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リカルドとの話
しおりを挟む……え? え?
……あ、そう『昔』、よね。昔の話だからこんなに簡単に話してしまえるのね。そんな笑顔で言われたらこちらの心臓に悪いからやめて欲しいわ。
メラニーは少しドキドキした気持ちを落ち着ける様に深呼吸をした。
「……あの頃はお父様達にも信じてもらえなくて私は何もかもを諦めてた。そんな時にそんな風に思ってもらえてたなんて……嬉しいわ。ありがとう、リカルド」
そう冷静を装ってリカルドに微笑みかけた。内心はドキドキしてしていたが、とにかく彼の言う『好き』は子供の頃の話だ。余り意識してはいけないと必死で自分に言い聞かせていた。
それを見たリカルドは顔が少し赤くなる。
「───ずっと、心配だったんだ。学園で再会したメラニーはあの頃よりももっと諦めの色が濃くなっていて……。声を掛けたかったけれど、君は周りを拒絶している様だった」
……確かに、もう全てを諦めていたから変に慰めや期待をする事から逃れるように人と距離をあけるようになっていたかもしれない。
「そして君はそんな嫌なものを振り切る様に勉強に励んでいるようだった。だから僕もメラニーに負けないように勉強していたらお陰様でトップクラスになってた。それで今回の伯爵家の跡取りとなることも問題なしとされたんだ。メラニーには二重に感謝してる」
「リカルド……」
メラニーはリカルドを見た。リカルドもメラニーを優しく見詰めている。
2人は暫く見つめ合った後、どちらからともなく微笑み合った。そしてクスクスと笑い出す。
「ふふ……、ねえリカルド。これからは学園でも話をしても良いかしら?」
「勿論だよ! 今までの分を取り返す位一緒にいたい。一緒に勉強もしたいしメラニーをパーティーにエスコートもしたい」
「リカルドったら! そこまでするとまるで私達が婚約しているみたいよ? これから貴方は次期伯爵として引くて数多になるだろうから余り距離が近過ぎるのも良くないわ」
メラニーはリカルドにそう言って嗜めた。するとリカルドは急にスッと真面目な表情に変えた。
「───僕は、そう願ってる。メラニーはまだそういう気持ちになれないかもしれないけれど、放っておいて他の男性に横から奪われるのは絶対イヤだ。
……僕と2人の未来を、考えて欲しい」
リカルドはメラニーの手を取り真剣な瞳で見つめて言った。
メラニーはリカルドの美しい青い瞳に吸い込まれるように、見つめ返す。
───それは、リカルドは今も私の事を好き、という事……?
「ゥオッホンッ……」
突然聞こえた咳払いに2人はハッと我に返って扉の方を見る。
するとそこにはハーマン子爵一家を送り終え戻ったアイスナー子爵夫妻と弟の姿があった。
「───いや済まない。立ち聞きするつもりはなかったのだが……。しかし、なんというか色々と話し合う必要がありそうだね」
アイスナー子爵は先ほどの張り詰めた空気から急に甘く変わったこの部屋の雰囲気に戸惑うようにまた一つ咳払いをした。……どうやら照れ隠しのようだ。
隣の母と弟は微笑ましそうに自分達を見ている。
「アイスナー子爵。ご覧の通り私はメラニー嬢に好意を持っております。
今回このような事が起きたばかりでお嬢様はまだ次のことを考えられないとは思いますが、是非とも私をメラニー嬢の婚約者候補としていただきたく!」
リカルドは若干前のめりにアイスナー子爵に申し出た。
アイスナー子爵はその勢いに驚き思わず少し仰け反るが、勿論悪い話ではない。むしろ伯爵家の跡取りで次期国王の弟という立場の人物からの求婚など望んで得られるような縁ではなく、喉から手が出る程欲しいものだろう。
……しかし。
「大変有り難いお話ではありますが……。私は今までメラニーの父親であるというのに彼女を信じてやれませんでした。……せめてこれからは彼女の意思を尊重してやりたいのです。
ですからこのお話はメラニーの気持ち次第、という事でお願いいたします」
今度はメラニーが驚いて両親の顔を見た。
「───良いのですか?」
……思わず、メラニーは父にそう尋ねていた。
今まで、何かを自分で決めさせてもらえた事などなかったからだ。むしろこんな好条件ならば問答無用で決められてしまうのかと思っていた。……勿論、リカルド相手に嫌ということではないのだが。
「───勿論だ。……今まで済まなかった、メラニー。これからは自分の思うように自分らしく生きるといい。……しかし何かあれば私達はいつでも力になる。メラニーは私達の大切な娘なのだから」
アイスナー子爵は『今更』とメラニーに拒絶される事も覚悟しつつ、改めて謝罪した。
それだけ今まで自分達親がメラニーにして来た仕打ちは酷いものだったと今はよく理解している。
───しかし、過去は変えられない。
だからせめてこれからはどれだけ拒絶されても憎まれても、メラニーの意思を尊重し味方でいようと夫妻は話し合って決めていた。
2人の覚悟を決めた様子を見たメラニーはどくりと心臓が鳴る。
───だって、今までどれだけ話をしても信じてもらえなかった。自分を貶めるディートマーの言い分だけを信じ叱責され相手に謝罪する親の姿を見てどんなに悲しい気持ちになったか……。
メラニーはゆっくりと目を閉じた。
……あの頃の、悲しい想いはずっと消えないだろう。
───だけど、私は悲しみと憎しみにだけに呑まれて生きていきたくはない。
人を……しかも大切な人を恨んで生きていくのは嫌だわ。
「───お父様、お母様。私はお2人に信じてはもらえないあの辛く悲しい時を忘れる事は出来ません。けれど……この数日間はお2人の温かいお気持ちを感じました。これから先……。心を通わせていく事が出来ればとそう思います」
「ッメラニー……ッ!」
2人は喜びの涙を流し、メラニーに寄り添った。メラニーはそんな両親にはにかむように微笑んだ。
そんな親子をリカルドは微笑ましく見ていたのだった。
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