5 / 14
リカルドとメラニー
しおりを挟む「ようこそおいでくださいました。……急にお呼びたてして御免なさい」
「……いや。珍しいね。君が僕に話があるなんて」
メラニーは学園帰りにある人物をレストランにこっそりと呼び出していた。ちなみにここはアイスナー子爵家の領地の特産物を使用した小さいながらも最近人気のレストランだ。
……その個室でメラニーは呼び出した人物と向き合っている。
「リカルド様。……貴方と私はある意味同じ立場であったのではないかと、私は考えております」
「───ディートマーの事ですね」
リカルドは少し困ったように言った。
彼はディートマーと幼い頃からの友人であり、メラニーと同じように色んな罪を押し付けられて来た被害者でもあった。
リカルドはファンベルグ伯爵家の三男。……しかし目立った産業も特色も無い伯爵家の三男。後継のスペアでもなく幼い頃は身体の弱かった彼は、子爵家でも嫡男で難ありの性格のディートマーには逆らえなかったようだ。
学園に入ってからはリカルドとメラニーは成績優秀者の集う特Aクラスに居るので、そこで万年Cクラスのディートマーに会う事は滅多になくなったのだが。
そして子供の頃は線の細い少年だったリカルドは成長期なのか学園に入ってからは背は高く筋肉の付いた立派な青年となっている。銀髪に青い瞳の文句なしの美青年だ。
そしてリカルドとメラニーは同じクラスなのだが……。過去お互いディートマーに嫌な思いをさせられたという微妙な立場同士なので敢えて余り関わる事はしなかった。
「ええ、そうです。……実は恥を承知で申しますと、先日私はディートマーから婚約破棄を言い渡されたのです。……他に好きな人が出来た、と」
「ッ!? 何ですって? ……なんと恥知らずな……。彼らは3年前の殿下の件を忘れたというのですか!?」
リカルドは驚き、思わずと言った様子で立ち上がった。
……これがこの国の一般常識なのだ。
「───残念ながら事実ですわ。そしてもしもマルク殿下の件がなければ、ディートマーは同じようにパーティーなどの公の場で『婚約破棄』と断罪をして来たのかもしれませんね」
「───なんと……。何という事だ。アイツがそこまで愚かな奴だったとは……!」
そう言って頭を抱えながらリカルドはゆっくりと座り直して一つ大きな息をついた後メラニーを見た。
「───それで? 今回私は貴女に何の協力をすれば良いのですか?」
リカルドは今回のこの呼び出しはそういう事だろうと考えて口にした。
別にリカルドがメラニーに力を貸さねばならない理由などないのだが、このような非常事態ならば話は別だ。
世間はまだ『婚約破棄』……しかも他に相手が出来てという理由のものにはかなりの拒否感がある。まだ中には昔の『恋愛小説』に憧れる者もいるにはいるようだが、小説と現実は全くの別物なのだ。
現実に、3年前のマルク王太子の失態から国は乱れた。国王にはマルク王太子の他に子はおらず、つい最近国王の遠縁を王太子とする旨近々正式に発表すると王家より声明が出たところなのだ。
「今回、我がアイスナー子爵家はハーマン子爵家に対して抗議文を送っております。我が父とハーマン子爵は学園時代からの友人ではありましたが、今回我が子爵家一丸となり戦うと決めました。……しかし昔からそうであったように、ディートマーはのらりくらりと話を躱そうとしてくるでしょう」
「───ディートマーならそうでしょうね」
リカルドはそうため息混じりに言った後、少し考えてから口を開いた。
「───よく、貴女のお父上が彼らと戦うとお決めになってくれましたね。失礼ながらアイスナー子爵は昔からディートマーの好青年ぶりに騙され、娘である貴女を全く信じておられないようでした。……当時は私も立場が弱く、お力になれなかった事をずっと悔やんでいたのです」
リカルドは感慨深げにそう言って優しくメラニーを見つめた。
「……リカルド様……。
私、恥ずかしながらディートマーに『婚約破棄』と言われてやっと目が覚めましたの。
どうして彼にあんなに縋り従っていたのかと。彼がいなければ自分に価値は無いと、ずっとそう思い込んでいました。解放されて初めて目が覚めたのです」
メラニーはそう言って笑ってみせると、リカルドも優しく笑い返してくれた。メラニーは少しホッとしてまた話し出す。
「───それで今回、恐れず真っ直ぐに父の目を見て交渉いたしました。今までは父の事も怖くていつも目を見る事も出来ませんでしたので……。それが良かったのか、父は私の話を聞き入れディートマーの事をきちんと調べると約束してくれたのです」
「そうでしたか。……それで証拠は見つかったのですか」
「はい。父が信頼出来る方に依頼し、色んな方に証言をいただきました。……けれどその後、その証言を覆す方も一部いらして……。おそらくは彼が手を回して来たのかと思うのです」
「───そうでしょうね。彼なら抗議文が来た事でその原因を探し覆そうとするでしょう。
……貴女は私に証言を望みますか?」
しかしメラニーは静かに首を横に振った。
「それは、そうしていただけると助かりますが……。けれど貴方はこれからもディートマーとの付き合いもあるでしょう。貴方からとは分からない証拠などをお貸しいただければ有り難いのですが……」
メラニーやアイスナー子爵家はこれからディートマーやハーマン子爵家と対立していく覚悟だ。
しかしリカルドは伯爵家とはいえ三男で立場が弱い。これからディートマーと友人関係を続け彼が伯爵家から独立して生きていくならば、その立場が悪くなるかもしれない事は避けなければならない。
メラニーが自分を気遣う様子を見たリカルドは優しく笑って答えた。
「───メラニー。3年前のマルク殿下のように、悪き事は必ず罰を受けます。そしてあれを境に特にこの王国では悪き事、不誠実な事は罰せられる風潮が強くなっているというのに……。世情を読めない彼らにはいずれ天罰が下る事でしょう」
リカルドはそう言って微笑みながら、目に冷酷な光を浮かべていた。
204
あなたにおすすめの小説
その言葉はそのまま返されたもの
基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。
親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。
ただそれだけのつまらぬ人生。
ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。
侯爵子息アリストには幼馴染がいる。
幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。
可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。
それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。
父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。
幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。
平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。
うんざりだ。
幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。
彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。
比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。
アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。
まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。
愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから
越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。
新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。
一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?
彼女(ヒロイン)は、バッドエンドが確定している
基本二度寝
恋愛
おそらく彼女(ヒロイン)は記憶持ちだった。
王族が認め、発表した「稀有な能力を覚醒させた」と、『選ばれた平民』。
彼女は侯爵令嬢の婚約者の第二王子と距離が近くなり、噂を立てられるほどになっていた。
しかし、侯爵令嬢はそれに構う余裕はなかった。
侯爵令嬢は、第二王子から急遽開催される夜会に呼び出しを受けた。
とうとう婚約破棄を言い渡されるのだろう。
平民の彼女は第二王子の婚約者から彼を奪いたいのだ。
それが、運命だと信じている。
…穏便に済めば、大事にならないかもしれない。
会場へ向かう馬車の中で侯爵令嬢は息を吐いた。
侯爵令嬢もまた記憶持ちだった。
どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~
クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。
同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。
ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した…
誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。
罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
[完結]不実な婚約者に「あんたなんか大っ嫌いだわ」と叫んだら隣国の公爵令息に溺愛されました
masato
恋愛
アリーチェ・エストリアはエスト王国の筆頭伯爵家の嫡女である。
エストリア家は、建国に携わった五家の一つで、エストの名を冠する名家である。
エストの名を冠する五家は、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家に別れ、それぞれの爵位の家々を束ねる筆頭とされていた。
それ故に、エストの名を冠する五家は、爵位の壁を越える特別な家門とされていた。
エストリア家には姉妹しかおらず、長女であるアリーチェは幼い頃から跡取りとして厳しく教育を受けて来た。
妹のキャサリンは母似の器量良しで可愛がられていたにも関わらず。
そんな折、侯爵家の次男デヴィッドからの婿養子への打診が来る。
父はアリーチェではなくデヴィッドに爵位を継がせると言い出した。
釈然としないながらもデヴィッドに歩み寄ろうとするアリーチェだったが、デヴィッドの態度は最悪。
その内、デヴィッドとキャサリンの恋の噂が立ち始め、何故かアリーチェは2人の仲を邪魔する悪役にされていた。
学園内で嫌がらせを受ける日々の中、隣国からの留学生リディアムと出会った事で、
アリーチェは家と国を捨てて、隣国で新しい人生を送ることを決める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる