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42 王城の攻防 その弐
しおりを挟む貴族達は大きく動揺した。そしてラングレー侯爵家に対しては勿論、案の定王家に対してもシルビアの保護で関わっていると聞いた貴族達は国王に冷たい視線を向けた。
「あの魔物騒動を、ダンジョンを『封印』する事で被害を抑える事が出来たかもしれないという事か!?」
「その力を使っていれば、もしかして息子は生きていたのかもしれぬのか……! しかも王家もそれを知りながら隠していた……」
「しかし磨きもしない力をあれ程の災害時にいきなり使うのは無理であっただろう。しかし『封印』ほどの貴重な力を磨かなかっただなどいったいどうして……!」
貴族達はラングレー侯爵家に不信感を抱き、そして王家に疑いを持った。
国王は自分たちにも疑惑を持たれてしまった事に慌て言い訳を始めた。
「な……! いや違うのだ、王家はつい最近この事実を知りこうした混乱を起こさぬ為にシルビア嬢を保護しているだけで……」
国王は自らが付けた火種の火消しに躍起になった。
そこに一つの声が響く。
「……今問われている我が姉の罪は、何もしなかった事、です。しかしながら不測の事態の時に能力不足で何も出来なかったという事を、どこまで責める事が出来るのかはいささか疑問であるとは思いますが」
ハインツがそう言うと、騒いでいた者達はグッと言葉に詰まる。
……あの災害時に力が足りず何も出来なかったのは、ここにいる者全員がそうであったからだ。
「……それよりも、ダンジョンから魔物が溢れた事自体が問題ではないかと考えます。……魔物が溢れた北のダンジョンは王家の管轄だったと記憶しておりますが」
ハインツが更にそう言うと、国王はハインツを強く睨みながら言った。
「……我ら王家に責任があると? ……アレは、自然災害だ! 人為的なものではあり得ない! 言うに事欠いてあの災害を王家のせいにしようとは……! 自分達が災害を抑えられなかったといって、浅ましい考えよの!」
怒鳴り立てるように言った国王を見て貴族達は上に立つ者らしく無いと目をすがめたが、国王の発言の内容には概ね納得はしていた。ラングレー侯爵家の若者は、今更あの自然災害に何を言っているかと。
「物事には何か『原因』というものがあるものです。例えば通常の山崩れならば『雨』や山林の伐採などが考えられます。……今回のダンジョンが溢れた件は、ダンジョンの管理がきちんと為されていたなかった事が原因だと考えられます」
ハインツがそう言うと、そこにヒルバート外務大臣が声を上げた。
「……しかしながら、我が国のダンジョンは魔法使い達の鍛錬の場。そしてその狩った魔物達の素材を資源とする為の意味も持つ重要な場所であったはず。……はて、そういえばここ数年は北のダンジョンでの鍛錬の話は聞きませんでしたな」
その疑問を投げかけられた国王はギクリと身体をこわばらせた。
他の貴族達も、『そういえば』と当時を思い出し話し出した。
「近年ダンジョンからの素材の市場価格が上がってきていると、いっとき話題になっておりましたな」
「確かに通常の魔物の素材は少なくなっておりました。しかし何故か飛竜の素材は豊富になっていましたが……」
「我が息子が3年前学生の時はダンジョン攻略は西のダンジョンに行っておりましたぞ。北に行く話はこの所聞いてはおりませんでしたな」
次々に貴族達がここ数年北のダンジョンの話は出てこなかった、と言い始めていた。
レーベン王国にはダンジョンは2つあり、基本は王家の管轄。そしてそれをその地域の貴族に王家が任命する形で管理させている。
西のダンジョンはその領地の主である公爵家。そして、北のダンジョンは……。
「……北のダンジョンは、王妃様のご親戚に当たるマイザー伯爵家が管理されているはずでしたな」
ヒルバート外務大臣のその言葉が広間に響いた途端、貴族達は一斉に国王を見た。
「な……、それが、どうしたというのだ。北も西も、同じようにきちんと管理されておる……! そのような話を持ち出すとは何を企んでおるのだ!」
国王は非常に焦っていた。北のダンジョンは『真実の愛』で身分違いの王妃と結婚した21年前に2人を結婚させる事に尽力してくれた礼として、王妃の縁戚であるマイザー伯爵家に管理させるようになっていたからだ。それまでは魔力の強い外務大臣のヒルバート侯爵家が管理していた。
ダンジョンには非常に大きな利権や旨みがある。マイザー伯爵家はそれを得て随分と甘い汁を吸ったはずだった。
そこに畳み掛けるようにハインツが質問した。
「……では、どのように管理しているのかお聞かせいただきたい。どの位の頻度で魔物を狩りその素材を何処へ卸しその販売は適正であったかなどを詳しく。きちんと管理されていたのであれば、書類などが残っているはずでしょう」
「それは……! 後日マイザー伯爵へ確認させる!」
国王はいったん有耶無耶にしようとしたが、それは貴族達は許さない。
「マイザー伯爵は勿論ですが、この王城にもそれと同等の書類は管理されているはずですぞ。ダンジョンは王家の管轄。その報告がマイザー伯爵からされているはず」
「そのはずですな。勿論西のダンジョンの管理者である我が公爵家も毎年きちんと報告を出しておりますぞ」
もう一つの西のダンジョンの管理者までもがそう言えば、王城に北のダンジョンの報告書が上がっていないなどというはずがない。
「お……お待ちくださいッ! 我がマイザー伯爵家は魔力はそれ程強くなく、ダンジョンの管理は王家と共同でしておりました。ですので、王家には特別報告などはしておらぬのです!」
国王の近くで少し前まではラングレー侯爵家を嘲るように見ていたマイザー伯爵が慌てて叫んだ。
「待ちなされ。『ダンジョンの管理』という重要な役目を任せられて報告もしていないでは済まされぬぞ! それでは何もしていないと思われても仕方がないではないか!?」
ヒルバート外務大臣が厳しく言い放つ。
広間内が騒然としてきた、その時。
「……そうですね。おそらく彼らは何もしていなかったのだと思いますよ」
明るい栗毛を今日は撫で付け、一国の王族のような威厳を持った見目麗しい青年がそう言った。
「魔物騒動の後に、ダンジョンの確認はしたんですか? 最近僕たちが見た時にはダンジョンの近くには小さな小屋くらいしかなく、それまで管理されていたならあるはずの管理者の砦もありませんでしたね」
その隣にも黒髪の見慣れない貴族のような美しい青年。
「あの北のダンジョンは数年は完全に放置された様子でした。入り口に魔法をかけて魔物が出るのを抑えていただけなのかもしれない。一つヒビが入れば魔物が溢れるのは当然だと思います」
そしてこの国の騎士の誰よりも無駄のない素晴らしい筋肉を持つ赤髪の勇ましげな美青年。
ラングレー侯爵家の兄妹の横に立っている3人の男性。
何者か、と周りが騒ぎ出そうとした時、セリーナが前に出た。
「彼らは私の大切な仲間です。今回冒険者として幾つものダンジョンを見てきた彼らに、あの『北のダンジョン』を見ていただいたのです」
「……ッなッ! 異国の者に勝手に国家機密の一つであるダンジョンを見せるなど……!」
国王や王妃の身内達はそう騒いだ。
他の貴族達は歓迎出来ない存在の彼らをチラリと見たが、おそらくはかなりの強者と感じた貴族達はとりあえずジッと彼らの次の行動を見る。
……この部屋に入って来た時はセリーナ嬢に気を取られ気付かなかったが、この国の貴族から見て彼らは魔法使いとしてもそれなりに力を持っており、何より剣技などの腕はかなり上で隙がない事が見てすぐに分かった。
何より、あの栗髪の男性と黒髪の男性は風格からして他国の貴族ではないのか? そして、あの赤髪の男から溢れ出るような力! 他国にこれ程の者がいるとは!
広間の貴族達、そして国王もゴクリと唾を呑んだ。
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