。隙さえあればセリを自分達の元に縛り付けたいと思ってるはずだから」
ライナーにもこれから偶にレーベン王国の父と兄の所に行こうと思っている事を伝えてある。
「……うん。ありがと、ライナー。……頼りにしてるね」
セリからそう言われ微笑まれたライナーは照れて赤くなり、「おう、任せとけ!」と言ってニカっと笑った。
それから3人はこれからの事を少し話してから帰る事になった。
「教皇さま。良かったら『転移』で聖国までお連れしましょうか?」
「いや、この道中の街々で直接人々の顔を見、その話を聞きながら帰ることも私の大切な仕事なのですよ。セリ様、それではまた2週間後、聖国でお会いしましょうぞ」
「……はい! 教皇さま、本当にありがとうございました!」
そしてセリとライナーは自分達の家の居間に転移した。
「……教皇さまって、本当に教皇さまなんだね……。今回は教皇さまのお仕事されてる所やさっきの人々と話しながら帰るって話を聞いて、本当に凄い方なんだなって思った……」
セリはほうと息を吐きながら呟いた。
「そうだな。……そんな忙しい教皇様がセリの為に何が最善かを考えてここまでしてくださったんだ。これからご恩が返せるように頑張らないと、だな」
ライナーはそう言って励ますようにセリの肩に手を置いた。
「……うん。本当だね。ライナーも、本当にありがとう。……大好きだよ」
セリはそう言ってライナーに微笑んだ。
「ッ……、セリ……!」
ライナーはセリが可愛くて愛しくて、思わず抱き締めようとその手を伸ばした……。
「はーい、そこまで!
お帰りなさい、セリ。ライナー。話はうまくいったのね?」
「ああ、良かった~! 心配してたんだよー! 昨日はもう一度行くからってそれ以上詳しく話してくれなかったから」
ダリルとアレンだった。セリに抱きつこうとしていたライナーは素早く2人に離された。
「ああ、セリ……! せっかく今感動の抱擁をするとこだったのに!」
ライナーの悲しい叫び声を残して、今回の報告会が始まったのだった。
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