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41 王城の攻防 その壱
しおりを挟む……久しぶりの、王宮。
とはいってもセリは一年半前のお茶会の時しか来たことはなかったが。
セリ達が通されたこの謁見の間にはこの国の重鎮クラスなのだろう貴族が大勢いた。彼らはセリ達を興味深けに見ている。セリがこの王国にいた時にはまだ成人しておらず、社交界にも出ていなかったので見知っている者はほぼ居ないから余計にだろう。
セリは復興作業の最中に呼び出された為、服装は急遽王宮で用意されたブルーのシンプルなドレス。しかしそれがセリの一際美しい銀の髪と紫の瞳、そしてそのスラリとしたスタイルを更に美しく見せた。
「よくぞ参られた。セリーナ ラングレー侯爵令嬢。其方の偉大なる魔力。一年半前の大魔法使いとは貴女のことなのであろう? あの大災害の折に魔物たちを退治してくれた事に礼を申す。
そして此度の我が国の復興の為の働きにも私は非常に満足しておる」
国王陛下は謁見の間にやって来たセリにそう感謝の意を表した。
「……まさか、これが『魔力ナシ』と言われた、ラングレー侯爵家のセリーナ嬢?」
「……嘘だろう? とんでもない力を感じるぞ……?」
貴族達は囁きあった。
一方セリは初めて会う国王から『力』というものを感じなかった。
国王は魔物の騒動の時に大怪我を負ったと聞いている。あれ以来余り公の場での活動はしなくなり、力を振るう事もないと。
「陛下に御目通りが叶いまして嬉しく思います。……けれど、私は今魔物達に荒らされた地を復興させるべく作業している最中でございました。
失礼ながら今この時にお呼びになられたのには何か特別な理由でもございましたでしょうか?」
ザワリ……
広間の貴族が騒めいた。
「……なんと、陛下はこの国の復興に力を使うセリーナ嬢の手を止めさせてまでここへ連れて来たのか?」
「確かにセリーナ嬢との謁見は必要だが、何より優先されるべき復興の手を止めさせるというのは……」
セリも復興作業を止められた事が不服だった。本来は一刻も早く復興を進めていくべきだと思うのだが、それを一番良く分かっていなければならない国王が止めた事が信じ難かった。……そして一言で言うならば、呆れていた。それでつい責める口調になってしまったのだ。
……ハインツ兄様が、国王はきっと作業のタイミングで来いと言ってくるとは話しておられたけど……。声は掛けても実際に行くのは作業を終えてからと言われると思ってたのに。国王が何を優先すべきかを分かっておられないようでは、それについていく貴族や国民達は大変ね。
国王と側に控える一部の貴族達は一瞬セリに対して剣呑な雰囲気になったが、大半の貴族は復興の手を止めさせた国王に反感を持ったようだった。
国王は苛立った気持ちを何とか取り直し、まるで貼り付けたかの様な笑顔で言った。
「……それは、早急にセリーナ嬢に会いこの王国のこれからについて話し合う必要があったからじゃ。そして貴女という存在は分かってはいたが、これまでは会う事が叶わなかったのでこうして今急いで来てもらったという訳だ」
貴族達がまた騒ついている。その理由で復興の手を止めさせるのは納得出来ないようだった。
国王はそれらの貴族を一瞬苦々しく見た後に言った。
「……そして我らが貴女を探していたその理由。それは……貴女の姉上の事じゃ」
「シルビア姉様、ですか?」
セリは首を傾げて国王を見た。
「……そう。セリーナ嬢も姉上であるシルビア嬢の話を聞いておるのであろう? 我らはシルビア嬢の保護をしておるが……それもセリーナ嬢の協力がなければそれは難しいのだ」
「……と、申されますと?」
回りくどい言い方をする国王を、セリはじっと見つめた。
そして周りの貴族達も、『はて、シルビア嬢の保護とは?』と首を傾げている。
「我らとて、シルビア嬢を悪いようにするつもりはない。……が……。のう、セリーナ嬢よ。つまりは我らは一蓮托生の間柄なのじゃ。王家がシルビア嬢の保護をしセリーナ嬢がこの国の王家の旗印となり復興を担う……。これでどうじゃ?」
国王は自分が非常に有利な立場にいると確信していた。セリーナ嬢をはじめとするラングレー侯爵家は結局はシルビアを質にとった自分達王家に従う他ないのだと。
……もしも、シルビアの特殊な能力『封印』をあの災害時に使っていたのなら、途中であの魔物達の暴動が止まり被害も抑えられていたかもしれない。それが世間にバレればラングレー侯爵家の立場が非常に悪くなる、という事を。
「……姉を保護する代わりに私に王家の言いなりになれと?」
淡々とそう述べるセリーナに、国王は勝利を確信しつつ込み上げる笑いを必死に抑えながら言った。
「はは、言いなりだなどと! 私は貴女をクリストフの妃候補としても良いと考えておる。あやつも貴女を随分と気に入っていたようだからな」
息子の恋も叶えるとは、自分は本当に子思いの良い親だ。国王はそう満足しながらセリーナを見た。
「それは必要ありません。……それよりも国王陛下。何故私の姉シルビアをこちらに『保護する』などという事になったのですか」
セリーナは表情なくそう言って真っ直ぐに前を見た。
謁見の間にいる貴族達が騒めく。
「セリーナ嬢。私は其方達ラングレー侯爵家の事を思い、これ程までに世間から隠しているというのに……。このような場所で明らかにしても良いのか」
国王は余りにも相手が愚かに思えて、暗に『姉の罪をこの場で話してしまっても良いのか』と脅しをかけた。シルビアは魔物達がダンジョンから溢れた時、それを抑える貴重な能力を持っていたにも関わらずそれを使わずにこの国に多大なる被害を出させた大罪人だと、皆に伝わっても良いのかと。
……しかし……。
「我が姉であるシルビアは、稀少な能力である『封印』を持っておりました。……しかし姉は事情がありその力を磨かなかったので当時その力を使えなかった、という事をですか?」
あっさりと、相手は認めた。
国王は『切り札』をいとも簡単に出されてしまった事に慌てた。
なんだ!? 自ら自分達に不利になる事を公表するとは、芯から愚かなのかそれとも敢えて王家の奴隷とはならずその詫びに国に尽くすというのか?
ラングレー侯爵家の考えを読めずに国王は冷や汗をかきながらセリーナやハインツ達を見た。
……コレは、不味い。
先に『王家が保護している』と公言した事で、この件に王家も加担してしまった事にもなると気付いたからだ。
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