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43 王城の攻防 その参
しおりを挟む「世界各地のダンジョンを見てきた者として発言させていただきます。ダンジョンとは普段から冒険者……この国でならば魔法使いが頻繁に入り適正に魔物を狩る事が重要です」
栗髪の男性がまず威厳ある声で発言した。
「……そしてこの国のダンジョンを拝見したところ、西はきちんと管理されておりました。普段から人が入り、周りの施設や街の整備などもされた健全な状態でした」
黒髪の男性がそう言うと、西のダンジョンの管理者である公爵はホッとした様子で頷いた。
「しかし北のダンジョンは、荒れ果てた酷い状態でした。話に聞く所の恐ろしい災害があったはずの場所であるにも関わらず、その入り口は魔法で軽く蓋をしているだけ。……あれではまた遠からず同じ事が起こるでしょう」
赤髪の男性がそう言うと、広間は貴族達の動揺で揺れた。
「なっ! なんですと!? それはまことか!?」
「陛下! 北のダンジョンはあれからきちんと処理し更に管理も続けていると仰っていたではありませんか!」
「マイザー伯爵! コレはいったいどういうことか!!」
貴族達の怒号が広間中に響いた。
「な……! 私は知らんッ! それは全てマイザー伯爵がしでかしたこと! 私は伯爵の偽りの報告を受けただけで……!」
国王はそう言って全てをマイザー伯爵の責任にしようとした。
「そんな、陛下!! 魔法で閉じたなら問題ないと、そうお認めになられていたではありませんか!」
マイザー伯爵も必死に国王も同罪だと叫んだ。
更に貴族達の怒号が響く中、ヒルバート外務大臣が問いかけた。
「陛下。あれ程の災害があった後、それをマイザー伯爵の報告だけで済ませたと仰るのですか? あの後現地調査に向かおうとする我らに陛下はそれは王家が責任を持って行うので立入は禁止とされましたよね? そしてあの大災害を自然現象だと結論を出された」
元々はヒルバート外務大臣の侯爵家が管理していた北のダンジョン。そして彼の領地と伯爵家のほぼ境目にそれはあった。王家の横槍で無理矢理それをマイザー伯爵家に奪われ、随分と歯痒い思いをしていた。
「……思えばおかしい事だらけでしたな。我が侯爵家が管理をしていた時には申請をすれば誰でも入る事を許していたのに、伯爵家管理となってからは彼らの関係者のみしか入れない。……あの頃は人が行き交い皆に親しまれたダンジョンであったのに……」
ヒルバート外務大臣はそう悔しげに呟いた。
そこに栗色の髪の青年が話し出す。
「そして世界各地のダンジョンの歴史から言わせていただくと、ダンジョンから魔物が溢れる主な原因はただ一つ。
……おそらくはもう皆様もお気付きでしょうが……」
外務大臣の苦しげな様子に胸を打たれていた貴族達は、栗髪の男性の言葉にハッとなった。……そして、その話の続きに聞き入る。
「……ダンジョンの管理不足。それに尽きるのです」
……ダンジョンの管理不足……。
その静まった広間にその言葉は大きく響いた。
「そして僕たちが北のダンジョンを調査した所、この一年半の間は勿論のことそれ以前も長期間ダンジョンは放置されていたようでした。……そして更にこのダンジョンの近くにはあるものがあったのです」
黒髪の青年が更にとある事実を突き付けた。
「あるもの……とは?」
1人の貴族が恐る恐る聞いた。
「……飛竜の巣ですよ」
「飛竜……!?」
貴族達は驚いた。
竜は世界で一番強いとされる魔物。
高い知能を持ち、メインで食べるのは魔物。普通の魔物とは一線を画しており、他の魔物と群れる事はまずない。……あの、一年半前の災害以外は。あの時は飛竜を先頭にして魔物達はなだれ込むように王都を目指した。
そしてたとえレーベン王国の魔法使いでも、飛竜を狩るのは至難の業。それ程の魔物の頂点に立つのが竜なのだ。
そこで赤髪の青年が言った。
「元々あの場所は飛竜の巣の群生地だったんだと思う。巣の近くにダンジョンもあるから魔物の餌も取りやすい。……それに、目をつけたんでしょう」
誰が、などとはもう誰も問わない。
……21年前からほぼ誰も北のダンジョンに近付けなくなり、その利益を独占したのは。
更に数年前から価格が上昇していたダンジョンの素材。それと反対に何故か出回る狩るのが難しいはずの飛竜の素材。
ダンジョンを手に入れた当初はその旨みを十分に吸い取っていたが、偶然にもダンジョンから出てきた魔物を狩る飛竜に遭遇。よくよく見張っていると、飛竜は定期的にこのダンジョンの入り口付近で魔物を狩っている。……ならば。
ダンジョンで手間をかけて魔物を狩り素材を手に入れるよりも、飛竜の方がもっと金になる。
その場所に来ると分かっているならば、罠を張っておけば意外に簡単に飛竜は狩れた、という事なのだろう。そしてその頃にはダンジョンからちょくちょく魔物が出る程に中の状況は悪化していた、ということ。
誰もが辿り着いたその結論に、一斉にマイザー伯爵を見た。
マイザー伯爵はダラダラと脂汗をかきながら叫ぶ。
「……違うッ! 飛竜がダンジョン近くに来ていたから危険なので狩った、それだけだ! それにダンジョンだって前任者から年に一度中に入る位だと聞いていたのだ!」
「管理者として正式に中に入り点検をするのは年に一度というだけ。申請があれば誰でも入れるのがダンジョン。普段から魔法使いや地元の者達を受け入れ、その者達の報告も受けていたからこそ年に一度だったのですよ。……それは我が父である前侯爵ときちんと説明しましたぞ。それをダンジョンの利益を独り占めする為に他の誰も入れぬようにするなど、そんな愚かな事をするからでは?」
前任者であるヒルバート外務大臣は呆れたように言った。
それまでは自由に入れたダンジョン。それが急に立ち入れなくなり、それを生活の糧としていて困り果てた人々はたくさんいたのだ。
「そして、その重要なダンジョンを自らの『真実の愛』を叶える為にその身内であるマイザー伯爵に渡したのは国王陛下。……貴方なのです」
レーベン王国の至高の存在である国王に対して誰もが言いづらかったその言葉を発言したのは、国王の息子であるクリストフ王子だった。
「ックリストフッ!! お前は、父に向かってなんということを……!!」
国王は目を剥いて息子を見た。まさか自分が断罪されるなど、しかもそれを息子であるクリストフに言われるとは国王は思いもしなかったのだ。
しかし、父王のその剣幕にもクリストフは全く動じる事なく言い放った。
「つまりは、あの一年半前の魔物による大災害。あれは人為的に起こった出来事であり、その一番の責任は国王陛下、貴方にあるという事になります」
……広間が、静まり返った。
◇
セリは復興作業の手を止めさせ、更に姉の件でラングレー侯爵家を思うままに操れると考えている国王に啖呵を切ってからの、兄ハインツやヒルバート外務大臣、そしてクリストフ王子の攻撃を静かに聞いていた。
途中参戦してきたダリルやアレン、そしてライナーを頼もしく思いながら。
……やっぱり、ダリルとアレンは元王侯貴族なだけあって、こういう所であれだけハッキリと威厳を持ってものが言える胆力は凄いわよね。ライナーは最後の方言葉遣いが崩れてきたからヒヤヒヤしちゃったけど。……まあそんなところも可愛いのだけど。
そう考えながら、セリは3人をチラリと見た。ダリルとアレンは余裕な笑顔を返してくれて、ライナーは屈託のない笑顔でニカっと笑った。
……可愛い。そう思いながら、セリも3人に微笑み返した。
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