文字の大きさ
大
中
小
44 / 62
33 兄と妹 その弐
ハインツはセリを見つめた。
「だから、お前は何も心配せずとも良い。あんな話をしておいてなんだが……。今までお前は散々辛い思いをしてきた。それなのに大災害の折にはあの魔物達を退治までしてくれた。……あとは、残された私達の仕事だ」
「…………ハインツ兄様……」
ハインツはそう言ってセリーナを安心させるかのように優しい微笑みを浮かべた。
が、次の瞬間に、とても苦々しい顔になった。
「……それから、セリーナにはもう一つ伝えなければならない事がある」
急に表情の変わった兄に、セリーナは少し緊張しつつ頷く。
「……姉上の事だ」
「シルビア姉様?」
「姉上は、今王宮の罪人が囚われる塔で幽閉されている。おそらく一生出る事は出来ない」
苦しげにそう伝えるハインツ。そしてセリーナもその話に驚いた。
「どうして!? ……あ、まさか、私に地下室から出るように言ったから? でもあれは、私の意思でもあったの。姉様は鍵を開けただけ。だからそれが原因なら……!」
……やはり、姉上はセリーナに地下室から出るように言い、そして鍵を開けたのか。セリーナは自分の意思だと思っているようだが、そもそも地下室から出れば間違いなく死が待っていたのにそのような事を言ったシルビアがおかしい。ハインツは姉への怒りを抑えながら答えた。
「……いや違う。勿論それも道義上とんでもない事だ。しかし、姉上はもっと許されない罪を犯した」
「許されない罪……。
……まさか……お姉様だったのですか? 私の魔力を封印したのは?」
「ッ!? セリーナ、お前は知って……?」
……そうか、教皇はご存知だとあの赤髪の騎士も言っていたではないか。しかしそれが本人も知るところだったとは……。
驚くハインツにセリーナは頷いた。
「……教皇さまがね。私の為に調べてくださったのです。魔力は目覚める前に『封印』の能力を使えば封じる事が可能だと教えてくださったの。そして私の家が身分ある家だとすれば、私に近付きそんな魔法をかける事が出来たのは間違いなく身近にいた人間だと……」
「教皇猊下が、セリーナの為にそこまで……」
これは、教皇はセリーナの力を欲して側にいるのではない。本当にセリーナを大切に思ってくださっているのだ。
……自分がセリーナにしてやれなかったことだ。ハインツは言葉に詰まった。
「そして今回、その犯人を見つけ出すとまで仰ってくれたんだけど……それはお断りしたの。だって今の私はもう力に目覚めているのだし大切な人たちに囲まれてとても幸せだわ。今更過去を掘り返すなんてしたくなかったの。
……だけど、お姉様、だったのね。うん、そうかなとは思ってた。
だって他に該当者がいないんだもの」
そう言ってセリーナは苦笑した。
「セリーナ。……私だとは思わなかったのか?」
ハインツは恐る恐る聞いた。
「え? ハインツ兄様は違うでしょう。兄様は威張ってて意地悪ばかりだったけど、陰で何かはしなかったもの。兄様は堂々と嫌な事をしてくるのです!」
「堂々と嫌な事って……。セリーナ、それはあんまりではないか……」
「だって本当でしょう? 兄様は陰でコソコソ嫌がらせなどみみっちい事はしないのですわ。だからこの事はハインツ兄様ではないと思っておりました」
ハインツはこれはセリーナに信頼されているのか貶されているのか、なんとも複雑な気持ちだった。
「フォルカー兄様は年も離れているから私には殆ど関わりにはならなかったし、お父様もお母様も当然違う。そうなったら消去法で姉様かしらと思ったの。……出来れば、違っていて欲しかったけれど……」
そう言ってセリーナは少し哀しげな顔になった。
ハインツは心苦しかったが全てをセリに伝える為に話し出した。
「セリーナ……。……姉上は、2つの大きな罪を犯した。一つ目は、将来偉大なる魔法使いになると期待されたセリーナ、お前の能力を封じたこと。
……そして、もう一つはその能力を隠し続けあの大災害の時もその能力を使わなかったこと」
「……え?」
「この二つはあの災害を避けられた、若しくは大きく抑える事が出来たかもしれない重要な事柄だ。一つ目、お前の能力が封じられる事なくそのまま伸ばされていれば魔物が溢れたあの時、すぐさまそれを抑える事が出来ただろう。そして二つ目は……」
「……『封印』、ね? あの時それを使ってダンジョンを早くに封じる事が出来れば、あれだけの災害にはならなかった……。お姉様はこの国の英雄になれるチャンスだったのに、どうして『能力』を使わなかったのかしら?」
セリーナは教皇から『封印』の話を聞いた時、その能力を持った人はどうして大災害の時それを使わなかったのかと不思議に思ったのだ。
ハインツは、何とも言えない顔をして言った。
「その後の取り調べで、姉上は『怖かったから』と言ったそうだ。
……姉上は幼い頃セリーナにかけた『封印』に気付かれるのを恐れその能力を徹底的に隠し続けた。それで、『封印』の能力を磨く事を全くしなかった。だから、怖かったんだと。
それに『封印』をかけるにはダンジョンに近付かなくてはならない。父上や兄上に守られながら行ったとしても、今まで使わなかった『封印』が成功するか分からない。
だから魔物に殺されるのが怖かった。……父上や兄上に、失望されるのが怖かったんだと」
「…………そう」
お姉様は、結局ずっと誰かに認められたかったのか。それで最初から恵まれた魔力を持つ私を妬んだ。小さな頃は分からないけど、少なくとも私の知るお姉様は周りを貶す事で自分を上げようとしていたように思う。そしてせっかくの能力も、結局は活かさないまま……。
「人を貶す事をせずに自分の力を信じて磨き続けていたのなら。……お姉様は今頃レーベン王国の聖女のような存在だったのかもしれないわね」
「…………そうだな」
兄妹は、やりきれない気持ちで暫く馬車の音を聞いた。
「……あ。そうだ、兄様。再来週お父様の誕生日でしょう。お菓子を持っていくからお屋敷で待っててってお父様に伝えてくれる?」
「そうだな……、ッえ!?」
ハインツは驚いてセリーナを見た。
「そうね……。誕生日プレゼントにお願いを2つ聞いてあげると伝えておいて。お父様はお仕事で復興工事なども取り仕切っておられるんでしょう? そういうことでも大丈夫ってね」
「セリーナ。それは……」
「あ。会うのは家族だけよ。他の貴族がいたらさっさと帰るから。……では、またね」
セリーナはそう言って微笑んだ。
そして……。セリーナの周りに光が現れそのままそれに包まれるように消えた。
ハインツは驚きで目を見開く。
「…………は…………。これが、『転移』……。本当にセリーナは、それまで使えるのか……。まさに『大魔法使い』……。今までの自分の魔力が馬鹿らしく感じられる程の魔力だ……。いや、それが使いこなせるのも全てはセリーナのそれまでの努力の賜物か……」
そう呟いて暫くハインツは茫然としていた。
「セリーナ……。父上の喜ぶ顔が浮かぶようだ……。帰って来なくても、などとは言っていたが寂しそうなご様子であったからな……」
そしてセリーナは誕生日の願い事などと言って、幾つかの復興に手を貸し『大魔法使い』の足跡を周辺国や国の重鎮達に見せつけてくれるつもりであるのだろう。
「……ありがとう、セリーナ……」
ハインツは、溢れる感謝とどこか切ない気持ちで涙した。
感想 0
あなたにおすすめの小説
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました
丸顔ちゃん。王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、
隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。
だが私は知っている。
原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、
私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。
優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。
私は転生者としての知識を武器に、
聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、
王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。
「婚約は……こちらから願い下げです」
土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。
私は新しい未来を選ぶ。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜
みかん桜第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主人公で悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないよう無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていとか設定されていたような…?
※2025年5月に副題を追加しました。