《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法

本見りん

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リカルドとメラニー

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「ようこそおいでくださいました。……急にお呼びたてして御免なさい」

「……いや。珍しいね。君が僕に話があるなんて」


 メラニーは学園帰りにある人物をレストランにこっそりと呼び出していた。ちなみにここはアイスナー子爵家の領地の特産物を使用した小さいながらも最近人気のレストランだ。
 ……その個室でメラニーは呼び出した人物と向き合っている。


「リカルド様。……貴方と私はある意味同じ立場であったのではないかと、私は考えております」


「───ディートマーの事ですね」


 リカルドは少し困ったように言った。
 彼はディートマーと幼い頃からの友人であり、メラニーと同じように色んな罪を押し付けられて来た被害者でもあった。


 リカルドはファンベルグ伯爵家の三男。……しかし目立った産業も特色も無い伯爵家の三男。後継のスペアでもなく幼い頃は身体の弱かった彼は、子爵家でも嫡男で難ありの性格のディートマーには逆らえなかったようだ。

 学園に入ってからはリカルドとメラニーは成績優秀者の集う特Aクラスに居るので、そこで万年Cクラスのディートマーに会う事は滅多になくなったのだが。
 そして子供の頃は線の細い少年だったリカルドは成長期なのか学園に入ってからは背は高く筋肉の付いた立派な青年となっている。銀髪に青い瞳の文句なしの美青年だ。

 そしてリカルドとメラニーは同じクラスなのだが……。過去お互いディートマーに嫌な思いをさせられたという微妙な立場同士なので敢えて余り関わる事はしなかった。


「ええ、そうです。……実は恥を承知で申しますと、先日私はディートマーから婚約破棄を言い渡されたのです。……他に好きな人が出来た、と」


「ッ!? 何ですって? ……なんと恥知らずな……。彼らは3年前の殿下の件を忘れたというのですか!?」


 リカルドは驚き、思わずと言った様子で立ち上がった。
 ……これがこの国の一般常識なのだ。


「───残念ながら事実ですわ。そしてもしもマルク殿下の件がなければ、ディートマーは同じようにパーティーなどの公の場で『婚約破棄』と断罪をして来たのかもしれませんね」


「───なんと……。何という事だ。アイツがそこまで愚かな奴だったとは……!」


 そう言って頭を抱えながらリカルドはゆっくりと座り直して一つ大きな息をついた後メラニーを見た。


「───それで? 今回私は貴女に何の協力をすれば良いのですか?」


 リカルドは今回のこの呼び出しはそういう事だろうと考えて口にした。
 別にリカルドがメラニーに力を貸さねばならない理由などないのだが、このような非常事態ならば話は別だ。

 世間はまだ『婚約破棄』……しかも他に相手が出来てという理由のものにはかなりの拒否感がある。まだ中には昔の『恋愛小説』に憧れる者もいるにはいるようだが、小説と現実は全くの別物なのだ。

 現実に、3年前のマルク王太子の失態から国は乱れた。国王にはマルク王太子の他に子はおらず、つい最近国王の遠縁を王太子とする旨近々正式に発表すると王家より声明が出たところなのだ。


「今回、我がアイスナー子爵家はハーマン子爵家に対して抗議文を送っております。我が父とハーマン子爵は学園時代からの友人ではありましたが、今回我が子爵家一丸となり戦うと決めました。……しかし昔からそうであったように、ディートマーはのらりくらりと話を躱そうとしてくるでしょう」


「───ディートマーならそうでしょうね」


 リカルドはそうため息混じりに言った後、少し考えてから口を開いた。


「───よく、貴女のお父上が彼らと戦うとお決めになってくれましたね。失礼ながらアイスナー子爵は昔からディートマーの好青年ぶりに騙され、娘である貴女を全く信じておられないようでした。……当時は私も立場が弱く、お力になれなかった事をずっと悔やんでいたのです」


 リカルドは感慨深げにそう言って優しくメラニーを見つめた。


「……リカルド様……。
私、恥ずかしながらディートマーに『婚約破棄』と言われてやっと目が覚めましたの。
どうして彼にあんなに縋り従っていたのかと。彼がいなければ自分に価値は無いと、ずっとそう思い込んでいました。解放されて初めて目が覚めたのです」


 メラニーはそう言って笑ってみせると、リカルドも優しく笑い返してくれた。メラニーは少しホッとしてまた話し出す。


「───それで今回、恐れず真っ直ぐに父の目を見て交渉いたしました。今までは父の事も怖くていつも目を見る事も出来ませんでしたので……。それが良かったのか、父は私の話を聞き入れディートマーの事をきちんと調べると約束してくれたのです」

「そうでしたか。……それで証拠は見つかったのですか」

「はい。父が信頼出来る方に依頼し、色んな方に証言をいただきました。……けれどその後、その証言を覆す方も一部いらして……。おそらくは彼が手を回して来たのかと思うのです」


「───そうでしょうね。彼なら抗議文が来た事でその原因を探し覆そうとするでしょう。
……貴女は私に証言を望みますか?」


 しかしメラニーは静かに首を横に振った。


「それは、そうしていただけると助かりますが……。けれど貴方はこれからもディートマーとの付き合いもあるでしょう。貴方からとは分からない証拠などをお貸しいただければ有り難いのですが……」


 メラニーやアイスナー子爵家はこれからディートマーやハーマン子爵家と対立していく覚悟だ。
 しかしリカルドは伯爵家とはいえ三男で立場が弱い。これからディートマーと友人関係を続け彼が伯爵家から独立して生きていくならば、その立場が悪くなるかもしれない事は避けなければならない。

 メラニーが自分を気遣う様子を見たリカルドは優しく笑って答えた。


「───メラニー。3年前のマルク殿下のように、悪き事は必ず罰を受けます。そしてあれを境に特にこの王国では悪き事、不誠実な事は罰せられる風潮が強くなっているというのに……。世情を読めない彼らにはいずれ天罰が下る事でしょう」


 リカルドはそう言って微笑みながら、目に冷酷な光を浮かべていた。


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